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心傷ついた人と接する上で、支援者側がうつにならないために心がけること。

00:36 トラウマ島
04:20 心身のバランス
09:19 サポート体制の確保
12:05 知識を身につける

今回は「ピアサポーター・支援者・治療者の防御力」というテーマでお話しします。

心を病んだ人、心が傷ついた人たちを助けたいと思う人たちが傷つかないように、自分たちがうつにならないようにどうしたら良いのか、ということです。

トラウマ島

僕がこういう話をするときによく例に出すのは、宮地尚子さんの「感情島」です。今回はわかりやすく「トラウマ島」と書いています。
これはどのような島かと言うと、丸い島で周りは海です。
ドーナツのように、島の周囲が「山」になっています。山で囲まれた内側が湖のようになっていて、そこに患者さんがいます。
内側にいる人を助けに行くのが、僕ら治療者です。

外側にいる人たち、島に入っていない人たちは、無関心な人たち(一般の人たち)です。

僕らはその島に上陸して山に登ります。
島にいても山のふもとにいては患者さんは見えてきません。
山頂まで行かないと傷ついた人たちは見えてきません。
山があるので海側にいては患者さんのことに気づかないのです。
山に登って初めてそこに人がいることがわかりますが、近づいていくと一緒に登っていくことができません。

「中立の難しさ」ということが言われます。
真ん中(山の上)に立っていることが難しいのです。
傷ついている人たちを助けるためには山を下りて行かないといけないのですが(共感していく)、のみこまれるとそこから上がれなくなってしまいます。
そのような危険性があります。

そのようなことをやっていると疲弊していきます。
周りの人は内側の様子が見えないので無関心だったりします。馬鹿なことをやっているな、と思ったりもします。

これは心の治療をしている人たちの様子をよく表していると思います。
僕は患者さんの治療をしているときに、このトラウマ島のことをよく思い出します。
それは、虐待を受けていた、性被害があった、パワハラがあった、という人たちの治療をしている時だけではなく、普通のうつの人の場合であってもそうだなと思います。
この図を思い浮かべながら近づくのですが、近づきすぎず、疲れないようにしているという感じです。

外側にいる人からの誹謗中傷も多いです。
かといって近づきすぎると上がって来れない、というのが問題です。
内側にいる人に「お前が登ってこいよ」と言ったりするのですが、傷ついているので登ることはできません。

のみこまれると、共依存やうつになってしまいます。
僕がサポーターの人たちに伝えたいのは、「のみこまれないようにしましょう」ということです。
傷ついた人と話しているときに、この図を常に頭に思い浮かべながら、のみこまれないようにしてもらえると良いと思います。

のみこまれないようにするためにどのようにすれば良いかを、3つのアプローチからお答えします。

心身のバランス

まずは「心身のバランスを保ちましょう」ということです。

自分の体の状況を常に意識します。自分のケアをします。
山岳救助隊に似ています。山で遭難した人や怪我をした人を助けに行きますが、自分が傷ついてはいけません。
自分の体力に合わせて助けに行かなければいけないのです。自分が傷ついたら助けられなくなってしまいます。そういうことです。

「バウンダリー」と言うのですが、限界や距離を知っておかなければなりません。
僕らができることには限りがあります。
時間、体力、お金、性的な問題。
当たり前ですが、恋人になることはできないですし、お金に困っているからといってお金を貸すこともできません。
僕らにも体力の限界があるので24時間助けに行けるわけではありませんし、自分の仕事もあります。
全部をやることはできません。

また、治療は難しいです。
その人を本当に救えるのか救えないのかという見極めもあります。
どこまで助けられるのだろうか、ということもあるわけで、境界や距離の取り方は一言では言い表せません。でも覚えておく必要があります。
現実をちゃんと見る。
助けたいという思いだけで突っ込んだらやられてしまいます。怪我をしてしまいます。

だから冷静になる必要があります。
助けたいという思いは秘めながらも頭は冷静である。
本当に山岳救助隊のイメージです。

それから、「疲れる前に休む」ことです。
心や体が疲れたと感じている時は、だいぶもう疲れてしまっています。
疲れる前に休まないと回復していきません。これはスポーツなどと一緒です。
疲れたなと感じる前に休むことで、結果的に長く走れます。
それを意識してもらえればと思います。

あとは、「自分ができること」です。
働く時間、できることを明確にしておきます。

そして、「限界性と共存する」。
精神科の治療は山岳救助などと同じで、限界というものがあります。
自分の限界もあれば相手の限界もあります。
その限界の中でいかに良いことをやっていくのか。

現実というのは残酷です。
自分の思い通りにはいきません。
それは、患者さんの思い通りにもいきませんし、治療者の思い通りにもいきません。
どんなに思い、気持ちがあっても、うまくいかないことはあります。
その限界とうまく共存していく。そして燃え尽きないようにすることが重要です。

だから「冷たい人」と言われます。
僕なんかめちゃくちゃ言われます。
「冷たい人だ」という誹謗中傷も受けますし、嫌なことも言われます。
「益田は全然わかっていない」「YouTubeとは全然違う」など色々言われます。

これから治療者側に回っていこうと思う人は、これを何度も受けることになると思います。
限界に気づいたり、心ない言葉を受け続けると思います。

感謝の言葉は本当に少ないです。
僕はたまたまYouTubeをやっていて、良いコメントをもらっています。
でもこれは言われすぎなのです。普通の医者はこんなことはありません。
僕は相当恵まれていますし、これは変なのです。
この状態が普通だと思ったら大間違いで、逆です。
普通はもっと酷いことを言われながらやっているというのが、僕らの治療です。
そして時々良い言葉を掛けてくれる。
それで頑張るのが僕らの仕事だと思います。結構キツイです。

もう少し言うと、感謝してくれないどころか逆恨みする人も一定数います。
それはそういう病気だったり、そのような人は一定数いるので、そこも気をつけることが重要だと思います。

とにかく、自分の体の状態、心の状態を常に監視しながら相手に付き合うことが大事です。
とにかく自分を大事にしてください。

サポート体制の確保

傷ついた自分を自分で治すことも大事ですが、そんなことはできません。
僕だってできません。

自分で自分を治せる人はいますが、そのような人はめったにいません。
そのような強靭な人を目指すのは、凡人には不可能です。

ですから僕らはサポート体制を確保し、サポート体制のもとで助けに行くことが大事です。
助けに行くのですが、バックオフィスがちゃんとあるということです。

一人で抱え込まず、問題がある時は仲間と共有・相談をします。
「秘密を守ってください」と言われるのですが、場合によっては相談させてくださいときちんと言います。最初の条件として。
一人で抱えないことが重要です。

何でもかんでも皆と共有することはありませんが、自傷他害など共有して相談することになりますということをきちんと言うことが大事です。
治療者や支援者もそうですし、サポーターの人たちもそうです。
相談する時は一対一ではなく、もう少しオープンな場所でやるのが良いと思います。

基本的に僕の考えているオンライン自助団体では、個人的なやりとりはしないでくださいと伝えています。
座談会をやるときは複数でやる。
本当にきつい話は治療者とやってくださいということで、あくまで軽い話し、軽い共感をしてもらうための場所という認識です。匿名でやりますし。

臨床をしているドクターや看護師さんは、患者さんを抱え込まずに、上司に相談させてもらいますときちんと言うことです。
学校の先生もそうです。

管理者やSV(スーパーバイザー)に相談してください。
うちの自助団体ならば、僕や他の有資格者の管理人の方に相談してもらうと良いかと思います。

とにかく抱え込まず、皆で考えることが大事です。

知識を身につける

自分で考えて動くことも大事ですが、「知識はちゃんとあるのですか?」ということです。

山を登るならば日頃からトレーニングをしておく。
山のことを知る。
装備の手入れをする。
知識を身に付ける事はとても重要です。

精神医学から社会制度まで、色々なことを勉強しなければいけません。
これは非常にたくさんあります。全部を把握するのは不可能です。
ですが、絶えず学んでいく必要があります。
その時悩んだことは、できるだけその日のうちに解消していく態度が重要だと思います。

「好きな勉強だけしない」ということも重要です。
自分はこの治療法が好きだからこの治療法だけをやる、というのはダメで、全体的にやります。

そして、疾患それぞれの特徴を押さえておきます。
特別な人、特別な病気というのはありません。多くはよくある病気です。
ほとんどの病気は人間が認識する限り、何かの病気に当てはまっています。

ということは、これまでの知見があるわけです。
過去のドクター、治療者に敬意を払う。
彼らが学んできたものは本などに残していますから、それをきちんと学んで活かす必要があります。
独断専行しないことが大事です。

同じように、転移・投影などの力動的メカニズムを学びます。
この人はなぜこのように思っているのだろう。この人は僕に対して怒りを持っているけれど、それは本当に僕への怒りなのだろうか。それとも何かの怒りの感情を、本来ぶつける相手ではなく僕にぶつけているだけなのだろうか、そのようなことを知らないといけません。
そういうことを解釈できるようにならないと、心身のバランスを保てません。
これも一緒に学んでいけたらと思います。

今回はサポーターの人や、支援者、治療者が、どのように自分の身を守れば良いのかということをお話ししました。


2022.4.10

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