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病院に行かない、治療を受けたくない患者に家族はどう対応するか?

01:15 さまざまなケース
06:05 精神科医ができること
07:37 本人が治療に同意しない
10:04 タイミングを待つ

本日は「病院に行きたくない、治療を受けたくないという患者さんを持つ家族の対応」について解説します。

家族の中に、精神科にかかった方が良いのではないかという人がいるケースがたくさんあると思います。
ですが本人は病院にどうしても行かない、連れて行っても治療をすぐやめてしまう、薬を飲んでくれないなど、どうしたら良いのかと聞かれることがよくあります。
「引きこもりなのですが、どういう風に病院に連れて行けば良いのでしょう」とよく聞かれます。

これに答えるのはすごく難しいのです。
なぜなら答えがないからです。

今回は、どうして答えがないのか、どういうアプローチしかできないのか、ということについてお話しします。

さまざまなケース

本人の治療を受ける意思を○、受けたくないという意思を×、
家族の治療を受けさせたい気持ちを◯、家族が受けさせなくても良いと考えている気持ちを×、
社会や医師側が治療の必要を認めるケースが◯、そうでないケースを×、
とし、場合分けをして考えてみます。

・本人○、家族○、医師等○
この場合は外来治療ができます。
普通の精神科の治療ができます。
普通のケースです。

・本人○、家族○、医師等×
次に本人○、家族○、だけれども医師等は×の場合はどうするか。

医師は病気だとは思わないパターンはどうするかというと、これは家の問題だからご家庭でやってください、しつけの問題ですよと言えばそうかもしれません。

でも家族が困っていますし本人も困っているので必ず何かはあるだろうということで、薬は使わないにしてもカウンセリングなど精神科医ができることがあると思うので、外来をしながら一緒に問題を解決していきましょうという風になると思います。

精神科医は万能ではなく、できるのは、診断すること、薬を出すこと、カウンセリングをすること、診断書を書くこと、診断書を書いて福祉につなげることのみです。

このケースの場合、薬や診断は出ないわけですが、医師の持っている知識や頭の使い方、カウンセリングのやり方は役立つかもしれないので、様子を見ながら本人たちの病気を探っていく、問題を探っていくということはすると思います。

・本人○、家族×、医師は○
本人○、だけれども家族×(甘えなんじゃないか、などの理由で)、医師は○というパターンもよくあります。
これは外来治療をしていきます。

ただ、本人が20歳以上なら問題はありませんが、子どものパターンはややこしいです。
子どものパターンで本人は必要だと思うけど家族が認めないパターンは結構難しいです。

これはどうしたら良いのかというと悩みます。
よく答えるのは、他の人、例えば学校の先生や教育委員会に相談してもらって、それを通じて家族を説得する、治療につなげることを考えましょうと言ったりします。
本人とドクターだけではなくて、第三者を巻き込むことが重要だったりします。

・本人○、家族×、医師×
この場合はどうするかというと、学校の先生などに相談してもらったり、スクールカウンセラーにつないだりします。

本人は何か助けが必要だということは分かっているので、それが精神医学的なものではないかもしれないけれど、まず精神科につながったということであればスクールカウンセラーを紹介するなど、色々なやり方があります。
とにかく放置しないということは心がけます。

・本人×、家族○、医師○
本人が治療の必要性を認めないパターンです。

本人×、ただし家族もドクターも○と判断した場合は、自傷他害の恐れがない、自分を今から傷付けようとか、誰かを今から襲うということがなければ医療保護入院を検討します。そこで治療をします。
希死念慮がある人も、切迫したものでなければ医療保護入院になったりします。

・本人×、家族○、医師×
本人×、家族○、でもこれは医療の問題ではないということもあります。
ここは結構ややこしいです。

・本人×、家族×、医師○
本人と家族から同意を得られないが、自傷他害の恐れがあって医療的に必要だろう、精神の病気があるだろう、幻覚妄想があるだろうなどと考えられる場合は措置入院になります。

・本人×、家族×、医師×
この場合は、わざわざ何かをするということはないです。

精神科医ができること

精神科医は精神の問題を全部解決できるだろうという言われ方をするかもしれないですが、そのようなことはもちろんありません。

できることは限られています。
皆さんでも昔のエジプトの人や平安時代の医者に「全部治せ」「癌を治療してくれ」とは言わないですよね。

医学にはできることとできないことがあり発展途上で、精神のことはまだわかっていないことも多いので医師ができることは限られています。
限られているけれど、そのサービスを受ける価値は部分的にしろ、あるのではないかと考えます。

治療の中で精神科医が果たす役割は100%のうちの何%なのかというと、そんなに大きいわけではありません。
医師は治療を構成する一つのファクターでしかないのですが、それでも必要だったりします。

いろいろな見地、これまでの経験、集合知、これまでの精神科医やメンタル系の治療者たちが積み重ねてきた知識や経験というものがあるので、そういうものは今困っている皆さんに役立つのではないか、と思います。

本人が治療に同意しない

医療保護入院にならない外来治療レベルだけれど、本人がどうしても治療に同意しないパターンは結構難しいです。(左側の赤枠)

例えば家から出られず受診ができないパターンというのがあります。
引きこもっているパターンは結構あり、どうやって連れてこようか、ということを家族と考えたりします。

アウトリーチという形で訪問診療というものも無くはないのですが、なかなか一般的ではないので、本当に悩みます。
保健師さんに相談したり、地域の福祉サービスも使いながら、どうやって受診させれば良いのか考えたりします。

病識がないパターン、アルコール依存症やギャンブル依存症、境界性パーソナリティ障害や発達障害の人、摂食障害の人は、自分たちは好きでやっているから別に病院に行きたくない、医者に言われても困ります、というパターンもあります。
自分たちは病気なんかじゃないというパターンもあります。
どうしたら良いか結構難しかったりします。

ただ、本人たちが本当の意味で問題だと思っていないのかというと、そんなことはありません。
家族から心配されて「あなた、お酒飲み過ぎよ」「お酒飲んで仕事サボっちゃってるじゃない!」「遅刻しちゃってるじゃない」と言われて、「うるせー!」と言いながら飲んでいても、本当の意味では問題だと思っているわけで、そこは結構難しいです。

痩せたいから痩せているんだ、好きで痩せているんだ、というパターン(摂食障害)でも、本当にそうかというと、治療を進めていったり時間が経っていくと「いや、あの時はそう言っていたけれど…」と告白することが多いです。

発達障害的な要素の変なこだわりみたいなパターンもあったり、知的な問題が絡むパターンもあったり、人格障害として問題に気づいていないパターンもあったりしますが、困っている人は多いのではないか、と思います。

タイミングを待つ

どうやって治療につなげるかというと、信頼関係をつくる(ラポール形成)、底つき体験、本当に本人が困らないと治療につながらないのではないか、本人は直面化を避けている段階なのではないか、問題があるのはわかっているけれど待たなければいけない、タイミングを待ってあげる段階なのではないか、ということがあったりします。

タイミングを待つために数年かかるということもあります。
もちろんドクターとの相性など色々ありますが、この辺りは結構複雑というか、痒いところに手が届かないみたいな感じになります。

初診でアルコール依存症を指摘されてから数年経ってからまた別の病院を受診、また数年経ってからいよいよ治療が始まるとか、ギャンブル依存でもゲーム依存でもそうですが、何度もいろいろな病院へ行って4つ目や5つ目でようやく治療が始まるということはざらにあります。

30代になってからようやく治療が始まりましたという境界性パーソナリティ障害の人や摂食障害の人も結構います、外来をやっていると。
最初のドクターのところではただ悪口しか言えなかった、反発していました、他にやりたいことがあったからそこに気が回りませんでしたなど色々あったりしますが、年齢を重ねてから治療が開始になるパターンというのも結構あります。

精神科医をやっていると昔診た患者さんが時々来ることもありますし、多くの人が考えている治療スパンで物を見ているということはないです。
5年、10年、20年の単位で物を見ています。

この人は20代の時はどんなことをしているのか、30代になったらどんな人になるのか、40代、50代と年齢を重ねるにつれてこの患者さんはどんな人生を送るのだろうか、その中で今自分はどんな役割なんだろうか、ということを考えながら臨床しています。

そういう感じで生きているというのは、普通の人の感覚とは違う気がします。
皆さんそんなに未来とか考えながら生活しているとは思わないので、精神科医というのはちょっと不思議な感覚を持ちながら臨床をしているのかなと思います。

今回は、病院に行きたくない、治療を受けたくないという患者さんを持つ家族はどうしたら良いのか、ということについて語りました。

医療保護入院にはならないけれど外来治療をするときは、曖昧で打つ手がなかったりします。
打つ手がないけれど、その中でどういうことを考えながら手を替え品を替え、医師は治療につなげようと思っているのか、お話ししました。


2022.1.20

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