【目次】(2021年1月1日更新)
パニック障害とは
パニック障害とは、何の前触れもなく、激しい不安感に襲われ、呼吸が苦しく、胸やお腹が苦しくなり、「これから死んでしまうのではないか」という思いに支配される症状(パニック発作)を何度も繰り返すようになる精神障害のことです。パニック発作は数分以内に収まりますが、不定期に出現します。
100人に2~4人は発病の可能性があり、誰でも起こり得るポピュラーな病気です。しかし、日本ではまだ十分に理解されているとは言い難いのが現状です。
パニック障害を持つ方は増加傾向にあると考えています。理由は2つあり、1つ目は男女共働きで忙しい人が増えているため個人のストレスや疲労感は増していると考えられること。2つ目は精神科の患者数は全体として増えているためです。
発症しやすい年代の傾向はわかりやすく存在しませんが、学生や新社会人に多く、また更年期を迎える前後の中高年女性にも多い印象があります。
パニック障害の特徴・症状
何の前触れもなく、強い不安感や恐怖感を感じ、激しい動悸や息切れ、呼吸困難、めまい、発汗などの様々な身体的症状に襲われ、「これから死んでしまうのではないか」という思いに支配される症状が現れます。
パニック発作を恐れるあまり、日々「また発作が起きるのではないか」と不安になり(これを予期不安と呼びます)、電車の中やトンネル、エレベーターの中など、「ここで発作が起きてしまったらどうしよう」と逃げ場のないような場所を避けるようになります(これを広場恐怖と呼びます)。
頭では「パニック発作で死ぬわけはない」と分かっていても、発作の最中は強烈な不安感におそわれ、我を失ってしまう方も多いです。不安のあまり救急車を呼ぶ人も多いですが、救急隊が駆け付けた時には症状が落ち着いていることも多いです。
パニック障害の原因
正確なメカニズムや原因はわかっていません。しかし、ストレスや疲労(例:睡眠不足、過労、風邪、その他心身の不調全般)がたまっていると、個人差はありますが誰でも起こりうる病気だといわれています。家族歴があると発病リスクが高いとも言われています。症状を持つ人の割合は100人のうち1~2人であり、男性より女性の方が発症しやすいです。
パニックについては諸説ありますが、危機を察知して生き延びるために生じる反応として捉えることができます。地震や火事などの災害で命の危機に晒された時に、心拍数の上昇や発汗、手足をはじめとした全身の震え、大きな声で叫び声をあげる等のパニック状態が起こりえます。こうした反応は動物として危機を生き延びるために有効な反応であり人間にも本来備わっている機能です。この機能が危機的状況でないにも関わらず誤作動で動いてしまう状態がパニック状態のイメージです。
パニック障害の治療
治療の概要
まずはこの病気について理解を深めることが肝要です。突然不安に襲われ、過呼吸になったとしても「これはいつもの発作だ。これで死ぬことはないんだ」と自分に言い聞かせながら、徐々に発作になれていくことです。
ベンゾジアゼピン系の抗不安薬(アルプラゾラムやロラゼパムなど)も有効で、発作が起こりそうになる前に飲むと、症状が消失したり、軽減されます。SSRIと呼ばれる抗うつ薬を毎日飲むことで、不安耐性があがり、発作が起きにくくなるといわれています。
パニック発作はくりかえすことで発作が起きやすくなるため、薬を飲みそもそも発作が起こらないようにコントロールすることが重要です。
投薬治療
以下の1、2、3、4の順で治療は進んでいきます。他の不安障害も同様な治療となります。
1.抗不安薬(アルプラゾラム、ロラゼパム、レキソタンなど)を発作が起きそうなときだけ飲む
2.1の抗不安薬をほぼ毎日服用するようになるのであれば、抗うつ薬(セルトラリンなど)と併せて抗不安薬を飲む
・抗うつ薬は最大量まで増やすのが良い。
・抗うつ薬は効果が出るまで、2~4週間ほどかかる。体質改善のイメージ。
・抗うつ薬は抗不安薬に比べて、効果は実感しにくい。しかし、長期的にみると抗うつ薬を併用した方が寛解(治療終了)が早い。
3.抗うつ薬を飲みながら、抗不安薬を時々飲む
「半年から1年後、生活リズムが整う、ライフイベントが落ち着く」などを目安に、抗うつ薬の減薬を開始する。
4.抗不安薬を時々飲む、もしくはお守り代わりに持ち歩く重要なポイントは「治療の終結を急ぐより、薬をしっかり飲み発作を抑えること」「発作が起きないようコントロールすれば、次第に発作が起こりにくくなること」です。焦らずに着実に治療を進めましょう。
非投薬治療
不安を感じた時に回避すれば一時的に不安は落ち着きます。しかし、次に同じ問題が起きた時、以前より強い不安を感じてしまいます。回避は短期的には良い解決手段ですが、長期的には良い解決手段ではありません。不安には立ち向かっていくことが大事です。具体的な対処法を以下に記載します。
1.不安階層表をつくる
不安なものを上位に、比較的耐えられるものを下位に書いた表を作ります。例えば以下のようなものです。
100 飛行機に乗る
80 新幹線で東京から大阪まで行く
60 満員電車に乗る
40 急行の電車に乗る
20 駅の近くまで行く、各行列車に乗る
2.曝露療法を行う
曝露療法とは、不安階層表の下位のものから身体を慣らしていき、最終的には上位のものに挑戦していくという治療法です。いきなり上位からはじめてはいけません。不安に負け自信を失う可能性があるからです。できるだけ簡単で、不安を感じにくいものから始め、徐々に難しいものに挑戦してみてください。できるだけ細かい階層表をつくり、毎日取り組むことが治療が早く進むポイントです。
その他治療について
先述の通りまずは薬をのみながらうまく付き合っていくことが重要です。ストレスに強くなっていくことも治療のひとつと捉えましょう。カウンセリングなどを併用し、自己理解を深めたり、自分なりのストレス解消法を見つけて、ストレスを溜め込まない工夫をしましょう。
以下にストレス対処法やパニック発作などがでた際の対処法の事例をいくつかあげます。こちらもご参考にしてみてください。
■完璧主義をやめる
ストレスを感じることが多い方は完璧主義であることや神経質であることが多いと言われます。何事も丁寧に行うことは大事ですが、全てを完璧に行うことは当たり前ですが難しいです。対処法として完璧主義の症状が表れそうになった際には「まあいいか」と声に出してみると良いとも言われています。肩の力を抜き心に余裕をもって取り組むことが肝要です。
■呼吸を遅くしたり意識的にこきざみに呼吸をとめる
強い不安から緊張状態となり息を吐いたり吸いすぎたりしてしまうのを過呼吸状態といいます。その時は、呼吸を遅くしたり意識的にこきざみに呼吸をとめることが有効です。ゆっくりふかく呼吸を行う腹式呼吸も同様に効果があります。
■腹式呼吸を行う
発作が起きたら、椅子に腰掛けて頭が膝の間に入るくらいまで前かがみに頭を下げます。この姿勢だと自然と腹式呼吸になります。腹式呼吸を行うことで過呼吸症状が緩和され精神が安定しやすくなります。
■規則正しい生活
当たり前のようですが規則正しい生活(十分な睡眠、栄養バランスのとれた食事、適度な運動、ストレス解消)が発作の予防として効果的です。他にも、タバコ(ニコチン)、コーヒー(カフェイン)、アルコールなども取りすぎには注意しましょう。
パニック障害に関するよくある質問
・薬の副作用はどういうものがありますか?
- 抗不安薬…主に眠気。体質によって程度は様々。少ない量から試してください。
- 抗うつ薬…主に吐き気などの胃腸症状。3日ほど飲み続けると、慣れてくるので、少し我慢してみてください。
【概要】抗うつ薬は脳内のセロトニンを増やす薬です。セロトニンが増えると脳内の活動が活発になります。
うつの人は少ないセロトニン量で動くよう感受性が高い状態になっています。その状態でセロトニンを増やす薬を飲むので、初めは吐き気などの副作用が出ます。
吐き気が出ていても効いている証拠なので量を調整しながら飲んでもらいますが、効果が出るまで1ヶ月くらいかかります。待つことが大事です。
まれに起こる副作用としては、アクティベーション症候群(妙にそわそわする、イライラする)、躁転、18歳未満の自殺リスクが上がるといったことがあります。こういった場合は薬をやめます。
その他に抗コリン作用による副作用として、便秘、口の渇き、かすみ目(眼圧が上がる)、眠気、抗ヒスタミン作用に対する副作用として体重増加、眠気、α1アンタゴニストの作用の副作用として眠気、血圧低下、めまいがあります。このような場合もやめる、薬の変更を検討します。
副作用が出る人ほど効きやすいという実感がありますので、量を調整したり薬を変更したりしながらうまく使っていくことを検討しましょう。
・電車の中ではどう過ごせばよいですか?
- 癒しの音楽を聴く
- 癒しの匂い(アロマ)を準備しておく
- 動画をダウンロードしておき、それを観る
【参考】
厚生労働省 みんなのメンタルヘルス
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_panic.html(2019年11月8日)
厚労省のパニック障害研究班による「治療ガイドライン」 [PDF 132KB] (201911月8日)