本日は「エリートな親を持つ子どものうつ、子どもの心理」というテーマでお話ししようと思います。
臨床でよくよく家族の話を聞くと、家族がエリートであることが多いのです。これは東京で診療しているからではなくどこでも多いです。
親が偉大過ぎるが故に子どもが潰れてしまうことは結構あります。
今回はこの話をしてみようと思います。
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エリートな親の特徴
そもそもエリートの親とはどのような人たちなのか?
エリートな親の特徴は、
1. 能力が高い
これは本人たちが偉いのではなくて、生まれ持った能力が高かったということです。
2. 努力や我慢が普通の人よりもできる
これも、教育や本人の努力というよりは、遺伝の影響が強いです。
3. 運
能力があって努力をしても、運の要素が成功には大きく関わります。
エリートな親は運に恵まれていたわけです。
運があったから社会的な地位も手に入りましたし、仲間にも恵まれていました。
4. 負けず嫌いでこだわりが強く、周りを巻き込む
良い巻き込み方なら良いチームメンバーが集まりますが、悪い巻き込み方だと嫌々参加をさせるということになります。
いずれも、家庭内が職場のような嫌な雰囲気になってしまいます。
5. ストレスに晒されている
努力をしていないとか生まれ持ったもののせいと説明しましたが、それでも大変な環境を日々過ごしているのがエリートでもあります。
彼らはストレスに晒されてハイプレッシャーの中で仕事をしているし、競争社会の重圧の中で働いています。
すごく大変だと思います。
逆にいうと、そのような環境の中で勝ち抜くために負けず嫌いだったり、こだわりが強かったり、ちょっといびつな形でないとやっていけないわけです。
エリートは抱える責任も大きいし、やらなければいけないことも多く、自分の能力も高いが故にマインドや感情のコントロールが困難なのです。
普通の人よりも感情をコントロールすることが難しいのです。
スポーツでたとえると、太った大きな人と小さくて細い人がいる時、小さくて細い人の方が恐らく身体を使うことが上手いと思います。
そういう人の方がダンスとか上手いイメージはないですか?
悪い言い方をすると、太っている人は運動神経が悪いイメージ、ダンスが下手というイメージがあります。
逆に小さい人は子猿のようで身軽に動くイメージはありませんか。
ボディ・ビルダーのようにマッチョな人は運動神経が悪いイメージがありますよね。
これは何かというと、体が大きい分、コントロールするのが難しいということです。
ボディバランスが取り難かったりします。
これと同様に、エリートの人たちというのは、バランスを取るのが難しかったりするのだろうと臨床をしながら思います。
決して悪い人たちではないのだけれども、自分の気持ちや感情をコントロールするのが困難な人たちだなと思います。
子どもにとって親とは
彼らは彼らの困難を抱えれば良いと思いますが、苦労するのはその子どもたちです。
そもそも子どもはどういう心理を親に抱くのかというと、子どもにとって親というのは厳しくて怖いもの、ということです。おそれるイメージもあります。
同時に甘えたいのです。
親に甘えたい、甘やかしてほしい、特別扱いしてほしい、大事にしてもらいたい、助けてほしい、という気持ちも子どもは抱きます。
一緒に考えてほしい、親でありながら兄弟のように、友達のように振る舞ってほしいとき、というのもあるわけです。
これが普通の子どもの心理なのです。
親との付き合いの中で、怖い親との関係から社会のルールを学んだり、世の中の限界や制限を学んでいきます。
一方で、親に甘えさせてもらうことで、安全な場所、危険と安全を判断する能力が高まり、安全な場所で創造的な遊びをすることで自尊心が高まり、クリエイティブな才能が生まれてきたり、自分の人生を考えて自分のことが大好きになれます。そして、いろいろなことを学んでいけます。
親の役割はすごく大事です。
また同時に、子どもは親を破壊したいという欲望も持っています。
親から良いものをもらうということもあれば、親を独占したいという欲望を抱いたり、大事な親をコントロールしたいという、まがまがしい自分の攻撃性をぶつける対象でもあります。
子どもたちは、こうした両方向のイメージを親に対して持ちながら、すくすくと育っていって思春期(反抗期)を迎えます。
そこで自分の性の自覚とか自己理解を深めていきます。
ここからは、親から学ぶというよりは、友だちや学校の先生から学ぶようになってきますが、それまでは親から学ぶことがとても多いのです。
子どもへの影響
親がストレスの中で生きていて感情のコントロールが困難だと、子どもへの影響はどのようなことがあるのでしょうか。
親が自分の仕事や競争社会のゲームに熱中しすぎて子どもに無関心な場合、子どもは「自分は愛されていないんじゃないか」「自分は価値がないんじゃないか」と自尊心が低下していきます。
よくありますよね、「お父さんは仕事ばっかりで僕のことは大事じゃないんでしょ?」とか。
また親が負けず嫌いで、子どもと妙に張り合ってしまうパターンもあります。
子どもが「100点取ったよ!」と褒めてもらおうとしても、「お父さんなんて子どもの頃ずっとクラスで1番だったんだぞ」という風に張り合ってしまい、ライバル関係を構成した上で子どもを屈服させてしまいます。
親には勝てないと思い込まされてしまいます。
逆に変にポジティブに「一緒に頑張ろう」というような場合、妙に引きずられて仲間意識を持たれるような場合、子どもは疲れてしまいます。
頑張ってもできないことはありますから、このような親の態度で子どもは「自分はダメなんじゃないか」と申し訳なく感じて罪悪感を抱くようになったりします。
この結果、子どもが上手く反発して自立できれば良いのです。
しかし自信がない人間に育ってマゾヒスティックになり、自分を傷付けるような行為に及んだり、自分には価値がないと思い大人になって他人からいいように使われてしまう、仕事をし過ぎるという風になったりします。
また、親に固執して親にだけ怒りをぶつけ、親を倒すことだけが人生の目的になって引きこもりになって、いつまで経っても親のことばかり考え、友だちのこと、恋人のこと、自分の家族を作ること、自分の仕事のことを考えることにエネルギーを回せない、親をやっつけることだけで人生の全てを果たしてしまう、ということもあったりします。
エリートな親を持つ子どもにとっての問題は、子ども自身も親の遺伝子を受け継いでいるので能力が高かったり、我慢できる力が高かったりするのですが、その力が親ほどではない場合が多いということです。
仮に親と同じ程度の能力を備えていても、運の問題ということもあります。
たまたま運が良いだけだったので、同じことをもう一度やったら上手くいかないということは多いわけです。
でも親はこの運の存在をわかっていないので、子どもができないことに怒ってしまったりします。
または、親の能力は引き継がなかったけれど、負けず嫌いやこだわりといった部分のみを子どもが引き継いだパターンも多く見られます。
親の負けず嫌いな側面だけ引き継いでいて、でも親ほどできないのでとても苦しむことになってしまいます。
しかし負けず嫌いなので諦めることもできません。このパターンも結構あります。
歯車が噛み合わない感じがあります。
エリートというのはいびつなのです。
いびつな存在だという自覚が両親にないと、つい子どもを傷つけてしまうと思います。
親と同じくらい上手く行けば良いのですが、そう上手くいくことはないですよね。
二世代連続で上手くいくことはなかなかないし、三世代連続で上手くいくこともなかなかない、という理解は重要だと思われます。
ややこしいのは、親子だけでなく兄弟の関係性も加わってくることです。
兄、姉、弟、妹がいるような場合、その全員が落ち込むということはありません。
全員が落ち込むというパターンもありますが、ほかの兄弟は適応したのだけれども、一人だけ外れてしまったということは多いですし、兄弟同士の争いであったり、嫉妬の問題もあったりします。
更に、嫁姑問題ということもあります。
三世代に渡ってトラブルが増えていくこともあります。
家族の中に病気の人がいるというパターンもあります。
そこではヤングケアラーの問題があります。
自分よりも弱者である人が身近にいるパターンの問題も考えなければいけません。
家族問題というのは考えるのが難しく、原則は知った上で「この家庭の場合はこっちにこういうエネルギーの向きがある、だけどこっちはこっちに向いているな」というように色々と考える必要があります。
同じケースはなかなかありません。
どうしていけば良いのか
ではどうしていけば良いのでしょうか。
一番重要なのは自他の区別をつけるということです。
自分と親は違う、自分と兄は違う、というように互いに別々な人間だということをまずは理解することです。
その上で互いに尊重する。
家族間では境界線が崩れ易いのです。
家族はなかなか他人のように思えない
ですが問題があったときには一度冷静になって、自分と他人を区別する、自分と親を区別することが重要です。
区別した上で現実的な問題を一つ一つ解決していくということが重要です。
ぐちゃぐちゃに糸が絡み合っているような状態から糸を一本一本外してバラバラにしていくように、問題を解決していけばいくほど自他の区別ができていくようになりますし、自他の区別ができれば問題を明確にできるので、問題を解決しやすくなります。
エリートな親を持つのは苦しいですよね。
苦しいので親はその自覚が必要です。
必要ですがなかなかできない。というのも負けず嫌いだからです。
負けず嫌いだから出世した、でも負けず嫌いだから子どもの問題を考え難かったりします。
ゆとりを持てず焦ってしまうところがあると思います。
また競争社会の中にいる、ハイプレッシャーにさらされているから自分の感情のコントロールが苦手な状態になっているということです。
家でも仕事場のようにピリピリしていることも多いので、気を付けてくださいということです。
摂食障害の子どもも、親がエリートで子どもを屈服させるようなことが原因であることも多いです。
今回は「エリートな親を持つ子どものうつ」というテーマでお話ししました。
親子問題
2021.12.31