本日は「限界を理解してくれない」というテーマでお話しします。
精神科の患者さんは、周りの人から励まされることが多いと思います、最近は。
できるよ、大丈夫だよ、私もうつになったことあるよ、頑張ろう、と言ってくれて、励まされることが多いんですけど、「もうここが限界だから諦めよう」と言ってくれる人はなかなかいないです。
時々いますよ、親とか言ってくれることもありますけど、でもなかなか言ってくれないんじゃないかなと思います。
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頑張れと言ってはいけない?
うつ病の人を励ましてはいけないということは、結構耳にしたことがあるんじゃないかなと思うんですけれども、うつ病の人以外にもやはり頑張れと言っちゃダメなんです。
言っちゃダメとは言わないけど、軽々しく言ってはいけなかったりします。
うつ病の人で回復する人は2/3ぐらいなんです。
1/3ぐらいの人はなかなか回復しなくて、社会復帰が困難だったりします。
統合失調症や双極性障害の人も社会復帰困難なことが多いし、発達障害の人も学校ではやれた、新入社員のうちはまだ良かったけど、研修期間中は良かったけど、いよいよついていけなくなって挫折する。社会復帰が難しい状態になる、社会参加が難しい状況になることも多いんです。
伸び代はわからない
どこまでできるかというのは結構難しいんです。
そもそもこの人の能力はどれくらいあるのか、どれくらい伸び代があるのか、どこまでできるんだろうというのは専門家でもわからないです。
何度も何度も傷ついて、ようやく医者から「やっぱできなかったね」と言われちゃうような感じなんです。
精神医学は、傷つく前にその人たちがお金を稼ぐという行為、会社で働くことができないことを判断することは予測困難なんです。
何度も休職したとかやはりできなかったという現象というか、事実からしか判断ができなかったりします。
福祉や年金もそうで、障害年金などまさにそうです。
もういよいよ働けなくなって、働けませんでした、という事実が何度もないと認められない。
そんなの最初からわかってたやん、と本人たちは思うし、主治医も思うんだけど、それでも突っぱねられてしまうことは結構あります。
そもそも福祉や年金、福祉の力を借りるとか年金を取るとかは、古い考えだと自立する力を奪ってしまう、彼らが自分たちで頑張ろうという自活する能力、真面目さ、そういうものを奪ってしまうから極力最後まで渡すべきでない、みたいなことを考える人たちもいます。
人間というのは怠惰だから追い詰めないとやらないんだ、みたいなことを考えている人たちもいるんですけれど、本当にそうなのかな、と僕は思いますけど、そういう議論もあります。
どこまで頑張れるのかというのは結構難しいですね。
限界をなかなか理解してくれないし、私はこんなに頑張ってるのに何でわかってくれないの、というのはあります。
でも外から見ているとよくわからないんだよね。
最後に「諦めましょう」というのを伝えることも精神科医の仕事です。
人権があること
働けないと言われるとすごく傷つくし、自分はダメな人間なんじゃないか、見捨てられたんだと思う人もいます。
そういう人と話をしていて最近わかったんですけど、そもそも皆さんには人権があるから、働けないということ自体が、人間としての尊厳が奪われるとか価値がないということでは全くないんです。
ここら辺が意外とよくわかってないんだなということが最近よくわかりました。
そもそも生きる権利、自由に発言する、自由な場所に住めるなどは保障されてるんです。
それが親の世代も含めて、周りの人がみんなよくわかってないから、自分もそれを訴えてもね、みたいなことがあるみたいですね。
僕らは働いているから価値があるとかそういうわけでもなく、ただ人間である、ただ生きてるということ自体にそもそもめちゃくちゃ価値がある。
それを知るというか、それをちゃんと理解するところが治療の第一歩でもあるし、治療上とても重要なんだなと思ったりします。
well-beingを目指すことが大事ですね。
well-beingとは、権利が保障されており、人権が保障され、自己実現をする自由が保障されている状態、そして身体的、精神的、社会的に健康な状態です。
心身健康で社会とのつながりをしっかり持てる自由、権利というものはありますから、堂々としていればいいんですよ。
ずいぶん頑張ってきたわけですし、限界を限界と言っていいので、それは自信を持って言ってもらって構いません。
傷つかないと言えない、食べられなくなって何日も寝られなくなって、ようやく限界と言っていい、そういうことではないですから、全 。
今回は、限界を理解してくれないというテーマでお話ししました。
その他
2023.4.2