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境界性パーソナリティ症を解説します

00:00 OP
02:07 症状
06:26 鑑別と治療法
11:53 実際の治療

本日は「境界性パーソナリティ障害(Borderline personality disorder)について解説します。

ネットなど見ていると「ボーダー」というとちょっと差別的だったり、嫌な意味で使われたり、医療機関の中でもボーダー、ボーダーと言って、ちょっと意地悪なニュアンスで使われることがあります。
ですが別に「ボーダー」自体は差別的な意味ではありません。

この境界(ボーダー)というのは、神経症と精神病圏、統合失調症、うつ病、躁鬱病などの内因性疾患および心因性疾患、不安障害とかそういうものの境界にある、両方の要素を持ったものという意味で「境界性」と言います。
そういう意味のボーダーということです。

ですがボーダーボーダーと使われているうちに、差別的な意味がこもってしまったという感じです。
ネットで見る「メンヘラ」というのもおそらくこのイメージです。
メンヘラの由来は境界性パーソナリティ障害の人たちのことなんじゃないかなという気がします。

男女は基本的には1対1と言われていますが、実際に医療機関を受診する人は女性の方が多いです。
境界性パーソナリティ障害と自認するのも女性の方が多いかなと思います。

10代から20代の発症が多く、やはり若い人の病気だったりします。
30代40代、中年になるに従って症状が落ち着いていく傾向があります。

境界性パーソナリティ障害の症状

どんな症状があるかというと、特徴的なのはこの5点です。

・不安定な人間関係
まず、不安定な人間関係というものがあります。
人間関係が安定せず、「見捨てられ不安」というのがあります。
見捨てられるんじゃないか、私は誰かに嫌われるんじゃないか、捨てられてしまうんじゃないかと思って、とても不安になり、なりふり構わぬ努力というのをします。

好かれるために自分の意見を隠す、自分の意見を曲げてでもその人についていく、とかそういうことをしますね。
彼のために、本当だったらハンバーガーが食べたいところをうどんに合わせるとか。洋服の趣味も変えるとか。そういう可愛らしいものから、なりふり構わぬ努力、「絶対捨てないで。借金も肩代わりするから」みたいなものまであります。

・理想化とこき下ろし
と言いつつ、操作性というのもあります。
一方で「あなた素晴らしい」と言って理想化したり、反対にこき下ろす。
「お前なんか最低だ」と言って両極端に人間の評価が振れるのも境界性パーソナリティ障害の特徴です。

すごく褒めてくれたと思って、「あなたのこと好きよ」と言ってくれるからつい近づいていくと、今度は「嫌いよ」と言われるので相手は振り回されます。
このアメとムチで相手を支配できるのか、相手も病みつきになってしまい、すごく助けてしまうというかすごく距離が近づいてしまって、共依存関係になってしまう、密着関係になったりします。

男女共に、男性だけで受診する、女性だけで受診するのではなくカップルで受診する時は、だいたい女性が境界性パーソナリティ障害で男性が振り回されているパターンです。

そのカップルの特徴をやんわりと伝えます。
「何かちょっと2人がくっつきすぎてるね」みたいにやんわりと伝えます。
「理想化とこき下ろしがひどいね」とかそんなこと言いませんが、やんわりと伝えても、益田はイヤな奴だとか言ったりします。
2人を引き裂こうとするとそういう感じになります。

うまく彼が現実に気づいてということもあれば、現実から離れていく、2人で崖から転がり落ちるような関係になってしまう、不幸が不幸を呼ぶようなことになってしまうこともあったりします。

・突然の深い悲しみ、怒り、空虚感
突然の深い悲しみや怒り、空虚感、現実感の無さ、現実が意味がないとか生きていても意味がないんじゃないかという空虚な感じがあったりします。

・感情コントロール困難、論理思考困難
自分の感情をコントロールすることが困難で、視野が狭くなっていて論理的な思考が困難です。

・自己破壊的行動(自傷、薬物、性行為)
苦しいので自分を攻撃するようなことをしてしまいます。
苦しくなった時に自分のことを攻撃すると、ちょっと頭がすっきりして冷静になります。
なのでそれを何度もやってしまう。

自傷をしてしまったり、違法薬物をしてしまったり、危ない性行為、誰とでもやってしまう、やってはいけない人と性行為をしてしまうとか、そういうこともあります。
その結果、自分から近づきながら性的な暴力を受けて、性的な虐待だとか、レイプだとか、痴漢の被害に遭うこともあります。

相手の男性から見たら、「いや、誘ったのは君だろ」みたいな感じで言うのですが、でも本人は無意識にやっていたりもするので、本人が言っていることもあながち嘘じゃない。双方の言い分はなんとなくわかるなという感じがします。

こういう人を境界性パーソナリティ障害、人格障害、とカテゴライズされていて一定数いますね。
人口の1、2%はいて、さまざまな問題を起こしているという感じです。

鑑別と治療法

似たような病気としてどういうものがあるかというと、双極性障害です。アップダウンがあり、躁とうつを繰り返す。
他に月経前気分不快症(PMDD)、発達障害、境界知能。知的障害も含めてもいいかもしれません。
あとは解離(ヒステリー)、PTSD、その他人格障害も境界性パーソナリティ障害と似たような疾患かなと思います。

鑑別というのは、違う疾患だということもあれば合併していることもあるので注意が必要です。

治療法としては、基本的には境界性パーソナリティ障害に対する薬物治療というのは有効なものはありません。
対症療法的に抗てんかん薬とか、衝動性に対しては抗精神病薬を使ったりするのですが、なかなか治療コントロール困難です。
悲しみや怒り、うつ症状に対して抗うつ薬を使うこともありますが、かえって衝動性を高めることがあったりもします。

治療法に関しては「弁証法的行動療法(DBT)」が有名です。
ただ、DBTをしっかりやるという医療機関は少ないし、僕のところもやっていません。
なかなかできないんですよ。
治療構造としてそういうものを用意するのは難しいです。
カウンセリングというか、30分なら30分の枠を作ったりするのがなかなか難しい。

結構気ままというか、外来も定期的に通院することが難しい人も多かったりしますし、突然来て毎回来るようになったと思ったら突然来なくなることも結構あります。

ただ、来るときには弁証法的な精神療法のニュアンスを含めた外来治療、カウンセリング的な要素を外来中の中で含める必要があります。
こういうものを「力動的視点」を含めた治療をすると言ったりします。

心の動きですね。
あなたはこういうことを感じているんだねとか、そういう心の動きを解釈しながら理解してもらう。
そういう視点を含めながら治療をしていくという感じです。

ただ、モチベーションですよね。
患者さん自身がモチベーションを維持するのは結構難しいです。
境界性パーソナリティ障害は本当に治療に何年もかかります。
1年、2年では収まらず、5年、10年とかかっていく治療なのでなかなかモチベーションが高い状態を維持するというのは困難なことが多いかなと思います。

自分の心と向き合って、感情のコントロールを覚える、気持ちに気づく。
自分が考えている対人不安は自分の心を反映させたもので、相手が信用できない相手なのではなくて、この人は信用できるんだけど、あなたの不安が信用させなくなっているんだよとか、あなたが自己破壊的な行動を取っているから、信用できない人を周りに近づけているんだよとか、そういう理解を促すようなカウンセリングをしていくのですが、なかなかモチベーションが維持できなかったりします。

現実的な問題も結構多いです。
自傷行為をしてしまって傷のケアをしなければいけない。
違法薬物の依存、違法薬物の警察対応、性被害の問題、トラウマの問題、会社でのトラブルの問題、恋人の問題など、現実的な問題が実際あったりするので、こちらの方を話すことがメインだったりとか、こちらの方のアドバイスをすることが多かったりして、なかなか自分の心のところまで会話や話題が触れない。
そちらの方に話題が行こうとしないことも結構あるなと思います。

ただ、自分の心という抽象的な問題だけをやっていても、やはりうまくいきません。
彼や彼女が抱えている現実的な問題を一緒に考えつつ、一緒にマネジメントしつつ、心理的な教育もしつつ、自分の心を理解する、自他の理解を促していく、柔軟な考え方やしなやかな思考を身につけてもらうなど、いろいろな角度からやらなければいけないので、結構複雑な治療になります。

ドクターショッピングをしたり、転医をしたりしてしまうことが多いです。
医者のことを信用しようとすると、今度は失うのが怖くなって通院できなくなってしまうこともありますし、逆に医者のことを信用できないから、別の病院行くというのもあり、なかなか一ヶ所の病院に留まるということができなかったりします。

転院を繰り返すというのも境界性パーソナリティ障害の人の特徴です。
1年、2年ごとに別の病院に行きながら、治療者は変わるけど治療を続けていくという視点が結構重要です。
3年ぶりに帰ってくるとか、何年か経つと自分のクリニックに戻り、半年くらい通院してということも結構あったりします。
だから「いつ帰ってきてもいいんだよ」みたいな言い方をしたりします。

実際の治療

実際、益田はどういうふうに治療しているのかということもお話ししようかなと思います。

僕の外来は普通の一般外来なので5分診療をやっていますね。
境界性パーソナリティ障害の人だからといって、長く診察時間を取るとか、特別にカウンセリング枠を設けるということはしていません。
僕の時間を工面して、その人のための治療時間を作るということは基本的にはしていません。

なぜかというとあまり特別扱いしないというのも一つの治療だと僕は思っているからです。
というのが1点ですね。

あとはYouTubeです。
モチベーションが高い人はYouTubeを見ながら勉強したりとか、YouTubeで学んだことを診察室で反映させ利用している。
そういう形で診察時間を利用している方ももちろんいます。
そういう人はやはり治療効果が高いと思います。
モチベーションも高いのでどんどん身につけていくし、どんどん自分のことを理解していく。治療の展開も早いです。

ただ、境界性パーソナリティ障害の人の全員がYouTubeを見てきているというわけではなく、YouTubeを見てきているからこそ、僕への怒りやがっかり感が早く訪れることがあるのかなと思います。

つまり、治療の中で境界性パーソナリティ障害の人は何回か「決定的な怒り」というのを診察室で出します。
それは通過儀礼というか、起こるべくして起こる、とも言えます。
「こんなに信頼してたのにお前までダメじゃないか」
「益田先生はこれまでの先生と全然違ったけど、何で益田先生まで同じようなことをしてしまうんだ」
「同じように私を傷つけるんだ」
という怒りです。
それは絶対に起きる。それが起きることが治療でもあります。

その怒りが深ければ深いほど、それがリアルであればあるほど実はすごく重要で、そこの準備段階のような感じもあります。信頼を積み上げていくということは。

積み上げていって、積み上げていって、本当に壊れる。
でも壊れた後に冷静になるんですよね。

「あれ何で私はこんなにも益田を憎んだんだろう。だってそんな憎む必要ないじゃない。別に益田先生は普通に診療しているし、今まで通り変わってないし、多少軽はずみな発言はあるにしてもこれまで優しくしてくれたじゃない。でも私はこれを全部壊しちゃうし、また誰かを傷つけてしまった」
という風に思うんですよね。

そして気づきます。
「これが私のすべての行動パターンなんだ」と思うんですよね。
「益田でもやってるということは、他でもやってる。これが私なんだ、これが私が持っているいつもの認知の歪みであり、行動パターンなんだ」ということに気づく。

そうすると一気に俯瞰的に見えるようになって回復していくという感じです。
回復してきたと思ったら、また同じような問題を起こすのですが、でもその度にどんどん俯瞰的に見られるようになったりします。

でも良くなったときには、あまり患者さんは来ません。
「あの時、益田先生に対してすっごい怒ったから、そのおかげで良くなったんです」と患者さんは言いません。
だいたいが「あの時すっごいムカついたんだけど、何か頑張って我慢したらなんとか通院を続けられました」とか言います。
益田先生ありがとう、というより自分の手柄みたいに思うことが多いです。
でも別に自分の手柄と言えばそうですよね。僕は何もしてないし、患者さんが自分で治っているのでそうと言えばそうですが、時々思います。
もうちょっと俺、褒められてもな、と思ったりしますが、それは僕の逆転移の話なので良くない思考です。

境界性パーソナリティ障害の人たちは本当に苦しいし、自分の問題、自分のせい、自分の甘えではなく、こういう症状なのですね。こういう病気なのです。
ある意味、人間の脳みその中で起きる必然性というか、何人かいたら1、2%くらいはそういう人が出てきます。

半導体とか作っていても何個かに1個は不良品が出てくるのと同じで、何人かに1人は感情コントロールが苦手な人が出てくるのでしょうね、そういうのはよく思いますので不運だなと思います。合併も多いです。

薬は必要ないと言いつつも、鑑別の難しさもあったりして実際は出すことが多いです。
境界性パーソナリティ障害でPMDDを合併している人が多いので、PMDDに対して抗うつ薬を使おうとか。
衝動性の強さはあるけれど、忘れ物が多いとかコミュニケーションの苦手さは発達障害的な要素も含んでいるからADHDの薬を使おうとか、そういうのもあったりします。

あとは親子関係の問題で、本人はトラウマだとか、家族から虐待があったと言うのですが、意外とそうでもないことも境界性パーソナリティ障害だと多いです。
もちろん普通の人よりは、一般人口の中における虐待が起きているリスクと境界性パーソナリティ障害の中で虐待がある群で比べたら明らかに多いのですが、境界性パーソナリティ障害がある人全員に虐待経験があるかというとそんなこともありません。
虐待があるからといって境界性パーソナリティ障害になるわけでもなかったりします。

少し強めの相関関係はあるのですが、因果関係として成立するほどではなかったりします。
自分の問題でなくて親子関係の問題なんだという形で、境界性パーソナリティ障害の人がそちらに話を持って行こうとしたときに、程々に付き合わないといけないというのがあります。
もしその通りにやってしまうと、自分の問題ではなくて相手の問題だという形になって治療が遅れてしまう可能性があるのでそこは注意が必要かなと思います。

ということで今回は境界性パーソナリティ障害についてざっくり説明しました。


2022.7.7

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