今日は前回、前々回と同じホワイトボードを使って「境界性人格障害の治療」について解説したいと思います。前々回が発達障害、前回がアルコール依存症、そして今回が境界性人格障害です。
これらの治療はもちろん違うところもありますが、似ているところもあります。治療の土台が整ってきたら、個別の課題対策を行い問題解決能力を身につけてもらうことが治療の中心になる点が似ています。
コンテンツ
境界性人格障害の治療:初期
・ラポールの形成
境界性人格障害の治療で重要なのはラポールの形成です。つまり、きちんと通院してきてもらえるということです。そして外来の時間も再診の5分〜10分前後をきちんと守れる。これが上手くいけば治療は自ずと上手く行きます。逆にそこが上手くいかない場合は治療もうまくいきません。
・境界性人格障害の診断は減っている
僕は境界性人格障害と診断することは減りました。見捨てられ不安がある、理想化とこき下ろしをするような境界性人格障害の人は減りました。僕のクリニックの1%もいないと思います。
ただ、発達障害(ADHD)の人はすごく増えているので、そちらの傾向がある人が増えているのかなと思ったりします。時代によって疾患の症状の現れ方が違ってくるのです。僕の動画に「発達障害の攻撃性」というものがあるので、それを見てもらえるとなんとなく理解できるのではないかと思います。
境界性人格障害と思われていた人で実は発達障害という人は結構多いのではないかと思います。
ルールが守れないというのもADHDといえばADHDらしさとも言えます。境界性人格障害として治療をしていてうまくいかない場合は、ADHDの方をメインに治療に持っていくことが多いです。
・薬の検討
境界性人格障害の人は衝動性が強かったりするので、抗うつ薬はできるだけ出さずに、少量の抗精神病薬でコントロールしていくのが基本だと思います。クエチアピン、リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾールなど色々あります。
・外来以外の場
カウンセリングをうまく利用できないかということは検討します。
ドクターショッピングを繰り返して通院先が安定しない人も多いのですが、それでも医療のネットワークのどこかに引っかかっていれば治療は継続しているものだと思います。
たとえ半年ぶりに来る人でも「ムカつくけどたまには益田のところにでも行ってやるか」と、瞬間瞬間で頼れるということがわかってもらえれば良いのかなと思います。人間関係において一人の人と安定して仲良くし続けるのは大事な要素ではあるのですが、瞬間瞬間で仲が良い人、頼れる人、信頼できる人は変わっていくはずです。
境界性人格障害だとその瞬間が短いのが問題なのですが、それが彼ら彼女らなりのストレスコーピングの方法なので、自分たちとは全く別物だと思わずにやっていくのが大事だと思ったりします。
境界性人格障害の治療:中期
前期でなんとか顔を覚えてもらい、野良の猫ちゃんがここに来ればエサをもらえると覚えるように、たまにでも良いので来てもらえると薬をどうするかを考えたり個別の課題対策をしたりします。言語化する力が弱かったりします。
僕の場合は、本人が悩んでいることを直接扱おうとすると侵襲性が強くて境界性人格障害の人は傷ついてしまって治療に結びつかないことがあります。「どうしてあなたは悩んでしまうんだろうね」とか恋人の話とかすると情報量が多すぎて混乱してしまうことが多いです。世間話の中から何か教訓めいたものがあると良いのではないかと思うので、さらりとした話題をします。
もちろん自分から不安を掘り下げたいと言ってきた場合は付き合います。ただ、それが行きすぎてしまうと自分で自分を燃やし続ける炎に変わってしまうこともあるので、そのような場合はこの話はやめておこうよと問題を一回置いておくことをします。
そういうことをやっていくうちに、問題解決スキルの内在化が起こります。「こういう時に益田先生はこう言うな」とか「こういう問題があったときにとりあえず私はこうすれば良いんだな」とわかってくると良いです。
手帳や年金は必要であれば対応したりします。年金の場合は社労士さんを紹介したりします。
境界性人格障害の治療:後期
境界性人格障害の人は良くなる時は驚くほどあっさりと良くなるというか、急に大人びるような感じがあります。
薬の減薬・終了をして、自ら対応・学習・納得してもらえれば良いわけです。
人より傷つきやすいし繊細だし人間関係はうまくいかないけれどそれが私なんだと思ってもらえれば、でもそんな自分も悪くないじゃないかと思ってもらえれば良いのです。そこまでどう持っていけるかが治療のキモです。
あとは継続するのか中止するのかを一緒に考えたりします。
以前の動画で思春期の治療について話しましたが、脳のホルモン異常もあるのかなと臨床しながら思っています。科学的根拠がすごくあるわけではないのですが、やはり30歳成人説、24歳成人説に臨床的には手応えを感じています。
境界性人格障害の人も、歳を取ると心理的葛藤の末なのか脳内の生理的なホルモンの影響なのかわかりませんが落ち着いてきます。ですからそれまでにいかに傷つかないようにするのか、いかに生き延びるかを治療の中心に置いていくのが重要な観点かなと思います。
以上、境界性人格障害の治療について雑感を述べてみました。
境界性人格障害
2021.3.23