本日は「思春期と子供の脳」というテーマでお話ししようと思います。
副題で、コロナで失ったもの、みたいなことを書いています。
思春期の子供はどういうことが起きているのか、脳内でどんなことが起きているのか、そしてどんなことを達成しなければいけないのかをお話ししようかなと思います。
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コロナの3年、子供の不自由
コロナが流行してこの3年間で、子供たちは成長の機会をある部分を失ったと思います。そんな風に思います。
教育関係者や僕と同じ臨床家の人たちも同じようなこと言っています。
具体的には、やはり不自由だったんですね、子供たちは。
なかなかリアルに友達と会えなかったり、友達と喧嘩をしたり話し合いをしたり、同世代と話したりディスカッションしたり、そういう経験が足りなかったりなかったという感じですね。
その結果育てることができなかったところもたくさんあるのかなと思います。
今の子供たちはすごく不自由だなと思います。
同調圧が結構強くて、SNSやインターネットのお陰というかせいで、同級生からの監視の目も強いんですよね。
だから迷惑をかけちゃいけないとか。
あと価値観を押しつけられることをすごく嫌います。
なので結果的に自分の価値観を発表しにくかったり、自己表現しにくいということがあったりします。
転職が前提の世の中になっているので、色々なことを考えなければいけないし、色々なことを勉強しなければいけないんですよね。
だから子供らしくあることが許されない部分もあるし、転職に響くというか、そういうこともある。
あとはひとり暮らしはしにくいですよね。家賃が高いので。
だからなかなか親元から出られない。
親と離れたくても離れられない子たちは多いなと思います。
普通の子たち、いわゆる精神科とか関係ない子たちは、そういう不自由があっても他のところでぐっと伸びたり、他のところで補ったりすることができるんですけれども、社交不安障害の傾向がある子たちとか発達障害傾向がある子たち、人格障害傾向がある子たちは、なかなかキャッチアップできていない現実があるかなと思います。
思春期の脳
思春期の脳はどういうものかというと、子供は生まれてからゆっくり成長していくんですね。
生まれた瞬間に脳は完成しているわけじゃなくて、人間は未熟な状態で生まれてくるんですよ、そもそも。
脳みそが大きくなりすぎていて、骨盤を通らないからですね。
なので未熟な状態で生まれてくる。
他のほ乳類よりも未熟な状態で生まれてきて、子宮から出た後もしっかり育ててあげなきゃいけない。
ある程度育ってきたときには、今度は「思春期」というのを迎えるんですね。
思春期を迎えるときに脳がまた成長にブーストがかかるんです。
今まで考えなかったことを考えられるようになってしまう。
子供の時には考えられなかったことを考える力がついてくるんですね。
抽象的なものを考える力がついたり、相手の立場で考える、相手の目線を気にする、性的なものを交えた世界を知る、色々な風に変わっていきます。
とにかく脳がガッと大きくなる。
まず成長する上で、先に扁桃体から成長が進むんです。
つまり、脳があった時に脳の真ん中の辺からぐっと成長して、遅れて前頭葉前野や大脳皮質の方が成長するみたいなイメージです。イメージですよ。きちんとした神経科学の話じゃなくてイメージですけれど。
でも、そういう風に理解してもらうとわかりやすいと思います。
だから感情面が先に育っちゃうんですよね。
だからすごく感情的になる。
不安も大きいし、怒りも大きいのが思春期です。
その後に遅れて前頭葉前野、いわゆる理性的な部分が育ってくるんですよ。
そうすることで理性が育つので、感情を理性が抑えていく。そういう力が強くなっていくという感じです。
でも最初は感情面です。
扁桃体を中心に大きくなっていくので、若者はどうしても感情に支配されやすいし、感情に振り回されて楽しみもあれば苦しみも多いという感じです。
仲間の目をすごく気にするようになります。この年齢の子たちは。
仲間からの批判や評価をすごく気にするようになって、不安に襲われやすいし、すごく恥を恐れるんですね。失敗や恥を。
その反面、リスクに対しては許容度が上がったりするし、危ないことが大好きになってくるんですね。
ドパミンが気持ちいいんですよ。
危ない時に出てくるドパミンが気持ちよくなるし、大人たちに対して反抗する、社会に対して反発的なことをする。
そういう時にドキドキするからドパミンが出てそれが気持ちよかったり、そしてそれをやるようになるんですね。
仲間たちはこういうことをする人間たち、ちょっと馬鹿げてたりとか、ちょっと危険なことをする人たちを評価するんですよね。
なので仲間に評価されたいから、わざと悪いことをするというのもこの年代の特徴だったりします。
あと依存症のリスクも高いんですよね。依存症になりやすかったりするんですね。
子供の時からお酒を飲んだり、違法薬物をすると、アルコール依存症や薬物依存になりやすかったりします。止められないんですよね。
買い物依存、ギャンブル依存もそうです。
抑える力が弱いので、より依存症になりやすいということです。
どのように成長していくか
こういう風な状況なのでこの中でどう成長していくかというと、まずアイデンティティですよね。
自分とは何かというアイデンティティを作り上げていくことがこの年代で求められるんです。
仲間の目を気にしながら、自分はどんな人間なのか、仲間の中で自分はここは劣っているけれどここは優れてるなと。
そういう相手との比較の中から自分の価値を知ったりするわけですよね。
コミュニケーションスキルも身につけていく時期なんですよね。
自分と違う子供たちと。
そして相手もなんかややこしいんですよ。
感情的だったり怒りだったりして、そういう中でトライアンドエラーとか失敗を繰り返しながら覚えていく。
大人の社会でやったら取り返しのつかないようなこともあるわけですよね。
子供たちの中でだから許されるようなこともやっていく。
それで身につけていくことも結構ありますね。
逆にコロナの時はそういうコミュニケーションを取れなかったから、育ちにくかったということなのかなと思います。
こういう中でアイデンティティとは何かというと、コミュニケーションを通じたり、アイデンティティを作っていく中で、自分のやりたいことを見つけていく自分の軸を作っていくことが重要だったりします。
自分はこれが正しいと思うとか、社会の常識とは別に、自分はこれが美しいと思う。
これがいいものだと思う。
世の中の人とは違う自分なりの価値観、自分なりにいいと思うものを身につけていくのも大事です。
世の中の人はこれに価値がないと思っているかもしれないけど、僕はこの仕事に価値があると思っている。
この仕事の価値はお金には代えがたいものなんだ、みたいなものですよね。
自分はお金は稼げないかもしれないけれども、芸術が好きだから小説家になるんだ。
何でも良いんですけど、演劇をやるんだとか。それはそれでいいんですよ。
エンターテインメントじゃなくて、もっとこういうことがやりたいんだとか。
自分はそれが素晴らしいと思っている、美しいと思うので、マイナーかもしれないけどそこをやりたいんだということを身につけていく時期ですよね。
一方で、それだけじゃダメで社会的な価値観や社会的な軸も身につけなきゃいけないんですよね。
お金を稼ぐとか社会のモラルとか常識を身につけることも必要ですよね。
自分は小説家になる。
だけど好きなことをやっていてもお金にはならないことがあるわけですね。
受け入れつつ、じゃあお金を稼ぐにはどうしたらいいのか。
自分の生活を作るにはどうしたらいいのか、家族を将来作っていきたいならどうしたらいいのか、そういうこともやっていく。
やりたいことをやれた方がいいのかとか、お金を稼げることをやったほうがいいのかよく議論になりますけど、これは両方成立しなきゃいけないので、どっちかだけでいいというわけではないんですね。
その2つの葛藤の中でアイデンティティができたり、コミュニケーションスキルが上がったりするわけです。
そうしていく中、自己中心的だとうまく回らないんですよね。世の中というのは。
社会のために自分は何をすべきかに変わっていきます。
自分の軸を守りつつ社会的な軸も保つためには、結局、自己中心的ではダメで、そういう中で脱中心化が行われるんですよね。
自分目線で考えるのではなくてもっと俯瞰的にものを考えたり、俯瞰的に全体が良くなる方向を重視するということになっていくのかなと思います。
あとはフラストレーションのコントロールですね。
依存症にならないように、感情のコントロールをする。アンガーマネジメントをする、やりたいことを我慢する。
こういうフラストレーションのコントロールも、思春期の中で身につけていかなければいけないことです。
身につけないとできないですからね。
我慢する、やりたいけどやらない、欲しいけれど我慢する、このフラストレーションのコントロールを身につけるのもとても重要です。
扁桃体や側坐核、脳内に出てくる報酬系の活性化に支配されすぎないことが重要です。
そのフラストレーションにしっかり耐えてあげる、理性の力で耐えていくこともとても重要だったりします。
子供はこういうことが身に付くように成長していかなきゃいけない。
成長の過程の中では、子供同士のコミュニケーションやぶつかり合いとか衝突がとても重要なんだけれど、コロナがあったのでなかなかそういう期間がなかったということですね。
それが最近の臨床家の感覚です。
今日は子供の脳の話をしました。
社会問題・現代精神医学
2023.7.8