本日は「ひきこもりと家族療法」というテーマでお話しします。
「家族療法」というのは聞いたことがありますか?
患者さん個人を治すのではなく、家族全体を治療していく、家族全体を治療対象として治療していくのを家族療法と言います。一つの精神療法の形です。
ひきこもりの場合、個人の問題というよりは家族全体の問題だったりすることも多いので、家族全体で治療していこうという家族療法が合ってることも結構あります。
今回は家族療法の話をざっくりお話しします。
初めて名前を聞く人に対して大枠をお話ししてみて、興味を持っていただけたら家族療法をまたちょっと自分で検索してみたりしてもらえるといいかなと思います。
コンテンツ
システム思考
家族療法には特徴が幾つかあるので、その話をします。
まず「システム思考」というものがあります。
家族はシステムであるということです。
家族は個人個人が集まったただの人間の集まりではなくて、役割があって、複雑に絡み合った一つのシステムなんですね。
会社だったり、チームだったり、そういうものだと思ってください。
その人個人に問題があるのではなくて、全体に問題があるんですよ。
サッカーでいうと、シュートが入ってしまったのをキーパーが悪いんだろう、キーパーが下手だから点が入るんだ、というのと一緒で、そんなことはないです。
キーパーの前にいるディフェンダーのシステムの問題だったり、ディフェンダーが入ってくれるのか、ちゃんとシステムとして機能しているのか、ミッドフィルダーがちゃんとそこをカバーできているのか、フォワードが点を取りに行けているのか、そこの連携が上手く行っているのか。
点が入ってしまうというのは、ゴールキーパーだけの責任じゃないわけです。
全体の責任だったり、監督との問題だったり、そもそも試合に臨む前の練習環境の問題だったり、コミュニケーション不足の問題など色々ある訳ですね。
ひきこもりも同じで、この個人が問題というよりは、色々な家族がありますけど、その中の問題があるわけで、それを全体的に考えていきましょうよということです。
それをシステム思考と言ったりします。
ホメオスタシス
次に「ホメオスタシス」という概念も重要だったりします。
悪いなりにもその状態を維持しようという力動がある訳です。
赤字体質の会社がありますよね?
これは良くないなと思っているけれど、なかなか直っていかない。
そんなのはいっぱいありますよね、色々な組織にも。
本当はもっとこうやった方が効率がいいよとかあるんだけど、なかなか変えにくい。
僕も自衛隊にいたからわかるし、組織だからわかるんですけど、これはちょっと効率悪いからハンコをやめてここの手続きやめようよと言っても、いざやめようとすると、「あそこに許可を取りに行かなければいけないし、そうするとあそこで問題が起きるから」と、調整が難しくなってぐちゃぐちゃになってしまうから、「じゃあ今そんなことやってる暇ないよね、とりあえず悪いながらも、このシステムを維持してやっていこうみたい」になってしまうんですよね。
ありますよね?
ジャニーズ問題もそうで、問題あるなと思いつつも、でも、そうするとジャニーさんの機嫌を損ねるからジャニーズを使わざるを得ないし、スポンサーの意向もあるし、本当は変えなければいけないけど、とりあえず自分もサラリーマンだし、あと何年同じ場所で働くかわからないから、とりあえずこの2、3年は目の前の視聴率に専念しよう、となってしまうとか。そういうやつと一緒です。
悪いなりにも安定していて、なかなか介入しにくい要素があったりしますよと。
循環的な因果
あとは「循環的な因果」です。
原因が一つではないということです。
直接的な因果ではなく循環的なものがあるんですね。
例えば外出困難というのは対人不安があるからだ、と。
対人不安があるから外に出られない、人が怖いから出られない、と。
これは単純な直接的な因果なのですが、じゃあ何で対人不安があるかというと、自信がないからですよね。自分に自信がないからだと。
何で自分に自信がないのかというと成功体験が少ないからですね。
勝った経験がない、成功した体験が少ない。
何で成功した体験が少ないのかというと、そもそも外出してない、外に出てないという。
これが循環的な因果です。
何て言うのかな、悪いサイクルに入っちゃっているんですよ。
外出ができない、だから成功体験を積めない、成功体験が少ないから自信がどんどんなくなっていく、自信がどんどんなくなるから人間が怖くなって、人間は怖いから、また外出できない、外出できないからといってこう悪循環を生んでいる。
これが循環的な因果といって、こういう発想で見なければいけなかったりします。
プラス、成功体験が少ないから親は自分の育て方が悪かったんじゃないかという責任を感じる。
だから何とかしなければ、何とかしなければ、と焦るんですね。
焦った結果、励ましたりする。
焦った結果、叱ってしまう。
焦った結果、的外れなアドバイスをしちゃったりする。
そうすると、今度は親のプレッシャーでまた自信をなくしてしまう、対人不安が強まってしまう、とこういうサイクルになっていたりします。
境界があいまい
結局境界が曖昧となってきているんです、家族というのは。
自他の区別が付いてないんです。
自分の人生は自分の人生、相手の人生は相手の人生なわけです。
子供といえども他人なので、そういう距離感。
チームではあるんだけど、同時に一人一人別の人間ではあるのに、何かグチャっとくっついている、グチャっとしちゃっているんですね。
近すぎている、そしてそれに気付けていないというのがあります。
近いからこそイライラしすぎたりする。
子供は、一番身近な親なのに、何で身近な人間の親が理解してくれないんだというんですね。
でも、それはそうだろという感じなんですよ、僕らはね。
だってそれは親は世代が違うし、価値観も違うから、一番身近かもしれないけど、あなたを一番理解できるのはもっと同世代の人だったりするよ、この分野に関して言うと親よりも他の人の方が理解しやすいよ、などがあったりするのですが、なかなかグチャっとしていてわからなかったりします。
役割とルール
距離だけの問題じゃなくて役割とルールが、その家族の独特なルールとか、独特な、何て言うかな、ものがあってグチャっとしてますよね。
親の言うことを絶対聞かなければいけない、親が言う通りに何時まで家に帰ってこなければいけない、色々なルールとか、これは母親の役割でしょう、別に家事をするのは父親がやっても息子がやってもお母さんでも誰がやってもいいんだけど、その家独特のルールがあって、冷蔵庫の管理とか台所に立つのはお母さんだけじゃなければいけないとか、グチャっとしていたりしますね。
それもお母さんのこだわりが強いせいで、子供たちを台所には入れさせないとかあったり、じゃお母さんが入れさせないんだから、今度はちゃんと食事を作ってよみたいな。
家族が密室でグチャグチャしているので、何か変な独特のルールができていたりするんですよね。
それはジャニーズだったり、ビッグモーターだってそういうのはあるじゃないですか。
僕もありましたよ。自衛隊のときでも独特のルールが出来上がっていくんです。
で、やはりダメだねと言ってなくなったりとか。
寮生活をしているとそういうのがあるんですけど。
こういうのを治していこうというのも、家族療法の一つの重要な概念だったりします。
グチャッとして家族だけで固まっていて、外からの声が入ってこないんです。
一回それをオープンにしていく。
家族の病理を明らかにしていって、一個一個訂正していく。
そうすると良い循環が生まれてきて、今度は治っていきますから。
良い循環を生めばいいんですよ。
成功体験も家族の中で積んでいって自信をつけていく、親子の問題が解決するにつれてそんなに悪いもんじゃないなと思える、色々あります。
親子の関係から距離感を学ぶとか色々ありますから、悪い循環になっている家族を良い循環に変えていくというのが家族療法の考え方の基本です。
今回は、ひきこもりと家族療法、というテーマで家族療法についてざっくり解説しました。
もし興味があったら検索して家族療法について学んでみるのはいかがでしょうか。
社会問題・現代精神医学
2023.10.15