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CBT-E 摂食障害の治療(認知行動療法的なアプローチから)解説します

04:54 セルフモニタリング
07:01 治療動機・ゴール
07:59 家族、学校の問題
10:02 併存疾患
11:14 心理教育
16:01 対処行動
16:29 治療の流れと予測
18:18 主体性/強制力

本日は、摂食障害の治療、主に認知行動療法の観点からどのように治療を進めていくのが良いのかということをざっくりとお話します。

摂食障害とは、物が食べられなくなり、その結果どんどん痩せてしまう拒食型(制限型)、食べては吐き食べては吐きを繰り返し、栄養が摂取できず痩せてしまう過食嘔吐型、過食嘔吐を続けながらも入院するほどは体重が減らないか標準体形を保つ、あるいはむしろ体重が増えるパターンもありますが、これらを言います。

この病気はかなりハードです。
治らないという言い方はしませんが、簡単に治るものではありません。

それはなぜかというと、摂食障害は「食べて吐く」だけの問題ではないからです。
その背景に、うつ病、発達障害、境界知能、社交不安障害、境界性パーソナリティ障害など他の病気が合併している可能性があります。
加えて、家族や学校、職場などの現実的な問題があったり、認知の歪みがあったりします。
痩せているがゆえにより認知の歪みが悪化している、脳に栄養が行っていないのでこだわりが強くなり、冷静な判断を下せないということがあったりします。

なので治療は難しいです。正解はなかなかありません。
時には入院が必要になります。
治療が年単位に及ぶことも珍しくない病気です。

このチャンネルのコメント欄を見ていると摂食障害を合併している方が多いです。
何年も治療を続けていますがなかなか上手く行っていません、少しずつ良くはなっていてもなかなか癖が抜けません、という方がたくさんいらっしゃいます。

この動画は、摂食障害になったばかりの人、改めて摂食障害の治療について勉強し直したい人、摂食障害の患者さんを持つご家族や周りの人に向けて撮っています。

摂食障害を治すために認知行動療法を始めたい、と考えている患者さんが結構いらっしゃいます。
益田先生のところで認知行動療法をやってくれませんか、やっていませんかと聞かれます。
当院では摂食障害の人向けの認知行動療法はやっていません。
それは、プログラム通りにやるのが難しく、デザインを組んで経営に持っていくのが難しいのです。

経営的な観点からだけではなく、どのタイミングでどのテーマを扱えば良いのか、ということはプログラム通り行きません。
認知行動療法を1回から12回まで組み、今日はこれをやって次回はこのテーマについて扱いましょう、次回はこのホームワークをやりましょう、というやり方はなかなか上手く行きません。

その場その場で優先度の高い問題、緊急性の高い問題が変わってくるので、当院のような小さいクリニックではプログラム通り行うのは難しかったりしますし、患者さんに応じてやらなければいけないので難しいです。
ただ認知行動療法のエッセンスは取り入れてやっています。

認知行動療法のプログラムで扱うものをお話します。

セルフモニタリング

まず最初にやってもらいたいのはセルフモニタリングです。
今食べている食事の量、できれば食事の時間帯、体重のチェックをしてください。

これをやるかやらないかの判断も難しいです。
やることで体重へのこだわりが増してしまうかもしれません。
いつもやっているのであればそれをシェアした方が良いのかもしれません。悩みどころです。
ただ、やることで自分を客観視でき、治療者とデータの共有が可能になります。

セルフモニタリングをすると、患者さんと家族が正しいセルフリテラシーを持っていないことが多いです。

例えば、年頃なら1日2000~2500kcalくらい食べなければいけないのに1日800kcalしか食べていない、それだと痩せてしまいます。
本人がどうしてもご飯が食べられない、その代わりにキャベツなら食べられます、と「本当はご飯を食べさせたいのですがキャベツを食べてるから良いですか?」と言われますが、キャベツは栄養がないのでどんどん痩せてしまいます。
それなら少しでもいいからポテトチップスを食べた方が良いよ、ポテチが良いかどうかは体調によって変わりますが。

ヘルスリテラシーが案外侮れないところです。
誤った情報を信じていたりします。
「この子、こんなこともわかってないの?」とお母さんがびっくりすることもあります。
正しいヘルスリテラシーを学んだり伝えるきっかけにもなるので、セルフモニタリングは重要です。

セルフモニタリングは認知の歪みに気付くきっかけにもなります。
本人は痩せていると思っていないことがあります。
体重計に乗っても「私すごく太っていると思います」と言ったりするので、それっておかしいでしょという話をしたりします。

治療動機・ゴール

次に扱うのは治療動機とゴールです。

・あなたはどうして摂食障害が始まったのですか?
・あなたはどれくらいの体重になりたいのですか?
・どういう体形になりたいのですか?
・将来どうしたいのですか?

という話をどこかで扱う必要があります。
ただこれも難しいです。

・取り敢えず痩せていれば良いと思っています
・私は歳をとったら(30歳になったらおばさんなので)死にます

と言ったりします。
いやいやそんなこと言わないでよ、という話が始まるので、どのタイミングで治療動機とゴールを話すのかは難しいです。

治療の初期に扱った方が良いといわれていますが、あまりに最初だと本人も頑なだったり、治療関係が上手くできていなかったりすると話せなかったりしますので、扱いにくいです。

家族、学校の問題

家族や学校の問題もあります。
親子関係はどうだったのか、母親と本人の問題はどうだったのか、両親はすごく仲が悪いのではないか、という話を扱う必要があります。
学校ではどうか、母親は勉強しないと許してくれなかったのか、宿題が終わらないと泣きながら、ぶたれながら勉強してなかったか、ということも扱わないといけません。

どうして摂食障害になったのかというと、ただ見た目にこだわっているだけなのではなく、見た目にこだわらざるを得なかった背景というものがあります。
それも扱う必要があります。

これもタイミングが重要です。
早い段階で家族と学校の問題、ベースの問題を解決しないと、いくら食べても元に戻ってしまいます。
根本にある問題を治さなければいけませんが、アプローチしていくのは難しいです。

治療を進めていく上では母親を味方に引き込まなければいけませんが、母親が原因で摂食障害になっていることも結構あります。
味方ですが敵なんです。
敵というか母親の問題でもあります。
最初から「母親が悪いでしょ」というと治療の仲間にはなってくれません。
どのタイミングで母親に、患者さん本人だけの問題ではなく母親の問題でもある、家族の問題でもある、ということを伝えるのは難しいです。
でもこの問題を避けていると治療は進んで行きません。
どこかで扱わなければいけません。

併存疾患

発達障害はないか、知的障害はないか、というデリケートな問題も扱わないといけません。

本人は努力が足りないからだと考えていてる場合があります。
努力が足りないから勉強が出来ないんだ、努力が足りないから周りと上手く行かないんだと本人は言うし、家族もそう思っているかもしれないですが、実際には努力をした結果が上手く行かなくて、どうしようもならなくて摂食障害になってしまったという事情があります。
なので、何かしらの併存疾患があると考えて治療に臨んだ方が良いと思います。

摂食障害だけ、という人ももちろんいます。
併存疾患が絶対にあると思い込むのも良くありませんが、見逃さないためにもあると思ってやった方が良いかなと思います。
精神科の疾患は合併していることが多いです。
合併とみるか、一つの疾患のサブカテゴリと考えるかはまた別ですが、これはマニアックな話なので今回は省略します。

心理教育

心理教育は、どうして摂食障害になったのかを考えることに準じます。
摂食障害の人にはそもそも認知の歪みがあります。

例えば、平凡恐怖、普通だと良くない、優等生じゃないと意味がない、可愛くないと意味がない、普通だったらいじめられる、そういう「普通」への恐怖心があったり、コントロール欲、何でもかんでも自分の自由にしたい、自分の自由にしなければいけないんだという考えに染まっていることがあります。
完璧主義だったり白黒思考、良い/悪いしかなくその間のグレーがない、~すべきというべき思考があったりします。
ここら辺は似たような概念です。

あとは分離不安、成熟への不安があります。
成長することが怖いのです。

人間は二度生まれる、と言いますが、思春期をきっかけに急に脳ミソが大きくなって急にわかることが増えます。

子どものときは漠然とサンタクロースを信じていて、冬になったらサンタさんという良いオジサンが来てクリスマスプレゼントをくれるんだ。でも親に怒られたりすると、お父さんの言うことを聞かなかったから今年はサンタさんが来てくれないかもしれない、とドキドキして、今年もサンタさんが来たな、良かった良かった…と、大人の視点から見るとどうしてそんなことを信じるのだろうと思いますが、子どものときはそのような素朴な世界観で生きています。

そこから思春期をきっかけに大人の世界に入れられて、身体は大人っぽくなるわ、Hな目で大人から見られたりするわ、友だち関係は誰が味方で敵で友情や恋愛などでグチャグチャになるし、これは何? そもそもサンタさんていなかったの? サンタさんて親がウソをついてたの? えっそれどういうこと? と全部が「何これ?」みたいになります。

そうなってきた結果、両親といつか別れなければいけないということが、子どものときは漠然と大人になったら別れるんだろうなと思っていのが、現実味を帯びて、成熟することが怖くなったりします。
その不安ゆえに落ち着かず、食べて吐くことをコントロールすることで自分の心の安静を保とうとすることがあります。

結局、食べ吐きは依存行為です。
依存症と似ており、その行為で安心します。
頭が混乱していて、食べなきゃ食べなきゃと思い、食べた瞬間に頭がすごくリラックスします。落ち着きます。
吐いて、フーッと一息ついた後にすごい自己嫌悪に陥ります。
これが摂食障害の基本的な依存のメカニズムです。

これは自傷行為も同じです。
自傷行為も死にたいからというよりは、頭が混乱して真っ白になっているから腕を切ります。
切るとスッとして落ち着きます。
だからたまらずやってしまうのです。

大人ならギャンブルやアルコールです。
僕も夕方くらいから、今日は疲れたなー、酒飲みたいなー、腹減ったな、酒飲みたいな、みたいなことを思って、仕事が終わったらピシッと帰って、ビールを開けて飲みたい、飲みに行きたいなー、飲みに行きたいなー、友だちと飲みに行きたいなーと思っていましたが、それと似ています。
夕方の「今から飲みに行きたい」という気持ちですよ。
これに共感するのはオジサンしかいないと思いますが。

それに支配されてしまっているのです。
それに支配されて、食べ吐きの瞬間しかリラックスできない、日中はずっと「アー」と思っているのが摂食障害の苦しさです。

一般の人がイメージするには、摂食障害を治すのはお酒をやめるのに似ています。
なかなかお酒をやめられないですよね。
いやいや、僕はやめられるよ、という人がいるかもしれませんが、週7で飲んでる人がやめるのに似ています。
休肝日をなかなか作れないお父さん、ダイエットしたいけれどお菓子をパクパク食べちゃう僕やお姉さま方と同じです。
お姉さま方と自分を並べちゃいましたけど。

対処行動

では、頭がグーッとなっているときにどうしたら良いのかというと、散歩へ行く、ヨガをしてみる、呼吸に注目するマインドフルネスみたいなことをして、対処行動を学ぶ必要があります。

認知行動療法なので、認知の歪みを訂正しつつ行動で治していくことになります。
依存や自傷行為をしそうになったら、別の対処行動に置き換えることを学ぶ必要があります。

治療の流れと予測

これも結構辛いテーマですが、治療の流れと予測も扱う必要があります。

悪くなったときにどうするのかということを、良いときに話さなければいけません。
予め話しておく必要があります。

治療者はこういう話をしたくありません。
今あなたはちょっとずつ良くなってきていますが、もっと体重が増えたときはどうしますか?
摂食障害の人は良くなっていく過程でほどほどの体重に収まるのではなくて、一度過食に転じて太ってしまうことがあります。
ガリガリだった人がぽっちゃりになって元に戻ることが多いのですが、戻ったときにどうするのか。

卒業や留年の問題も予め考えておく必要があります。
痩せてしまい勉強ができなくなり、学校へ行けなくなってしまう。
そして卒業が出来なくなったり留年をしてしまうことがあります。
それもどこかのタイミングで話しておかないといけないです。

3学期から全部学校へ行きます、そうすれば留年をしなくて済みます、と言うのですが、1ヶ月でそこまで治したいと言うのですが、それはなかなか上手く行かないことが多いです。
ベースに発達障害があったりすると、意外とそういうパターンもなくはないですが、ポジティブ過ぎる予測は良くないので、年単位の治療だということも本人だけではなく家族とも話さないといけません。

主体性/強制力

痩せ過ぎてしまった場合は強制的な入院もあります。
主体性をどこまで重要視するのか、強制的にやっていくのか、そのバランスは難しいでげす。

どのタイミングでそれぞれのテーマを扱うのかということも難しいです。
本人の状況、周囲の状況、家族の理解などを総合的に考えて組み立てていく必要があります。

本人のリズムに合わせていると治療にはすごく時間がかかってしまいます。
かといって強制的にやらせても北風と太陽みたいなもので、却って進まなかったりします。
なので、バランスはすごく難しいです。

他の動画でもよく喋っているのですが、正解はないです。
本人がどれくらい良くなるのかは治療者の腕だけでは決まりません。
そもそもの本人の自力の問題もありますし、抱えている問題もあります。
この子がどれくらいできるのか、ということは本当にわかりません。

治療が進んでいかないとわからなかったりするので、親にしても本人にしても治療者にしても「これで正しんだろうか?」という思いがずっと付きまといます。
もっと上手くできたんじゃないか、という思いに苛まされるのが摂食障害の治療です。

良くなったと思っても「ああ、良かった」とスッキリ終わりません。
もっとできたんじゃないか、あれで良かったのかとしこりが残るのが普通です。

答えがありません。
無理させ過ぎているのではないか、期待を持ち過ぎているのではないか、逆に諦め過ぎているのではないか、悩みながらやる治療かなと思います。

本人にしても家族にしても、治療者にしても冷静ではいられません。
ついつい「良くなって欲しい」という思いが溢れてネガティブなものを排除したり、辛い話題を避けたくなりますが、CBT(認知行動療法)を意識しながら、扱わなければいけないテーマを扱うべきなのかな、と思います。

今回は、摂食障害の治療を認知行動療法的な観点からざっくり解説しました。


2022.3.25

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