本日は「甲状腺機能低下症とうつ症状」というテーマでお話しします。
精神科の疾患だと思っても実は内科の疾患だったということは、それほど多くはないのですが、珍しくはありません。
この代表的な疾患としてよく挙げられるのが、「甲状腺機能低下症」です。
精神科によっては初診の段階で採血をするところも多いと思いますが、採血をするのはどうしてかというと、甲状腺機能低下症を除外するためです。
そもそも甲状腺機能低下症というのはどういう病気なのかということをまず説明し、うつ病との違いをお話しします。
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甲状腺とは?
甲状腺とはそもそも何でしょうか?
甲状腺の機能が低下しての甲状腺機能低下症なので、甲状腺とは何なのか、甲状腺はあまり聞きなれないかも知れません。
甲状腺というのは喉のあたりにあります。
首を触ると、皮膚の下に筋肉でもない、モニャッとしたものがあります。
触ってみてください。
皮膚じゃなくて、でも首の筋肉でもない、骨でもない、フニャッとしたものがあります。
唾を飲み込むと何となく触れてきてわかってくるのですが、それを甲状腺と言います。
ほとんどの人は薄っぺらいので、触ったらわかりますよと言いましたがわかりません。
学生時代に病院実習などで内分泌の先生からレクチャーを受けたり、エコーを当てて「これが甲状腺だよ」と教わったりしましたが、全然わかりませんでした。
精神科が長いので触診はほとんどしませんが、一般的に医者は触診もします。
触ってみるとか、お腹を触る、聴診するなど。
そして触診の中に甲状腺の触診というものがあります。じゃあちゃんとできるようになれよ、という感じですが。
ただ腫れている人はやはり分かります。
何人か甲状腺機能低下症の患者さんを診ていますが、触ると分かります。
この甲状腺というのは何かというと、「元気を出すホルモン」を出す臓器です。
「元気を出すホルモン」というのはざっくりしていますが、いわゆる「交感神経系」を刺激するホルモンのことです。
元気をグッと出す、心臓を刺激するというか、交感神経系を刺激するホルモンです。
反対は副交感神経系を刺激するもので、眠くなったりぼーっとしたりします。
橋本病、バセドウ病
この甲状腺を破壊する病気があります。
1つは「橋本病(慢性甲状腺炎)」で、甲状腺の細胞を壊す自己免疫疾患です。
もう1つは「バセドウ病」です。
脳から出る甲状腺刺激ホルモンの自己免疫疾患で、甲状腺刺激ホルモンに似たものを体で作ってしまい、通常より多くの命令が来るので甲状腺が分泌され過ぎてしまう病気です。
治療すれば治りますが、何年か経つと(10年だったり20年だったり)甲状腺がくたびれて甲状腺視能が低下してしまいます。
破壊されて低下している(橋本病)か、バセドウ病の後遺症で低下しているのか、ということがあります。
バセドウ病の場合は分かりやすいです、一気に甲状腺機能が上がるので、目がグッと突出するというのがよくある症状です。
汗がすごく出て心臓がドキドキしているようなものがバセドウ病の症状です。
バセドウ病の場合は自分で調子が悪い、いつもと違う、ということが分かるので受診されることが多いですが、それでも少なかったりします。
変に調子が良いから受診しないパターンもあります。
ですが、橋本病はゆっくりと変化していくので気付かないことが多いです。
破壊されている時は来なくて、破壊され終わった後に通院に繋がるということが結構多いです。
特徴としては、自己免疫性疾患で女性に多いです。
バセドウ病だと若め、橋本病は中高年の女性に多いです。
発汗機能、汗が出る能力が落ちていて皮膚が乾燥していたり、心拍数や血圧が低下していたり、元気が出ない、月経の乱れがあったりします。
この「元気が出ない」というのが、うつ病のうつ症状と似ています。
最近体調が悪い、落ち込んでいるような感じがする、眠れない、食欲がわかないということで、うつ病かもしれないと思って精神科へ来る方が結構います。
うつ病との違い
ただ、やはりうつ病とは少し違います。
甲状腺機能低下症を疑うときの初見は、主観的に聞こえますが「精神科っぽくない」ということがあります。
いつも診ている初診の患者さんと全然違うので、言葉で説明しにくいのですが、すぐにそれと気付きます。
すぐというか、主観的にですが分かったりします。
精神科の患者さんの訴えよりも悩みが少ない感じ、病前性格が明るいというか、こだわりが少ない、完璧主義ではないという感じの人です。
落ち込んでいる気分よりも「疲れ」の訴えの方が多いです。
解離性障害の人が落ち込みを隠して疲れを言うということや、虐待を受けている人が自分の内面を抑圧して疲れを訴えるのとは違って、落ち込みというよりは疲れがメインの訴えです。
また、発症時期が分かりやすかったりします。
いつ頃から調子が悪くなったのかというのを自分で言えるパターンが結構多いかなと思います。
もちろん、これだけで判断すべきではなく、基本的にはそうは言っても医者の感覚なので、疑ったら採血で確認するということが大事です。
採血で甲状腺刺激ホルモンや甲状腺を調べると普通に分かります。
エコーを当てたりすることもありますが、普通に採血で分かるので、そこからホルモン補充療法をしたりします。
バイオリズムの変化、風邪をひいたときなどで一時的に下がっているときもありますが、2回くらい採血すれば、診断ができてホルモン補充療法をするという感じです。
比較的診断は難しくありません。
医者というのは診断をあてずっぽうにやっているわけではなく、必ず、外因、内因、心因の順で診断します。
つまり、精神科の疾患の診断は「除外診断」で行われるのです。
見て「あっこれかな?」とやるのではなく、まず外因性疾患、脳の炎症ではないだろう、てんかんではないだろう、甲状腺機能低下症ではないだろう、と体の病気ではないだろうとまず診断します。
体の病気であるという可能性をまずつぶすのです。
問診でつぶすこともあれば、採血でつぶすこともあります。
でも全部が全部採血などをしていたら医療費がかかって仕方がないので、疑わなければ採血はしません。
まず外因疾患を除外します。
次に内因性疾患、統合失調症、うつ病、躁うつ病を除外します。
最後に心因性疾患を見つけます。
このあたりはふんわりしていますが、まず最初にしなければいけない診断は外因性疾患からなので、まず外因性疾患を除外する。
次に内因性疾患を除外して、最後に心因性疾患その他の病気を考えるという風に順番をつけています。
当たりをつけたりはしますが、自分の主観で判断するのではなく、検査で分かることは検査をすれば良いのかなと思います。
甲状腺機能低下症とはどういう病気かということを聞いたことがない患者さんもいらっしゃると思うので、今回動画にしてみました。
首に甲状腺という元気が出るホルモンを出す臓器があって、甲状腺がやられた結果うつのように見えることがありますよ、ということです。
その他
2022.1.16