本日は「摂食障害:18歳Aさん」のケーススタディをやってみます。
実際の症例ではなく、僕が作った創作のケーススタディになるのですが、臨床家が作るケーススタディなので、一定のリアリティはあるんじゃないかなと思います。
ぜひ参考にしていただけたらと思います。
ケース紹介
Aさんは18歳の女の子で、自分の見た目に対して常に気になっている状態です。
常に自分の見た目や体重が気になっている。
そのことばかり考えてしまうんです。止められない状態です。
実際、食べたりすると体重計にすぐ乗るんです。増えたりするとすごく一喜一憂する。
体重の数値が変わることで一喜一憂してしまう。
太りたくないので吐いてしまうんです。そういう人です。
「食べちゃいけない、食べちゃいけない」と思っている時に食べるんです。
ついに我慢できなくて食べちゃう。でもそこで吐く。
全部吐くと食べたことを帳消しにできるんです。
その魅力に取りつかれている。
「食べる」ということと「吐く」という魅力に取りつかれている状態です。
Aさんはなぜそういうことになってしまったのか。
体がボロボロになっても、なぜ吐き続けてしまうのか。
そういう摂食障害の病理を理解してもらいたいなと思います。
Aさんの家庭は、お母さんが厳しくて、弟は超優秀と言う感じです。
お父さんは離婚したか、既に亡くなっているか、そのような形です。
母親は、長女であるAさんに対して「アンタしっかりしなさい」「自分の意見を言いなさい」「ちゃんとしなさい」と言ってすごく怒るんです。
母親に弟はそっくりなんです。気が強くて「お姉ちゃん、ちゃんとやりなよ」と言って母親の肩を持つ。
弟は実際成績も良かったり、自分の意見をパッと言えたりするわけです。
反して、Aさんは勉強が苦手だったり、コミュニケーション力が弱かったり、気が弱くて自分の意見がなかなか言えなかったり、自分の気持ちを理解したり、自分の身体の状態を理解する力が弱かったりします。
セルフモニタリングする力が弱いんですね。
グジャっとしているもの、社会はどうなっているのか、他人とは、人間関係というものはどうなのか、自分の心はどんな状態なのか、目に見えないもの、そういうものを言葉にして整理していく力が弱かったりする感じです。
だからいつもモジモジしてしまう。
モジモジしているから母親がイラっとして「私が悪いって言いたいの?あんた」と言って、そんなつもりじゃないのに、と言って、攻撃的になってしまう感じです。
弟もやはり同じ思春期で親の愛情を独占したいんです。
親からの愛情、親からの評価を独占したいし、自分が何なのか、自分には価値があるのか、自分には価値がないのか、よくわからないんです。
弟は弟で不安で思春期を過ごしている中、親から承認されたいんです。
奪い合ってでも、殴り合ってでも手に入れたいものなので、跳ね除けられてしまう。
ヒナは親ツバメから餌をもらう時に必死で口を開けてますよね。
あの感じです。
弟は必死に愛情や栄養、褒めてもらうことを求めていく中、Aさんはそれに負けちゃうんです。
つい押されて、親は弟ばかりに栄養を与えちゃうということになっている、と。
母親もしっかりして欲しいんだけれど、他のやり方を知らなかったりします。
そういう背景がある中、ある日同級生から「痩せたね」と言われるんです。
SNSで「痩せていいね」「かわいいね」と言って『いいね!』を押されるんです。
普段褒められないAさんには、「痩せたね」と言われた時に、褒められた感じがして、脳汁がメチャ出るんです。
ジョワーっと出てすごい嬉しいんです。
「認められた!」「褒められた!」と思って嬉しくなって、もう堪らないんです。
10代の頃は、特に若い頃というのは外見が全てなんです。
外見の価値はすごく高いです。
痩せていたりすると褒められるし、かわいいねと言われやすいんです。
すごく成績がいいとか、コミュニケーション能力が高いとかよりも、やはり上の方に来ていたりするんです。
かわいかったら黙っていても大丈夫みたいなことがあって、皆からも「痩せ方教えてよ」とか言われたりします。
でも「いや私、ただ食べないだけで我慢してるだけだよ」とか言ってめちゃくちゃ嬉しいんです。
謙遜しながらめちゃくちゃ嬉しい。
だからやめられないんだよね。「痩せた」と言われたくて仕方がない。
この脳汁、この興奮が忘れられないんです。
だから食べるのを我慢する。でも我慢し切れないんですよね。
ついに食べてしまう。でも食べると太ってしまう。だから怖くて吐くことを覚えます。
吐けばリセットされるんです。
だけど、すごく罪悪感とか嫌な気持ちになる。
でも、だんだんこれが病みつきになって止まらなくなります。
それで依存症のような行動になります。
ストレスがたまると「あーっ」となって、頭が真っ白になる。
で食べてしまう。
食べたあと吐く、食べ吐きをしてしまう。
そうするとスッキリする。
その後自己嫌悪に襲われます。
またストレスが溜まってくると、スッキリしたい!となって、頭が真っ白になって食べ吐きをする、という感じです。
この報酬系のグルグルが止まらなくなってしまう。
だからストレスがたまると食べ吐きをする。
痩せてると褒められるから嬉しくて止められない。
親から怒られる嫌なことがあったら痩せたい。
食べ吐きをするという負の循環に陥っている。
これが摂食障害Aさんのパターンということです。
このイメージはわきますか?
わからないかもしれないですが、おじさんであればお酒を想像して欲しいんです。
「ああ、今日暑いな、仕事しんどかったな、今日夜はビール飲みたいな」と思うんです。
「ビール飲みたい」と思って、帰り道に「今日は何飲もうかな、何をアテにして酒を飲もうかな」と思っていて、それで頭がいっぱいなんです。
それでコンビニに行って買っちゃうわけですよ。
ビールを買って帰って、シャワーを浴びる前にプシュって飲んで、「あー」とか言いたくなる。
それでスッキリする。
でもやはり飲み過ぎたと思って翌日は嫌な気持ちになったり、酒飲まずにやるべきことあったのに飲んじゃったよ、と思って自己嫌悪になる。
でも、また翌日仕事が忙しいと、やはり夜になると晩酌で頭がいっぱいになっちゃって飲んじゃう、とグルグルお酒やめられない。
これと一緒なんです。
これがAさんの場合です。
親に食べ吐きがバレて、やはり自分でも治さなければいけないということで精神科を受診するということになります。
治療
治療はどういうことをするのか、ですが、摂食障害に対して特別な治療法というのは、あると言えばあるし、ないと言えばないです。
でも薬で治すものではありません。摂食障害の治療というのは。
例えば、「痩せたね」というこの脳内麻薬が出る感じをきちんと説明して、これはいい快感じゃないよね、ということを話し合ったり、「あなたはこういうサイクルに入っているよね」というときに、我慢するとかそういうことを覚えてもらったり、家族関係のことを一緒に言語化していったり、この家族のトラブルを解決していったりする。
あとは、セルフモニタリングの練習をできるようにしたり、気が弱いとかコミュニケーション能力が低いのであれば、ここの強化や練習をしていく。
勉強が苦手だったら、どこが苦手なんだろうね、じゃあ、自分の将来どうしたらいいんだろうね、ということを一緒に考えていくとか、問題解決能力を高めていくということをしていくんです。
それで少しずつこの全体をほぐしていくイメージです。
具体的には認知行動療法をしたりして論理的に考えていく、自分の気持ちを言語化する力を高めていったり、ナラティブセラピーをすることで、自分の人生や生い立ち、家族関係を語り直していくことで、自分の立ち位置を理解したり、マインドフルネスをマスターすることによって、ウワッとなった時に食べ吐きではなく、深呼吸をする、マインドフルネスをすることによって、ストレスを緩和する、ガス抜きをしてあげることを覚えたり。
行動療法的なアプローチ、SNSで「いいね」が堪らない場合はSNSを制限する、場合によってはスマートフォンを制限することをしたり、食べ物を買えないようにお金の管理をしたり、そういうことをしたりします。
これも一朝一夕じゃないんです。
半年とか3ヶ月とかではなくて、年単位での治療になっていきます。
伴走していくんです。
Aさんと一緒にやりながら、彼氏ができたとか、彼氏と別れた、結婚した、離婚した、就職したけど上手く続かず休職した、そういうことをやったりします。
高校生だったAさんが大学生になり、社会人になり、そういう間を一緒に過ごすという形です。
過ごしながら一個一個の今の問題、その時に感じたことを一緒に考えていくことをやっていくのが摂食障害の治療です。
これを見ている若い人にとっては、「えっ、何年も治療するの?」「気が付いたら大学卒業してるの?」「大学卒業してもまだ通院しているの?」「大学卒業するなんてもうはるかに先でしょ全然想像できないよ」「大学卒業する頃にはもう子供じゃなくて大人じゃない、大人になってもそんなことで悩むの?」そういう風に思うかもしれないですが、一瞬ですよ、本当に。
僕もよく思いますが、気が付いたら大学卒業してますよ。
僕もクリニックまだ6年目ですがされど6年目なので、大学生だと思っていた人たちが社会人になったりしています。
本人たちは1日1日が大きな変化だと思いますが、こちら側からすると、「もう大学生になったの?」「あれ、もう結婚して妊娠したの?」みたいな感じになってしまいます。
本人にとってはすごく長いけど、まあそうですね、
でも、だんだん少しずつ良くなってきます。
1年後2年後、良くなっているんだけど、本人は良くなっていると思わないんですよね。
私今これに悩んでいてとか、こんなことが苦しくて、と言ってくれるようになるのですが、「でも昔に比べてはるかに良いじゃん」と言うんだけど、本人は「そうですね」と言いつつリアリティがないというか、実感が湧かなかったりするというのも変化というか、治療の良さかなという気はします。
でもまあ良くはなっていきます、本当に。焦らず行くと絶対良くなりますから、そこはご安心くださいというところです。
今回は、摂食障害、18歳Aさんのケーススタディをやってみました。
摂食障害
2023.8.7