益:はい、じゃあ最後の話ですね。第1部のマインドフルネス。
池:はい、お願いします。
益:結局、僕も最初マインドフルネスってよくわかんなかったんですよ。でも、いろいろ勉強していくうちに、あと患者さんとのやりとりの中でわかってきたことが結構あって。
そもそも人類って戦争とか病気の問題、飢餓の問題とか、めちゃくちゃ苦しいところにいたじゃないですか。
そういう中で人類って何をしてたかっていうと薬もなかったんで、神様に祈ったり、座禅組んでいたんですよね。その時って神様のことを考えてないんですよ、みんな。よく読んだりすると。
池:なるほど。
益:キリスト教の祈りの時も、「神様助けてください」って思ってちゃダメで。あんまりそう思っちゃダメなんですよ。
祈りってもうちょっと高い水準、もっと抽象的なものなんですよね。無心にならなきゃいけないというか。
あんまり今生きている自分の命とか、自分の欲望を叶えるために神様に祈るのは、あんまりよろしくないんです。
仏教もそうなんですよね。座禅もそうなんですよね。だからなんていうのかな、そういうことですね。
現代人は神様を信じられない人が多いと思うんですよ。
そのときに使ったエッセンスというのはたぶん今日にも生きるし、結局人間って不自然なこともやっているんですよね。
例えば、文字を使うとか文字を書くとか。
それって本能にないことじゃないですか。火を使うとか本能にないですよね。
だからそういう技術、本能にはないんだけど、人間にとって必須の技術っていうのがあって。
マインドフルネスとか座禅を組むというのも、結構それに近いものなんじゃないかなという風に僕は最近思ってますね。
マインドフルネスのやり方
益:基本的にはこう目を閉じても閉じなくても、半開きでも何でもいいんですけど、何も考えずに呼吸に集中する時間というのを作るってことですね。
座り方は何でもいいですね。まあ、手を押さえて。
日本人って重心がへその下ぐらいにあるので、へその下あたりに手を重ねてこうやっているか、目を閉じているのが結構安定するみたいですけども。
欧米の人は重心がもうちょっと高いので、こっちの方が安定するかもしれないですけど、別に何でもいいと思います。
こうしているとなんかいろいろ考えるんですよね。
こんなやり取りしてたなみたいな。あの喋り方はよくなかったかなとか考えちゃったりするじゃないですか。
こう考えてぐるぐる回ってるんですけど、患者さんって。同じことをずっと考えてるんですよ。
こうじゃなくて、「ああ、いかんいかん」と思ってこっち側に戻るんですよ。
でまた「呼吸に集中だ」ってやるんですけど。
呼吸に集中してもまた思い浮かんでくるですよね。子供の時はああだったなとかお父さん怖かったなとか考えたり、ぐるぐるしちゃうんですよね。
ぐるぐるしちゃうけど、「ああ、いかんいかん」と戻る。
また今度は仕事のこと考えてて、あれやらないとなとか。「ああ、いかんいかん」と戻る。
人間って本当に無にはなれないので、基本的にはこういうやり方を繰り返しながら、できるだけここにいる時間を延ばすというか、刺繍における糸が真ん中に依ることによって、中にちゃんと物体ができるような感じで。
ここに行くっていうのがマインドフルネスの基本ですね。
できるだけここにいる時間が長くなるっていうのが目指す理想かなと思います。
この感じ方とかって人によって結構違うんですよ。
体感的な理解なんで、人によって捉え方が違うんですけど。
これは別に僕のやり方でなくても、その人なりのマインドフルネスがあればいいと思うんですけど、まあ参考にしてもらえるのかなと思います。
こういうことをしていると、そのうち手足が温かくなるとか、感謝の心が生まれるとか言いますけど、まあ結果論と言うか、真ん中にいればそうなるのかなという気がします。
これができると、だんだんメタ認知が効くようになるんですよね。
メタ認知力がないと精神科の治療ってうまくいかなくて、例えば診察の中で喋っている時に、「あなたは結構僕に対して怒ってますね」って言った時に、「やっぱそれだけストレスが溜まってるんでしょうかね」って言った時に、「いやいや、怒ってませんよ」ってこの中で言ったら困るんだよね。
診察の中で僕がそういう風に外側から言った時にこっちに戻って、「あ、そういえばさっき自分怒ってたな。ってことはこういう感じのところがあるんだな」とか、「この話題をしたら私は結構感情的になりやすいタイプなんだ」っていう自己理解が得られるんで、ここに戻るっていう感覚がないと結構難しかったりしますね。
だから逆にこれができないとカウンセリングとかがうまくいかなかったりしますね。メタ認知が効かないんで。
だから子供とかだとちょっと難しいのかもしれないですけどね。
患者さんって5分座ってられないんですよね。目を閉じて。
やっぱり不安が強かったりとか、トラウマが大きすぎて5分座っていられないんですよ。なので、1分からスタートしてもいいのかなっていう感じですね。
心の病を抱えている人はこれができないですね。座っていられないんですよね。
何もしなくてよくて目を閉じて30分ボーッとしててと言われてもできないんですよ。落ち着かなくて。
それもまた一つの健康を理解するパラメーターかなという気がしますね。
別に1日10分、20分くらい何もしない時間を作るなんて誰でもできるじゃないですか、忙しくても。
それさえなんかもったいないと思っちゃって。何かそういうことですね。
どんな場所でもできるっていうのは結構良かったりしますね。
これができるようになってくると、今度は仕事中にやりたくないなって時にも、「いや、今マインドフルネスでやろうっていう」ことで、嫌な仕事も、データ入力は嫌だなと思いながらも、この状態の心になればやれるわけですよ。感情がないからね。
池:なるほど。
益:電車に乗ってて息苦しいなっていう時にもこの状態を思い出せば、簡易のマインドフルネスができたら、電車の中の息苦しさも楽になるわけですよね。
サッカーの試合のPKの時に落ち着かない時も、この状態を思い出せばいけるわけですよね。
だから、マインドフルネスを日頃からやっておくと、本当にピンチの場面でも冷静を保てるよというのは、この時のことを条件反射的に利用するからなんですよね。
なぜ呼吸が効くのか
そんなに呼吸が何で効くのって言われると、脳みそって扁桃体が中心なんですけど、扁桃体って不安を感じるところです。
脳って心臓の動きとか呼吸の動きをキャッチしているんですよね。
今心臓が速いってことは緊急事態なんじゃないかと。だから緊張感を高めようとか。
呼吸が速いってことは息苦しいってことだから、何か異常事態が起きてるんだなってことで、脳って錯覚するんですよ。
あとは例えば吊り橋効果とかだと心臓が速いですよね。
吊り橋でドキドキしている時に異性がいる、ってことは自分は恋をしているんじゃないかと錯覚する。
これは身体の情報と影響するんですよね。
逆に脳がやばいと思っていたら、心臓も速くなって呼吸も浅くなるんですね。
これは0コンマ何秒の単位で同期し合っているんですけども、鶏が先か卵が先かじゃないんですけど。
でもそういう風になってるんです。
で、強制的に呼吸をゆっくりにしてあげれば、心臓の動きもゆっくりになるんですね。心臓の動きもゆっくりになれば、脳は落ち着くんですよ。
これまでが30分かかるものが10分、10分なのが5分、5分なのが3秒とか5秒とか10秒になれば、一瞬でリラックスできるってことなんですよね。
スポーツしている人はたぶんちょっとウォーミングアップするだけで、毎日運動してたら結構すぐ体が温まるはずなんですよ。部活とかやってた時に。
だけど逆に運動してなかったりすると、走っても脂汗が出るだけで全然体が温まらないですよね。変な温まり方しかしない。
それは脳が覚えてないってことなので、やればやるほどマインドフルネスってうまくいくというということになってきますね。
■なかなかつかめない場合
なかなかこれがつかめない人がいるんで、練習段階としていいのは、寝る前とか散歩。音楽を聴きながら散歩するとか、音楽とかがいいのかなと。
つまり寝る前に何か色々考えていても、結局寝るから無になるっていう感覚を掴めるし、歩いてる時は歩くことに集中できるんで、何か雑念とか考えていても歩くことに集中しないとということで、こっち側に戻れるんですよ。
音楽聴いている時も音楽を聴きながら、本当に音を追っかけているだけの人っていないと思うんでsすよね。だいたい何か考え事しながら音楽聴いていると思うので、「ああ」と思ってまた音に集中するようにすれば、マインドフルネスの感覚をつかみやすい。
前段階でこれをやってもらった後に坐禅にトライしてもらってもいいのかなという感じですね。
これもトレーニングを日々やることによって、メタ認知だったり、感情をコントロールするという感覚が掴めるのかなと思います。
池:呼吸に集中することが大事だと思うんですけど、でもメタ認知というか、俯瞰して自分を捉えることができるようになるみたいな話もあったじゃないですか。
これは俯瞰して捉えると、その事象に吸い込まれていっちゃったりしないですか?
またそこの中に入っちゃうみたいな。
益:そしたら、また呼吸に集中していく。
池:なるほど。
益:メタ認知能力っていうのは、これをマスターしていくと結果的に付くっていう感じなんですよね。
メタ認知をこの場でしようっていうものではないんですよ。
池:なるほど。やっぱり呼吸にまずは集中する方が優先順位が高い。
益:でもこれだと飽きるからこっち側に行ったりとか。そしたらこっち側行ったりとか。
あとこうしてると結構頭の中が整理されるので。
本当に呼吸に集中してると時間がもったいないと僕も思うので、まあ整理しつつ。でも整理の段階を超えてぐるぐる思考になっちゃったりしてるんだったら、またこっちに戻ったりする。
池:そうですね、確かに。
益:この塩梅が結構あると思うし、利用の仕方は人それぞれ違うと思うんですけど。
仏教とかだったらもっと呼吸に集中しろとか言うと思うんですよね。
ただ僕は臨床家なので、仏教を極めたいんじゃなくて、患者さんの心の健康のためにこれを使えればいいと思うので、その場合だとこっちの方がいいのかなと思ってますね。
ある程度整理のために使ってもいいんじゃないかなと思いますけど。
もったいないですよね。
池:はい。
益:ちょっとは考えごとに使ってもいいと思うんで、そう思いますけど。
池:実際ジョギングしてるとかシャワー浴びている時に、考えががまとまっていることってあります。
益:そうですね。リラックスしている時の方が脳と脳が連携しやすいだろうし、デフォルトモードネットワークとか言ったりするんですけど、夢を見てる時って考えてるようで、やはり記憶の整理のために使われてたりするんで。
ここら辺はどういうシナプスの連合なのかまだわかってないこといっぱいあるんですけど、ただ伝統的には少なくともこれは役に立つってことがわかっているし、究極的に言ったら人によって利用方法とかってたぶん違うと思うんですよね。
良い利用の仕方っていうのは。
みんなが同じだったらたぶんキリスト教は祈りで、仏教は座禅だっていうのがもっと統一されているはずなんで。
でも文化によって違う。宗教によって座禅とか瞑想のやり方とか祈りのやり方っていうのが捉え方が違う理由というのは、バリエーションがあってもいいんだろうなっていう気はしますけども。
池:例えばコーヒーを飲みながらうまくいく人もいれば、サウナに入っている時にうまくいく人がいてもいいわけです。
益:そうですね。でもそれだと今度はどこでもできないんですよね。
池:ああ、そうか。
益:物の力を借りて集中してるんで。できれば物がなくできる方がいいんですよ。
池:そうか。
益:だから弓の名人みたいな。最初は弓を使ってマインドフルネスと武道を極めるんだけど、最後は無刀に至るというか、無弓に至るという感じなので、もうそういうことですね。
でも本当に使いたい場面というのは座禅を組めないんで、座禅を組むために僕らは生きているわけじゃないんで、お坊さんじゃないから。
やっぱり嫌な仕事をしている時とか、プレゼンしてる時とか、嫌な上司の前でここに持って行きたいわけじゃないですか。
だから、嫌な上司がいる時に「コーヒー飲みますよ」ってわけには行かないんで、できればここを意識してこっち側を本番で使えるようにするっていうのがいいですね。
っていう日々のトレーニングのあり方ですね。
これがセルフケアでもあるし、本番で使える技術でもあったりするということです。
メンタルヘルス大全
2023.11.5