東西線「早稲田駅」徒歩1分。夜間・土曜も診療。心療内科・精神科。自立支援対応

WEB予約はこちら

再診患者専用

03-6233-9538

予約制:木・日・祝休診

0362339538
初診WEB予約

  

再診患者専用TEL

03-6233-9538

トランスジェンダー女性が自殺しやすい理由を解説します

00:00 OP
02:07 思春期に起こること
07:27 新しい概念
08:52 体の違和感

本日は「トランスジェンダー女性が自殺しやすい理由」というテーマでお話ししようと思います。

自殺というのは、これがあるから自殺するというものではなくて、色々な要素の掛け合わせによって自殺を選ぶことが多いんですね。
全ての要素を良くしていかなければそれを防ぐことはできません。
こういう色々な要素から成り立つものを「システム」と呼んだりします。僕らは「システム」と呼びます。

システムとは何かというとですね。複数の要素から成り立ち、かつそれらの要素は互いに影響し合い、増強しあうということなんです。だから、不幸が不幸を呼ぶというんですけど、それはシステムだからです。
ある不幸が別の不幸を呼んで互いに高め合うから、また新しい不幸が生まれてしまうということなんです。
難しいですね。難しいんですで。

今回はそのシステムを理解してほしいという理由で、こういう図を書きました。
なので一個一個の要素を見てもらおうかなと思います。

トランスジェンダー女性が自殺しやすい理由ということで、まずそもそもトランスジェンダー女性と診断された人の中で、10年で9.3%位が自殺をしてしまうみたいなデータがあります。
これはアメリカの教科書のUpToDateから持ってきたんですけれども、10年で約1割弱なのでかなり高いですよね。
だからすごく深刻な問題なんですよね。

どうしてそういうことが起きるのかを一個一個見ていくといいと思います。

思春期に起こること

まず、思春期になって第二次性徴が始まる時に、自分の性の違和感に気づくことが多いようです。
子供の頃は何となく男の子と遊ぶよりも女の子達と遊ぶ方が好きだなとか思っていて、思春期前は男女の区別というのは子供たちの中ではファジーなので、なんとなく受け入れられたりするんですね。
だけど、思春期が始まるのをきっかけに、男女は分かれて遊ぶようになっていく、より分かれていくんですね。
結果、排除されやすくなってしまうんです。

自分は変なんじゃないか、変わってるんじゃないか、自分は怪物なんじゃないか、モンスターじゃないかとか、色々なことを思うみたいです。
その中で孤独感をすごく高めていく。
この孤独感というのは、うつにつながりやすいです。
現実的に家族にも相談しにくい。家族の理解がないとかそういうことでより孤独感を強めていくこともある。
親もそんなのは思い過ごしだよとか、若いうちは性のことはすごくファジーだから、自分は男なのか女なのかと思うものだから安心していいんだよとか言って、励ますつもりがかえって傷つける、追い込むことになることもよくあります。

あとは友人関係ですよね。
友人関係も居心地が悪くなるんですよ。
女子が男子の部室にいると居心地悪いじゃないですか。
そんな感じで、今まで仲良くしてたんだけど、なんか居心地の悪さ、常に怖いと感じてしまって、居心地が悪くなるんですね。

一方で恋愛感情も生まれてしまいがちです。いつもいるからね。
同級生のことを好きになってしまったりして、でも振られちゃうとか気持ち悪いと思うんじゃないかとか、そういう不安や恐怖を感じなきゃいけない。
じゃあ女子と一緒に過ごせるかというと、女子からもやっぱり嫌がられてしまうんですよ。

思春期の女の子たちは警戒心が強いですし、必ずしも全ての人が寛容なわけではない。
そして、知識があるわけでもないし、経験があるわけでもないので、ついつい意地悪なことを言ってしまったり、逃げてしまったりしがちなんですね。
こういうことが後のトラウマになっていくということもあります。トラウマを増強していくということになったりします。

そして、人間関係だけじゃなくて、個人の中の混乱もありますね。自分は何なんだ、何でこうなんだ。
他の人とは違う、どういうことなんだ。
思春期というのはただでさえ混乱があるんですよ。
脳が急激に大きく、賢くなっていって、今までは考えられなかったことが考えられるようになるんです。
抽象的なことを扱えるようになるんです。

抽象的な概念を扱えるようになった結果、あいつは何を考えているんだろうと疑い始めるんですね。
あいつは仲良くしてくれたけど、本音はどう思ってるんだろうとか、裏では何を考えてるんだろうとか、そういうことまで考えてしまうし疑うし、想像できるようになってしまうんですよね。

その結果、混乱してしまう。
自分自身についても、何なんだ、自分は何を考えてるんだ、自分って何なんだろうと思って混乱する。
混乱していく中、理解者を求めるんですね。
誰が自分のことを教えてくれるだろう、導いてくれるんだろうと探していくんだけれども、そもそも理解者は少ないですよね。
きちんとトランスジェンダーの問題まで理解してくれている人、思春期葛藤のことが理解できる、人生のことを理解している、人間というものをそもそも理解している、加えてトランスジェンダーの問題も理解している人はそもそも少ないわけですね。
プラス、本当にこの人は味方なんだろうかと思うわけですね。

一見色々なことを知っていて寛容のようでも、実は違うかもしれない。
実はそういう人たちを理解していない、受け入れてない人たちかもしれないということで、びくびくしながらいなきゃいけない。
これもまた苦しみだなと思います。

差別意識は結構あるんですよね。
道徳的な人というのは保守的な人が多いんですよ。どちらかというと。
リベラルかつ道徳的な人というのは、保守的かつ道徳的な人より少ないですね。圧倒的にね。
少ないところから理解者を探そうとした結果、すごく差別的な人と出会ってしまうことも少なくはないのかなとは思います。

新しい概念

結局、新しい概念なんですよね。トランスジェンダーというのは。
生物学として昔からあったにもかかわらず、キリスト教の影響ですね。やはりそういうものは否定され続けてきたんですね。
否定され続けてきたカルチャーは、現代においてもそういう思想の影響は受けているし、常識として組み込まれていますよね。

だからなかなかこの差別は抜けていかないですね。結構難しいんですよ、これって。
インドだってあれだけ数学が得意でITが進んでいても、まだカースト制はなかなか撤廃しにくい、法律で禁止されていても残っている。
じゃあインドにいるインド人だけが差別意識があるのかというと、そういうわけじゃない。
インド人の方がアメリカで働いていても、同じインド人同士だとカーストの差別意識が芽生えるなんてことは珍しくないので、なかなか抜けにくい。

しかもアメリカにいる賢い人ですよ。ITのことに詳しい人でも、それでもなお差別意識から抜け出すことが難しかったりします。
ということですで、これで傷つくということですね。

体の違和感

あと体の違和感ですよね。
思春期、若い時というのは、体や外見に対する関心や注意がすごく向くんですよ。
人は見た目じゃないとおじさんとかおばさんになってくると思うと思うし、それが理解されるし、それが当たり前になっていきますが、やっぱり10代とか若い子にとっては、そうは思えないですね。

人は見た目が全てというか、かっこいいもの、綺麗なもの、美しいもの、そういうものに対する注意や価値を過度に上げているというのはあります。
そういう中で自分の体への違和感というのは凄まじいものですね。

むしろこれだけに支配されていると言っても過言ではないです。
こういう中で、ではホルモン療法はいつから受けられるのかということになったりします。
自分を変えて、女性に近づけていきたいとなって来た時に、じゃあ20歳まで待たなきゃいけないとか。

いざホルモン療法を始めるとメンタルに来ることが多いんですよね。
全ての人ではないですよ。全ての人ではないんだけども、メンタルに来ることが多いです。
PMDD月経前気分不快症とか、ホルモンバランスが変わることによってうつになる女性がいるように、産後うつみたいな形でホルモンバランスの変化によってうつになる人がいるように、更年期障害で調子が悪くなったりする人がいるように、そして男性であってもテストステロンが落ちてくることによって、男性の更年期みたいのがあるように、ホルモンバランスが崩れていくというのは、やはりうつっぽくなりやすいですね。
これが生死に影響を与えることも多いです。

あとはホルモン療法で太りやすくなってしまって、それがまた自分のボディイメージ、理想のボディイメージから離れることになって嫌になってしまうとか、ニキビができやすいとかいろいろあったりします。

あとは外科手術ですね。
自分をもっと根本的に変えていく、性器を取っていくみたいなことも、なかなかやれる場所がなかったり、期待通りにいかなかったり。
手術してもやはり骨格は変えにくいんですよね。
骨の感じとか体の大きさは男性だったりするので、望みの自分になれていなくて、どんなに美容整形や手術をしても、自分の望むような外見になれず、苦しくなっていくことも多いです。

あと高いですからね。お金がすごくかかるので、これも結構難しいですね。
安く済まそうとすると、衛生環境の悪い国で、衛生環境の悪いオペをしなきゃいけない。
そうすると、感染症で傷がなかなか治らないとか、かえって傷口が汚くなってしまうこともあったりするわけです。

お金を貯めようとすると、なかなか貯金で貯めていくことは難しかったりするので、夜の仕事をせざるを得ない人たちもたくさんいる。
そうすると、やっぱり性的な暴力が絡むことが多いですから、トラウマが出てしまう。
そしてこのトラウマの結果、自己肯定感が下がってしまうとかが起きてしまう。

あとこれは恋愛にも結びつくんですよね。
人を好きになったりすることができないとか、人を好きになって楽しむことができない、恋愛を楽しむことができないということも起きるし、出会いがあっても苦しいとか、なかなかないとかいろいろあったりします。

将来も不安になりますよね。自分はどこに行くんだろう、どうするんだろう。子供を産めないのにどこに行くんだろうという不安がつきまとっていくというのがあります。
代理出産とかいろいろあるんですけどね。
でもそれはまだまだメジャーじゃないし、批判もあったりしますからね。
代理出産に対してもこういうものと闘っていかなきゃいけないということです。

そういう中で死を選ぶ人というのは多いんですよね。1割ですからね。
そういう中で死への抵抗感が低くなっていって、自分もそうしようかなと選んでしまう人がいるという感じです。

だから、これら全部が互いに影響し合って、抜けにくくなるんですよね。
差別がちょっと改善しても他の問題があるじゃないかとか、夜の仕事に対する差別があったりとか、トラウマがあるから差別に対してすごく敏感になっちゃうとか。恋愛をしていてもやっぱりトラウマを思い出してうまくいかなくなっちゃうとか。
こういうことは全体に影響してしまうんですよね。

ホルモン療法中だから恋愛がうまくいかなくなってしまって、恋愛がうまくいかなくなるからより外見に対する違和感に原因探しをしてしまってとか、そんな感じですよね。
鏡を見ていると将来が不安になったりとか、鏡を見ている時に、そりゃ自分もこういう見た目だから差別しちゃうよねみたいに思う。
外見に対する価値観が過度に高くなっていく。

そうすると、自分の外見を受け入れられないと、自分で自分を差別してしまうみたいなことにもなっていくという感じですよね。
これらが本当に絡み合って、互いに影響し合っている。

個々に見ていくと、いやこうだよ、こうだよと言っても、個々の要素が相互作用することによって、より本人の中では大きな影響を与えていることはあるということです。

治療としてはこれは別のものだと言って、これとこれは関係ありそうだけど、関係ないよねという形で区切って、一個一個を別の問題として考えていくということが治療になっていくんですけど、若いとなかなかそこまで冷静になれないし、10代とか20代だと俯瞰的に捉えるのが難しかったりするんだろうなとは思います。

今回は、トランスジェンダー女性が自殺しやすい理由、というテーマでお話ししました。


2023.8.5

© 2018 早稲田メンタルクリニック All Rights Reserved.