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やりたいことがない? 転職すべきか?

03:15 価値観、生活スタイルの多様化
04:44 置いていかれる人たち、騙される人たち

今日は、診察室でよく質問される「やりたいことがない、転職すべきですか?」というテーマについてお話しします。

仕事で悩む人は多いです。
僕のクリニックは早稲田にありますが、コロナをきっかけに大学生は来なくなってしまい、サラリーマンが中心になりました。都心ということもあり、男女どちらも20代~30代の若い人が多いです。

仕事は一段落ついたけれどなんだか悶々としてあまりうまくいかない、落ち込んでいるという人が多く、そのような人たちは「自分のやりたい仕事じゃないな」「転職したほうがいいのかな」「パワハラも受けているし休みたいな」など、いろいろなことを相談されます。

結論:「医師は答えられない。大きな決断は避ける?」

僕はドクターですから医療に関する事は答えられますが、人生のことは答えられません。
どちらが良いかは分からないのです。

ただ、落ち込んでいるときや鬱がひどいときは、大きな決断は避けましょうと言われます。躁状態のときも大きな決断は避けた方が良いです。
それは、病気のせいで真実をゆがめて解釈しているからと言われます。

つまり「今の仕事は辞めず、病気が良くなったら辞めることを考えましょう」ということになります。
教科書的にはそうですが、しかし、実際の臨床ではどうかと言うともちろん休職をきっかけに転職する人や仕事を辞める人は多くいます。

今回、僕らは臨床でどのように患者さんの質問に答えているかということを改めて考え直しました。

世の中の変化と、その変化のせいで問題が起きている人たち。
世の中の変化に合わせて精神科に来る患者さんの悩みは変わります。

価値観、生活スタイルの多様化

世の中がどう変わったかというと、ベタではありますが、価値観や生活スタイルの多様化が進んでいます。

その証拠に、給料で仕事を選ぶ人が減りました。
給料よりも、やりがいやQOL(残業時間が少ないなど)で選ぶ人が増えています。

転職をする、資格を取る、社会人になっても勉強したいというニーズもすごく増えたかと思います。
そのような世の中に変わったのだと思います。

もう少し言うと、そのせいで
「優秀な人は海外に行けば良いのでは?」
「自己責任社会になったのでは?」
という気はします。

それが嫌なら海外に行けばいいでしょ、本当にやりたいなら海外に行けば?という言葉が増えました。国益としては良くないカルチャーになっていると思います。優秀な人は海外に行くべきなのか、という言い方まで増えています。 
これはこれで、なんだか無責任なように思います

置いていかれる人たち、騙される人たち

確かに優秀な人であれば、新しい価値観や自分の価値観で仕事を選ぶ、自分らしく生きるということはできます。
ですが、多くの普通の人たちは置いていかれています。

新しい社会についていけていませんし、逆に騙される人も出てきます。
それが致命傷になっている人たちが、僕らのところに来ているという感じです。

どのような話が多いかということで3点挙げます。

・我慢できない、させてもらえない
今の職場が我慢できない、一刻も早く転職すべきだなど、我慢させてもらえない人が増えていると思います。

騙される人たちとは何かと言うと、「転職したらいいよ」と転職サイトが広告を打ちまくっています。
その結果、妙にそのような広告にそそのかされてしまい、キャリアを継続できない人たちもいると思います。

実際、悩むのです。
頭では今は我慢すべきなんだ、今は動くべきではないと思いつつ、チラチラ広告を打たれるので患者さんは悩みます。「やはり辞めるべきなのではないか、転職すべきではないか」と、落ち込んでいるからこそそのような誘惑に負けてしまいます。

また、転職をする人が多くなってくると、いわゆる問題人物(パワハラをするような人たち)は逆に会社に残るのでは?という説があります。
優秀な人や嫌になった人は出て行ってしまいます。結果的に問題人物が残りやすいので、入った先でまたパワハラの人がいるということも結構あるかと思います。

・キャリア選択は運?
キャリア選択は運の要素があります。
自分のすべての向き不向き、その業界がどうなるかはわかっていないので、間違ったキャリア選択をしてしまうこともよくあります。

昔もキャリア選択を間違ってしまう人は多くいましたが、情報が見えてこなかったので「そんなものか」と受け入れられていました。
ですが、今はいろいろなものが見えてしまうので、キャリア選択を間違えるとすごく後悔したりショックを受けたりすることが多いようです。

患者さんとも色々と喋るのですが、この人の能力があったらこれぐらい出世しているな、この人の能力があったらもっと上手くいっているなということはあります。

テレビやネットを見ていても、この人は生まれる時代が違ったらもっと上手くいっている、選んだスポーツが違えばもっと良い記録を出せているということはあります。
でもそれは選べません。

自分が本当に向いているのか、それはわかりません。
その時にいるスポーツの指導者もベストではなかったりします。たまたまその地域では野球が流行っていたから野球選手になった、たまたまその地域ではサッカーが流行っていたからサッカー選手になったという例はたくさんあります。
野球もサッカーも流行っておらず、逆にマイナースポーツが強ければそちらに行ってしまうこともあります。
これは本当に運です。

その人の能力によって給料が決まるのではなく、その業界によって給料も決まります。
ですから、「失敗した」と思う人は多いです。

とはいえ、そもそも当たりを引く 方が少ないので、そんなものです。
僕だって、最初自衛隊が向いていると思って自衛隊に入っていますからね。どの口が言うんだと思われるかもしれませんが。
精神科も向いていると思ったのですが、最初は向いていないと言われました。皆さんは向いていると思いますか? まぁ、そんなものです。

逆に仕事選びや就職や転職に失敗したなと思っても、意外と成功ということはあるのだとお話ししています。

・転職貧乏
引っ越し貧乏ならぬ、転職貧乏です。
業界が仕掛けるマッチポンプビジネスという形で転職しよう、資格の勉強しようとそそのかされ、年齢を重ねるのですがお金が貯まらないということが起きています。

お金持ちで家からのバックアップがある人はここで貧乏にならずに乗り抜けますが、親からの援助もなく、転職や資格の勉強で貧乏になってしまい困っている人は結構います。

その結果、結婚もできず孤独になっている。気がついたら結構な年齢になっているというパターンもあります。「私どうだったんでしょうか…」という話もよくあります。すごく残念なことだなと思います。

変化が起きれば、その犠牲者も出てきます。
変化に合わせてうまくいく人、成功する人も出てくれば、犠牲者も出てくるので、僕ら精神科医はその犠牲者側をよく見るということです。 

ですが、未来は概ね良い方向に向かっています。
価値観や生活スタイルが多様化した方が、そうでなかった時よりも豊かなはずですし、昔に戻った方が良いとは僕は思いません。
一方で、変化によって生み出される不幸もあるのも事実です。

今日は「やりたいことがない、転職すべきですか?」というよく聞く話題を、僕なりにどう考えているかをお話ししました。


2021.10.5

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