今日は「摂食障害の診断・治療」についてざっくり語ります。
「摂食障害」は聞いたことのある人も多いと思います。
精神科の病気の中ではメジャーではないでしょうか。
太ることが怖くて食べられなくなってしまう、食べても吐いてしまう、という病気です。
精神科の病気の中でも割とメジャーですが、実際、摂食障害の患者さんはそれほど多くはありません。
うつ病や不安障害に比べるとはるかに少ない病気です。
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摂食障害とは
摂食障害は大きく分けるとこちらの3つになります。
・神経性やせ症(制限/過食・排出)
・神経性過食症
・過食性障害
・神経性やせ症
神経性やせ症はオーソドックスな摂食障害です。非常にやせています。
成長曲線から見て有意にやせている。
BMI(体重/身長の2乗)が17を切るくらいです。
BMIは22が理想とされますので、理想体重の75%以下になります。
太ることが怖い、食べ物に対する恐怖感、ボディイメージの歪み、痩せているのにそう思えない。
皆が食べた方が良いと言っているのに、それは間違いだと思い頑なに拒否する。
このようなものを「神経性やせ症」と言います。
また、神経性やせ症は2つに分けられます。
制限型:まったく食べない
過食・排出型:食べた後に吐く
・神経性過食症
「神経性やせ症」から徐々に良くなって「神経性過食症」になることもあれば、初めから「神経性過食症」であることもあります。
「やせ」がないパターンです。
過食嘔吐が多く、それが中心の生活になってしまっています。
どんな時間でも食べてしまう、仕事が終わったらコンビニで大量の食べ物を買わないと気が済まない、たくさん食べてトイレで吐かないと気が済まないというものです。
給料の大部分を食べ物に費やし、たくさん食べては吐くということを繰り返します。
・過食性障害
「吐き」がなくなると「過食性障害」と言います。
すごくたくさん食べてしまい、食べるのをやめられません。やめられないことに強い自己嫌悪があります。
早く食べて、満腹になっても食べます。苦しいくらいに食べないと気が済みません。
また、自分がいっぱい食べることが恥ずかしいので、人と食べることができません。
そして食べ終わった後に、苦しくなってお腹を抱え、すごく後悔して罪悪感を感じます。
「神経性やせ症」→「神経性過食症」→「過食性障害」と順に良くなっていくこともあれば、神経性やせ症から良くなっていくこともありますが、大きく分けるとこの3つです。
割と混在していて、この3つを行き来することもあります。
食べて吐くこと
吐くので「吐きダコ」が手の甲にできてしまったり、歯が胃酸で溶けてしまうこともあります。
太るのが嫌で、お腹の中に少しでも残っているのも嫌なので、胃酸を出さないといけない。
また、ウッとえずくので、胃と食道のところに傷が入ってしまうこともあり、逆流性食道炎にもなりやすかったりもします。
よく大食いの人で実は摂食障害だったと公表する人もいます。
バレリーナ、マラソン選手など、やせていることで競技がうまくいく、体重制限を強いるスポーツをやる人たちが、「我慢する」と「食べる」を繰り返していると、食欲のコントロールができなくなり摂食障害になってしまうこともあります。
入院治療
摂食障害がひどくなると、入院適応になります。
なぜ入院が必要かというと、やせればやせるほど脳に栄養がいかなくなり、脳が正常な判断ができなくなってしまうためです。
「もう治療しなくても良いのではないか」
「やせていても大丈夫なのではないか」
などと思うのです。
やせていると変に元気だったりもするのでどんどん治療から遠ざかってしまい、そうすると骨はどんどんボロボロになり内臓はどんどん傷つくということになります。
そうなると入院になります。
あとは、食べられなくなってしまうのです。
胃も筋肉ですから、使っていないと食べられなくなってしまいますし、消化機能も落ちてしまうので、入院して栄養を入れないといけなくなることもあります。
・リフィーディング症候群
また、「食べられますし、これから治療をがんばります」と言っても、やせすぎてしまうと「リフィーディング症候群」と言って急激に栄養を入れると体に栄養が溜まりすぎてしまいます。
肺に水が溜まってしまったり、不整脈が起きる、電解質が狂うなどいろいろあります。
ですから、入院してゆっくりとカロリーをアップしていかなければなりません。
リフィーディング症候群の恐れがある場合は入院が必要になります。
リフィーディング症候群の動画
https://youtu.be/lqDUpBrhoVE
通院治療
入院ではない治療の場合は、「カウンセリング」と「薬物治療」の2本柱で行います。
薬物治療だけで治療を行うのは難しく、基本的にカウンセリング的な治療も必要です。
カウンセリングは心理士さんがやるのか看護師さんがやるのか、あるいはドクターが行うのか、その施設のキャパシティや能力によって変わります。
カウンセリングに加えて薬物治療も行いますが、薬物治療はリスクもありますので個々の患者さんによります。
カウンセリング/心理療法で行うこと
・正しい栄養知識
カウンセリングや心理療法(サイコセラピー)では、どのような対話によって癒していくのかというと、まずは「正しい栄養知識」をつけることから始めます。
人間が生きていくためにはどれくらいのカロリーが必要なのか、バランスの良い食事とは何か、ということを身につけます。
摂食障害の人は病気ということもあり、変な知識を持っていたり誤解をしていたりすることもあります。
芸能人の人でも「わたし、これしか食べていません(サラダだけ)」などと公表していることもありますが、実際はそんなことはありません。
また、写真を共有するSNSでは写真を加工しています。
それが本当の姿だと勘違いしていることもあるので、そういったことを治していきます。
・ボディイメージの歪み
やせているのにまだ「太っている」と思っていたりします。
やせているのでこれ以上やせてはいけいない、標準体重は太っているわけではないといったことを話します。
・「やせ」を手放す不安・後悔
もう少し治療が進むと、本人の「やせ」を手放す不安や後悔を語ります。
やせることで頭がいっぱいで、青春時代の何年かをそれだけに費やしてしまった。
友達関係よりもやせること、勉強よりもやせること、遊ぶこと・学ぶことよりやせることに集中してしまった。
努力の末に手に入れたものなので、手放すのが不安なのです。
苦労してやせているのです。
何も好き好んで食べ物を我慢しているわけではありません。
我慢している彼ら彼女らは食べ物に興味があるのです。
我慢すればするほど興味はある、だけどそれを根性で我慢しています。
その根性で手に入れた「やせ」を手放すのは相当不安です。
我々が考える「ちょっとくらい良いじゃない」は、彼らにとっては「ちょっと」ではなく、努力の成果なのです。
ボディビルをやっている人が少し腕を太くするのと同じ話です。
それを共有してあげなければなりません。
そして、「時間を失ってしまった」という後悔があります。
自分の人生の何年か、何分の1かをそれに費やしてしまったことの後悔を共有していく必要があります。
それは取り返しのつかないものもある部分ではあります。
取り返しはつきますし、良くなった後に「あんなこともありましたね」と言えるのですが、治療中はそこまで思えません。
失ってしまったことは事実ですから。
そういったことも共有していきます。
また、「やせ」を手放した後、やせることに集中していたので、人生のやりがいや目的があまり考えられていなかったり、年齢不相応だったりします。
ですからこういったことも一緒に考えたり、見つけるのを手伝ったりします。
・きっかけ?
そもそもなぜ彼女らはやせなければいけなかったのか、ということも考えなければなりません。
家族の問題、虐待があったのか、母子密着なのか、甘やかされていたのか、友人関係がうまくいかなかった、発達障害がベースにあるのか、知的な問題があったのか、過度な負けず嫌いで許せなかったのか、そういった「きっかけ」を見つけていって、生きづらさを取ってあげることが必要です。
虐待の問題があるならばトラウマの治療をしないといけませんし、母子密着があり母親から自立できない・寂しいという思いがあるならば、自立の手伝いをしなくてはいけません。
発達障害の問題があるならば、生活スキルの支援や発達障害の治療もしなければなりません。
負けず嫌いが強いのであれば、妥協することを一緒に覚えていく、白黒思考では生きていけないということを知っていきます。
・依存行為
食欲のコントロールはできませんし、やせたい、過食嘔吐したいという気持ちをコントロールすることも難しいです。
それは人間の本能に関係しているからということもありますが、過食嘔吐に関しては、依存症の「依存行為」と似ているのです。
本人はやめたいと思っていても、なかなかやめられません。
それはギャンブル依存症の人がギャンブルをやめたいと思ってもついつい行ってしまう、アルコール依存症の人がお酒を飲みたくないと思っても飲んでしまう、薬物依存の人がやめたいと思っていてもついついやってしまうのと似ていて、やめたいと思っていてもやってしまいます。
それは本人の甘えではなく、そもそもそういうものなのです。
ですから、「依存症である」ということを説明した上で、治療を行っていきます。
やりたくなったときにどうするのかを一緒に学んでいきます。
これらをCBT(認知行動療法)的にプログラムを組んで、今日は「正しい栄養知識の教育」、2回目は「ボディイメージの歪みの教育」などとやることもあれば、ひとりひとり違うので、会話の中で少しずつ教えていく支持的なやり方もあります。
どのようなやり方をするのかは、その施設、主治医、患者さんによって変わります。
どれが正解というのはありませんが、まずはCBTでやる方が楽です。
一通りCBTでやってから支持的にやるのが楽かなという気はしますが、最初から治療意欲が高くないことも多いので(手放す不安や後悔の念が強い)、「CBTをやりましょう。10回のコースをやりますから来てください」と言ってもなかなか最初から通うのが難しかったりします。
そういう場合は支持的にやることもあります。
ただ、支持的だと患者さんは何をやっているのかよくわからなくなってくることもあります。
元々負けず嫌いでもあるので「かっちりやってください! 私、頑張りますから」と言ってCBTをやるパターンもあります。
薬物治療
薬物治療としてはSSRI(抗うつ薬)を使うのが良いと言われます。
不安障害を合併していることもあるので、SSRIが基本かと思います。
ただ、SSRIは若い人だと自殺のリスクを上げると言われています。
摂食障害になる人は若い人が多かったりするので、注意をしながら使います。
ただやはり薬物治療よりも心理教育、心理療法(サイコセラピー)の方が大事です。
薬物治療とあわせる方が良いと言われますが、自殺のリスクがある場合はサイコセラピーだけのパターンも結構あります。
治療は年単位
摂食障害の治療は長くかかります。
年単位になりますし、ある程度良くなっても、40代・50代になっても通い続けている患者さんは多くいます。
僕も専門的にやっているわけではありませんし、摂食障害を中心に診ているわけではありません。
ですからあまり偉そうなことも言えませんが、治療的な伴走とはどういうことなのか、よく考えます。
通院している患者さんに僕は何を提供してあげられているのか、日々思います。
伴走する、彼らの不安や後悔を一緒に聞く、共有する、そういうことしかできませんが、それだけでも救われていると言ってくれているので、そういう治療をやっているという感じです。
自分は摂食障害ではないかと不安に思いつつ治療はしていない、という方もこの動画を見ている方にいらっしゃると思います。
通院して治療して一気に治そうというのはやはり難しいです。
ですが、通うと楽になりますから、一人で悩まずに通いながら一緒にゆっくりやっていくのが良いのではないかと思います。
メンタルのことや不安や後悔についてどう考えるかということついては他の動画でも説明していますので、参考にしてみてください。
摂食障害
2022.1.13