人格障害に決まった治療法はありませんが、今日は「境界性人格障害」について教科書的なものから逸脱して僕自身の治療感もお話ししてみたいと思います。
境界性パーソナリティ障害の特徴の1つは、1日の中での気分変動が大きいということです(躁うつ病の場合は数週間単位での変動)。また、自分の中で人間関係がどうあるべきか、相手をどこまで信用していいのかということが不安定なので、「理想化とこき下ろし」というように同じ人に対して賞賛したりこき下ろしたりと評価が極端になります。
一方で、相手に過度に依存して自分が空っぽになってしまうということもあります。自分の中にあるネガティブな感情を相手の中に投げ込んでしまい、相手が怒っていると思ってしまう投影同一視も起こります。そうされた相手は訳がわからないので離れていってしまいますし、家族や恋人であった場合は本人を思うがあまり振り回されたり共依存関係になったりしてしまいます。
自分の中での激しい気分の変動を消化しきれず、それが自分の外に出てまた自分に襲ってくることも多いです。時々人に向かって出ると周囲の人はそれにびっくりしてしまいますが、ほとんどは自分に向かってきているということはあまり知られていません。自分に向かってくると、見えない場所の自傷行為に繋がったり自己破壊的にアルコールを飲むといった行動にも繋がりやすくなります。
知能検査(WAIS)では正常であることが多いですが、検査結果を見ると意外と発達障害の人が多いのではと思っています。インクの染みを見て何が見えるかを答えるロールシャッハなどの投影法では問題が見えることもあります。
治療は薬よりもカウンセリングや精神療法が中心になるというのは異論のない事実だと思いますが、精神科の診療は短時間ですし、カウンセリングは治療者がいるのかや経済的な問題などなかなか難しいのが実情です。教科書的な治療法としては「弁証法的CBT(認知行動療法)」「メンタライゼーション」「対人関係療法」「精神分析的精神療法」などが挙げられますが、実際にどこまでできるのか、というところです。
一番大事なのは治療構造を安定化させることです。治療は長期に渡ることがほとんどなので、双方に無理のないルールでやっていくようにします。不安定な対人関係が原因でどこかの病院で喧嘩別れになってしまったとしても、別の病院とつながる、福祉とつながる、カウンセラーとつながるなどどこかの治療ネットワークに引っかかることが大事です。
僕なりの私見としては、隠れた発達障害に注意しようということです。先ほど述べたように、WAISで凹凸がわかるケースもあります。その場合は紙に書いて渡すなどロジックで理解してもらえるようにすることも大事です。なんとなく雰囲気でわかってもらおうとすると大抵失敗します。重要なことは、本人の困り感をどう理解して共有するかということです。