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オープンダイアローグについて、感想を述べます

00:00 今日のテーマ
01:22 オープンダイアローグとは
10:48 実際、オープンダイアローグをできるのか

今日は「オープンダイアローグ」について解説してみようと思います。
僕のクリニックではオープンダイアローグは取り入れていませんし、研修を受けたわけではありません。斉藤環先生の「やってみたくなるオープンダイアローグ」という本を読みましたので感想というか、解説をしてみようと思います。

診察室でも「オープンダイアローグはどうですか?」と聞かれることがあります。その度にウチはやっていませんが変わりに座談会をやっていますなどと答えていたのですが、良い機会なので一度動画で説明してみます。実際、オープンダイアローグに関してどのような考えを持っているかも動画の後半でお話しできたらと思います。

オープンダイアローグとは

オープンダイアローグとは、簡単に言うと7つの特徴から成るみんなで話し合う「対話」です。

僕の診察室は結構広めに作っているのですが、それは患者さんだけでなく家族や周りの人が入ってもギュウギュウにならずリラックスして喋れるようにするためです。それでも診察時間は再診だと5分~10分です。

オープンダイアローグの場合は、皆が集まって、その上でカウンセリングのようにある程度の時間を取って話すことを繰り返します。

・24時間、即時対応
これはさすがに無理があるとは思いますが、理想目標にしています。患者さんの訴えがあったときには時間を割いてすぐ会話ができる体制を作りましょうということのようです。

これは通常のカウンセリングとは主義主張がかなり違います。普通のカウンセリングは構造化されていて、毎週何曜日の何時から○分やりましょうと決められています。キャンセルの場合は1週間前には言ってもらい、それ以降はキャンセル料をもらうということもします。

・チーム制 
普通のカウンセリングは患者さんと治療者が1対1でやるのですが、オープンダイアローグは本人、家族、友人、ドクター、看護師、カウンセラー、精神保健福祉士など皆を集めて話します。治療者単独ではなくチーム制にするのがオープンダイアローグです。

・対話をしつづけるだけ
・計画を立てない

治療目標を立てるのではなく、ゆっくり気兼ねなくしゃべってもらうものです。計画を立てないというのは結構面白いです。

今流行りの認知行動療法(CBT)の場合は計画を立てます。全12回の中でこの問題をトレーニングしよう、あなたはこのような特徴があるからそれを補うようなスキルを身につけよう、という具合です。
 
オープンダイアローグはそのようなことをしません。とにかく会話をし続けるだけで良い。計画を立てることで窮屈になってしまい自由に喋れなくなってしまうし、自分から治っていく力を阻害してしまうという主張があります。

・リフレクティング(最後の10分?)
患者さんが見ている前で、治療者同士がその回のセッションの感想を言い合う時間を作ります。患者さんがいないところで治療者同士のミーティングはしませんという意味のようです。

これも結構違って、普通のカウンセリングでは治療者の自己開示は本来許されない感じがあります。治療者は患者さんの鏡であるべきだから患者さんに余計な情報を教えてはいけないというルールがあるためです。また、自己開示をしてしまうと逆転移の問題が起こりやすくなります。自分を強く見せたい、良く見せたいとか、患者さんを利用して自分のカウンセリングをしてしまうことがあるのです。

オープンダイアローグの場合は、逆にオープンにすることで逆転移を防ごうという話です。これも面白いです。

・主観的事実の重視(議論、説明、客観的事実)
これも面白いです。診察の逆です。普通の精神科の診察では「あなたはこういう病気で、薬を飲むとこのようなメリットがあります、だから一緒に頑張っていきましょう」「あなたはこういう特徴があるから、そこを治していくと良いのではないですか」などと言ったりします。オープンダイアローグではそういうことを言わない、マネジメントしない、ということです。それよりも患者さんの主観的な体験や事実をきちんと受け入れて傾聴して共感していく方が大事だとしています。

・1回30~90分
時間も30~90分という感じできっちり決めず、患者さんの訴えに合わせて短くしても良い、自然に任せようと言っています。

普通のカウセリングは真逆で、45分と決めたら45分きっちりやります。45分という時間に対して対価をもらっているのです。キャンセルになってキャンセル料をもらったとしても、その空いた時間はどうするかというと、そこに別の患者さんは入れません。多少の事務仕事くらいはあるかもしれませんが、基本的にはその45分はその患者さんのために作った時間なので、それ以外のことはしませんということです。ここはかなり違います。

以上、7つの特徴をあげました。普通のカウンセリングとの違いがよくわかりますね。
何が言いたいかというと、真逆のことを言っているのにもかかわらず、それで良い、治療効果があると言っているのです。

カウンセリングや精神療法の世界は正解がなく、患者さんに応じて臨機応変に動く必要があるということがわかると思います。動画を見ることでよくわかると思いますが、この業界に正解はありませんし、真逆のことが正解だとわかることもあります。結局は良いバランスを取っていくのが大事だったりします。

実際の臨床の話をすると、やはりなかなか「治療の場」のようなセッティングがないと本心を語れないですし、きっかけが必要だったりします。家族には話せないことが、診察室という「治療の場」に来ることで話が進むことも結構あります。ですからオープンダイアローグが治療上有効だというのはよくわかります。  

実際、オープンダイアローグをできるのか

実際、当院でオープンダイアローグをできるのかという話をしようと思います。
このチャンネルは精神医学を解説するチャンネルではありますが、開業医目線で精神医学を解説しているチャンネルでもあります。

例えば…

・コストはどれくらいかかるのか
心理士3名、人件費は売上の30~50%くらいで設定します。50%だと赤字です。心理士の時給を3000円に設定すると2~3万円です。そこに医師を足そうとすると、バイトの先生は時給1万円+αくらいなので1~3万円です。そうすると、1回のセッションあたり3~6万円くらいもらわないとうまく成立しないのではないかと思います。

・保険なし
もし保険を適用するのであれば、通院精神療法の30分以上というのが該当するかと思います。その場合は保険点数が73点+400点なので病院の収益は4730円、患者さんは3割負担なのでそのうちの1500円くらいの負担になります。ということで、もしこれでやった場合はクリニックは25,000円以上の赤字が出ます。

他に保険診療の枠組みでできるものはないか考えてみました。
精神科看護師が複数で訪問看護をする場合、580点+402点で1万円くらいの売上になります。行けなくはない、経営努力をすればなんとかなるかなという感じです。でも難しいですよね。コロナで訪問自体も難しいですし、そもそもZoomじゃダメなの?という話もあります。値段設定は難しいです。

・統合失調症、ひきこもり家族
実際、どのような人に適しているかは、本の中では統合失調症やひきこもりの人に良いのではないかと書かれています。家族も協力的であることを考えた方が良いと思います。対話をしていくには息が合わないといけないので、それほど単純な話ではありません。

例えば、発達障害の人や依存症の人だとやれるのかどうか、やれるかもしれないけれどケースを選ぶななどと考えます。また発達障害の人はみんなで喋るのは情報が多すぎて苦手だったりするので、集団精神療法が適しているのかという話もあります。

どちらかというと、発達障害の絡んでいない統合失調症や不安障害やひきこもりの人が対象なのかなと僕は感じました。もちろん発達障害の人にも良いと思いますが。

・ケースの数
1日5ケース x 週5回 x 月1回のペースでやるとしたら、100ケースくらい集めないと回りません。月2回の人もいるとしたら50~100ケースになります。それだけの協力的な家族を集めるのは僕だったら難しいなと思います。早稲田以外の場所ならば可能なのかもしれませんが。

・短期間の研修? ファシリテーションの技能? SV?
治療者の教育は短期間の研修だけで良いのではということですが、そうといえばそうだし、そうでもないよなという気もします。みなさんビデオ会議などの会議をするとわかると思いますが、会を運営するというのは結構難しいです。

やはりファシリテーションの技能はすごく大事で、オープンダイアローグの知識や技能の研修は短期間でも良いかもしれませんが、そもそも皆で会議をしていく能力、空気を読む能力というのは難しいと思います。ましてや多少の機能不全家族の要素があるところに入っていくわけなので、結構地力が必要ですし、それを高める教育が必要です。スーパービジョン(SV)のことも考えると教育コストは結構かかるなと思います。

・集団精神療法、座談会、当事者会(0~3000円)
なるほど、確かにコストは高いかもしれないが治療法としては素晴らしいから是非やってみたい。1回5万円を月に2回で3ヶ月、30万円くらいだったらなんとか払えるという家族もいるかもしれませんが、そもそも他の治療法でもっと格安でできるものはないのかと思いますよね。普通の集団精神療法、座談会、当事者会ではダメなのかという気はします。  

会話ができるということが大事な場合、プロがやっている座談会もありますし(リヴァトレの中川さんが開いた座談会はお一人3000円でした)、当事者会は0円だったりします。
プロがいることが大事ならばある程度お金が掛かるのか、それともプロはいらないのかなどと悩むところです。

トータルで考えると、ビジネスとしてやっていくのは難しいなと僕は思います。
オープンダイアローグがどうして流行らないかというと、コスト面の問題でうまくいかないのだと思います。あとはまだ知られていないので啓蒙活動をした上でやるとなると広告費がかかるので大変だなと思います。お金のことばかり言ってますね。益田は何なんだという感じですが、大事ですから。

オープンダイアローグが流行っていくことで、コストが見直されて普及しやすい環境ができるかもしれないので、応援したいなと思います。

コストなどは無視して改めてオープンダイアローグの原則に戻ります。何気なくやっている治療構造や僕らが正しいと教わった治療構造を疑ってみると、真逆のことをやっても良い効果が得られる、それが実証されているのは面白いと思います。つくづくコストなどで我々の認識は歪められているなと思います。かといって現実的にはコストはかかるわけなので考えないといけないのですが。まあ、面白いですね。


2021.5.13

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