今日は「注意欠如・多動症の症状」について解説します。
注意欠如・多動症はいわゆる「ADHD」と呼ばれるものです。
皆さんも聞いたことがあるかと思います。
「注意散漫で落ち着きがなくて、椅子に座っていられない人と聞いているけれど、そんなの誰にでもあるのでは? 障害なんかないんじゃないの?」と言われたりしますが、そうではありません。
今回は、この障害について一歩踏み込んで解説してみようと思います。
注意欠如・多動症(ADHD)の特徴
注意欠如・多動症には大きく2つの特徴があります。
それが、「注意散漫」と「多動性・衝動性」です。
・注意散漫
授業を最後まで聞いていられない、注意を持続できない、他のものにすぐ気が行ってしまう、忘れ物が多いなどは、「注意散漫」の障害のせいだと言われています。
・多動性・衝動性
落ち着きがない、パッと手が出る、すぐカッとなる、すぐ落ち込む、すぐ物を買うなどです。
多動性・衝動性は、注意散漫に比べるとあまり目立たなかったり、大人になると消失することもあります。
ADHDでも、おとなしい女の子だと、忘れ物は多いけれど授業は座って聞けます。おとなしいのでちゃんとしていると思われて、ADHDだと診断されないこともありますが、実は授業について行けてなく、頭の中では別のことを考えていることがあります。
衝動性や多動性が落ち着いているのでイメージしにくいのですが、頭の中で色々なテーマが右に左にと行き交っています。会話をしていても話題があっちに行ったりこっちに行ったりして、「この人の頭の中はどうなっているのだろう?」となります。
おしゃべりだから飛ぶのではなく、ゆっくりなのに話題が飛ぶ人が多くいます。
普通は頭の中ではロジカルに整理されています。
時々話の順番が狂うことがあっても、話を聞いているうちにこのようなロジックなんだということがだんだん見えていきます。
ですが、ADHDの人は話題が飛んでいって、ロジックが見えるというよりは気体の中の分子のような動きが見えます。
これがどのような形で視覚化されるかというと、「家の中」です。
ちょっと迷ったときに「家の中はどうですか?」と聞きます。
そうすると、ADHDの人の家の中は「どこに何があるかわからない」「タンスの中にお菓子や飴のふくろがある」などわけがわからない感じがあります。
スケジュールもぐちゃぐちゃだったりします。
普通は、寝る時間や起きる時間はだいたい決まっているし、月曜~金曜はだいたい何をするか決まっています。下手をすると土日さえ決まっていて、それは1年後も2年後もほぼ同じだったりします。
ですが、ADHDの人はスケジュールがぐちゃぐちゃで、次に何をするかを把握していないことがあります。「逆にそれが楽しいでしょ」と言われたりもします。
「スケジュールが決まっている人生は面白くない」「整理された場所は楽しくない」「混沌が楽しい」と言います。
普通の人からすれば先が読めない人生はまっぴらごめんとなります。決まりすぎていても嫌ですが、あまりにも混沌としているのも嫌なものです。
でもADHDの人はそれに慣れているので、混沌を好む人も一部います。
このようなイメージです。
いわゆる「忘れ物」や「落ち着きのなさ」だけで捉えてしまうとADHDの本質は見失ってしまいます。
思考にロジカルさがない、あったとしても部分的で、全体の調和がないのが特徴です。
自閉スペクトラム症(ASD)との合併
加えて、ADHDを理解することを難しくさせている要因は、「自閉スペクトラム症(ASD)」との合併にあります。
ADHDとASDは別々の疾患だと言われていますが、この2つの要素を重ね合わせている人の方が多いのです。ですから、ASDの診断基準を満たさなくても、ASDの要素を持つ人はたくさんいます。
例えば、コミュニケーションが苦手な人もそうです。相手の気持ちを読むのが苦手です。
・コミュニケーションが苦手
ADHDの人は、一見しゃべりもうまかったり行動的だったりと、人間関係やコミュニケーションが苦手だと見えないことがあります。
ですが、一歩踏み込んでその人のことを観察してみると、コミュニケーションが苦手で喧嘩などトラブルを起こしてばかりということがあります。本質的には対人理解が平坦で、奥行きがないことがよくあります。
・中枢結合能力(抽象化する力)
中枢結合能力も弱いです。中枢結合能力とは抽象化する力です。
例えば、いろいろな種類の犬を見て行った時に「これも犬だ」とわかる力です。応用力とも言えます。
個別の現象から共通点を見出し、抽象化された1つ上の次元で捉えるということです。これが苦手な人が多いです。
アイデアマンだけど本質を欠いているから、そのアイデアがあまり面白くなかったりします。
いちご大福は「大福の甘みといちごの酸味が合わさるから良い」と考えるのですが、ただなんとなく「そこにあるものと、あそこにあるもの」をくっつけているだけのアイデアが多いのは、ADHDらしさです。
・「アレ取って」がわからない
「アレ取って」や「アレやって」の「アレ」がわからない人が多いです。
そこも前後の文脈を読み取るコミュニケーションの力や、今の状況から見ると今必要なのはこれだという抽象化する力の弱さが原因と言われます。
大人の世界に子どもがいるような感じです。「天真爛漫で良いじゃないか」と周りの大人は思うかもしれませんが、本人にとってはとても苦しく、「自分よりみんなは色々なことができる」という状況です。
発達障害の人は、大人の世界に混じって必死に仕事をしたり追いつこうとしたりしているのですが、追いつけなくて「自分はダメなのでは」と自信を失っているケースが多いのです。
・ワーキングメモリ、処理速度
ワーキングメモリが小さい、処理速度が遅いといったこともあります。
「ワーキングメモリ」とは一瞬で覚えられる記憶力、「処理速度」は問題解決のスピードです。
例えるならば、遅いスマホです。
周りの人がデュアルディスプレイのデスクトップで作業しているのに、一人だけスマホのExcelで表を作っているようなものです。これが発達障害の人の苦しさや困りごとだったりします。
また、ワーキングメモリのことを「作業台」と言ったりもします。
勉強机が大きい方が勉強は捗りますが、小さい机だとなかなか捗りません。キッチンのまな板も小さいとなかなか作業が進みません。
「小さな作業机でゆっくり作業をしている」というのがADHDの人たちです。
それで周りの人から「遅いよ」と怒られて、すごく自信を失ってしまうことがあります。
これらがADHDの症状であり特徴です。
発達障害
2021.8.31