益:はい、じゃあ始めます。
集団であることによる問題ってことですよね。その話ですけれど。
二者関係で起きるカウンセリングとかの状況、こういう二者で会話してる時に起きる変なメカニズムを扱ったのが、基本的な精神分析なんですよね。
コンテンツ
精神分析の醍醐味
今二人で会話してるけど、何か変なことになっているよね、みたいなことをメタ認知してもらって、これが診察室の中で起きているトラブルじゃなくて、日常生活の自分もこんなところあるよねという発見をすることが、精神分析の醍醐味なんですね。
実際に二人の関係で起きてないことを、「いやこの前、上司に対して無性に腹が立っちゃったんですけど、あれって私はお父さんの姿を上司に重ねてんですよね、どう思います?先生」とか言って「うん、そうだね」とか言っててもインパクト弱いんですよね。
それはそれで普段話せない話だし、共感してもらえるし、そういう話は普段絶対できないから、普通の職場とか友達関係とか家族とか恋人と。だからそれだけでプロの価値はあるんだけども、もう一歩先の話があって、それが精神分析の醍醐味なんですよ。
密室空間だから、何度も会ってるうちに人間関係が出来上がってくるんですよね。
だからもう上司と言わず、益田のことが腹立つ人が出てきて。
池:はは。
益:「何なんですか」みたいなに怒ったりするんだけれども、「いやいや待ってくださいよ。これは上司と起きてることと一緒ですよね、僕らの関係でも起きてるんですよね。だって、あなたお金払ってわざわざ来ているのに同じことを起こしてますよね」
「僕そんな酷いことしてないでしょう?」
「残業押し付けてないじゃない」
「多少失礼な言い方するかもしれないけど、それは別にあなたを思って言っているわけだし、別にバカにしてるつもりもないわけだからそんな怒んないでよ」みたいなことですよね。
それでもなってしまうことに、自分の異常性というか、認知のクセに気付くんですよ。
それがすごいインパクトですよね。「マジやん!」みたいな。それが精神分析ということですね。
無意識
益:例えば精神分析というのは、「無意識」があるっていう風に考えるんですけども。
20世紀初頭の概念なので、その当時はまだ無意識というものがあまりないんですよ。
構造主義が生まれる前後なんで。
分かります?その言い方で。なんか難しいですけど。
20世紀の初頭だから第一次世界大戦が始まってもないんですよ。
人類って世界大戦があったから、西洋を中心主義って駄目だねとか、人間てやっぱり愚かなとこがあるんだね、ということを第一次世界大戦、第二次世界大戦を経たからわかったじゃないですか。
一部の哲学者は知ってましたよ。あと宗教も当時まだ力があったから、人間の何て言うかな、自由意志では及ばないとか、そういうところあるよねっていう風に思っている人もいたけど、何となくよくわかってなくて。
でも人間の万能感があった時代なんですよね。
万能感があったから戦争をしたんですよ、みんな。
その時の人なんですよ、フロイトは。
第二次世界大戦が始まる前に亡くなっているんで。
今でこそその無意識があるとか、文化の影響を受けるとか、社会の影響を受けるとか、政治家とかみんなが信じているから、やっぱりこの人たちは悪いんだと思ってしまうとか、洗脳されやすいメディアの影響を受けるということは、今でこそ人類にとっては当たり前の常識になっているんですけれども、当時は違ったんですよね。
その時に、こういうのあるよねと言ったのがフロイトだったりしたんです。
社会の影響でこういうことを言うよねとか、過去のトラウマとか経験からこういうことを人間はつい言ってしまうよねということを言ったということがフロイトのやったこと。
現代だと別にそんなの当たり前じゃんみたいなことなんですけども、当時はすごかったんですよ。
そもそも聖書を否定するのもすごかったですしね。
そういう感じですね。
投影・転移
無意識にやっちゃうことは何かというと、代表的なのは「投影」とか「転移」ですね。
細かいことを言ったら色々精神分析の理論もあるんですけど。
今回は代表的な4つを言います。
フロイトも色々なこと言ったし、お弟子さんも色々なこと言ってるんですけど、実際僕が臨床で使ってる概念というのは精神分析の全てではないし、精神分析を本格的にやっているわけじゃないんで、わからないこともあります。
でも精神分析のみならず、精神科医だったらとか、心理士だって一回は絶対に学ぶコモンセンスになっているところを中心に話します。
「投影」というのは何かというと、自分の感じてる感情を相手に照らすんですね。
そして相手がそう思っていると思う。例えば、自分が怒っている時に、相手が怒っているように感じるとか。
自分が持っている感情を相手に反射して、相手がそう思っているように感じてしまうみたいなものを投影と言ったりしますね。
文脈によっては色んな幅広さもあるんですけれども、基本的にはそういうことなんです。
わかります?
池:はい。
益:だから誤解が生まれやすいんですよね。
互いに本音を言って感情的じゃないという前提で喋ってるつもりなんだけれども、ついつい「いや、自分は冷静なのに相手は怒ってるんじゃないか」という時にはだいたいこういうことが起きてたりしていますね。
臨床をやっているとよく思いますね。
「先生は私に対して何か怒っている、冷たいですね」と。
そんな何にも思うわけないじゃないですか。だから「僕は何も思わないよ」と毎回言ってるのに、本当に何か個人的な感情を皆さん持つと思うんですね。
100%思わないですね、ほとんどのことは。95%くらい思わないですね。
転移というのは、過去の記憶からその人を重ねてしまうんですよね。
年上の男性、50代の男性、40代の男性だと全部父親と重ねてしまう。そうすると、優しい人なんだけど父親の影響を受けて怖い人に見えてしまう。それを転移と言ったりしますね。
これはオーソドックスなものから複雑なものまで色々ありますね。
でも、これも科学的にもちょっとわかってきていて、例えば初恋の人と同じような人を選びやすいというのも、転移の一種とも言えるし。
人間の脳はどこか記憶と連動して社会を見ているので、世界を捉えているから起きるのは当然だよねみたいな感じですね。
あるがままの世界を見ていないので、自分の主観が入って、感情が入るから、合理的に行動できないから不幸が生まれたりとか、更なるトラブルを招いたり、うつや不安が起きるというのが精神医学のベースの考え方なので、転移が起きていることを意識するとか理解することで、より合理的に動けますよというのがわかるという感じですね。
投影同一視・同一視
投影同一視というのはちょっとわかりにくいんですけど、これは自分のネガティブな感情の権化がその人だみたいになっている。
例えば子供がコロナの時に、友達をコロナというあだ名を付けていじめるということが世界中で起きたんですね。
それはコロナに対する怒りとか不満とか混乱を、自分の中で抱えられないんで、子供とか。
それを誰かに名付けるというか、象徴にすることで、そして現実世界でその人をいじめたり攻撃することで、自分の内的な不安を解消しようとする作用なんですよね。
これは投影同一視と呼ばれるもので、結構よく起きますね。
私の人生がうまくいかないのは誰々のせいだとか言うんです。そんなわけない。
でもそれが時に集団ヒステリーみたいになってさらし首になっちゃったりとか、うまくいかないのはこの人のせいだと言って死刑になっちゃうことがありますよね。
そういうものが集団が起こす投影同一視なのかなと思ったりします。
同一視というもの自体は、例えばイチローとかのスポーツ選手を応援するという時は同一視と言ったりして、自分の日頃のフラストレーション、夢を叶えられなかったことを推しの選手に切り替えることで、その人が活躍することで、自分の日頃叶わなかったことを解決するというのを同一視と言うんですけども。
より原始的なものを投影同一視と言いますね。
同一視と投影同一視ってどう違うのかと言われると難しいんですけど、あんまり変わらないといえば変わらないし、用語の使い方というか文脈なんですよね。精神分析的なカルチャーの文脈によるので、あまり複雑に考えなくていいですね。
抹茶と緑茶ってどう違うんですか?と言われているのに似てて。
海外の人に説明するのは難しいですよね。
このペットボトルは緑茶だけど、抹茶入りって書いてますけど、どういうことですか?とかわけわからなくなってるんであんまりそこは突っ込まないでほしいというかね。
逆転移
あと逆転移というのは何かというと、臨床で言うと治療者側が患者さんのことに対して腹が立っちゃうことを逆転移と言ったりします。
あと恋愛感情を持つことも言ったりしますね。
転移の中で陽性転移と陰性転移というのがあって。
陽性転移というのはポジティブな印象を過度に持つこと。過度に理想化するとか、恋愛感情を持つ。
陰性転移というのは逆ですね。ネガティブな感情を持つこと。怒ったり攻撃的だったり見下したりとかする。
逆転移というのは、医師が患者さんに対して思う、治療者側が思うことなんですけれども。
これは教科書によって違うことを解説するんですけども、基本は相手に操作されてしまって動くことなんですよ。
だから相手が転移を起こして「益田先生、怒ってるでしょう」と言っている時に、こっちも共感しているから知らず知らずのうちに怒っている時があるんですよね。
人間が二人いるんで、何か奇妙なことが起きるんですよ。同期しちゃったり。
変に同期してるから、「何で俺は知らないうちに患者さんに対して怒っているんだろう?」「あれ?冷静でいるはずなのに何でこんなに呼吸が浅くなってるのかな?」っていう変化なんですね。
これは患者さんとか相手によって操作されている時に起きる感情変化だったりして、この逆転移に気付くことで、相手の心理を理解するのが逆転移と言うことなんです。
これがたぶんベースなんですね。
だけどこれが何か誤った理解で広まってしまって、勝手に医師が患者さんのことを好きになっちゃうとか、怒っちゃう、医師自身も昔のトラウマとか色々なものがあるわけじゃないですか。自身のものを持ち込むことを逆転移と書いてたり、そういうこと説明していることもありますけど、本当は違う。
それは医師の転移だから、そもそもそこは。
治療者による転移だったり、治療者による投影だったりするんで、投影同一視とか。
そうじゃなくて相手から引き起こされて、何か知らず知らのうちに操作されている感じというのが逆転移ということですね。
面白いですね。こういうことが起きるということです。
人間ってやっぱりこう集団的な動物なんで、何となくよくわかんないけど同期しちゃって、自分の意志で考えられないってことが起きるんですけど。
そういうことを説明してるということですね。
これが、投影・転移・投影同一視・逆転移の話でした。
2023.11.14