本日は「人の目を気にしない方法」というテーマでお話ししようと思います。
人の目を気にしてしまう。人の目が気になるからなかなか外に出れないとか、人前で喋れないとかそういう悩みは多いと思います。
すごく気になるとか、ちょっとした一言で傷ついてうじうじしてしまうとか多いと思うのですが、今回は人の目を気にしなくなる方法ということで、実際臨床でどういう治療が行われているのかをお話ししようかなと思います。
人の目を気にする疾患ってあるんですよ。
例えば、社交不安障害、回避性パーソナリティー障害、発達障害の人の一部、強迫性障害の人とかよく臨床でも見られます。
メインは社交不安障害とか回避性パーソナリティ障害ですね。そういう人たちにどういう治療をしているのかということです。
例えば、引きこもりのAさんだと治療は大きく3つに分けます。
3本柱で治療していくことが多いです。
一つは、認知行動療法と曝露療法。
一つは、マインドフルネスです。
一つは、SSRIを中心とした抗うつ薬を使うこと。
ひきこもりのAさんの診断は、社交不安障害ないし回避性パーソナリティ障害で、治療法はこういうものをメインにやりますよということです。
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人の目を気にするのはどうしてか
どういうメカニズムなのかをお話しします。
そもそも人の目を気にするのはどうしてかということから始めると、まだ脳科学でわかっていないことが多いのですが、どうやら思春期以降に急激に人の目を気にするようになるわけです。
もちろん、子供の時も気にする子供はいますけども、それは虐待とかそういう外傷が絡んでいることが多くて、主に多いのはやはり思春期以降なんです。
それはなぜかというと、脳が賢くなって抽象的なことを考えられるようになる結果、相手が何を考えているんだろうということまで関心が及ぶようになるからですね。
思春期以前はそこまで思わないわけですよ。
友達は俺のこと好きかな、あいつ嫌いとか言ってるだけで、思春期以降は、仲良くしているけど、あいつは本当は俺のこと好きなんだろうか、俺のことを友達と思っているんだろうかと疑い出すんですよ。
あいつは仲いいとか言っているけれども、俺以外のやつと遊んでたよなとか、あいつは俺のことを憎んでいるかもしれないなとか、あいつは勉強を一生懸命やってるけど俺の方が点がいいぞ、もしかしたら嫉妬してるかなとかいろいろ考えるわけですよね。
だから気になる。これも個人差は結構あるんですよね。
性的なものも絡むんですよ。異性から好かれたい、恋愛対象となる人から好かれたい、どう思われているんだろうかとか、あの人のことをすごく興味がある。興味があるからすっごい見ちゃうとかね。
すごい見られていると思って緊張するとかぐちゃぐちゃとなるわけですね。
その結果、すごく視線を気にしたり、他人からの評価をすごく気にするようになります。
もちろん体質の問題もあって、すごく気にする人もいれば、気にして学校に行けなくなっちゃう人もいれば、気になっているけどそんなに変わらない子たちもいたりするという感じですね。
だから脳の変化がある。
心は脳ですから、脳が心というかイメージを作るんですね。不安や恐怖。
あいつどうなんだろうというのを作る。
作った結果、心配したり、ネガティブになったり、何かを避けたりするんですね。
だから何かきっかけがあって、その結果心配になったり、ネガティブなことを考えたりとか、もうあそこに行かないと場所を避けたりする。
そして避けるので失敗として記憶されるんですよ。
あの時、すごく嫌な思いをしたとか、失敗体験として記憶される。
これを「失敗体験の強化」と言います。
漢字の勉強をしていると、何度も何度も漢字を書いているとよく覚えるじゃないですか。一回書いただけだと覚えないけど、何回も書いたりして使っていると覚えるように、失敗したこと、嫌だったなということをやればやるほど、それが脳にこびりつくんですよ。
逃げちゃうと逃げグセがついちゃうんですよね。
そうすると、それが脳にインプットされて記憶として残っていく。
また同じような場面が起こった時に、不安とか恐怖に駆られるということです。
また嫌なことをすると、それがどんどん強化していく。
この結果どんどん人の目が気になるようになっちゃうということですね。
というのが人の目を気にしていることのメカニズムだったりします。
治療
治療はどういう風にしていけばいいのかというと、この回転を止めるのがいいんですよね。
例えば、認知行動療法でやるって言うと、これを認知するということなんですね。認知行動療法だと。
自分は何かがあって、結果的に心配になってネガティブになってしまって、次もまたこういう風になったなと。
この図のことを理解するのが認知行動療法ですね。
じゃあ、次からはあまり避けるのをやめようとか、今まで10回中10回避けていたけれども、10回中8回避けるだけにして残り2回チャレンジしてみようといって、この回転をできるだけゆっくりにさせてあげるイメージでやっていく。
失敗体験の強化を防ぎ、成功体験に切り替えていくというのが、認知行動療法的なアプローチだったりします。
意外と避けずに喋ってみると大丈夫だったなということがわかるわけです。
だから自分が考えているほど現実は不安なことじゃなかったりする。
乖離がだいたいありますから、成功体験をするようにしてみる。
心配事があったら、心配事を考えない時間を作るとかね。
夜中にずっと考えているなら考えないように楽しいことを考えなさいとか、そういうのをやりますね。
あと、曝露療法というのは、何かあった時にあまり嫌なことをするのやめようというのが認知行動療法だったら、積極的に嫌なことやってみようよみたいなのが曝露療法ですね。
かといってめちゃくちゃ緊張する場面に行くときついので、自分がギリギリ耐えられる、ギリギリやれる、ギリギリ成功できるようなことを、何度も何度もチャレンジしていくというのが曝露療法だったりします。
あとマインドフルネスというのは何かというと、瞑想です。
静かな場所で呼吸を整える。
呼吸に集中したりして邪念を払ったり、自分の中に出てくる、頭の中でぽつぽつと浮かんでくる気持ちを、考えるのではなくただ眺めてみるというのがマインドフルネスというやり方で、まあなかなかできないね。結構難しいです。この技術を習得するのは。
状況を俯瞰するんですね。呼吸をしながらゆっくり。1日5分か10分、あの時自分はこんな気持ちになっていたなとか、今あの時の記憶が蘇っている、ああ蘇ったなと思ったら何か別のことを考えた、この考えは消えたな、よし呼吸に集中してみよう、吸ったな吐いたな、吸ったのは吐いたなとかね。そういうのがマインドフルネスです。
これをマスターしていくと、嫌な場面があった時には、深呼吸することによってスッと交感神経系を抑制することができるんですよ。
スッとゾーンに入るというか、スッとリラックスできるようになるんですね。よく分かります。
だからやばいやばいやばいと思った時こそ冷静になって、よしいつも通りやろうみたいなね。
あ、今自分緊張し始めたな。緊張してるな。
救急車が来て急患が来ましたとか、ドキドキ、今緊張してるな。いや大丈夫だ、いつも通りやればいい。
とりあえず外傷確認だ、バイタルを取ってる間に研修医にCTを指示しようとかね、そういうことをすればいいわけですよね。
というのがマインドフルネスです。
あとはSSRI、抗うつ薬です。
そもそも脳が問題なので、脳に不安を感じにくくさせるようにセロトニンを増やしてあげると、そもそも不安のイメージをしにくくなります。
ここに直接アプローチするのがSSRIということになりますね。
実際、じゃあ臨床はどうしているのかと言うとですね。
そんなにすぐは終わらないんですよね。2ヶ月とか3ヶ月で治療は終わるわけじゃなくて、やっぱり1年2年5年10年とかかっていきます。
それはもちろん治療の中で引きこもりは治るけれども、出勤しても人目が気になるとかね。そういうのはいろいろありますよ。
だけどゆっくりやっていくということになるかなと思います。
マインドフルネスやっているの?とか、あの時あなたはどういう風なことで不安になったの?こういう場面だったんだね、次からはこういう風に考えてみたらどう?とかそういうことをやったりして5年10年経つと良くなってきますね。
同調していく
人間は同調していくんですよね。
だから一人でいるとどんどん不安になっていくんだけれども、相手が心臓がどんどん速くなってる時に、横にゆっくり呼吸している人、ゆっくり心臓が動いている人がいるとですね、こっちも速くなっていくんですけれども、一方で相手がこっちの心臓のスピードに合わせるようになってくるので、全体としては落ち着いてくるんですよね。
相手が緊張しているとこっちも緊張するじゃないですか。
こっちが緊張している時に緊張していない人と一緒にいると、ちょっと落ち着くじゃないですか。
だから人間て同調機能みたいなのが備わっているので、臨床もそんな感じで主治医と一緒にいるとか主治医と過ごす時間があると、だんだん主治医らしさ、主治医の世界観、主治医の呼吸が相手に染み渡っていくんですよね。
そういう中で良くなっていったりするというのはありますね。
脳は可逆的
脳というのは可逆的なんですよ。だから脳って変化するんですね。
使った形に変化するんです。
だから使えば使うほど脳の形は変わっていくので、ネガティブなことを考えればネガティブな脳みそができあがるし、ポジティブなことを考えていけばポジティブな脳みそに変わります。
もちろん生まれ持った元々のスタートラインはありますけど、でも変わっていきますね。個人の中では。
だから、自分らしく考えたい、自分の自由に考えさせてくれ、ネガティブに考えるのも自分の自由じゃないかって思うかもしれない。
それは人文的な世界観としてはOKなんだけども、理系的に考えると、医学的に考えると、それはNGで、どうせ考えるならポジティブに考えた方がいいよ。だって、人間の脳なんて所詮道具でしかないよとか、知性は道具でしかないんだから、良い道具に作り替えていこうよという風な言い方になっちゃうかなと思いますね。
でも、こうやって使った形によって脳は変わっていく。考え方は変わっていく。性格が変わっていくと言われると、そうだなと思いつつ、自分というのが唯一無二ではないということに驚くと思います。
僕らって自分は唯一無二、私というのは私しかいないんじゃないかと思ってるんだけども、実はねちょっと違うんだよね。
私というのは私一人しかいなくて、魂は1個なんだみたいに思っているかもしれないけれど、そうじゃなくて、もっと人間の心とか精神とか知性というのは、そういうものではなくて、もっと曖昧としているものだし、変化していくし、自分だと思っているものはある種幻想であって、そんなものはないということがわかってきます。なぜなら変化していくからね。
本当に唯一無二であれば不可逆的なんですよね。変わらないんですよ。
唯一無二であればもう変わらないはずなんですね。それは完成されたものだから。
でも実際は違う、ということです。
今回は、人の目を気にしない方法というテーマでお話ししました。
人間関係
2023.6.22