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向き合う、について考えてみた(雑談)

1:16 「薬だけで治る」という誤解
2:22 「話を聞いてもらえれば良くなる」という誤解
3:14 正確に伝えることの難しさ
5:11 感情は学習によって作られていく
6:14 流行り言葉で良いから伝える
8:54 科学的に問題に対処する
11:02 ベタな言葉が伝わる

本日は「向き合う」という言葉をめぐってお話しできたらと思います。
医学的な教科書やデータに則った話というよりは、僕の臨床的な体験談、雑感を述べてみたいと思います。
雑談回です。

精神科にはいろいろと誤解があります。
診断がつけば薬で治るのではないか、薬では治らないのではないか、薬で治らないということは病気ではなく甘えなのではないか、そのような誤解があります。

他に、精神科は優しくしてもらえる場所、話をしっかり聞いてもらえる場所、話をしっかり聞いてもらえば治療はうまくいくという誤解もあります。

「薬だけで治る」という誤解

診断をしっかりして薬で治療すればうまくいくのではないかという誤解ですが、やはり薬だけではうまくいきません。たとえ診断がしっかりしていても、薬だけで全てを治せるものではありません。

精神医学は社会的な要素を含みます。
うつになった原因に、貧困の問題がある、虐待の問題がある、完璧主義で認知の歪みがある、会社でパワハラがある、労働時間が長いなど、いろいろな要素が絡みますので薬だけでは良くなりません。
多方面の問題を解決しなければいないのです。

それにあたって、自分の病気を理解する、今の問題を正しく把握する、科学的に把握することが求められます。
つまり「正しく向き合う」ということです。

「話を聞いてもらえれば良くなる」という誤解

優しくしてもらえば、話をしっかり聞いてもらえば良くなるのではないか、というのも誤解です。

日常生活の中では、しっかり話を聞いてもらったらすごく気が楽になったという経験があると思います。
ですが、精神科の臨床ではあまりそれはやりません。

もちろん聞いてもらうことで楽になる部分もあるのですが、それは一時しのぎでしかありません。また家に帰ったら調子が悪くなりますし、変わらない現実があります。

ですから、問題と正しく向き合うことが求められますし、「優しくしてください」ではなく、「冷静に話し合おうよ」「冷静に問題に向き合って扱っていきましょう」というのが精神科のスタンスです。

正確に伝えることの難しさ

なかなかこの誤解を解くのが難しいです。

科学的にやらないといけないのだという話をすると、どうも患者さんにはうまく伝わらず、最近は「向き合う」という言葉をよく使っています。

精神医学や哲学をかじったことがある人ならわかると思うのですが、起きている事象を正確に伝えることは困難ですし、既存の言葉ではその現象を正しく描写することは困難だったりします。

本当に正しく描写しようと思ったら、翻訳しない、哲学や精神分析の用語をカタカナで残し無理に日本語にしない、新しく言葉を作るということもあります。
ただ、正しい言葉を使って患者さんに「今あなたはこういう状態ですよ」と言っても、治療者側の自己満足に終わってあまり意味がなかったりします。

「今あなたは投影が起きていますよ。あなたは僕が怒っていると思っているかもしれませんが、自分の感情を僕に投影しているからで、あなたが本当は怒っているんですよね」と言われてもチンプンカンプンです。治療者側の自己満足です。
「肛門期だからあなたは我慢が…」と言い出してもわけがわかりません。

正確に伝えることは困難ですし、学術用語をそのまま使っても臨床では活かせないということがあります。

感情は学習によって作られていく

感情とは、そもそも学習によって作られていくものです。

文化によって感情は違いますし、その感情がある文化もあれば、ない文化もあります。
もともと備わっているものではなく、文化の中で、社会の中で作られていきます。もともと備わっているものではありません。

例えば「侘び寂び」や「もののあわれ」は日本人固有の感情だと言われます。
日本文化の中で育ったから「侘び寂び」や「もののあわれ」など、しみじみとした感情があります。
ですが、海外にはこれに当たる言葉はなかなかありません。

ですから感情というのは作られるものなのです。
言葉は、勝手に僕らが作っているということもあるわけです。

流行り言葉で良いから伝える

流行り言葉で良いから伝えるというのも重要です。

患者さんが「HSP」という言葉や文脈で理解しやすいのであれば、HSPの文脈を使って説明する。
発達障害や複雑性PTSD、アダルトチルドレン(AC)などいろいろありますが、そのような概念を利用しながら伝えていきます。

「あなたは発達障害ではない」「あなたはACではない」と頭ごなしに言っても、患者さんは治療者を不審に思うだけであって、彼らが診察と診察の間に自分の病気を必死に探してきた努力を踏みにじるような行為ですので、そのような概念を利用して「今のあなたの気持ちはこうなのですね」「あなたは今こういうことで困っているのですね」と説明してあげることが親切かなと思います。

そのようなことを言うと、益田はさっき感情は学習され作られるものだと言ったじゃないか。だから病気というのも作られていくんじゃないの? 精神科医によって作られていくんじゃないの? 診断名ができればそれに合わせて病気ができるんじゃないの? と言われそうですが、半分正解と言えば正解ですが、違うと言えば違います。

人間の脳や心は何かと考えていくととても難しく、描写困難なものです。
どういうものかと言うときに「東京とは何ですか?」と説明するのに似ています。

東京とは何ですかと言った時になかなか説明がしにくいですし、東京を細かく見ていくとあの地域はどんな地域ですかとなります。西側、東側だけだとざっくりしすぎていますし、かといって細かく地図を見てもイメージがつきにくいです。
それは脳の機能と似ていて、「これは○○細胞の○○レセプターです」と言っても患者さんが理解しにくいのと同じです。

異常というのも、被っているところもあれば別のものを見ている時もありますから、東京と言った時にも呼び名が変わるように、病名も変わっていくことも自然なことなのではないかと思います。

科学的に問題に対処する

精神科というのは、科学的に問題に対処します。

治療者は「こうなってほしい」「こういう風に患者さんに良くなってほしい」という「欲望」を持って患者さんを見るのではなく、患者さん自身も「自分はこういう人間になりたいから、今の自分はダメなんだ」と思うのではなく、家族も「こうなってほしい」と思いながら見るのではなく、「あるがままを見る」というスタンスを皆で共有することが重要です。

コップに入った水を見たときに、「こんなにたくさんある」「これしかない」と思うのではなく、「水は150ccなんだね」と思う。
「150ccが、少しずつ200ccになれば良いね」といったスタンスでものを見られるようになることが重要です。

社会常識さえ疑うことが重要です。
生物学的に考えるというのはそういう側面もあります。

仕事をしていないと無価値ではないかというと、そんなのは関係ありません。
生きていれば皆価値がありますし、価値がないと言えばありません。
仕事をしているから、お金を稼いでいるからということで差はありません。
そもそもこの仕事はたくさん稼げるから偉い仕事、たくさん稼げないから悪い仕事、といったこともありません。

東京にいたらおかしくなってきます。
本当にお金持ちの人がいて、不動産収入だけで大金を稼いでいる人もたくさんいます。
逆立ちしたって僕の生涯年収より多い人はたくさんいるわけです。

不動産収入だけで暮らしている人もたくさんいますが、それで調子を崩してうつになったり、不安障害になっている人たちも多くいますので、お金、社会、働いている、といった常識さえ疑って生物学的にやっていく側面も重要です。

ベタな言葉が伝わる

科学的に見ていくということを説明していくのはとても難しく、こういうことを話しても患者さんの心には響きません。
だから僕は最近「向き合う」「相手の立場に立って考える」など、ベタな言葉をもう一度見直して使うことをやっています。

「きちんと相手に向き合いましょう」
「相手の気持ちに立って考えていますか?」
このような言い方をします。

「相手はこういうことを考えているんじゃないの?」
「相手はこうできないかもしれないけれど、今こういう風に必死なんじゃないの?」
という言い方をよくしています。

発達障害の人やカサンドラ症候群の人、子どもが発達障害やうつだという親御さん、ひきこもりの子どもを持つ親御さんを診療していく中で、「向き合う」とか「相手の立場に立って考える」というベタな言葉を使った方が伝わるなとわかったので使っています。

「嫌われる勇気」「バカの壁」「心理的安全性」といった言葉もあまり使いません。
やはりベタな「向き合う」「相手の立場に立つ」という言葉はとても素敵だと思いますし、役に立つなと最近考えています。

臨床はこのような感じでやっています。


2022.5.25

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