益:はい、始めます。もうIV部ですね。背景理論の話をちょっとしようと思います。
精神医学は診断して薬を出すだけで終わるというものではもちろんないですよね。
色々なことを知らないといけないということで、色々なことを知りながらやってるよという話ですね。
精神医学は、遺伝子だけで問題が起きるわけじゃなくて、やっぱりその背景にある社会問題も含めて治療で扱わなきゃいけないし、その社会問題が背景になっていることもあります。
精神医学と言うと、診断して薬を使うという治療法と、カウンセリング心理療法と言われるものですね。会話によって治していく。そして福祉導入。これが3本柱です。
薬理学・心理学・福祉学というのが背景理論としてあるよと。
これは臨床心理と一般的な心理学とはまたちょっと違うんで、いわゆる普通の心理学と認知科学、色々なものを駆使しながら臨床をしていたり、患者さんに何が起きてるかということを考えたりしますね。
心理学は、やはり人間が使うものだから思想と関連性が結構あるんですよ。
もちろん患者さんというのは生身の人間なので、色々な価値観や考え方を持っていて、相手の価値観を無視して今の問題だけ扱おうとするとうまくいかないんで、治療の中では歴史とか哲学、日本はあんまりないかもしれないけれども宗教的な要素とか、そういう知識、倫理学とか、こういう知識もないとディスカッションになっていかないので。
カウンセリングはディスカッションの要素もあるので、こういうのも背景理論としてありますよね。ここの中には社会学、文学ももちろんある。
患者さんと文学の話とか映画の話は出ますからね。
薬理と言うと統計というのも結構大事で。
統計的にしか処理できないんで、統計学も重要な概念ですね。
統計は心理学とも関連性があります。
あとは統計は強化学習の世界とも似ているので、AIとかそういうのも関係してますね。コンピューターサイエンスとかね。こういうのも僕らは今扱ったり。
そもそもそれって何なの? 科学とは何かという科学哲学の領域、診断学も結構関係してたりしますね。
結構複雑なんですよ。
脳科学、脳神経科学も背景理論としては大事ですよね。当たり前ですけど、精神医学は脳だから。
脳神経における仕組みのところをAIも関係してくるし、脳神経と薬の関連性もありますね。
あとは脳は年齢によって違うので、特に有名なのが10代の脳はよく研究されているのかなと。
それはなぜかというと教育学とすごく関係するからですよね。
ここには発達障害の問題もすごくあるんです。
非認知能力とか教育学の分野もやっぱり僕らと結構関係があるんですよ。
教育学と福祉の関係もありますしね。
福祉の話をしたら、政治経済とは切っても切れないので、政治経済の話。
政治経済は地域社会と関係性が高いので、地域カルチャーのことや当然社会学とかも関係もしてくる。
最近だとマイノリティの話だとフェミニズムとかLGBTQとか。
ここでの活動っていうのはやらなきゃいけないし、我々の領域とも近いんだけれども、それ以上に精神疾患や発達障害の部分はすごく似ているんですよね、運動の流れが。
フェミニズムをやることで、女性が解放されていけば、今度は性的マイノリティが解放されて性的マイノリティが解放された後にたぶん精神疾患が解放されていくと思うので、ここの関連性とか動きも結構似てたりするし、研究されているという感じですね。
こういうのが背景理論として色々知らなきゃいけないというのがありますね。
他にも色々と領域はあると思います。
メンタルヘルス大全で精神医学をⅠからⅢをやって何となく精神医学を掴んだ後は、もうちょっと個別の学問をしっかり読んでいってもらうと全体像が見えてくるし、 なので、精神医学の中の特に。
でもここら辺の話を全部話そうとしたら主観的なものじゃないとまとまらないんで。
初学者の一人がこういう主観的な要素をやっているという感じですね。
でも細かくいけばこういうことになりますよということですね。
どうでしょうか。
池:いや、色々あるなって。なかなか大変だなって。
益:そうなんですよね。だから結構飽きないんですよ。精神医学やってると。
こういうことを勉強したと思ったらこっち側も勉強したり。
全部臨床で活きるのでわりと面白いですよね。
全部の専門家はいない
でもやっぱりね、政治経済の専門家はいても、教育学の専門家はいても、全部の専門家ってなかなかいないんですよね。
これは今回のコロナの件で本当に僕は思いましたね。
政治と経済と医学を3者の立場でわりとよく知ってる人はほとんどいないということが、僕は結構驚いたんですよ。
つまり、僕は当たり前ですけど医師だから感染症の専門家じゃないけど、医師だからだいたいわかるし、どんなものかってわかるし、どれぐらい死ぬかもだいたいわかってて。
かつ自衛隊にもいたから政治の世界も何となくわかるんですよね。
ここを立てるからこうなんだなとか。国際政治も踏まえてなんとなくわかったし。
あと経営もしてるから、開業医とかYouTuberとして経営もしているから、経営者の思惑とか飲食店の苦しみとかも結構わかって。
しかも大きい企業のものから小さい企業、どちらかというと自営の方が僕は近いので、自営のことまでよくわかってたんで。その時の補助金の流れとかもちょっと見えて、全体を含めて理解していたんですけど。
でも僕と同じぐらいの、全部はそこそこしか知らないけど、この3つをある程度高いレベルで理解している人はホントにいないってことがわかって。
特別僕がすごい詳しいわけじゃなくて、精神科医は何となくその3つのバランスでわかってたんですけど。でも何か今回思って。
だから混乱が生まれるんだなとか、議論がうまく成り立たないんだということがわかってましたけどね。
だからこういう色々な分野のことをちょこちょこ知ってるというのが精神科医の強みというか、精神科医らしさのかなとは思いますけどね。
池:そのためにも早めにメンタルヘルス大全をまとめると、皆さんが一端を知れる訳ですね。
益:一端を知れるし、例えばフェミニズムやLGBTQの分野の人も精神医学のことを知ったら役に立つだろうし、ここに関わる全ての人たちはなんとなく知ってるけど、よくわかってない人たち。
うつ病って聞いたことがあるけど、何となくしか知らない人たちも多いと思うので、こういう全部に関わる。
コンピューターサイエンスをしている人から政治運動というか、人権運動をしている人まで、皆にとって役に立つんじゃないかなと思っていて。関係しない領域ってないですよね。
僕的には結構不思議なんですよね。
何で皆いろいろなことを知っているのに、心は脳であるという単純なところとか、そして病気になることもあるという、本当にごく基本で単純なことを忘れているんだろうみたいな。
人はいつか死ぬということを忘れている人は結構多いですけど、それ以上に病気になることもあるとか、変わった人がいるとか、多様であるということを忘れちゃっているのは損な気がしますけどね。
損というか、無駄な問題を生んでしまっている気がするので、知るといいんじゃないかなと思いますね。
これでIV章の題材を終わります。
メンタルヘルス大全
2023.11.19