本日は「社会に知ってほしい精神疾患のこと」というテーマでお話しします。
YouTuberというのは、それを中心にコメントが集まって擬似的なコミュニティを作ります。
このコミュニティを通じて、患者さん同士がコメントを匿名的ですが交換しあうことで治療に役立ててもらいたい、色々な知識を身につけることで治療効果を高めてほしい、毎日YouTubeを見ることで学んで治療効果を高めてほしいなどと言っています。
社会的な啓蒙活動をしたいとか、社会に精神疾患のことを知ってほしいとも言っていますが、具体的に何を知ってほしいのか、という話です。
うつ病はこういう病気なんだとかそういうことを知ってほしいのもありますが、今回は総論的な話をしようと思います。社会に知ってほしいことです。
こういう話はたぶん1回もしたことがなかったと思います。
1回もしたことがなかったのに、社会の人に精神医学を知ってほしいと言っていたので、不親切だったなと思いました。
今回は改めてどういうことを知ってほしいのかをお話ししようと思います。
僕は精神疾患のこととか、治療法などをすべての人が普通にリテラシーとして、常識として知ってほしいとは思っていません。
できれば知ってほしいけれど、多くの人が江戸時代とか江戸幕府を知っているように、そういう日本の歴史みたいな形で、精神医学のこともざっくり知っていてもらえたらなと思いますが、そこまでは望みません。
ただ、人間の心はどうなっているのか。
それが病になるということはどういうことなのかということを、ざっくり知っていてもらえたらと思います。
どうしてそれを知っておかなければいけないのか、目を背けてはいけないのかということも今回お話ししたいなと思います。
コンテンツ
マイノリティーであること
精神疾患にかかる人というのは人口の2、3%くらいです。
今400万人くらいが通院していると言われています。
圧倒的にマイノリティーです。
実際、社会に出ていけない人たちもたくさんいます。
ひきこもってしまったり、会社で働けなくて自宅で療養していたりする人もたくさんいます。
だから余計に気をつけて見ていかないと、なかなか目に入らなかったりする人たちです。
皆の目の届かないところですごく苦しんでいるというのが精神疾患の人たちの特徴ですし、マイノリティというのはそもそもそういうことなのです。
性的なマイノリティの人たちが声を上げたように、精神疾患の人たちも声をあげないといけないのです。
それはなぜかというと、やはり少数の弱者たちというのは民主主義・資本主義との相性が悪いです。
民主主義の中では多数決が有利なので声はかき消されてしまうし、資本主義も売れるものがいいので、ニッチなんですよね。
ニッチなものと相性悪いのです。
売れないんですよね、ニッチなものって。
ましてやお金を持っている人が多いわけではないので、無視されやすい。
資本主義の世界でも民主主義の世界でも無視されてしまうので、声がなかなか届きません。
だからより苦しくなってしまうということです。
弱っている人たちだし、声を上げるということは傷つけられる可能性もあるので、僕ら治療者側も協力して声を出していかなければいけないということになります。
民主主義と資本主義というのは、少数の弱者の人たちと相性は非常に悪いのですが、かといって民主主義や資本主義を超える良い制度というのは、まだ人類は開発していません。
民主主義や資本主義を部分的に改良することで皆が幸せに生きられる社会を目指そうというのが、現代の世界の常識というかルールとなっています。
補完のための福祉
民主主義や資本主義の弱点を補完するための福祉というものが用意されているのですが、この福祉というのがいまいち適切に機能していません。
もちろん、機能しているところもたくさんあります。
例えば、精神科医療ができているということは福祉のおかげです。
いろいろな先輩方や治療者、支援者の人たち、患者さんたちが協力し合って今の福祉体制をつくっています。
ですが、まだまだ十分ではありません。
せっかく僕がYouTubeをやっていて、影響力も少しずつ持ちつつあるので、それはこういうもののために使いたいなと思っています。
社会に対しては精神医学はこうなんですよとか、精神疾患はこういうことで苦しいんですよと伝えることで、偏見を減らしたいです。
あとは、このYouTube周りで声が集まっているので、その声を統計的に解釈したり、研究にして、それを適切な形で伝えていったり、適切な対策がとれるように僕らは見ていく。
対策がされているけれどそれがうまく回っていないときは、現場の声を通して、より良い対策がとれるようにPDCAを回してもらうようにする。
そのためにこのYouTubeというかジャーナリズム、こういうものを利用したいなと思っています。
自己責任→不運の重なり
そもそも民主主義と資本主義の世界というのは自己責任の話です。
チャンスを与えているのに良くならない、チャンスを与えているのにお金持ちになれないというのは自己責任でしょというのが民主主義と資本主義の考え方です。
でも自己責任ではないのです。
病気にかかってしまうのは、自分の力だけではどうしようもないような不運の連続によって起きます。
この不運の重なりは、多くの人には理解しがたいです。
つまり、病気になる、生まれつき体が弱い、家族の支援がない、虐待的な家族だった、暴力的な家族だった、初めて入社した会社がパワハラの多い会社だったとか、そういうものが重なったときに、病気が発症するのです。
けれども、こんな泣きっ面に蜂みたいな状況が起きることは想像つかないんですよね。
たとえばサイコロを振ったときに、6が連続で10回出ることは想像つかないわけですよね。
出るわけないじゃんと。6が連続で5回でも3回でも、そんなのは起きないでしょうと。
でもね、起きるのです。
それが精神疾患なのです。
6が連続で何回も出る。人口の1、2%が発症している。
だから98%の人は関係ないんですね。だけど2%の人が苦しんでいるというのが精神疾患であり、2%だから無視されてしまう。
想像がつかない。それは甘えなんでしょという言葉でかき消されてしまう。
それが精神疾患の特徴なのですが、そんなことはなくて不運の重なりだということです。
遺伝子+環境ストレス=誰にでも起きる可能性
病気は、遺伝的な問題+環境ストレス、社会的なストレスの複合で起きます。
誰でもなる可能性があるということです。
それもあまり知られていない事実かなと思います。
でも運が悪いということと同時に、誰でもなる可能性があるということです。
運が悪ければ誰でもなるという考えてみれば不可思議なロジックなのですが、でもこれが精神疾患の特徴です。
これは結構ややこしくて、これを2%の人だから黙認でもいいでしょと思うと、だんだんこれが社会の分断を生みます。
誰でもなるのですが、1回なってしまうと復活しきれなくなってしまう。
福祉がうまくいかないと、後で説明しますが、家族の中で例えば病気の人がいると家族全体が貧困の方に入っていって、貧困の家庭とそうじゃない家庭がだんだん離れていく、分断されていくということが起きます。
適切に福祉を行わなければ、再チャレンジできなくなります。
自己責任が果たせていると言いつつ、実は自己責任ができなくなっているというのが今の資本主義、民主主義の現状なので、どんどん分断していく。
分断していくと貴族的な社会に変わってしまいます。格差が出てしまう。
一方はこちら側では動いていて、もう一方はあちら側で動いている、だから分かれてしまう。
そうするととこちら側で動いているから腐敗も進むし、本当に能力のある人が上ってこれなかったりもします。
だから国力も全体的に落ちてしまう。国際的な競争力も落ちてしまうと思うので、適切な福祉をやることはとても重要なのです。
マイノリティーの人たちに対して適切な福祉を行うべきなのですが、それはこういう根拠があるということでした。
具合的に知ってほしいこと
では、具体的にどんなことを知ってもらいたいのかという話です。
<根性論→多様性、合理的社会>
例えば、根性論を常識的に皆さん信じているのですが、自己責任の世界ですからね、基本的には。
民主主義や資本主義の世界は自己責任の世界なので、根性論が支持されやすいです。
頑張れ、みんな頑張れるんだよと。
ですが現実的に考えると根性論というのは通じなくて、僕らは多様性があります。
頑張れる人もいれば、頑張れない人もいる。
生まれつき体力がある人もいれば、ない人もいる。
賢い人もいれば、賢くない人もいる。
運動神経がいい人もいれば、よくない人もいる。
美しい人もいれば、そうでない人もいる。
もうとにかく多様なわけです。平等な戦いは起きていないのです。
だからこそ合理的な社会を作っていかなければいけないわけです。
もしそれができないと、ストレスが多い社会に変わってしまう。
そうすると適応障害の人が増えてしまうということです。
多様性を認め合って、根性論で問題を見えなくさせるのではなく、合理的なノウハウをつくるような社会、合理的な社会に移さないと、適応障害の人が増えてしまいます。
精神疾患の患者さんは今増えていますが、そういう人が増えてしまうということになります。
<障害で働けない人たち>
障害で働けない人たちも出てきます。
うつ病、躁うつ病、統合失調症など、精神疾患で重い人たちは、薬を飲むことで症状が良くなってもなかなか社会復帰できない人たちもたくさんいます。
そういう人たちに対する年金などの問題も考えていかなければいけません。
<認知症、介護>
あと、認知症の人たちですね。
認知症になってくると暴れてしまったり精神科的な問題も起きてきます。
そういう人に対する、看護、介護の問題も大きくなっているのではないかなと思います。
こういうことも意外と見えてない事実かなと思います。
家族の中にいたりすると次の問題も生まれるんですね。
ヤングケアラーという形で、家族が介護しなければいけなくなると、子どもたちが駆り出されている。
看護や介護に駆り出されて自分の勉強時間が持てなくなる。
その結果、貧困の問題が起きる。
あとは弱者とかストレスから来る虐待の問題、暴力が他のところで発散されてしまう、家族の中で暴力が起きてしまう問題。
そして虐待から貧困の問題、貧困から虐待の問題。
こういう環境で育った人が結婚の機会を逃してしまったり、孤立してしまったり、ひきこもりになってしまうなど、そういう問題が起きてしまいます。
それで結果的に精神科の患者さんはとても増えているというのがあります。
<人格障害>
あとは、人格障害の人たちがカウンセリングを適切に受けられない。
カウンセリングというシステムが医療制度の中にありません。人格障害はそもそも薬物治療ではなくカウンセリングなどで治していく方が良いのは医療的にわかっているけれど、なかなか受けられていない。
<発達障害>
発達障害の問題もあまり世間に知られていないので、合理的な配慮がなされていない。
発達障害の人はできないことはあるかもしれないけれど、他のことは全部できたりします。
ですが、できていないことがすごく目立って、他のこともできないんじゃないかと勘違いされてしまうことも多いです。
ポイントがあるので、そのポイントだけを誰かに合理的な配慮をもって手伝ってもらえば、あとは普通の人と同じようなことができるにもかかわらず、それがなされていないので困ってしまっているという問題もあります。
そういうことはやはり知ってほしいなと思います。
<依存症>
あと、依存症の問題です。
アルコール依存症やギャンブル依存症というのは自己責任の問題ではなくて、なりやすい人がいます。
アルコール依存症になりやすい人とか、ギャンブル依存症になりやすい人。
そういうものになりやすい環境もあります。
自己責任だけではないので、社会的な問題として考えていかなければいけないと思います。
社会に知ってほしいことというのはだいたいこれぐらいのことです。
そんなに多くはないのです。
けれどもそれがなかなか知られていない。
1個1個も突っ込むといろいろ深い話が多いのですが、大雑把に言うとこういう話です。
これらを知ってもらいたいなと僕らは思っているということです。
社会にマイノリティーのことを知ってほしい。
マイノリティーのことを知ってもらうことで、福祉を充実させてほしい。
それはなぜかというと、福祉を充実させないと競争力が低下してしまうから。
病気の人が増えてしまうよということです。
具体的な福祉は何かというと今回のような知識です。
色々な問題があるのでそれに対する対応が必要だということです。
貧困の問題、ヤングケアラーの問題、年金の問題、合理的な社会、カウンセリングの問題、合理的な配慮の問題、依存症の対策、そういうことになります。
今回は、社会に知ってほしい精神疾患のこと、というテーマで、こういうことを知ってほしいということを僕なりにまとめて動画にしました。
コミュニティ
2022.8.9