今日は「心が傷ついている人とのコミュニケーション」というテーマで、会話やコミュニケーションとはどういうものなのか、僕らドクターはどのように考えながら行っているのかを説明しようと思います。
まずは通常の会話について解説し、次に精神科医が行っている会話のテクニックの3つを紹介するとともに、どのような問題点があるのか、どのような違いがあるかを解説します。
コンテンツ
通常の会話
通常の会話では、互いに話をしていてもイメージは「共通のもの」があります。
「会話をしても通じない」とも言いますが、心が傷ついていると人の会話に比べればはるかに通じ合っています。
共通のイメージがあり、それが主体となって勝手に動くようなイメージです。
会話が弾む、息が合う、ということです。
会話の中ではこのようなことが起こっています。
・情報の交換、確認
・気持ちの交換(好意など)、確認
このようなことを「間主観的な要素」「間主観的なものが主体性を持って動いているイメージ」と言ったりします。
つまりは、気持ちが揃って2人で進んでいる、一心一体のイメージです。
交渉・議論
通常の会話だけでなく、交渉や議論もあります。
プレゼンもこちらに入ると思います。
1人は「A」と言い、もう1人は「B」と言う。意見の違いを、互いに議論し合います。
この時は「知識に差はあれど、理性に差はない」という前提で行います。
相手はわからないかもしれないけれど、同じようにロジカルに考えられる。同じように俯瞰してものを見られる、客観的に考えられる。同じような知的能力があるという前提で喋ります。
だから交渉には「勝ち負け」があります。
知識に差はあっても理性的には同じなのだから、同じ条件で戦って勝ち負けがあるのは仕方がない。それは大人同士のフェアな戦いということです。
<デルブリュックの教え>
ひとつ,聞き手は完全に無知だと思え。
ひとつ,聞き手は高度の知性を持つと想定せよ。
http://danchino.blog.fc2.com/blog-entry-350.html
僕のYouTubeの動画を撮るときもそうなのですが、相手は患者さんだからといって精神科の知識はないと思います。ですから知識の説明をしているのですが、言い方、説明の仕方はあまり手加減をしているという感じはありません。普通のプレゼンをしています。
心が傷ついている人とのコミュニケーション
心が傷ついている人と会話をするときは、どのようなテクニックを使わなければならないのでしょうか。
いつもやっている会話の延長線上で、ただボケッとやっていてはうまくいきません。
これは精神科の臨床もそうですし、心理士さんのカウンセリングや福祉の現場もそうです。
なぜ心が傷ついている人とのコミュニケーションは普通の会話と違うのかと言うと、
・混乱している
・不安で視野が狭くなっている
・統合失調症の幻覚妄想
・気分障害の妄想で正常な判断ができない
・認知の歪み
・発達障害の特性
などにより普通に説明しても伝わらないことがあるのです。
このような場合、普通の会話をしていてもトラブルが起きてしまうので、相手の状況や表情を見ながらテクニックを使い分けていく必要があります。
テクニックとしては3つあります。
<傾聴>
1つ目は傾聴です。相手の話を聞いて、共感していきます。
こちらの意見を言いながら共通のイメージを作っていくというよりは、むしろこちら側から相手の世界に入って行って、相手の目線に立つことが傾聴のイメージです。
<整理・焦点化・誘導>
相手は不安、混乱、妄想、歪みなどでぐちゃぐちゃになっています。これを整理してあげます。
そして、どこが重要かを焦点化していき、今何をすべきかを誘導していきます。
これを会話の中で相手の話を聞きながら、自然とやっていきます。
相手のペースで喋ってもらうのも良いのですが、それだと目的の情報が手に入りません。
話を聞きながら、
「実はあのときどうだったんですか?」
「過去に元気すぎる時はありませんでしたか?」
幻覚妄想がありそうなときは、
「つけられている感じはありませんか?」
「インターネットで悪口を書かれていませんか?」
などと質問をし、問題の焦点化をしていきます。
<説明・内服指導>
上記は聞きながら自然に誘導するということでしたが、「説明・内服指導」はこちらから話すということです。
「あなたはうつ病だと思います。うつ病というのはこのような病気で、内服治療が有効です。でもそれ以上に休養が大事です。あなたは薬を飲んですぐに仕事へ行くのは難しいので、一度休職しましょう」などと説明や内服指導をします。
でもこれはすれ違いになりやすいです。
「医者は僕の話を全然聞いてくれない」
「説明をされてもわからない」
となることも多いです。
医者は説明の時間を作りすぎる傾向があります。
患者さんはもっと話を聞いてもらいたいのに、説明の時間を作りすぎてしまうのです。
とはいえ、やらなければいけない事でもあるのでそれは勘弁してほしいと思いつつ、やはりすれ違いが起きる原因になってしまいます。
医者としてはこれを伝えたいけれど、患者さんが聞きたいのはその話ではない。
患者さんが聞いてほしいのはこのような話で、それに対する回答が全然ない。
このようなことはよく起こります。
その原因としてはこのようなことがあります。
・医者はマルチタスク
外来をしながら病棟も見たりするし、もしかすると研究論文も書いているかもしれません。
僕も外来をしながら受付や待合の様子を見たり、空いた時間にクリニックの雑務をしたりもしています。
・時間
時間も十分には与えられていないので、短い時間で患者さんを診なければいけません。
・演技
患者さんは本音を言いません。自分が今どう思っているか、本当の気持ちは伝えられません。
それを演技と言って良いのかどうか分かりませんが、医師はそれにだまされます。
精神科医は患者さんが思っていることを表情から読み取れる、「精神科医なんだからわかってよ」「大丈夫と言いながらも苦しい私の気持ちわかってよ」と思うのですが、それはなかなか難しいです。だいたい医師はだまされると思ってください。それくらいの方が良いと思います。
このような要素があり、すれ違いになりやすいのだと思います。
「傾聴7:整理・焦点化・誘導2:説明・内服指導1」くらいが本当は良いのだろうなと思いつつ、4:3:3くらいになってしまうのが臨床かなと思います。
説明や内服指導の時間を減らすために僕はYouTubeをやったりしていますが、それでもやはりこの時間を外来では取ります。なかなか傾聴の時間をメインにすることは難しいです。
普通の会話と心が傷ついている人とのコミュニケーションは違うので、やはり冷静に相手の話を聞きながら、整理・焦点化・誘導をしたり、観察をしっかりして、伝えなければならないことを相手の負担にならないように伝えていくということが重要かと思います。
このようなことを考えながら普段臨床をしています。
もっと細かいテクニックもありますが、それはまた追々動画にしていきたいと思いますので楽しみにしていてください。
前向きになる考え方
2021.10.23