益:では始めます。第Ⅱ部ですね。
Ⅱ部は各論という形で、精神疾患のこととか社会問題別。例えばひきこもりとか自殺、あとは年代別の脳の特徴とか起こる社会的な問題を語ろうと思います。
それの各論1章の「精神疾患編」をやります。これが主役ですからねそもそも。
これを聞かないとわからない。
精神疾患って大量にある感じがするじゃないですか、病気って。
病気って大量にあるんだけれども、メジャーなところってあるので、細かいところは各国でローカルにできた病名とかもいろいろあるので忘れてもらってもいいこともあるので、全体像を捉えておくのが大事なので全体像の話をします。
器質性精神病
まず、身体の病気で脳、意識、心に問題が起きることってあるんですよね。
それを「器質性精神病」と言ったりします。有名なところだと「脳炎」なんですよ。昔は結構あったらしいです。梅毒とかね。
池:日本脳炎?
益:そんなに激しくなくて、緩やかな感染で意識障害とか幻覚妄想が起きる感染の問題とか、昔は結構あったんです。
あと喉に甲状腺っていうのがあるんですよ。ここの甲状腺が元気を出すホルモンを出していて、そこの機能が亢進していると躁状態になる。元気が良すぎる状態になるし、ハイテンションになる。
そこがやられちゃってホルモンが出なくなるとうつっぽくなるんですよ。
これを「甲状腺機能低下症」とか言ったりします。
あとはステロイド。
ステロイドの影響でうつっぽくなっちゃうのを「ステロイド精神病」とか言ったりするんですけど。意識障害が起きるのもステロイドの問題もあるし。
あとはよくあるのは「せん妄」ですね。ICUせん妄とか術後にちょっと意識障害が起きるのもありますよね。
こういうのも精神科の治療の中で言われたりしますね。
器質性精神病は他にもいっぱいあるんですけど、これらの体の病気を治すことによって精神の症状も良くなるというのは器質性精神病と言うんです。
昔はこれらを「外因性疾患」と呼んでいたんですよ。
内因性疾患ほか
それとはまた別に「内因性疾患」と呼ばれるものもあったんですね。それは身体の病気はまだわからないけれども、まだ特定はできてないけど、何となく身体の病気っぽいなと呼ばれる病気で、これが「統合失調症」と「双極性障害」と「うつ病」を指していたんですね、昔は。
これらは妄想が起きたりするんですよね。
統合失調症というのは、ドパミン系の異常によって幻覚妄想が起きちゃったりする病気。
双極性障害っていうのは気分の浮き沈み。すごく元気な時が1ヶ月あったと思ったら、うつの状態が半年とか続く。こういう波を繰り返す病気ですね。
統合失調症も急性期と言われる幻覚妄想が出た後にうつっぽくなるんですけど、結構似てるんですよ。
あとは「うつ病」ですね。
内因性疾患のうち「うつ病」だけは昔とちょっとイメージが変わってきたんですよね。
うつ病って昔は中高年発症の原因不明のうつを繰り返す病気と言われてたんですけど、最近は若い人も多くなることがわかってきていて。
10代発症のうつとか珍しくないんですよね。
どちらかというと、慢性的な脳に対するストレス反応とか炎症が起きる結果の気分の落ち込みを繰り返す病気、脆弱性を「うつ病」と捉えるようなイメージになってきていますね。
ストレスでガツンと一回やられて起きることを「適応障害」と言ったりする。
何か特定の原因でうつっぽくなってしまうもの、うつ状態になることを適応障害と言ったりします。昔、芸能人でもいましたね。
これってどうやって区別するのって言うとですね。
古典的には適応障害はストレス性のもので、うつ病は脳の病気だっていうことなんですけど、今日的な意味だと区別はつけられないというのが結論なんですよね。
状態像として軽いものは適応障害と言ったりすることがありますね。
これはややこしいんであんまり理解しなくてもいいです。また説明します。
うつ病には結構仲間がいて、例えば「新型うつ病」と言って、寝れないというよりは過眠になっちゃうとか、食べれないというよりは過食になっちゃうパターンもあるんですけど。
でも表現型が違うだけで同じうつ病なんじゃないかと言われています。
あと「季節型うつ病」と呼ばれていて、冬の間だけうつっぽくなっている。
冬眠と似ている影響なんじゃないかと言われているものもあったりしますね。
あとは「産後うつ」とか「PMDD(月経前気分不快症)」と言って、性ホルモンの変化によってうつになっちゃうものもあったりするんですよね。
これは男性があんまり知らないですけれど、結構いますね。
抗うつ薬が結構効いたりしますね。
これがうつ病の仲間。
うつ病っていうのは主に脳の「扁桃体」ってところの、不安にかかわるところの扁桃体の過活動と言われてるんですけれど、同じ扁桃体の障害としてよくあるのが「不安障害」と呼ばれるものなんですよ。
うつ病はうつのときとそうじゃない時ははっきりしているんですけれども、不安障害っていうと漫然と不安だったりするものですね。
実はうつ病と不安障害って脳科学的には区別がつきにくかったりしますね。
不安障害もいくつか分かれて、何でもかんでも不安な「全般性不安障害」というものと、対人不安が強いものを「社交不安障害」と言ったり、あとパニック発作がある、過呼吸とか過換気みたいなものが起きる「パニック障害」のようなもの。
パニック障害の場合は「広場恐怖」と言って、特定の場所が苦手とか、また発作が起きるんじゃないかということで不安になる。
これは扁桃体の問題。
今度は記憶の問題というのもあるんですよ。
忘れたくても忘れられない。これは何かというと、適応障害も記憶というかストレス性のもので結構近いんですけれども、よく言われるのがPTSDですね。
災害とか死にそうな目にあった時に忘れられないとか。
あと複雑性PTSD。親からの虐待とかによって、長年の結果その時のトラウマが忘れられないとか、子供の場合は愛着障害とか言ったりしますね。
結構似た仲間ですね。これも記憶の同じような問題です。
不安障害と似た仲間として、「強迫性障害」というのもあるんですね。
こっちはですね、扁桃体+報酬系と呼ばれる脳機能の障害もあるんじゃないかということがわかってきています。
報酬系というと依存症の仲間のような感じがしますけど、依存症もやめたくてもやめられないじゃないですか。
池:はい。
益:実際そうで。強迫性障害の人もやめたいけどやめられないんですよね。馬鹿らしいと思いながらも手洗いがやめられないとか。鍵の確認がやめられないとかあったりします。
仲間としては溜め込み症って言って、ゴミ屋敷ですね。
捨てたいけど捨てれないとかあったりします。
依存症はアルコール、大麻、違法薬物、ギャンブル、SNS、ゲームネット、買い物、万引き(クレプトマニア)、摂食障害、食べ吐きがやめられない、自傷行為がやめられない、性依存、性行為がやめられない、風俗とか行き過ぎちゃう。
こういう依存症もいろんな仲間があって、これらも病気なんですよね。
報酬系の異常ですね。
聞いたことありますか?
池:そうですね。PTSDなんかはすごく聞きます。パニック障害とか適応障害だと、職場の異動とかでも適応障害があるみたいな。
益:あとよくあるのは知的な問題ですよね。知的な問題で障害が起きる時があって、いわゆる精神発達遅滞、知的障害と呼ばれるもの。IQ70以下の問題でもあったり。
境界知能と呼ばれる問題。これは障害とは言い難いんですけど、境界知能の問題だったり。
あとは発達障害ですね。
部分的な知的障害のようなものがあって、空気が読めない、人の気持ちをわかるところの能力だけが弱いASDとか。
集中力を維持するのだけが極端に弱い衝動的な障害があるADHDとか。
読み書きだけができないとか、数学だけができないというLDの問題とかがあったりします。
これも問題ですね。
あとちょっと似てるんですけど、人格自体の問題。
考え方とか物の捉え方自体に異常がある「人格障害」と呼ばれるものもあって、今はここの知的な問題との被りが多いですね。
A型は、統合失調症のような奇妙な考え方をするとか、統合失調症のように人と話すことが苦手とか、あと変な妄想を持つ(パラノイア)、A群と呼ばれるパーソナリティ障害があります。
あとB群と呼ばれるものは、自己愛性パーソナリティ障害といって、自分のことを大好きすぎて相手を傷つけることをいとわないとか、反社会性パーソナリティ障害といって、いわゆるサイコパスと呼ばれるタイプの社会道徳を破ることに躊躇がない人たちとか。
演技性パーソナリティ障害と言って、嘘くさい演技をしながらも自分の利益を守るとか。
あと境界性パーソナリティ障害といって、見捨てられ不安だったりとか「自殺する」と言うことで人を振り回したり、操作したり、対人イメージが不安定な人たちとか。
これも結構ADHDと被ることが多いんですけどね。
というのがB群としてあって。
C群としては、依存性パーソナリティ障害、誰かに依存しないと死んでしまうんじゃないかという不安が強い人とか、回避性パーソナリティ障害、人を避けちゃう、恐れ過ぎる、結果的ひきこもっちゃう人たち。
強迫性パーソナリティ障害、強迫行為がやめられない。不安障害と似てますけど、そういう人格障害と呼ばれるものもあったりする。
あとこう統合しにくいというか、ストレスによって体に出ちゃうとか分離させちゃうものを「ヒステリー」と呼ぶんですけど、古典的には。
例えば多重人格のようなもの「解離性障害」。
あと、記憶を失ってしまう、記憶喪失のようなものも解離の仲間ですね。「解離性健忘」と言ったりします。
あとは「転換性障害」といって、身体に痛みが出ちゃうパターンですよね。
「線維筋痛症」も結構似ているんじゃないかなと思うんですけど。そういう転換性障害と言って、ストレスは感じてないし落ち込みはないんだけど、なぜか肩が痛いよとか、腰が痛いよとか、なぜか手が動かないよとか、目が見えないよとか。クララみたいなものですよね。
そういうのも精神科の仲間であったりしますね。
あとは最後に認知症ですね。
認知症も精神科で診るもので、「アルツハイマー型認知症」とか、前頭葉と側頭葉が特に萎縮する。だから理性的な判断ができなくて、言語能力も落ちちゃう「前頭側頭型認知症」とか、こういう人って同じパターンしか繰り返せなくて怒りっぽくなるんですけど。
「DLP/レビー小体型認知症」といって、パーキンソン症状とか幻視が見えてくるものもあったりします。
こういうのも精神科の治療の対象だったりしますね。
あと細かく言ったら「てんかん」も診たりもするし、いわゆるてんかん発作のてんかんですね。
あと、年を取ってから統合失調症になる「遅発性パラフレニー」もあるんですけど。
年をとってから統合失調症の幻覚妄想が出たりとか、近所付き合いができなくなるとか、近所の人に対して変な妄想を持つパターンもあったりしますね。
ここら辺が精神科の病気の全体で、合併することもあれば一つだけのこともあるし、でも結構合併するんですよね。
知的な問題があると親も知的な問題があったりして、自己愛的だったりして、それで結果的に子供はPTSDのようになっちゃう。
PTSDがあるからうつにもなっているし、パニック発作も起きるとか。
家族か本人かはアルコールに逃げちゃうとかネットに逃げちゃってやめられないとか、結構被ることは多いですね。
でも見てみると、記憶の問題は海馬の問題、前頭葉の問題。前頭葉でも記憶するので。
あと扁桃体とか報酬系の問題。
脳の問題だから、子供の時とか10代の時に過度なストレスを浴びていると、やっぱり病気になりそうですよね。
池:うん。
益:成長しないからちゃんと。若いうちにお酒とか大麻とか違法薬物をやっていると、やっぱりうまく育たないからぐちゃぐちゃになりそうで、うつも長引きそうですよね。
それはそうだろうなって感じがこういう風にわかってきますけどね。
子供の時にギャンブルをやっていると、子供の時からお酒を飲んでいると、将来的には全員じゃないけど、アルコール依存症とかギャンブル依存になりやすいですからね。
そういうのはこういうのから分かるかなという気がしますし。
一個障害があるから次の病気を呼びやすいというのも何かわかるかなっていう感じはします。
池:これは診断する時は、すごく繋がってると難しそうに見えるんですけど。
これがこうですというのはどういう判断になるんですか?
益:これはこの診断に近いなというものと除外診断との合わせ技でいきますよね。
全部が診断基準を満たすってこともなかったりしますよね。
臨床的にはうつっぽいし、でも親子問題もあるし、パニック発作もあるし。
でもこれがパニック発作なのかフラッシュバックなのかはちょっと鑑別しにくいなとか。
あと診断基準というのがあるので、基準を満たさないなっていうのもあるんですね。
グレーゾーンと呼ばれるものとかもあるし。
だからどうやって鑑別するかっていうと難しいっちゃ難しいけれども。
例えば発達障害のグレーゾーンとかだったら、うつ病ではないな、不安障害でもないな、PTSDでもないなって形で最終的に落ち着きがないのはやっぱり発達障害でグレーだからねっていう逆説的なパターンもあるし。
ここら辺はちょっと何て言うのかな。臨床なんでちょっと曖昧さもあるし、同じ人間っていないんで当たり前だけれども。
この人はアイドルですかとか、この人は女優ですかって言われた時に、「うーん」という時があるじゃないですか。
だから精神科の疾患も、この人は何ですかという時にピタッと当てはまらないんで、そこら辺は曖昧さの許容が大事ですね。
患者さんって白黒思考の人が多いんですよ。
これに当てはまってないと嫌だとか、敵か味方かしっかりしてないと嫌だという人がいるんですけど、世の中そうじゃないんで。
診断にこだわらないっていうのは、診断にこだわることができないし、そもそも。
こだわり過ぎているのはそもそものその人たちの白黒思考の問題だったりするので、双方に治療していくということになりますけどね。
だから全体を捉えていないとたぶん理解しにくいんですよ、精神医学って。
全体を理解してやっていくというのがとても重要だったりしますね。
難しいですね。
池:難しいです。
益:難しいですけど、まあでもこれだけなんで。逆に言ったら。
メンタルヘルス大全
2023.11.6