本日は「生活保護」について考えてみます。
臨床をしている中で、自分の弱さを認められない、福祉に頼ることはダメなんだ、恥ずかしいことなんだ、と思ってしまう人が一定数います。
そういう人たちは自分を愛することがなかなかできなくて、常に責め続けてしまっている。
責め続けているがゆえに、うつや不安が良くならない患者さんがいます。
これをどうやって治療していけばいいのかということを考えていくときに、うつや不安を治していくんですけれども、そこをターゲットにする以前に、そもそも福祉とはどういうものかがあまりよくわかっていない人がいる、ということに気が付きました。
精神疾患の啓発はとても重要です。人間には病気ってあるんだよ、心というのは脳だから脳の病気ってある。能力には遺伝的には強い弱いがある、運不運の問題がある、環境だって運不運の問題があるから環境に影響されて同じ努力でもうまくいかない環境もあれば、うまくいく環境もあるよ、そういう話を今までずっとしてきたんですけれども、セーフティネットとしての福祉の問題ということを、あまりみんな知らないなということに気が付いたんです。
考えてみれば僕もよく知らないんです。
漠然と「福祉に頼ったらいいじゃない?」とか言ってたんですが、改めて社会保障の話を皆さんと考えていけたら面白いんじゃないかなと思って、今回動画に撮ってみます。
■働けない人の割合
そもそもですよ、そもそも日本の中で働けない人はどれくらいいるんですか? 社会保障を受けなきゃいけない人はどれくらいいるんですか? ということです。
生活保護を受けている人は、だいたい人口の1.6%ぐらいいると言われてます。
精神疾患はだいたい400万人を超えてますから人口の2~3%ということになるのですが、生活保護を取っている人は結構少ないです、それに比べると。
病気を抱えながら働いている人がたくさんいるんだな、ということがこれを見るとよくわかります。
この1.6%のうち半分以上は65歳以上なんです。
だから実質1%を切っているわけです。
生活保護を取る人は精神疾患もあれば身体疾患の人もいる。
あまり取ってないなという感じがします、病気の人で。
65歳以上が28%いるんです。
15歳以下、中学生以下は12%くらいいるので、だいたい日本の中で働ける人というのが60%ぐらいという感じなんです。
そもそも65歳以上がとても多いんです。
日本は少子高齢化と言ってますが、28%ぐらいいます。
アメリカは16%、中国は12%、韓国ですら15%ぐらいなので日本の半分ぐらいです。ドイツも23%、インドなんて6.5%ですからね。
日本がいかに65歳以上が多いかということです。
しかも単純に65歳以上よりも、75歳以上の後期高齢者と呼ばれている人の方が医療費はもっとかかります。
日本は75歳以上の割合もとても多いので、そもそも生活保護の問題なんて、国家予算の中で比べたらごくわずかな問題なんです。
■予算の割合
生活保護は国家予算の2.8%ぐらいを使っていると言われてるんですが、うち半分は医療費なんです。
社会保障費は33~45%ぐらい国家予算の中で割かれます。
この45%と33%の差というのは国債です。
国がしている借金の返済金を含めるか含めないかの差なんですけれども、国債を含めず国が使っているお金の中の45%ぐらいは社会保障費で、ほぼ年金と医療費なんです。
子育て手当もありますけど、ほぼ年金と医療費です。
だからよく思うんですが、こう言ったらすごく失礼ですけれども、年金と医療費はほぼ生活保護と似ている、生活保護を渡すのと。
65歳以上の人はこれまで働いてきた部分もありますよ、税金を納めてきたんだからと言うこともありますけど、でも年金なんて自分たちが払った分のお金はごくごく僅かという話もありますし、生活保護の人も働けているときは税金を納めてますから、そういう話じゃないんです。
ちなみに36兆円くらい社会保障費に使ってるんですけど、教育費は5兆円ぐらいなんです。5兆+αぐらい。
防衛費も5兆円+αぐらいなので、やはり次の世代のためや対外的なもののためにはあまりお金を使えていなくて、社会保障費に日本はすごい使ってるんです。
■負い目を感じる必要はない
だから「甘えですか?」とか「子育てとか仕事無理」とか、精神科の患者さんは自分たちのことを中心にいろいろ考えるので、自分たちの問題をすごく考え続けてると思いますけど、医学部的にはこういうのはごく小さな問題という感じがするんです。
取れるなら取ったら?というのは、メタ的に見るとそれぐらいの話でしかないなと思います。
むしろ患者さんで子育てしながら病気も抱えて苦しんでいる方がいますが、働かなくても子育てしていれば将来的に子供たちが稼ぐ分、GDP的に考えると、仕事するよりも子育てしてる方がいいんじゃないかという説まであるぐらいですから、あまり負い目を感じる必要はないんじゃないかなと思います。
人間というのは働ける時期と働けない時期があって、働いていない人に価値がないとは僕は全然思わないんです。
人口の何%かは働けないのです。
海外だと生活保護を取る人が1.6%どころかもうちょっと多かったりもします。
計算の仕方がありますから単純には比較できないと思いますけど、もうちょっと生活保護を取る人が多くても、そんなもんなんじゃないかなと疫学的な観点から見ると思ったりします。
■人間の価値は
患者さんたちは優生思想に支配されている人が多く、働いているから優れている、競争に勝ってるから優れている、成長するとか勝つということが人生のすべてだと思っている人が多いです。
でも数字にならないものはいっぱいありますし、そういう思想に支配されているから、うつになったり不安になったりするんだと思いますけど、もうちょっとメタで見ていく、俯瞰的に見ていくことが重要だったりします。
人間が生きている価値は目先のお金を稼ぐとかそういうことではなく、やはりその人がいたから、その子どもが何かをしたとかもあるだろうし。
ご先祖様でその人がいたから、子どもたちがこれだけいたとかもあるし。
でも別に子どもを産まなくても、その人が他の人に影響を与えて何かがあったということもありますし。
僕だって患者さんがいるから医者として振る舞えて、そして学ぶことができて、こうやってYouTubeに還元することができて、後輩たちにも還元することができています。
他の産業の人にも還元することができてるわけです。
だから単純なものではなくて、目先のもの、刹那的に判断するものじゃないんです。人間の価値というのは。
もっと俯瞰的に考えて、もっと柔軟に考えて、もっと自分のことを大事にしてあげたらいいんじゃないかなと常々思っております。
生活保護が倍になるなんて誤差みたいなもんです、高齢化の問題に比べたら。
しかも若い生活保護の人なんてそんなにお金を使わないですから。医療費がかからないから。
精神科の医療費なんてね、医師の人件費ぐらいしかないですから、本当に安いものです。
外科や循環器に比べたらはるかに低予算のマイナー科ですから、そんなに気にしなくてもいいんだよ、ということを言いたいなと思います。
ということで、今回は生活保護についてざっくりお話ししました。
僕がわからないこともいっぱいあると思いますので、ぜひコメント欄を通じていろいろ教えてください。
皆さん議論してみましょう。
その他
2022.11.3