本日は「境界性パーソナリティ症」について解説します。
境界性パーソナリティ症というのはどういう病気なのか、どういう合併症や診断と間違えやすいのか、それから治療法はどういうものなのかをざっくり解説します。
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境界性パーソナリティ症の特徴
境界性パーソナリティ症、昔は「境界性人格障害」と呼ばれていましたが、今は「境界性パーソナリティ症」と呼んでいます。
一緒ですが、呼び方が変わっています。
主に3つの特徴から成り立つ病気です。
・感情調節困難
1つ目は感情調節ができない。
ガッと怒るし、その怒りを止められません。
自分で止めようと思っても止められない。
怒りに支配されてしまう、我を失ってしまう、そして次の瞬間、すとんと空虚な感じになってしまう。
虚しくなってしまうというのがあります。
あとは気分変動です。
気分変動があって、すごく楽しいなと思ったら急に悲しくなったり、2、3時間ごとに気分が変わっていくというのがこの病気の特徴です。
恐らく、感情調節機能が弱いのです。
それは遺伝的な問題としてあるのでしょう、体質的な問題としてあるのでしょう、ということがわかっています。
気分変動性も2、3時間ごと、長くても2、3日なので、双極性障害や双極性障害II型とは違うと言われています。
双極性障害であれば気分が良い時や悪い時というのがもっと長いです。
少なくとも4日以上、1週間、2週間と続いたりします。
だいたいは双極性障害だったら、元気な時は1ヶ月、落ち込んでいる時は2、3ヶ月以上だったりしますが、境界性パーソナリティ一症の場合は2、3時間と短いスパンでアップダウンを繰り返します。
そこが違いだと思います。
元気が出るところ、感情を調整するところのバイオリズムが狂うというよりは、調整機能が弱いので、瞬間的にワッとなって、瞬間的にガッとなってしまう。
上がったり下がったり、ストレスに弱いということなんです。
・自己像、対人像が不安定
それくらい気分でワチャワチャするので、それと関係があるかどうかわかりませんが、自己像や対人イメージ、対人像というものが不安定です。
自分はどういう人間なのか、相手はどういう人間なのか、ということが安定せずはっきりとしません。
相手のことがよくわかりません。
だから相手を過度に理想化したり、逆に「あんなのはダメだ」とこき下ろしたりするということが起きます。
対人イメージがすごくぶれるのです。
良い人だと思ったり、悪い人だと思ったりしてしまう。
でも、人間、良い人も悪い人もないんですよね。
職場の人間に対して、良いも悪いもないんです、ただ淡々とやっていますから。
好きとか嫌いさえないし、もう適当ですよ。
適当というか、そういうものはないじゃないですか、素晴らしいとか素晴らしくない、とか。
それが「ある」というのがあります。
この人の中では好きと嫌いで人間関係ができていたりします。
大人はそんなに好き嫌いが人に対してなかったりするのですが、この人の中ではある感じです。
子どもの食べ物みたいなもので、子どもの時は「これがおいしい」「これが嫌い」とかあっても、大人になってくると食べ物に別に好き嫌いはないですよね。
だいたい何でも食べるし、何でもマズイとは思わない。
極端なものは好物があるかもしれないけれど、基本的にはない。
それと同じように、人間関係に対しても基本的には何もないのですが、こういう人たちにはよくあるみたいです。
また、見捨てられてしまうんじゃないか、という不安があります。
自分に対してよくわかってなくて、自分というものが何かの軸がないんです。
不安定だと感じ、自分の将来やりたいこととかそういうイメージもちょっと弱かったりします。
自己像というものが弱いので、ヒステリーみたいな症状を起こすこともあります。
多重人格みたいな感じになったり、ストレスは感じていないが代わりに手足が動かない、目が見えにくくなるなど、身体の方にストレスが出てしまうこともあったりします。
・行動コントロール困難
あとは、行動のコントロールが困難です。
だから自傷をしてしまう。
自殺をするぞ、死んでしまう、という脅しをしてしまう。
結果的にそうなってしまうことがあります。
この脅しも、意図していることもあれば、していないこともあるのです。
恐らく一番最初は脅すつもりもないのです。
ただ死にたいから「死にたい」って言っているだけだと思います。
でもそうすると、周りが動いたりとか、周りがチヤホヤしてくれるようになり、それを覚えてしまいます。
覚えた結果、寂しくなったら「自殺するぞ」と言うようになるようです。
境界性パーソナリティ症が進むとそうなるけれども、初期の段階には、やっぱり死にたいから「死ぬ」と言っていたりします。
理想化とこき下ろしというのも、相手を操作してやろうとしているのではなくて、最初はたぶん何気なくやっていたのです。
それが段々、これをすればするほど相手をコントロールできることを本能的に覚えてしまい、境界性パーソナリティ一症が進むと、これを駆使して相手をコントロールする、というところがあったりするようです。
自傷というのも、最初は見せびらかすつもりでやっていないのです。
頭が不安で一杯になって苦しくなるんです。
そういう時にちょっと切ると、痛みや血が流れているのを見て冷静になることができるのです。
本来はリストカットを見せたくありません。だから隠します。
隠したいから、二の腕を切ったり、お腹を切ったり、太ももの内側を切ったりします。
けれども、段々それを見せたり、それをアピールするというか偶然見られると心配されたりしたことで、そのうちに病み付きになり、それを相手とのコミュニケーションの手段にしてしまうということがあるようです。
境界性パーソナリティ症と一言で言っても、それが病気の初期なのか、それとも10年、20年続いているのかによって違っていたりします。
合併症
境界性パーソナリティ症の人は合併症が多かったりします。
例えばトラウマの問題。
摂食障害、拒食症だったり、過食嘔吐だったり、摂食障害を合併しているパターン。
あとは薬物依存、アルコール依存、買い物依存、ギャンブル依存のパターン。
あとは他の人格障害、自己愛性パーソナリティ障害、依存性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害、そういう合併が多かったりします。
これも元々の生物由来の問題なのか、それとも人をコントロールするから人を怒らせてPTSDみたいなことになるのか、人を信用し過ぎてしまいついて行ったときに変な男の人に性的な暴行を受けてしまうとかあるのかもしれない。
自分をコントロールできないから、せめて食べ物だけはという形で摂食障害みたいになるのかもしれない。
頭が不安で一杯だからスッキリさせたくてする自傷が依存行為であるように、過食嘔吐も依存であったりするし、アルコールとか薬物も依存だったりします。
依存行為だったりするのでそちらに依存してしまうことがあったりします。
鑑別
鑑別としては、双極性障害とか双極性障害II型、あとは発達障害、ASD、ADHDと鑑別したりします。
発達障害の合併というのも多いかなという気がします。
境界性パーソナリティ症の人をWAISとか知能検査すると、やはり凸凹があったり苦手なものが多かったりします。
だから発達障害と似ているな、というところもあります。
でも似ているなと言いつつ違いも結構あったり、合併症のパターンもあったりするので、なかなか難しいです。
これもまた5年後、10年後、たぶん診断のやり方などは変わってくると思います。
今は発達障害と境界性パーソナリティ障害を合併しているという言い方をすることもあれば、どちらかだけということもあったりしますし、揺れている感じです。
今は精神科業界的には、おそらくですけど、そんな感じです。
治療
治療については、まず基本的に薬物治療はそんなに効きません。
薬物治療はあまり効かないですが、一番最初に使うのであれば、リチウムなどの気分安定薬を使うと良いと言われています。
衝動性が強い場合は抗精神病薬を使ったりします。
抗うつ薬に関しては、自殺の衝動性を高めたりすることもあるので、慎重投与ということになっています。
重要なのは精神療法です。
カウンセリングなどの治療がとても重要です。
精神療法の僕なりのやり方を説明しようと思うのですが、基本的にはSTEP 1、STEP 2、STEP 3と病状に応じて段階を上げていきます。
STEP1.
境界性パーソナリティ症の人は、ルールを決めたり構造化すること、ちゃんと時間通り来るとか、そういうのが苦手だったりするので、それができるかというところをトレーニングしていくということです。
例えば、死にたくなったり怖くなってもクリニックに電話をしない。
通院する頻度を毎週1回や月2回と決める。
そういうことをちゃんとできることを目指します。
あとは信頼関係を結べるのか。そして安全性です。
変なことをしないのか、変なことをしなくても済むように、家の中や職場、家庭環境を調整できるのか、ということをやったりします。
この信頼なのですが、結構難しいです。
「何で益田はこうなんだ」「益田のことが信頼できない」と言ったりするのですが、それはそもそも僕の問題なんですか、というのもあります。
「そもそもそれってあなたの症状じゃないの?」と。
なぜあなたは僕のことを信頼できないんだろうね、という話をしたりします。
「いや、それは益田が悪いんだよ」と言ったりしますが、冷静になってくると、それは僕だって良いとこばかりじゃないし、むしろ悪いところの方が多いかもしれないし、相手の気持ちに気づけない鈍感なところもあるだろうし、理屈っぽくてお前の方が発達障害なんじゃないかと言われそうですけど、一応それなりに頑張ってやっているわけです。
頑張ってやって、クリニックもやって、スタッフの人にも気を遣いながらやっているわけです。
だけど「そういう益田を信用できないのはどうしてですか?」ということになるんです。
そこは、医師を信頼できないあなたの問題は何なんだろうねということを話し合っていく中で、それが自分の症状だと気付けるかどうかというのは結構重要なポイントです。
STEP2.
それができるようになり、益田を信頼できないのはなぜかということがわかってくると、自分の問題に目が向いていきます。
自分の問題に目が向いてくると、今度はセルフモニタリングをやってもらおうということになります。
「今、あなたは傷ついているのかな」
「今、あなたは落ち込んでいるのかな」
「今、あなたは腹が立っているのかな」
今の自分の気持ちを言葉にする練習をします。
加えて、衝動性の管理をしていく。
ルールや構造を守るというところからもう一段階レベルを上げて、カッと怒らない、カッとならない、ということをやります。
あとは寂しくても自傷をしない練習していくという感じです。
STEP3.
そこができるようになって、ようやくSTEP 3、いわゆるカウンセリング的なことをします。
内省を深めていくという作業をやってきます。
これを弁証法的認知行動療法みたいな言い方をしますが、僕は弁証法的な認知行動療法ということを学んできた人間ではなく、どちらかというと精神分析的な文脈で学んできた人間ですが、今はこういうのをやるということが教科書的には正しいと言われています。
ここまでできるようになって、ようやくカウンセリング的なことをやっていくという感じです。
逆にルールや構造を守れない、治療者と信頼関係を結べない、もしくは治療者のことを信用できない人、自分の状況や衝動性を自己管理できない段階でカウンセリングをやってしまうと崩れてしまいます。
カウンセリングは、家族のこと、悲しいこと、自分の至らなさや劣等感、そういうことを語るので、それをやると崩れてしまいます。
STEP1と2を解決する前に3をやると崩れてしまって、かえって病状が悪くなったりしてしまうので、まずはSTEP1から、ということを言います。
あとはウェルテル効果、パパゲーノ効果というのですが、ウェルテル効果というのは自殺のニュースを見ることです。
そういう報道を見ると、自分も死にたくなるとか自殺者が増えるというのをウェルテル効果といいます。
逆に自殺から復帰したとか、自殺を思いとどまったという人のニュースを見て、自分も我慢しよう、頑張ろうと思えるのをパパゲーノ効果と言ったりします。
境界性パーソナリティ症の人はSNSに自分の気持ちをたくさん書いてしまいます。
死にたい、死にたいと書いてしまいます。
それはこういうことを生んでいるんだよ、ということも説明するといいのかなと思います。
ただ、タイミングですよね。
あんまり最初から言うと、また怒られたとか、また好かれなかった、また嫌われたと思ってしまうので、自尊心を傷つけてしまいます。
自分はまた悪いことしてしまったと思って、その場では怒ったり、お前が悪いんだと言えるかもしれないけれど、後でひとりになるとしくしく泣いて自分を責めたりもするので、これもタイミングを見て伝える必要があるかなと思います。
今回は、境界性パーソナリティ症について、どんな病状なのか、どんな特徴があるのか、鑑別はどうなのか、診断はどうなのか、そして治療法というのはどういうものがあるのかについて解説しました。
境界性人格障害
2022.9.6