本日は「なぜトラウマ、特に性被害の問題は世論を二分してしまうのか」というテーマでお話ししようと思います。
いろいろ世間のニュースがありますけど、性被害的な問題が絡むニュースが取り上げられると結構ネットは荒れるんですよね。
すごく共感する立場の人もいれば、逆にお前が悪いんじゃないか、そういう場所に行ったお前が悪いんじゃないか、自業自得なんじゃないかとか、そういうことを言う人がいます。
何でこんなにも荒れるのかということを、精神科医目線でお話ししようかなと思います。
実際トラウマによる心身の異常をきたす病気は何かというと、うつ病と言ったりもしますけど、よくあるのはPTSDです。PTSDを発症することがあります。
PTSDはいろいろな症状の重ね合わせなのでなかなか診断しにくかったりもするし、本人も受診してこないのでなかなか診断されにくかったりします。でも結構います。
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世論
具体的にはどういう世論の二分があったかというと、最近だと元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏の話ですね。
ジャニーさんから性被害を受けたという話です。それを告発する記者会見をしたところ結構荒れたんですよ。
よく言ってくれたとか、これを報道しない日本のマスコミはよくないという意見もある一方で、被害者である彼自身を攻撃する声もあった。
もともと態度が悪かったじゃないか、ウソつきなのでは、ファンのことを考えてない、迷惑だ、売名行為だ、先輩らに対して失礼だ、今頑張っている人たちの足を引っ張るな、そういう形で攻撃的になってしまう、否定してしまう人たちもいました。
2021年10月くらいには眞子さまの問題がありました。
報道陣によるプライバシーの侵害ということで、複雑性PTSDという診断がされたということなんですが、このときも、病気じゃないだろう、嘘をついている、病気を盾にマスコミから逃げている、海外からのスパイに洗脳されているんじゃないかとか、ネットが荒れました。
診断が違うんじゃないか、トラウマなんて嘘だみたいな形で否認されたりした。
こういうトラウマの問題や性被害の問題は本当に世論を二分します。
なぜ世論が分かれるのか
何でそういうことが起きるのかということを話します。
トラウマのニュースを見ることで、自分の中のトラウマが刺激されるからなんですよね。
恐らく多くのパターンは。
自分の中にあるネガティブな記憶が出てきて、それに対してどういう反応をとったらいいか分からずに怒ってしまう人が一定数いるんじゃないかなと思います。
トラウマのない人間はいません。
そんなにいないんですよ。
18歳までのうちに、62%ぐらいの人が悲惨なトラウマ体験をすると言われています。
愛する人を失う、暴行を受けるとか、だいたい6割くらいの人が体験すると言われてます
これはUpToDateというアメリカの教科書から取ってきました。
加害者でも被害者でもない人間というのもいないと言えばいないんですよね、そもそも。
大なり小なり良いことも悪いこともしているんですよね。
10代の脳
10代になってくるとドパミン系が活性化されて悪いことをしたくなるんですよ。
攻撃的だし、反抗的になるんですね。社会に対しては。
大人たちが作った社会全体に対してすごく反抗的になるんですね。
同時に仲間内、他人の目も気にするので、同世代の仲間内とも戦うんですね。
自分の方が優れているということを証明したいんですよね。
大人たちに対して敵対心もある一方で、大人たちに認められたいという感情もある。
周りを蹴落としても大人に認められたい。
あとは自分の仲間をえこひいきする。
正義か悪かというときに、法律的に正しいじゃなくて、自分の仲間は守る。自分の仲間じゃないやつは法律を犯しても攻撃するみたいな。
そういう脳になってしまうんですよね。
それがだんだん年齢と共に落ち着いて来たりする。
前頭葉の成長がだんだん追いついてきて、理性でコントロールできるようになるし、複雑なものを考えられるようになって社会化していく。柔軟になっていく。
10代の中学生、高校生の加害者であった時の罪悪感というのも僕らは持っているんですよね。
親に対して迷惑をかけたとか、そういうのがあったりします。
もちろん逆に本当にもうガッツリやられている人もいる。ガッツリ被害者のパターンもあるし、親からひどいことを受けている人もいます。
そういう人たちが全員がPTSDを発症するかというと、そういうわけではありません。
だいたい10%前後くらいが発症するんじゃないかとUpToDateには書かれています。
実際、それが通院につながるかどうかはまた別ですが、それぐらいいるんじゃないかと言われています。
PTSDの人を見たとき
そういうPTSDの症状で苦しんでいる人たちを見た時に、どういう立場を取るのかを迫られてしまうんですよね。
人間というのは責任や原因をはっきりさせたいという本能を持っているので、ただ抱えるとかただこの現状を理解するということはできないんですよね。
賛否はっきりさせたくなる、もしくは無視してしまう。
ある人は共依存的になる、過度にフォローに回る。
相手の苦しみに共感しすぎて、相手の成長を奪ってしまったり、こちら側も一緒に引きずられて落ちてしまうパターンもある。
今度は逆に否認ですね。
そんなことはなかった、お前は甘えてる、お前が言ってるトラウマは嘘だ、そもそもそういうトラウマのことを思い出させないでほしい、引っ掻き回さないでほしい、社会に混乱を与えないでほしいという形で怒ってしまうというのはあります。
見たくないものを見せないでほしい、社会を混乱させるなという意見もあったりします。
こういう反応は、PTSDを持っている人たちの心をむしばむというか、病気をさらに悪化させることになったりする。
こういう形で世論が二分されてしまうということなんです。
正解は何だろう?
結局、正解は何なのかということですよね。
世論を二分してしまっているんですけれど、正解は何かというと、互いの立場をしっかり理解するとか、全体を理解するということなんですよね。
僕らは無視するのではなく、しっかり俯瞰的に見て、冷静に見て、冷静に語り合う。
全員が納得する形ではないかもしれないけど、建設的なプランを立てて次に活かすということはとても重要です。
関心を持ち続けること、注目していくこと、高い倫理観を持つことが求められるんですよね。
こういう事件があった時には、こういう風に語っていって、一緒に考えてもらうのが必要なんじゃないかなと僕は思います。
精神科医がこうやって語れる場所が、イノベーションによって起きているわけですから、精神科医の立場から語れるものは語っていきたいし、皆さんと一緒にリアルタイムでディスカッションしたいなと思っていますね。
高い倫理観を持った方がいいんだということを僕は言いますけど、ピンとこないんですよね。
目の前の困っていることと高い倫理観を持つことは結びつかないんですよ。
益田は高みの見物するなと言われがちなんですよね。でもそうじゃないんですよね。
スターウォーズとかもそうじゃないですか。若い熱血漢、現場上がりの人が、そんな悠長なこと言わずに解決させてくれよ、動いた方がいいんだと言ってリーダー層の意見を無視する。
若さで突っ走ると結局失敗しちゃうみたいなね。
高い倫理観を持つことは、本当は現場とすごく結びついているんだけれど、なかなかその感じが持ちにくかったりします。
それは知識や経験がまだ足りないということなんでしょうけれど、とにかく自分が経験していなくても、それを知識・経験として蓄えていけるというのが人間の強みでもあるので、こういう時にしっかり語り合ってみる、考えてみる、関心を向けるということはとても重要なんじゃないかなと思います。
今回は、なぜトラウマは世論を二分してしまうのか、というテーマでお話ししました。
社会問題・現代精神医学
2023.5.6