本日は「精神医学の世界」というテーマでお話しします。
最近、取材を受けたり講演の依頼を受けることが時々あります。
対象となる読者や聴衆は、精神医学にはあまり関係がない人、患者さんではなく一般の人が多いです。
一般の方に、精神医学はどんなものなのか、精神科医はどんなものなのか、精神科の患者さんはどんなものなのか。その中でも僕はどんな立場なのかということをパッと説明するのはすごく難しいです。
変に遠慮されたり、敷居が高くてちょっと私には関係ないかも、と思われたりしがちです。
でもそんなに変な話ではないです。
誤解を解くために、皆さんが知っているものの中で自分たちがやっていることを喩えるなら何が良いんだろう、ということをこの前までよく考えていました。
僕は「蟲師(むしし)」という漫画に似ているな、と思いました。
結構昔の漫画なのでわからない人は検索して漫画を読んでもらうか、アニメを見てもらうかしてください。
その話をちょっとしようと思います。
コンテンツ
蟲師
蟲師は、異世界の話です。
設定はちょっと昔の日本のパラレルワールド版。明治前後、大正とかその辺りの時代で、洋服を着ている人もいれば着物を着ている人たちもいる、村には電気がギリギリあるかないか、という世界です。
その世界には「蟲」というものがいます。
それは、見える人には見えるが、見えない人には見えない魔法や妖怪、呪いのようなものです。
その蟲が憑いてしまった人は病気になって苦しくなったり、特殊な体験をして周りに迷惑を掛けてしまったりします。
蟲師は、村から村を渡り歩いて、その蟲を退治したり治療したりします。
これが精神科医と似ていると思いました。
精神科の患者さんは特殊な体験をしている人です。
蟲ではないが、特殊な体質を持って生まれたのか、生きていく過程の中で病気を発症してしまった人たちです。
そこに僕らは行って、これはこういうものかもしれないということで、治療というか薬を出すわけです。
でも「蟲師」の世界同様、薬は万能ではありません。
知識も全てをわかっているわけではありません。
蟲師が蟲のことをわかっていないように、僕らも脳のことが全てわかっているわけではなく、病気のことが全部わかっているわけでもなく、薬がどうして効くのかも半分わかっていません。
ただ、できるだけやれることをやろう、という感じなのです。
村の中では、蟲師なんてインチキ臭い奴だと忌み嫌われる感じだったり、蟲なんて本当はいないと信じてくれなかったりします。
だけど信じる人もいれば、目に見えないものもいるんだと孤軍奮闘している人もいる。
プロのライセンスはないけれど助けになろうとする人もいたりして、本当に漫画の世界と似ています。
現代では村はないでしょう?と思われるかもしれませんが、患者さんから見える世界、自分たちの家族や周り社会というのは漫画の中の「村」と結構似ていて、患者さんから見える世界では、目の届く範囲では自分と同じような病気を持っている人はいない、自分と同じような蟲がついている人はいなかったりするというのも似ています。
その村では一人しかいません。
だからすごく混乱しており孤独感があります。
僕らは別に村から村を転々とするわけではありません。物理的には移動はしませんが、診察のたびに新しい人が来ます。
来て話をして、次は別の人の別の話を聞く、という感じです。色々なタイプの蟲がいるように、色々なタイプの病気があります。
こういうところが結構似ています。
精神科の本部
蟲師の世界と同様に、精神科の世界にも本部があるのです。
本部組織があって、本部は人が一杯おり、トップ争いをしたり詰まっています。
本部は研究や教育をしています。
本部を中心に現場があるのですが、僕は町の開業医なので、良く言えば現場で最先端、最前線、悪く言えば辺境の地にいる感じです。
本部から非常に離れたところにいます。いつもYouTubeでお話ししていますが。
僕は本部の人間ではありません。
現場の人間が喋っていることなので、現場感があるといえばあり、悪く言えば好き勝手喋っている、学問的なことはあまり言っていません。
今後もそんな風に言うつもりはありません。
学問的に言おうとするとわかりにくくなるということがあるので、わざと言っていないということもあります。
歴史の教科書と似ています。歴史の教科書はわかりにくいですよね?
主観性を省くと事実の羅列か年号の羅列になってしまうし、かと言って小説みたいな形になると歴史の流れはわかりやすいけれど、主観が入り過ぎてしまうという感じです。
できるだけ小説側なのですが、できるだけ教科書に近づけているというのが僕の中のポジションだったりします。
僕は現場のこういう人という感じです。
漫画の世界と現実の世界の話をもうちょっとします。
現実の世界では、本部は東京だと東大、慶應の医局。
派閥というか、そこら辺が恐らく本部組織です。
色々な大学があるので、大学が基本的には本部機関という感じです。
あとは国の研究機関、国立がんセンターのようなところも本部機能があると言えばあります。
ほかには学会、精神神経学会や厚労省も本部という感じです。
ここら辺は漫画の世界、物語の世界と同様に結構ややこしい政治力動があったりします。
精神医学界の中の本部は日本の本部であって世界の本部もあるわけです。
精神医学界の中で決まったとしても、国というもっと別の上部組織もあったりします。
上に昇ったとしても板挟みにあうというのは、よく物語の中にある構図と似ているなと思います。
心理士や福祉の団体は、精神医学界の中では同じ組織難ですか?別団体なんですか?と聞かれると答えにくいです。
別団体の要素もあれば同じ団体の要素もあるという感じです。
ややこしいので上手く言えません。
ですが、別団体と考えた方がわかりやすいかもという気がします。
本部・現場、どちらが優秀か
漫画でも物語でも本部の人間の方が優秀じゃないですか。
現場で苦戦していたら本部からエリートが派遣されて来て、パパパッと事件を解決したりします。
もちろん本部の方が原則優秀です。
でも、本部は本部で若手の教育機関でもあるので、大学の外来は若手に任せていることが多かったり、研究もしているので百戦錬磨という感じではありません。
現場の方が百戦錬磨感はあったりします。
本部と現場の間くらいの基幹病院が一番医者の腕が良いのではないかという話が時々あります。
確かにそういうこともあります。
本部にいた方がみんながいるので、監視の目も行き届いて変なことは起きたりしません。
現場だと騙すというわけではなく、目が行き届かなくなって特殊な治療をしていることがあります。
高額なのにエビデンスがあるかないかわからないような治療があったりします。
T○Sとかサプリとかです。
一部ありますが、それは適応なんですかなどそこら辺は結構あったりします。
いきなり初診でローンを組ませるところもあるようなので、注意が必要です。
3万円のカウンセリングとか。
それも仕方がないと言えば仕方がない、ある一つのビジネスモデルといえばそうですが、そういうものもあります。
そこも漫画の世界と同じです。
悪い人もいれば悪い道具を使っているように見えて良い人もいます。
端へ行くに従って色々なものが混ざっていきます。
内側へ行けば行くほど自由が減ります。
見分けがつかないのはズルい?
なるほど、と思うじゃないですか。
なるほどと思うけれども、何で見分けがつくようにしてくれないんですか?何でこんな大事なことを教えてくれないんですか?という感じがすると思います。
これも僕が勝手に思っている世界観なので、あまりこれが全て正しいと思ってほしくはありません。
ただ日本の医療制度というのは、全ての場所で全ての医者は同じような治療ができる、同じような治療を患者さんにしている、という前提というかルールがあります。
それは理想目標のように見えてちゃんとやっているということです。
日本というのはそういう国です。
命に差があってはいけないし、治療に差をつけないと決めているので、あまり自由診療でお金持ちはより最先端で良い治療が受けられるということは許可していません。
基本、原則はそうです。
だから本部に行けば行くほど優秀というのは、皆わかっているといえばわかっているけれど、あまり表立っては言えないし、言いません。
と言いつつも、本当に本部が優秀で、町医者が優秀でないのかというと、それも違うと思っています。
僕の立場では僕の立場としてそう思っています。
本部はやることが多く数を診ることができません。
臨床的な実感とか、そういう弱さはあるのかな、と思います。
こういうものは知識だけではなく、経験や体で感じたことも重要だったりするので、現場力はまたちょっと違うのかなという気がします。
僕自身も最初は自衛隊にいて、本部の中で頑張りたいと思っていた人間で、それが防衛医大を辞めて医局にもう一度入り直すこともなかったので、たまたまここにいるということもあります。
たまたま現場にいるからこそYouTubeをやる余裕があったというか、YouTubeをやることになったという感じもします。
本部にいたら他のことで忙しくYouTubeをやる余裕も自由もなかったと思います。
これでイメージがつくのではないかと思います。
「ああ、なるほど」と思ってもらえると幸いです。
却ってややこしくなったと思う人にはご迷惑をお掛けしました、という感じです。
蟲師を見てもらうと良いかな、と思います。
蟲師というか、似たような物語はいっぱいあると思うので、何か連想してもらえればと思います。
何かの参考にしてください。
精神医学
2022.3.7