本日は「PTSD、トラウマの報告と被害」というテーマでお話ししようと思います。
実際にあった社会的な事件を取り上げて、それを通じて皆さんにいろいろなことを考えてもらいたいなと思い、今回動画にしています。
実際にあった事件とは、ジャニーズの事件ですね。
ジャニーズ関連の動画は今回で3回目なんです。
ジャニー喜多川氏から性被害を受けていたカウアン・オカモト氏が、日本外国特派員協会で記者会見を行ったというニュースがあったので、それを取り上げていきたいと思います。
記者会見は2023年3月11日に、日本のメディアではなく、日本にいる海外メディアの人に向けて行われました。
どうしてこの事件を僕が取り上げたかというと、性被害の問題は隠蔽されやすい性質を持っています。本人もなかなか言えなかったりするし、言うのにも葛藤があるし、罪悪感を感じたり、いろいろな思いがあるんです。
このニュースを見ると本人の中の葛藤も見えるし、一方で周りの人の反応もよくわかります。
あるがままの現実を皆さんにも知ってもらいたいなと思います。
これは特別な出来事ではなくて、よく起きていることなんです。
臨床現場ではよく起きていて、サイズ感は違えど、周りの人は助けてくれないということがよくあります。
コンテンツ
事件の概要
実際どんな事件だったのかというと、カウアン・オカモト氏は今26歳の歌手です。
2012年12月、15歳の時にジャニーズ事務所に入所して、2016年に20歳になる前に退所されたということです。
その3、4年間の間に、自宅マンションには100回以上呼ばれ、ホテルにも一緒に泊まったことがあるそうです。その中で15回~20回ほど性被害を受けたということのようです。
自分だけでなく仲間たちもジャニー喜多川氏から同じような被害だったり、性的加害行為を受けていたんじゃないかと告白しています。
2019年にジャニー喜多川氏が亡くなり、退所してから3年以上経って家族に告白したということのようです。
記者会見になったりメディアに報告するのは2023年3月ぐらいになったということです。結構間が空いてますね。
BBCのドキュメンタリーや取材もきっかけになっただろうし、ジャニー喜多川氏というパワーを持った権力者が亡くなったことも重なって、今のタイミングだったのかなとは思いますね。
もちろん個人がなかなか言い出せなかったというのもあると思います。
なかなか性被害は言えないんです。
本人もまだ自分では怒りなのかどうなのかよくわからないと言っていますよね。
酷いことをされたと思いつつ、でも一方でジャニー喜多川氏からレッスンを受けたり、尊敬している部分もあるんです。
育ててくれたという恩義もある。
これが性の問題を考える上でとても難しい。
被害を受けた側は、相手を憎むよりも自分を責めてしまうこともよく知られています。
マスメディアの問題
本人が言っていたのは、テレビ報道がもしあれば、親も行かせなかったのにと言っています。
ジャニーズという1つの会社の中で起きている、その中の一人の権力者が、そこにいる若い生徒に手を出したというだけではなくて、それを隠蔽したマスメディア側の問題でもあるんですよね。
ジャニーズとテレビは深く結びついているので、ジャニーズの評判が下がればテレビの評判も下がってしまうし、ジャニーズを通じて色々なCMやスポンサーがつながっているので、ジャニーズの評判が下がればそれに合わせて会社の売り上げも下がってしまう。
皆が忖度し合ったり、ジャニーズ側からの圧力で、報道するならウチのタレントは出さないよとか色々ある。マスメディア側も報道するという気概よりも、トップの判断としては「報道は控えよう」ということになってしまった。
だから日本のメディアはなかなか難しい。
オーナーの意見が通りやすい、スポンサー側の意見が通りやすいという構造があるという感じですね。
だからNHKのディレクターの人も、記者会見では自分たちの責任も重く受け止めていると発言したということのようです。
メディア側の問題もあるんですよね。
メディアはなぜ報道できないかというと、スポンサーだけの問題といえばそうなんだけど、そうじゃなくて、やはりそういうことを報道しないでほしいという一般の人たちの声ももちろんあるわけです。
この問題は結構ややこしくて、ジャニーズのファンの人たち、特にジャニーズのコンサートに行ったりとか、テレビを見て応援するだけではなく、実際にお金を払う人たち、ジャニーズのコンサート行ったりグッズを買ったりCDを買ったりする人。
いわゆるジャニーズの多くの利益を支える、広告収入やスポンサー料、出演料ではなくて、物を買ってくれる人たち、もっとお金を出してくれる人たちは、やっぱりそういうことをしないでほしいという人が多いみたいです。
もちろんそうじゃない人もいるし、きちんと言ってほしいという人もいるけれど、一方では、こういうのは自業自得じゃないか、売名行為なんじゃないか、今活躍している人たちに迷惑をかけないでという形で、トラウマ被害や事件を隠蔽するような動きをしたい人たちもいる。
本人の周りにはジュニアという仲間たちがいて、「そういうことを言ったりしないでくれ、俺たちもデビューしたいのに」という仲間たちがいて、その周りにはもっと大きい事務所、大人たちがいて、「いや、そうかもしれないけど、和を乱すなよ」と言って、ジャニヲタたちがいて、マスメディアがいて、一般の人たち、いわゆる普通の感覚を持った人たちまでは、かなり距離があるんですよね。
一般大衆の中にも賛否両論があったりします。
教育を受けていない
性被害の問題というのは、僕らは教育をしっかり受けていません。日本人というのは特に。
これがいかに残酷な行為なのか、いかに相手を傷つけるのか、ということをきちんと教育を受けていなかったりするのかなと思います。
その結果、そういうことを言うなよ、とか、それぐらい我慢しろよみたいな空気ができあがってしまっているのはあります。
だから僕ら精神科医は必ずこういうことをしっかり世間に知ってもらう必要があるし、いかに時間がかかるのか、言い出せないのか、性的トラウマというのが言い出せないのか、そして言い出したら全員じゃないかもしれないけれど、加害者よりも被害者側の方が責められることが事実としてある、ということを僕らは伝えていかなければいけないし、それを変えていかなければいけないです。
ジレンマがあるわけですよね。大多数?の利益と困っている少数の人たちの利益、どちらを優先するんですかということですね。
放っておいたら、多額のお金が動いているマスメディアも含めて、大多数の利益が優先されてしまうんですよ。だけどそれではいけないんですね。
そうじゃなくて、本当に苦しんでいる一部の人たちを守っていくということ、一部の人たちに対して手厚いケアが必要、彼らの声を守る、ということをしっかりしていかないと、大きい声に流されてしまうと、こういうことが起きる。
これはそういうことを投げかける事件なんだなと思います。
今回の事件はそういう世の中の構造を知ってもらいたい、世の中のことに対して疑問を持ってもらいたい、性被害はなかなか言い出せないという事実を知ってもらいたいと思い動画にしました。
その他
2023.4.14