最近読んだ「らーめん再遊記」という漫画が面白かったので紹介したいと思います。
主人公の芹沢は本人曰く「ミドルエイジ・クライシス」でうつっぽいのですが、自己理解や周囲への理解が深まる中で良い意味で開き直り、心的回復をするというストーリーです。それが1冊の漫画の中に描かれていて良い話だなと思いました。
コンテンツ
らーめん再遊記(1)作品背景
1999年に「ラーメン発見伝」という漫画が始まり、芹沢は主人公のライバルでした。ラーメン発見伝の終了後、スピンオフが何作かあり、この「らーめん再遊記」は三作目です。
芹沢は意地悪だけどカリスマ性があるのですが、今作では「とにかくやる気が出ないんだ」と言っていて、「あの人が何でこんなに元気がないの?」というところからスタートします。ここが面白いところです。
あらすじ
芹沢は脱サラして離婚もし、「新しいラーメンを作るんだ!」と戦ってきました。時には卑怯な手も使ってきたヒールです。ところが連載から20年経った今作では「最近やる気が出ず、むなしい」と言っています。
新しい世代のラーメン屋が出てきて自分のラーメンがどうも古く感じられたり、若手が作るラーメンがミュシュランを取ったりして自分はもう敵わないのだと自覚しているのです。悟った結果、ラーメンコンサル会社の社長を辞めてしまいます。「ラーメン馬鹿に戻らせてくれ」と言って心的回復が起こります。
心の回復まで描かれているのが面白いですね。回復するまでの過程をきちんと描いているものはなかなかないですし、臨床的に見ても矛盾がない作品は珍しいです。
そもそも僕が「ラーメン発見伝」が好きなんですが。去年の6月にお酒をやめてからラーメン中毒ですし、防衛医大では皆で休む場所で制服にプレスするのですが、そこになぜか「ラーメン発見伝」があってその時からの付き合いなので沁みるんですよね。
心的回復はいかに起こるか
・自己分析
色々な人と会話をしながら生い立ちから振り返ります。
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・ラーメン分析・理解
今のラーメンはどういうものでどのようなものが求められているのか、新しいラーメンとはどういうものなのかを何度も定義して理解していきます。仮説検証をして抽象度の高い言葉で表現する過程が描かれます。
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自己分析:開き直り
それを経ることで自己分析がさらに深まり、開き直ります。
実際には症例検討をしても治療者自身もどこが回復の契機だったかがわからないことが多く、「ここで良くなった」というのは言い当てにくいものです。漫画はストーリーなのでその中でポイントはあるのですが、本当は違って自己分析と周囲の理解を延々と繰り返していくのですよね。それである瞬間スッと抜けていく、ワークスルーが起こります。そうすると、現実は変わっていないのに開き直りが起こります。
表面的には負けのストーリーですが、内的な部分では成長・回復が見られます。外的なものが変わらなくても内的なものが変わっていくというのがよくわかります。
気になったポイント
・独学の根なし草
「俺なんか独学の根なし草なんだ」と言いますが、そこが自分と重なる気がしてしんみりします。
・新しい世代=孫感
新しい世代を描くのですが、妙に「孫感」があります。孫感というのは僕は気になっていて、テレビを見ていても「孫」っぽいんですよね。若い芸能人も妙に媚びるというか孫感があります。
新世代のラーメンは丁寧にダシを取っていて麺のレベルも高く、これは昔の中華そばをハイグレードにしたもので蕎麦の高級化に似ている、これが昔の人にも受け入れられやすい形なんだなどと語っていますが、これが孫感、おじいちゃんにも親しまれるラーメンという感じがします。そこで自分は昔と今の間に挟まっていていい踏み台にさせられたと言うのですが、これもしんみりします。
・自己模倣
自分のことを自己模倣に過ぎないと言います。これも作者が自嘲している感じでもありますし、電子書籍と言えども漫画というメディアが新しくなっているようでなっていない皮肉の効いた感じがして読んでいて楽しかったですね。
男くさい漫画ですが、よかったら読んでみてください。
「らーめん再遊記」作/久部緑郎 画/河合単 協力/石神秀幸(小学館)