本日は、宮台真司さんの襲撃事件を取り上げてみます。
襲撃事件があったのが去年の11月ぐらいでだいぶ時間が経っているんですけれども、被疑者が自死されたということで、結局起訴されず終わりました。
それが決まったということで、先日、宮台真司さんの番組に呼ばれて、ちょっとお話ししたんです。ニコ生で。
その時のことも踏まえて、この話を少しします。
ゴールドウォーター・ルールという精神科医のルールがあります。
診察していない人のことを言ってはいけない。
被疑者に対してもプライバシーがありますから、言ってはいけないんですけれども、公表されている情報の中で言える話をしようかなと思います。
コンテンツ
被疑者について
被疑者は41歳の男性で高校を中退してからひきこもりだったようです。
小学校の時からピッチャーで、なかなか良い成績で有名私立高校に入ったみたいです。
高校でおそらく合わなくて中退になって、そこからひきこもりだったということのようです。
家からちょっと離れたところに住んでいたみたいです。
結構図書館に行っていたようです。
10年前のメモが残っていて、そこでは学者への怒りを綴っていました。
「学者なんかこの世の悪だ」みたいなことを書いてたようです。
色々な資料を見ていく中で、宮台さんが結論付けたことは、個人型の怨恨、知り合いだったとかそういうものでもなく、また宮台真司さんのことを強烈に知っていた、ストーカーのようによく調べていたとかそういうことでもなく、学者だったら誰でも良かったのではないかと本人は分析されていました。
事件後、防犯カメラに写っていたビデオの一部を公開された後、食事を摂るのをやめて自死されたということです。
事件が終わった後に、より強い凶器をインターネットで購入していたみたいなんです。
次の事件も検討してたみたいなんです。
事件直後にAmazonで購入していたというのがわかっていて、こういう公開があったので良くも悪くも防げたというか、そういうことのようです。
本人は自死を選ぶ、最終的には縊死されるんですけれども、その4日前くらいから食事を摂るのを止めて、自死に備えてたということもあったようです。
精神科通院はなかったみたいです。
俯瞰的に見ている
そのとき色々宮台さんとお話しして、宮台さんのことも色々思ったんですけど、やはり俯瞰的に物事を捉えているなと思いました。
だからトラウマにならなかった。
トラウマになっているかもしれないけれども、目立っていないという感じです。
やはり俯瞰的に物を見る、客観的に事件、事故、そして自分の事件もそうですけれども、それを見ていけるというのはすごく強いし、またその強さが病気を防いでいる部分もあるのかなと感じました。
僕もそこまで見られないです。
自分がもしやられたとして、そんな風に思えないですけど、まあそこはすごいなと思いました。
さすがですよね。
積み木を組み上げる力
あとは積み木を組み上げる力と書いてますが、そこからもう一回、自分の中でもう一回自分を組み立てていく、自分のストーリーを組み上げていく、自分の価値観、言説というか、自分の言葉を作っていく力は本当に強いなと思いました。
普通の人と言うとアレですけど、トラウマを抱えてしまう人たちというのはなかなか組み上げられないです。
俯瞰的にものを見ることも難しいし、俯瞰的に見てもどこかよそよそしい、どこか白々しくなったりして本質を捉えてなかったりもするし、もう一度それを言葉にして語り直す力というのはすごく弱いです。
弱くなってしまうんですけれども、それがトラウマというものの本質であって、語れないというのがトラウマの本質でもあるんです。
そこはやはり組み上げていく力というのがあって、ああなるほどなと思いました。
そういうものを間近で見ることができて、宮台さんとお話ができて、トラウマの治療、PTSDはこういう形が一つの治療のあり方なんだというのがイメージできたというか、自分の血肉にできたなと思っています。
自分が気づいた点を皆さんとシェアしました。
ニコ生では色々なことを話しているので、もし良かったら、そちらの方を見てもらえたらなと思うんですけれども、重要なポイントをいくつか絞って説明したいなと思います。
ASDと反社会的行動
ひきこもりの人は色々な調査があって、約半分ぐらいが精神疾患に該当しているんじゃないか、75%以上は疾患に該当してるんじゃないか、と色々な調査があるんですが、正確にはよくわかりません。
診察するドクターないし心理士さん、アンケートを取る人たちの主観も入るので必ずしも全員が該当するわけではないし、パーセントも色々変わるとは思うんですけれども、結構高い割合で何かしらの疾患が疑われるということです。
特に多いのがASD(自閉スペクトラム症)で、グレーゾーンも含めると、ひきこもりの人たちの中でかなりの割合を占めてるんじゃないかなという風に臨床実感としては思います。
また、ちょっとズルい言い方ですが、ひきこもっているとやはり社会経験が乏しくなってしまうし、どうしてもコミュニケーション能力が落ちていくんです。
なので結果的に相手の気持ちがわかりにくかったり、コミュニケーションの不得手さが目立ってきたり、あとは感覚過敏も悪化していくと思いますので、孤独というのは。
二次的なASD的な要素というのはなくはないんじゃないかなと思います。
ただ、もちろん先天的な要素、一次的な要素もかなりあると思いますけどね。
最近は、ひきこもりになるきっかけとして、不登校から、というよりは、会社で躓くパターンも多いんです。
自分の自尊心や自己肯定感と社会とが釣り合わない、コミュニケーションが上手く取れない、他の人よりも仕事が遅い、マルチタスクが苦手、そういうところをきっかけにひきこもってしまうことが多いので、やはりASD、ASDのグレーゾーンとひきこもりというのは関係あるかなと思います。
2005年に、ASD、当時は広汎性発達障害と呼んでいましたが、広汎性発達障害と反社会的行動の関連の調査が厚労省でされています。
その報告書を読んで番組に臨みました。
そこではいわゆる世間をにぎわせた猟奇的な事件が調べられていました、色々な事件がありましたけど。
この被疑者も41歳ということですけれども、少年A、いわゆるサカキバラ少年と世代が似ているんです。
ここら辺の人たちのことも調査されてました。
やはり他者のことを想像しにくいASDらしさ、ASDのグレーゾーンみたいなところが共通する要素としてあるんじゃないか、みたいな話も載っています。
ひきこもりの人全てが反社会的な行動をとるわけではもちろんないし、ASDの人が全て反社会的な行動をとるわけではもちろんないんです。
ないですけれども、全く関係がないかというと、そういう訳ではなくて、やはり自己中心性、物事を抽象的に考えていくこと、他者イメージをしていくことの困難さ、そういうものはやはり大きな事件に発展しやすい要素でもあるし、あと何だろう、世間への恨み、社会への怨みを持ちやすい状況というのもやはりある。
それはなぜかというと、彼らが被害に遭いやすいからなんです。
誤解されたり、怠けていると言われたり、彼らの気持ちを踏みにじるようなこと、彼らのプライドを踏みにじるようなことが起きてしまっている。
その背景にあることも多いんです。
虐待の問題があったり、親も発達障害的な問題があって適切な教育を受けてなかったなど色々な要素が絡んでいるということです。
適切に福祉が介入していけば良かったんじゃないかというのは、この研究でもされてましたけれども、まあ確かになと思いつつ、でも福祉嫌いな人たちもいるんです。
福祉の介入を拒む人たちというのもいて、そういうのも色々報告があがっていました。
この被疑者の「誰でもよかった」という部分は本当かどうかわからないですけれども、そういうある種のイメージの貧困さ、言葉の貧困さというのはやはりASD的な要素がある可能性が高いのかなと思いました。
でもここの問題はすごく難しいなと思います。
本当に人類が気づいてしまった問題、ということだと思うんです。
発達障害っぽさをどういう風に評価していくのか、どういう風に社会と適合させていくのか、どういう風に彼らが幸せに生きていける世の中をつくっていくのかというのは、今まで見えていなかったもの、身近にあったけれど無視されていたものとして、本当に何だろうなと思ったりします。
LGBTQの問題と似ていて、身近にいたはずなのに見えてなかった問題ですよね。
本当にそう思います。
社会や現実はひとつではない
僕なりにこういう問題というか、こういう人たちに対してどう向き合っていくのか、どういうことをしていけば、その問題は防げたのかということを考えると、一つは社会や現実は一つではないということをしっかり知ってもらうというのが大事です。
彼らは彼らで苦しんでいて、自分のことをすごく責めていたりするんだけれども、社会や現実は一つじゃないんです、色々な世界があるし、色々な価値観があるんです。
自分たちは自分の価値観に苦しめられているんですけれども、ちょっと見方を変えると、そんなことは全然気にならないみたいなこともあるんです。
みんなが同じ価値観を持っているわけでもないし、みんなが同じものを評価したり非難しているわけでもないんです。
ここの部分をどう理解していくのか、というのはとても重要だと思います。
お金を稼ぐとか会社があってみたいな、それだけが社会じゃなくて、それとはまた別のルールで動いている社会というのはたくさんあるんです。
それは同じ空間であっても、ちょっと視点を変えると見えてくる世界があって、あの人は上司なんだけれども実際みんなに慕われているのは課長さんだったとか色々あるので、その色々さ、というのを理解してもらうのはすごく重要だとは思うんです。
目に見えるものだけが全てじゃないですから。
それは知ってもらいたいなと思います。
味方は必ずいる
それと同じように、味方は必ずいるんです。
色々な価値観の人がいて、色々な人がいます。
だから敵もいるんですけど、逆に味方もいるんです。
皆が皆仕事ができる人ばかりを好きなわけじゃなくて、仕事ができない人のことを好きな人もいるんです、例えば、仕事に関して言うと。
別に仕事以外でもそうで色々な人がいるので、味方は必ずいるというのを知ってもらいたいなと思います。
結局ASD傾向がある人は、自分しか見ていないんです。
自分の気持ち、自分の困りごと、自分の劣等感ばかり注目していて周りを見ていない、周りの人が声をかけてくれていること、周りの人が愛してくれていることに全然注意を払えていなかったりするので、それは全員じゃないかもしれないですけど、そういう人たちもいる訳ですから、そこに関心というか注意が向くと治療がぐっと進むのにな、と思います。
ネトウヨ問題
あとはネトウヨ問題、安倍さんの問題、武器の問題というのもあります。
つまり悪いメディアというものです。
悪いメディアというものもあるわけです。
心の健康に悪いメディアというのがあって。
この被疑者は安倍信者だった可能性があるわけです。
そこに強烈に自分の劣等感を彼と重ねることによって解消していた、という部分もあるんでしょう、と。
ここの問題は今ここでは語らないんですけれども、そういうやり方、弱い人の心を掴むみたいなやり方を彼がしていた、安倍さんがやっていたというのも一つの事実ではあります。
統一教会の問題しかり、利用していたというのは事実です。
何かそういうものもあるなと思います。
いやいや、こういうのが問題じゃなくて孤独が問題だったんだろう、遺伝的なものが問題だったんだろう、という見方もするかもしれないです、ASDとか。
そうかもしれないけれども、色々な問題の原因を要素分解していく中で、こういう悪いメディアの要素というのはあるわけで、それはもしかしたら孤独であったこと、ひきこもりであったこと、ASD傾向があったことよりは、要素としては、影響力としては少ないかもしれないけれども無視できない部分です。
孤独をなおせばいいんだという話は議論のすり換えであって、やはりこういう問題についても正しいメディアとは何かということを考えていくのも重要だろうなと僕は思います。
今回は宮台教授の襲撃事件、この前にニコ生に出てきましたので、その感想も含めて動画にしてみました。
その他
2023.3.20