今日は「投影」「転移」「同一視」「投影同一視」の解説をしてみたいと思います。この辺りの言葉の使い方は本当に難しいので、YouTube用に少し直しています。大雑把にでも理解してもらえたらと思います。
投影や転移は精神科のカルチャーでは非常に重要な概念です。精神分析だけのものではなくメンタルヘルスを扱う領域では当然の常識としてシェアされている概念ですが、基本でありながら使いこなすことがかなり難しい概念です。それを大胆にも話してみようかなと思います…。
投影と転移
「無意識下にある自分の心が、外の現実世界の出来事として知覚される」と定義してみました。
例)夜道を歩いているときに柳の木が揺れるのを見ると幽霊と勘違いしてしまう。
→不安な気持ちがあると影が怖いものに見えたりするということです。このように自分の気持ちが外に投影されることがあります。
例)学級委員長はすごいなと思っていると、勉強もスポーツもできると思ってしまう。大人になって振り返ってみると学級委員長は先生の言うことをただ真面目に聞いている子だった、勉強もそこそこだったしスポーツも下手ではない程度だった。
→すごいなという気持ちがあると過度に理想化してしまうこともあります。
それから、思春期の始まりの頃には好きな異性ができるなど性に目覚めます。
例)自分が好きだと相手も自分を好きだと思ってしまう。ちょっとした親切から好かれているかもしれない、ちょっと笑顔がないと嫌われているかもしれないと思ってしまう。相手は何も考えていない。だいたいが考えすぎ。
このように、自分の心の中の状態によって外が歪んで見えます。
■投影
「自分の感情が相手の感情として感じられる」
自分が好きだと相手も好きだと思ってしまう。
逆に、自分が相手を嫌いだと相手も自分を嫌いだと思ってしまう。
■転移
「心のイメージを外の実在人物に押し付ける」
父親が厳格で厳しいと、大人になっても年上の男性を警戒してしまう。
寝ぼけていると学校の先生を「お母さん」と呼んでしまう。(大人、頼りにしている存在)
■同一視
「他人の功績を自分のものと思う」
ソフトバンクが優勝したからお酒を飲む。(ソフトバンクの優勝に自分は関係ない)
■投影同一視
「自分の感情を他人に押し付ける」
自分の不安感を相手に押し付ける。(コロナが怖いので同級生に「コロナ」とあだ名をつけて怖がる、いじめる)
有名人を叩く。(自分の生活と関係ないのに、今のフラストレーションをテレビの誰かに押し付けて攻撃する)
ひどいなと思いつつ、そもそも転移や同一視を受けることで商売をしているとも言えます。
なぜ精神科で重視されるのか
なぜこれらのことが精神科の中で重視されるかというと、患者さんのストレス、病状の悪化、退行(幼児化)などにより起きやすくなるためです。
心の中の出来事によって外の世界をまともに見られなくなるので、精神科では注意して見なくてはなりません。患者さんの話をそのまま聞いていると歪んでいることもありますので、医師はそれに合わせた対応をしなければなりません。
例えば、うつがひどい時は歪んで見えているため、すごく被害的になりやすくなります。ただ無表情だったり別のことを考えているだけでも「先生は怒っているのではないか」と思われることもありますし、笑っていたら笑っていたでバカにしているのではないかと言われたりするので難しいところです。
また、反復強迫で強化されることもあります。虐待を受けていた人がDVをする夫を選んでしまう、パワハラを受けていた人が再びパワハラを受けやすい人に寄ってしまうといったことです。このようなことが起きやすくなることを理解して治療に励みます。
このような場合、「あなたにはこういうことが起きていますよ」と言葉で伝えれば良いというものではありません。
無意識の出来事なので言葉で伝えても伝わりません。
言葉ではない形で伝えていくことが大事なので、体験重視ということが言われます。例えば、カウンセリングではちゃんと共感をするといったことです。
無意識で起こることは言葉で語ることはできないので、芸術やストーリーなどメタファーでしか表現できないのが面白いところです。
相当高いメタ認知能力や客観視する力が必要なので、客観視する力が弱いASD(自閉スペクトラム症)の人やうつがひどい時にはどのような言葉がけをすれば心が楽になるのかなど色々な要素があります。これは結論が出ないですし、今後も出ないと思います。試行錯誤しながら治療にあたっています。
あとは逆転移の問題もあります。治療者側も同じようなことが起きているのではないかということです。
無意識のことなので僕自身の逆転移はないとは言えませんが、概ねそういうことはないです。
投影や転移は精神科のカルチャーとして重要ですし、長く通院されている方はもう一度言語化して意識してみるとより心の理解が深まるかと思います。