本日は「強迫性障害の治療」というテーマでお話しします。
「強迫性障害」は聞いたことがありますか?
手洗いがやめられないとか、汚れているんじゃないかと思って気になってしまうとかですね。
あとは、鍵をちゃんと閉めたかなとか、ガスは止めたかなと気になって、 ちゃう。
そういう何度も何度も確認してしまうとか、不潔恐怖、汚いんじゃないかと確認してしまう。
そういう思考や行為に支配されてしまうものを「強迫性障害」と言ったりします。
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強迫性障害の症状
どういう症状があるかというと、「強迫観念」と「強迫行為」によって特徴付けられます。
「強迫観念」というのは頭から抜けない思考です。
「あいつ俺のことを怒ってるのかな」「嫌っているのかな」などずっと思うのも強迫観念です。そういうタイプの人もいます。
あとは数字が気になる。
ミスしたんじゃないかと気になってしまう。
あのメールは変だったんじゃないか、ちゃんと送れてなかったんじゃないかとか気になる。
観念というか行為的でもあるんですけど。メールを送ったかどうか確認するという意味では。
もう一個は「強迫行為」です。
ちゃんとメールが送れたのか何度も確認してしまう。誤字脱字がないか確認してしまう。
鍵を閉めたかは確認強迫と言われます。
あとは手洗いなどの不潔恐怖ですね。
手が汚れているんじゃないかと気になる、一日に何度もお風呂に入らないと気が済まない、何か汚れているんじゃないかとか、そういう不潔恐怖も強迫行為としてあります。
あとはホールディングと呼ばれるんですけど、捨てられない、というやつです。
捨てていいかどうかわからなくて、ついつい捨てられず、ゴミ屋敷みたいになってしまうのも強迫性障害の強迫行為としてあります。
溜め込み性と言うのですが、これも一つの病気です。
テレビで時々ゴミ屋敷とか夕方のニュース番組で特集されています。
あれはセルフネグレクトという言い方もありますが、強迫性障害の人は結構多いんじゃないかなと見ていて思います。
ただ、同じような症状というか、似たようなものとして発達障害の自閉スペクトラム症の人のこだわりだったり、儀式行為と呼ばれるものもあります。
これも結構似ていて、何度も確認してしまうとか同じことを常同的に繰り返すこともあるんですけど、一応強迫性障害とは区別されています。
似てるようなところもあるし、質的に違うような感じもする。
まだまだ医学的にはよくわからないですね。
発症時期
そもそも合併症も多かったりするんですよね。
強迫性障害は決して珍しい病気じゃなくて、人口の1、2%くらいが発症します。
うち半分くらいの人は10代、子どもとか青年期に発症する人が多いです。
男性と女性の割合は一対一ぐらいなんですが、男性は若い時、高校生くらいで発症することが多いです。
女性は出産を機に発症する人も意外と多いイメージですね。
でもまあ、トータル一対一という感じです。
合併症も多くて、うつ病、不安障害、発達障害を合併する人も結構いるという感じです。
原因と治療
これは心理的な葛藤とかストレスがあるから起きているのではなくて、きちんとした脳病なんですね。
脳病なので脳画像的に脳の一部が委縮しているとか、活動性が落ちているということは確認されている。今、そういう論文がたくさん出ています。
ここでは説明しませんが、そういう報告はたくさんあがっているので、やはり強迫性障害というのは脳の病気なんだろうなと思います。
セロトニン系を中心に障害が起きるということなので、SSRI、いわゆる抗うつ薬が治療上有効です。
SSRIとかSNRIですね。
三環系抗うつ薬と言って、昔の抗うつ薬のことを三環系とか言ったりするんですけれども、こういうものが有効です。
通常のうつ病よりも多い量を使った方が効きやすいと言われています。
あとは依存症にもメカニズムは似てるという感じです。
「報酬系」と呼ばれる脳の回路があるんですけど、やればやるほどやりたくなってしまう回路があるんですね。そこの異常というのも確認されているということです。
繰り返しになりますが、脳病ということなので薬物療法が有効です。
なので、抗うつ薬をしっかり使う。
新しいものと古いものだったら古い薬の方が副作用も多いのですが、効果も強力だったりします。
セルトラリンとかレクサプロから始めて、効きが悪かった場合はパロキセチン、パキシルとかですね。
あとは三環系抗うつ薬のアナフラニールなどに置換していくことも臨床上は珍しくないです。
薬を飲んでもすぐに効くわけじゃなくて、6週間とか1、2ヶ月様子を見てあげることが大事です。
最大用量まで増やして1、2ヶ月様子を見て、それでも効かないと抗うつ薬の変更を考えたりするというところです。
それでもちょっと弱いという場合は、プラス抗精神病薬のリスペリドンとかそういう薬を少量加えてあげると、増強療法という形で効果が出ることもあるので、薬物療法としてはとても重要です。
認知行動療法(CBT)の併用
ただ、薬物療法だけではなかなか良くならないこともあるので、認知行動療法というかカウンセリング的なものを併用してあげることはとても重要です。
認知行動療法というのは、いわゆるCBTと呼ばれたりするんですけれど、いわゆるカウンセリングです。カウンセリング的なことを加えてあげる方がいいと言われてます。
ただ、強迫性障害に対する認知行動療法やカウンセリングがしっかりできる心理士さんは結構少ないです。あと、保険で認められているところがあまりないんです。あまりないというか、基本保険では認められていません。
自費の治療にならざるを得ないというところがあります。
あと、認知行動療法をするにあたって、知的能力によって差が出るんですね。効果の具合は。
発達障害とか具体的にしか物を考えにくいとか、知的に障害がある場合は、認知行動療法の効果はやはり目減りしてしまうところがあります。
強迫性障害がそもそも知的能力にも関与しているところがあります。
貧困層とか知的能力の問題があると発症率も上がったりします。
とにかく学習とかそういうものはとても重要だったりします。
認知行動療法ということなので、「認知」と「行動」の両方にアプローチすることが大事です。
認知の修正というのが大事なんですね。
正しいリテラシーをつける、科学的な知識をつけることが大事です。
例えば、手洗いの問題に関して言うと、その汚れって本当に危険なんですか、ということですよね。
「私はコロナが危険だと思っているんです」でもそんなに恐れなきゃいけないのかなとか。
「手が汚いといろんな問題が起きると思います」そんなに問題があるのと。
「ゴキブリが歩いたかもしれません」じゃあこれで本当に食中毒になって死んでしまうのかなとか。
そういうことですよね。
一個一個本人がやっていることに対してきちんともう一回考え直してみる。常識に照らし合わせてみる。正しい科学知識で考え直してみることが大事で、意外と抜けがあったりします。
というか、そもそも10代とか20代で発症することが多いので、まだまだ若者で知らないことが多いんです。
優秀だなと思う子でも、常識的なところがポカンと抜けていたりするので、そこは治療者側が患者さん側を過大評価せずにもうちょっと深掘りしてみると、意外と正しい知識がなかったりするのでそこをうまく補ってあげる。
そういう教育的な指導や教育的なカウンセリングもかなり有効だったりします。
あと、パイ法と呼ばれたりするんですが、「あなたの問題は何%ぐらいなんだろうね?」「手が汚いかもしれないけれど、逆に手を洗わずに食べたら食中毒になる可能性って何%だと思いますか?」と。たぶん1%も満たないと思います。
そういうのを書いてみるんです。
パイ法と言うんですけど、泥の付いた手で食べたら食中毒になる可能性は何%ですかね。まあ極端と言えば極端ですけど、そういうことを言うと「うーん」と言ったりしますね。
僕は昔自衛隊にいたんですけど、自衛隊にいると泥の付いた手袋のまま何かを食べてましたね。
泥のついた布団で半長靴というか靴のまま寝たりしてましたから。
それでも問題ないことはわかっているので、そういう話もちょっとしながら認知を修正していくということです。
原始時代はそもそもみんな手を洗ってなかったですからね、そういうことです。
あとは行動療法ですね。暴露療法というのが大事で、少しずつ慣らしてあげることが重要です。
例えば、手洗いをしたいところを、1日20回やっているところを1日10回、5回未満にする。
1回手を洗ったら2時間は手を洗わないようにする。
手を洗いたいと思っても我慢する。我慢する時間を作る。
反応抑制法と言ったりするんですけど、そういう治療が重要です。
最初は2時間に1回にしようという形にしておいてから、2時間我慢できたら、今週から3時間に1回にしようとか。
そういう形でやっていくのが行動療法です。
これが強迫性障害の疾病特性を活かした認知行動療法のやり方の概略になります。
こういうのをうまくカウンセラーの人と話しながら、どういうリズムでやっていくのか、どういうスケジュールでやっていくのかを細かく決めていったりします。
基本的なこと
ただこれだけで良くなることはなくて、やはりカウンセリングの基本的なところをやっていかなきゃいけないです。
コミュニケーション能力をどう高めていくのか、ストレスケアやセルフコントロールのやり方を覚えていく。
問題解決のスキルを身につけていく。
ロジカルに考えたり、しなやかな思考を身につけるトレーニングをする。
サポートやチームのビルディングマネジメントをする。
つまり友達を作るトレーニングをしていく。
友達とか家族と仲良くする、職場の人と仲良くするようなテクニックを身につけていく。
あとはトラウマのケアですね。
強迫性障害があったことで、必ずと言っていいほど誰かとトラブルが起きているんですよ。
アクシデントが起きていたと思います。
そういう傷ついた思い出や体験があるのでそういう話をしていって、それは病気のせいだから仕方がなかったよねとか、いろいろな形でその人の心のケアをしていくことが重要だったりします。
心身のバランスを整えること、知識を身につける、そして適切な良い人間関係に恵まれる。
この3つをもって治療は進んでいくので、友人をつくったり、仲間をつくることはとても重要ですね。
強迫性障害の人も自助会とかありますから、そういうところに参加してみて、「ああ、自分だけじゃないんだな」とか、患者会に参加するのもいいんじゃないかなと思います。
そうすると百聞は一見にしかずというか、すごく楽になります。
オンライン自助会を僕もやってますけれど、そういう意味で同じ体験をしている人と会話をするとか、YouTubeのコメントを見てもいいし、他の強迫性障害の動画を見て、他の人と交流をするというのもいいです。そういうこともとても有効だったりします。
僕の患者さんも強迫性障害の人が何人かいて、抗うつ薬をしっかり使った上で認知の修正とかいろいろトレーニングしてやっていきますね。
やっていくと1年、2年かけてですけど良くなっていくイメージがあります。
ただ、良くならない人も結構います。
なかなか良くならない人、強迫症状が重い人も結構います。そういう人はなかなか外に出られないとかそういうのがあります。
外に出られなかったり社会復帰困難な人がいたりします。
1年半以上経っている場合だったら障害年金を検討したりします。
強迫性障害は障害年金の対象にならないので自分は取れないんじゃないかと思っている人も多いのですが、生活の程度を見たり、うつ病や統合失調症を合併している例も珍しくないですから、そういう件も踏まえて一度主治医の先生に相談してみるといいと思います。
障害年金を取れたりするケースもありますから、一度相談してみるのもいいんじゃないかなと思います。
今回は、強迫性障害の治療というテーマでお話ししました。
あとはオンライン自助会ですね。オンライン自助会内では家族会もやっています。
もし興味がある方は、アプリではなくてブラウザから登録した方がちょっと安いですよ。
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強迫性障害
2023.1.20