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元虐待児が義母の介護中にPTSD発症 創作ケーススタディ

00:00 OP
00:24 ケース紹介(創作)
03:52 治療

本日は「50代女性PTSD、義母の介護」というテーマで創作のケーススタディーをやってみようと思います。

ケース紹介(創作)

A子さんは二人姉妹の次女ですね。お姉ちゃんがいる。
両親は離婚されていて、一人暮らしのお母さんがいらっしゃる。

A子さんは父から暴力を受けていた。
父は子供にも手を出すし、妻にも手を出すし、姉にも暴力があると。
女3人の中でも一番暴力は少なかったんだけども、やっぱり受けてきたという感じですね。

母からは愚痴をよく聞かされていたという感じです。
父は姉を殴り、母は姉と対立したりとか、そういう家だったと。
姉は20代で自死されている人です。

母とは絶縁とは言わないけれど、連絡を細々と取っているという感じです
A子さんも、そういう過去がありながらも結婚をしていて、子供を二人もうけます。
28歳の長男と25歳の長女がいます。

A子さんはパートをしていて、旦那さんは会社員。
4人で今も一緒に暮らしている。
早く結婚して自立してほしいなと思いつつ、東京は家賃が高いですから、何となく4人で暮らしているという感じです。

旦那さんは二人兄弟の弟で、姉もいるんだけれども、姉はもう嫁いでいる。
姉のところには35歳の長女がいて、この子も結婚せずに一緒に暮らしている。神奈川にいる。

義両親は二人で埼玉とか北関東にいたんですけれども、義父が亡くなり義母も一人で90歳なので、一緒に住もうかみたいなことになったと。

A子さんは大変な家に育ったので、どちらかというと優しすぎるんですね。
こういう機能不全家族で育っている人、姉はグレた方なんですけども、妹のA子さんはどちらかというと、少しでもみんなが仲良くなるように努力し続けた。奮闘するタイプだったという感じです。

だから旦那さんよりもA子さんの方が、積極的にお母様に来てもらいましょうよと言ったという感じです。
だけど、義母と実際一緒に生活すると、妙に落ち着かないし、寝れなくなってしまう。
そして何だか常にイライラしたり困惑するようになってしまったという感じです。

寝れなくなってきて、自分はうつかもしれない。何でこんなにイライラしているのかがよくわからなくて精神科を受診したというケースになります。

治療

どんな治療したのかと言うと、寝れないということなので、薬物療法をしたりしたと。

あとは、この人が持っているトラウマに焦点を当てて、最初は気付いてなかったんだけれども、気づき始めてトラウマに一緒に丁寧にアプローチしていった感じです。

トラウマに焦点を当てた認知行動療法、つまりどんな認知が起きているのか。
その結果、あなたはどういう心のイラつきを感じたのかということを丁寧に認識してもらう。

丁寧に日記に書いてもらう、ホームワークの中で書き記してもらうことをしました。
そして、イライラした時にはイライラしないようにマインドフルネスを取り入れました。
瞑想したり、呼吸を整える時間というのを1日の中に作った。

ちょっとイライラした時には、旦那さんとか娘さん、息子さんに任せて一人でちょっと外出して散歩したり、落ち着くところで呼吸を整えるみたいな訓練をしていった。

臨床の中ではナラティブセラピーといって、生い立ちを振り返るという治療をするんですけれども、自分の生い立ちとか過去のことを整理したり、主治医が傾聴したりしたという感じですね。

壮絶な過去から今に至るまで、子育ての苦労とか不安とかお姉さんに対する気の遣い方、自分の子供達は結婚できるかもしれないし自立していくかもしれないけど、35歳の子供はもしかしたら結婚できないかもしれないしなと思いながら、妙に気を遣っていることとか、全体を語ったりストーリーにしたり図を描いたりして頭の中を整理していった。

この人はトラウマがあるから避けちゃうんですよね。話そうと思っても避けてしまう。
嫌な思い出を思い出さざるを得ないので、両親や姉のこととか人生のことを語ったり、先を考えようとすると、どうしても自分の子供の時の嫌なこととか、離婚のことを思い出してしまって、「ああ、嫌だ」となるから語れないんだよね。
考えることができなかったんですね。

だけど治療という場面を利用することで、半強制的に本人のリズムを見ながら、心の余裕を見ながら語っていった。
語ることに慣れてもらった。

その結果、そこを回避することが減っていったという感じです。
治療を開始して1年後には義母の認知症がわかってくる。
認知機能が落ちてきたので、病院に行こうとするんだけども、なかなか行けないとか怖いとか、義母に本当に言っていいんだろうか、義母に対しては「物忘れが増えてきたから一緒に病院に行きましょうとなかなか言えないです」みたいなやり取りを傾聴したりとか。
「でも言ってみようと思います」とか聞く。

もう90歳ですからね、時には入院することもあった。
ショートステイも利用するようになったりとかしていったという感じですね。

この一個一個のイベントがただでさえ大変なのに、A子さんの場合はトラウマがあるせいでより抵抗がある。
普通だったらできるだろうとか、何でそんなことに時間が掛かっているんだとか、もっとしっかりしろよとか旦那さんに言われるんだけども、それがトラウマのせいなんだよね。

でもこういう治療をしていく中で、治療をしていることが旦那さんとか娘さんとか息子さんにも伝わっていき、ケアしてあげなきゃいけないんだなとか、些細なことですよ、入院している病院から電話掛かってきた時にビクッとなっちゃうから、代わりに看護師さんからの電話とか事務からの電話を取ってあげて話を聞くとか、そういうことなんですけども、そういうことが家族でできるようになってきたと。

治療から3年目には施設に入ろうか入らないかと悩んでいる時に、義母が死去されたという感じですね。
その後も医師は伴走し続けたという感じですかね。

A子さんにとっては義母と一緒に暮らす期間が無限に続くんじゃないかと思うんだけども、実際は3年ちょっととかなんですよね。
実際の臨床でもこういうケースはあったりとかします。全然ありますね。

思っているより人生って短いんですよ。
皆さんが感じているよりも人生は短いし、皆さんが考えているよりも1年の変化というのは大きいです。

1年、2年の変化は大きくて、いろいろなものが変わっていきます。
近くで見ていると何も変わってないように見えるんだけれども、僕らとか月に1回とか月に2回ぐらい会う人間からしてみれば、毎回毎回大きな変化を感じることができるという感じですかね。

これがよくあるというか、こんな感じのセラピーはよくありますね。

でも、こういう治療は結構難しいというかすごくプレッシャーを感じます。
こういうある種のキツさというか、キツいケースの場合、伴走する資格が僕にあるのかと悩みます。

実際ここは家族が仲がいいという設定にしていますけど、もうちょっと言うとやっぱりトラウマがある人は家族仲が悪かったりすることも多かったりしますね。
悪くなくても自分から言い出せなかったり、家族に本音を言えなかったりするケースもあったりします。

重い人だし、ましてや50代の女性という形で、自分より年上の人に対してアドバイスなんてできるのかとか、その資格があるんだろうかとか、重いですよね。

そして、この家族の苦しい過去を一緒に聞かなければいけない時に資格はあるのかと思うわけですよね。
資格とは何かと言ったら、治療してきた経験なのか、知識量なのか、それとも医師ということのIQが高いということなのか、IQが高いというのはアレですけれども、でもそれなりの競争に勝ってきた知性、知識ということなのか、誠実さなのか、色々思いますよね。
もちろん、心理士さんも同じようなことを思うと思うんですよね。看護師さんも。
経験なのか知識なのかとかいろいろ思ったりとか、重圧を感じたりすると思います。

でもこれらは全部必要なものでもあるし、全部必要ないものとも言えるし、少しでも自分で伴走できる、悩んだ時には伴走できる資格が持てるように、自分自身を奮い立たせるというか、自分自身を律することが必要ですよね。

よく思いますけど、日本社会において誰かは精神科医や心理士という仕事をした方がいいですよね。それは誰かはやる、その誰かというのは、必ずしも全てを兼ね備えていることはないんですよね。
だけど、そのことを割り当てられていて、それを重圧を感じながらもやり続けることが重要だったりします。

でも、この重圧というのは同時に逆転移でもあるんですよね。
つまり、A子さんが感じていること、A子さんが感じているプレッシャーだったり苦しみとか、自分の母親の面倒を見ていないのに、義母を見ていていいんだろうかとか。
自分は円満な家庭に育っていなかったのに、今円満な家庭を演じてていいんだろうか、そこの一員でいいんだろうかとか、そういうプレッシャーを感じたりすると思うんですね。

結局、こう言ったら良くないけれども、でも一家の中心はやっぱりA子さんなんだよね。この家の中心は。
旦那さんは仕事に行ってるし、息子や娘は自分の人生があるし、義母が主役ということはなくて、やっぱりA子さんなんだよね、一家の中心は。
そういうプレッシャーもあるんですよね。

でも、このプレッシャーは、僕が臨床の中で感じているプレッシャーとある部分似ていて、それはA子さんが感じているプレッシャーを、僕が感じ取って自分の中で置き換えられている可能性もあるんですよね。

僕の中にあるプレッシャーというものをある程度コントロールしているとか、プレッシャーに対処しているということが、間接的にA子さんに伝わってA子さんの心を癒していくこともあったりするんですよね。
まあ、それもまた一つの治療というかCBTとかマインドフルネスとかナラティブでは説明がつかない、精神分析的な精神療法の側面だったりもするなとか思ったりしますけど、こんな感じですね。

とにかくこういうケースはやっぱり伴走するというのは大事ですね。
伴走するということそれ自体に価値があると僕は思います。

治療者としては何をやっているんだろうという時もありますけど、ただ聞いているだけじゃないかとか思うんだけれども、やっぱりプロじゃないとできない何かをしていたりすることはあります。
今回は50代女性PTSD、義母の介護というテーマでお話ししました。


2023.6.26

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