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考えない技術 #マインドフルネスなど

01:02 防衛機制
05:30 抑制、マインドフルネスを目指す
08:34 不満足なソクラテスの方が良い?
10:14 考えない方が良いとき
11:55 答えの出ないものに時間をかけない

本日は「辛い時に考えない技術」というテーマでお話しします。

調子が悪い時に「もう考えたくない」ということがありますよね。
ぼーっとしているつもりが、どんどん嫌なことを考えてしまう、嫌なことを連想してしまうということがあると思います。
「もう考えたくないな」と思います。それはよくわかります。
うつの人や困っている人は、もう考えたくない、休ませてくれ、と思うと思います。

薬での治療によってある程度コントロールできる部分もありますが、ご自身で努力しなければいけないところもあります。
今回はどうしたらしなくなるか、どうしたらしなくなるようにトレーニングができるのか、というお話をします。

防衛機制

考えるのをやめるのはどういう時か、精神分析的、心理学的に呼び方があります。
辛い時にストレスから自分を守るための心理的な反応を「防衛機制」と言います。

防衛機制には未熟なものと成熟したものがあります。

・否認
辛い、嫌な現実があったときに、こんなことはなかったのだと否定してしまいます。

・抑圧
抑え込んで見えなくする。

・抑制
納得してやめる。

このようなパターンがあります。
どう違うのかと言われそうですが、これは臨床的なニュアンスです。
この人は否認をしているな、この人は納得して我慢しているんだな、といった言い方になります。
哲学的な定義で決まっていると言うよりは臨床的なニュアンスで決めています。

アルコール依存症の人が、自分はお酒はコントロールできるのだ、と言うのは「否認」に近いです。
子どもが両親が離婚したことを言わないように我慢していることは「抑圧」という感じがします。
大人になって親が亡くなった時に、死の悲しみを受容していくことを「抑制(納得)」と言ったりします。
このようなイメージです。
ですから、臨床的なニュアンスや文脈によります。

・分裂
自分と分けてしまい感じなくさせる。
ある種の精神病状態になったりして、その現実を見なくなる。

・解離
分裂と似ています。分けているのですが、どこか目の端で見えているような感じです。
解離性障害の解離とも少し違います。
ちょっと離れて「自分とは関係ない」と言っているのですが、横目で見えているような感じです。

・マインドフルネス
集中することで他のことを考えない。辛い現実があっても呼吸に集中する。
何かの作業に熱中することで不安を感じなくさせる。

・躁的
お酒の問題があったとしても、俺は強いんだ、やめられるんだ、もういいから遊びに行こう、と勢いで誤魔化すような感じです。

・合理化
屁理屈を言うようなことです。お酒を飲んでも良いんだ、仕事は行けているし問題ない。個人の楽しみでしょ。お酒を飲んで休日が潰れているかもしれないし、恋人や友達との時間を削っているかもしれないけど、自分で選んでいるからいいでしょ、と言うようなことです。

・昇華
辛いことがある代わりに何か別のことをする。ボランティアをする、スポーツに打ち込む、など建設的なことをすることです。

いろいろな患者さんを見たり、自分は今こうなっているなとわかるとすごくしっくりする言葉です。
いざ説明しようとするとなかなか難しいです。

抑制、マインドフルネスを目指す

否認をしろとか、解離させて問題を山積みにして放っておくことを推奨するわけではありません。

どういうものを習得するかと言うと、納得する技術、瞬間瞬間に今やるべきことに集中していくマインドフルネス、こういったものを身につけてもらいたいと思います。ここを目指すべきです。

辛い時に考えない方が良いから「ストレス解消だ!」と遊びに行くような躁的な防衛をしても良くありません。
「そもそもそれってあなたの感想ですよね」「それって関係ないですよね」「そもそも人間て別に生きてる意味ないですよね」みたいな合理化(屁理屈)で解決するのではなく、やはり抑制やマインドフルネスを目指すのが良いと思います。

昔自衛隊にいたのですが、行軍していると疲れてきます。
疲れるしお腹は空くし、足は痛くなってくるし、イライラします。
そういう時に「いやいや、今は訓練中だから仕方がないな」と納得したり、マインドフルネスのような形で何かに集中する、呼吸に集中したり、ONEPIECEを1巻から再生することをやっていました。

マインドフルネスは呼吸に集中してそこに没入していく技術ですが、なかなか難しいです。
ですから、念仏を唱える、踊りに没頭するというようなことでも良いと思います。
患者さんでも色々な方がいます。ボルダリング、ヨガなどでマインドフルネスを実践し、瞬間瞬間に集中してゾーンに入ることをやっています。

他に辛かったことといえば、レスリングをやっていたのですが、減量中も辛かったです。
そう考えれば受験勉強は嫌と言えば嫌でしたが、そこまできつくなかったなとは思います。でもそのぶん、納得の要素は重要だったかなと思います。
これは雑談です。

不満足なソクラテスの方が良い?

抑制やマインドフルネスを目指すと言いますが、世の中の人はそんなことしてないじゃないかと言うと思います。
これも患者さんとよくそういう話になります。

「満足した豚より不満足なソクラテスの方が良い」と教科書的には言います。質が高い方が良いということです。
でも本当にそれが正しいのかということはあります。

「人助けをした方が幸せなのかもしれないけれど、それよりも楽しく生きたい」「お金を使ってマックを食べてビールを飲んでいた方が幸せなんですけど」ということを言われると、まあそうと言えばそうです。
そういう人は多いと思います。

また、そもそも無知な人の方が自信過剰だったりします。
人のせいにする、あいつが悪いんだと怒っている人の方が、何となく気持ちが楽だったりします。
これは何かと言うと、「否認」や「分裂」の話です。でも「抑制」や「マインドフルネス」を身につけた方が、将来的には良いです。
否認や分裂によってストレスを発散するのもありですが、やはりうまくいかなくなってしまうことがあります。
技術として身に付けるならば、抑制やマインドフルネスが良いと思います。

考えない方が良いとき

具体的にどのような場面で考えない方が良いのか、ということです。

・急性期(うつ、双極性障害、統合失調症)
うつがひどい時、双極性障害の躁状態やうつ状態、統合失調症の幻覚妄想状態など、病気が悪いときは考えない方が良いです。
考えるエネルギーもないですから、こういう時は考えない方が良いです。

・自分を責めるなら(依存症)
自分を責めるなら考えない方が良いです。
依存症の人などは自分を責めます。「私はダメだ、私はダメだ」と言って我慢の限界になり、お酒を飲んでしまいます。お酒を飲むと楽になって一瞬ストレスが緩和されるのですが、また自己嫌悪に陥って「私はダメだ」となってしまいます。
お酒、ギャンブル、性依存、何でもそうですが、自分を責めることで依存が活性化してしまうのならば、考えない方が良いです。
「自分は悪くない、これは依存が悪いんだ」と分けます。ある種、分裂や解離の機制を使うことも大事です。

・不安、迷うなら
不安だったり迷うのならば考えない方が良いです。
「私は考えているんですけど、なんか上手くいかないんです」「毎日毎日嫌なことばかり考えてしまいます」と患者さんは良く言います。
そもそも何を考えているんですか? それは考えるべきことなんですか? ということがあります。

答えの出ないものに時間をかけない

よく指導するのですが、「答えの出ないものに時間をかけない」というのは辛い時は特に徹底しなければいけません。

重要でかつ緊急度が高いものを考えるべきです。
ただよく考えてしまうのは、今具体的に急がないけれど考えたいことです。
例えば、「人生の意味」「自分とは」と考えがちです。

生きている意味はあるのだろうか、自分はどんな人間なのだろうか、自分はダメなやつなのではないか、などと考えがちですがこれは答えが出ません。
余裕がある時や元気になってから考えることです。

どちらかというと考えるべきことは、「具体的で急いで考えなければいけないこと」です。
考えたくないかもしれないけれど、急ぎで必要なことです。
「今日のご飯は何を食べるか」「片付けはどうしたら良いか」「引越しするならいつが良いか」「物を捨てるならいつにするか」など具体的なアプローチを考えるべきです。
フローよりもストックを意識した方が良いです。

「人生の意味」や「自分とは」というのは、その場面その場面で変わっていきます。5年後、10年後で変わっていくものです。
そういうことを考えるよりは、具体的なことが重要です。

あとは、一度決めたらもうあまり考えないことが大事です。
この3ヶ月はこれをすると決めたら、「これをやる意味があるのだろうか」などと考えない方が良いです。
3ヶ月勉強するのだ、ダイエットするのだと決めたら、「そもそも勉強する意味があるのか?」「そもそもダイエットする意味があるのか?」ということは考えずにとにかくやります。その方が結果的に良いと思います。

患者さんにも言います。休職が決まった後に、「私って休むのが良かったのでしょうか」と言うのですが、「もう休むのが決まったんだから、考えるのはやめましょう」と言います。
「今はもう休むと決めたのだから、この3ヶ月しっかり休みましょう」と言ったりします。

辛い時に考えない技術ということで、「納得」をすべき、「マインドフルネス」に注目すべき、ということをお話ししました。


2022.4.4

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