本日は「精神科医の実力?」というテーマでお話ししようと思います。
コメント欄で見たりよく聞かれることでもあるのですが、「どういう先生がいいんですか」、「先生のお勧めのドクターって誰ですか」など聞かれます。
これは結構迷うというか、よくわかりません。
よくわからないというか、あまり僕が精神科医の知り合いが多くいないというのもあるのですが、やはり診察室は密室なので、どんな診療をしているのかというのはわからないのです。
人あたりがいい人とか、日常生活で一緒に喋ったりしている中で、気のいい人がすごく診療が上手いわけでもなければ、この人ちょっとイケてないなという人が診療が下手なわけでもないのです。
一見ダメな人、僕もそうですけど、ダメな人の方が相手の気持ちがわかるというか、勘どころが良かったりすることもあります。
逆に爽やかでイケメンで、車の営業とかしたらトップ取れるんじゃないかみたいな精神科医の先生もいるんですよね。
精神科じゃなくて、もっと内科とか、外科とか、循環器とかの先生になったら良いんじゃないかなみたいな、我々のような精神科医で良いんですかみたいな人がいるのです。
でもそういう人が良いかというと、意外とそうでもなかったりするのが精神科なんですね。
とは言っても、ある程度実力というか、目安はわかります。
その話をしようと思います。
コンテンツ
ガイドラインに沿って治療している
最低限このラインは超えましょう、というのがあります。
標準的な医療をしなければいけないので、医者によって差があってはいけないのです。
精神科は曖昧ですし、医師ごとに全然違う治療をするのではないかと思いがちですが、そうでなくやはりガイドラインがあります。
です。
ガイドラインがあり、それに基づいて治療をしているという感じです。
・操作的診断
一番大丈夫かなと思うのは、診断です。
診断に関しても「操作的な診断」というやり方をすることで、どんなドクターが診療しても同じような結果が出るようなやり方をしています。
操作的な診断というのは何かというと、5個の項目のうち3つ当てはまると「うつ病」、この10個の項目のうち7つ当てはまると「発達障害」、というようなものです。
そういうチェックリストを埋めていって診断することを「操作的診断」と言うのですが、そういうやり方をしているので、基本的にはそれほど医者ごとに診断の差が出ないようになっています。
「5個中3つ」とか「10個中7つ」という曖昧な診断で良いのか、ぴったり一致しないものを同じ病気と言って良いのか疑問に思いますよね。
ただ、そういうものもあります。
それは家族を分類するのに似ています。
僕らがよその家を見たときに、あの子は親子だなとわかる時がありますよね。
顔が似ている親子とか、あの子とあの子は兄弟だなと顔だけ見たらわかる時はありますよね。
だけど顔がまったく一緒なわけでもないし、目の形、ひとつだって全く同じ目をしているわけでもありません。
でも全体的な雰囲気が似ていたり、ポイントポイントはそっくりだったりする。
そういう家族のような形でまとまっている集団だったりします。
だから逆に操作的診断は経験が重要だったりします。
つまり僕らが欧米の方を見たときに、A国とB国の人の見分けがつかないってありますよね。
だから逆に欧米の人がアジア人を見たときに、中国の方と日本人の区別がつかないというのと似ています。それは経験が足りないからです。
僕らはなんとなくわかりますよね。顔はもちろん同じアジアの人だから似ているのですが、何か違う雰囲気というのをわかったりします。
それは経験ということです。
経験がものを言うのだから、さっき益田が言った話は違うじゃないかという感じもしますが、経験といってもある程度年数がたてば経験があるということなので、5、6年あればだいたいそういう家族がわかるという感じです。
・薬
それから薬ですね。どういう薬を使うのかというのももう決まっています。
番付が出ています。こういう薬が有効性が高いということもわかっているので、そういう薬を使うという感じですね。
ではどの薬が有効なのか、どの薬が成績が良くて、どの薬が副作用が多くてダメなのかというのは比較実験しています。
それは何かというと、RCTやメタ解析と呼ばれるものです。
RCT(ランダム化比較試験)とは、Aという薬とBという薬を混ぜて医者も患者さんもわからない状態で配り、何ヶ月か後にどちらを飲んだかを明らかにして治療効果を統計的に判断するというものです。
それを使うと、どちらの人が良くなったかというのがわかるわけです。
ランダムにしないと、操作してしまいます。
なんとなくこの人は人がよさそうだからAにしようとか、この人は治ってほしいからA薬にしようとか、この人は治ってほしくないからBにしようとか。治ってほしくないとは言わないけど何か調子が悪そうだからBにしようとか。そういう風に分けてしまうと、医者がお金をもらったりすると、差が出てしまうので、そういうことがないようにランダムにしているということです。
そうすることで、A薬とB薬の比較が出ますので、今度はBとCを比較します。
そうするとBとCのどちらが良いかもわかります。
そうすると、その差の問題で数学的にガチャガチャと操作してあげれば、ABCのどれが一番有効で、どれが良いのかというのは出ますよね。そういうものです。
そうすると、すべての薬の番付をつけることができるという感じです。
世界中でいろいろな検査をしてメタ解析していますから、上位群というのはだいたい決まっています。
診断について
ガイドライン通りやれば医療の差は出ないということになります。
と言いつつ、そんなに診断は簡単なんですかというと、まあそんなに簡単ではないですね。
では簡単ではない要素は何かというと、まず通院中に診断が変わることがあります。
経過の中で、実はうつ病だと思っていたものが、途中で躁エピソード、元気になりすぎるみたいなエピソードがあり、躁うつ病に診断が変わる。
うつ病だと思っていたのがよく話を聞いてみると、子どものときからそういう発達の問題があって、この人は発達障害の二次障害だったんだとわかるパターンもあります。
通院中に変わるということはよくあります。
全部わかるわけではないし、本人も気づいてないこともありますから。
症状の変化によって、通院中に変わることもあります。
あと、見分けが困難というのもあります。
適応障害だと思っていたんだけれども、うつを何度も繰り返していて、その人は適応障害ではなくうつ病だった。
適応障害だと思っていたけれど、実は気分のアップダウンがあって躁うつ病だったということはよくあります。
こういうのはそもそも見分けが難しいという問題があります。
「うつ状態」だったら基本的には同じですからね。
あとはそもそも「短い」のです。
診察時間が短いというのもあれば、病気というのは年単位とか、長い期間をかけて変化したりするので、2、3カ月会っただけ、半年会っただけだと、病気の全貌がわからなかったりします。
ですから付き合いが短いからわからないというのもあります。
あとは患者さんが演技をするパターンですね。演技をしたりとか言わないというパターンもあります。
アルコールの依存症があったとしても「お酒は飲んでません」とか言って否認するものもあれば、うつがあったりするのに元気に振る舞う、躁状態なのに抑えておとなしくしている、そういうこともあります。
それは弱みを見せたくないとか、医者の前だから気を張っているというのもあったりします。
それから、境界知能や知的障害の問題が見えにくいことがあります。
普通に喋っていても全然わからないのですが、よくよく聞いてみると、実は高校の勉強でついていけませんでした、ということもあったりします。
特に女性は演技力が高いので本当にわからなかったりします。
また、医者は気づいているけれど言わないパターンというのもあります。
患者さんに言わないことはありますね。
それを言うと失礼かもしれない。
例えば、知的な問題があるとか、発達障害の問題がある、という時に言わない可能性があります。
患者さんが今困っているのは、うつだったりパワハラの問題だったりするので、言う必要はないのではないかということは言わないこともあるし、トラウマの問題もほじくらないことがあります。
その患者さんが困っているのは実は過去のトラウマみたいなものが影響していて、だから今回パワハラになったときにすごく傷ついているのかもしれないと思っても、言わないこともあります。
変にほじくり返さないほうがいいこともあるのでそういうこともあります。
ただ、後から言うことになって、なんであのとき言ってくれなかったんですかとか、今気づいたんですかとか、あの先生は言ってくれなかったのに何で次の先生はわかったんですかとか、そういうこともあります。
あとは精神科の問題はいわゆる合併症もあります。
うつ病と社交不安障害を合併しているとか、言わなかったというのもありますが、うつ病とPTSDを合併しているとか、発達障害を合併しているというのはあるので、軽いものはあまり言わないこともありますね。
全部を言う人もいれば、一つだけしか言わない人もいます。
問題の中心となっているメインのものだけを診断名としていることもあれば、あなたは発達障害と適応障害とパニック障害と睡眠障害がありますね、などと言うこともあります。
基本的にはメインだけ言う人が多いのではないかなと思います。
診断は結構難しいですし、それをどう伝えるのかというのもさらに難しいという感じですね。
良い医者とは
・専門医/指定医(博士)
良い医者をどう見極めたらいいですかということですけれど、それをお話しすると、まずホームページで「専門医」や「指定医」を持っているかというのを確認することは結構重要かなと思います。
これを持っているということは、精神科医として治療してきた、研修施設でトレーニングを受けてきたということの証明なのであった方が良いです。
あと、博士号ですね。
医学博士を持っていると、大学で一定年数研究していたということがわかります。
あった方が良いですね。
益田はどうなんだと言われたら、僕は持っていないのですが、博士号はあった方が良いかなという気はしますね。
ただ取らない人も最近増えています。
取る前に外へ出てしまう人もいたりしますし、博士号は足の裏の米粒とか言ったりして、取らないと気持ちが悪いとか言ったりしますけど。
でもまあ、あるということはきちんと大学で学んできたということなので、ある人の方が良いのではないかなという気はします。
でも大事なのは専門医/指定医ですね。
これがないと、精神科医ではない人が精神科医療をしているパターンというのもありますから、見極めかなと思います。
ただ、精神科医ではないから精神科の診療をしてはいけない、しているのはダメなのかというとそういうわけではありません。
僕も皮膚科の薬を出したり、花粉症を診たりもしますし、風邪薬を出すこともあれば、整形外科医じゃないのに腰痛の湿布を出すこともあります。
医師免許があればすべての診療はできるので、必ずしも専門医/指定医だけということではないのですが、ひとつの目安かなと思います。
強制入院、医療保護入院、措置入院の場合は「指定医」という資格が必要なのですが、それ以外は基本的には何でもできるよということです。
・タブーを犯さない
あとは次の特徴としてはタブーを犯さないということですね。
タブーと何かというと、高額な商品を売りつけるとか、患者さんと恋愛関係にならない、恋愛関係を強要しないということです。
そんな奴いないだろうと皆さん思うかもしれませんが、時々います。
時々いるのでこれは気をつけないといけないですね。
ホームページを見たときに、高額な商品を売りつけているパターンもあるのでそれは気をつけてください。
・感情にのみこまれない
患者さんとの距離を一定に保つということが大事です。
患者さんの怒りや不安に飲みこまれて困惑しない、混乱してしまわない、医者が怒って帰さないというのは大事ですね。
ちゃんと冷静にいることが大事です。
距離も一定に保つことが大事ですね。
僕はこのYouTubeでこそこういう形で喋るし、自分の話もします。
それは実験的な意味も込めてやっています。
でも本来はそういうことをすべきでないし、医者が診察中に自分語りをしたらダメですから。
そういうことは重要かなと思います。とにかく冷静にいる、距離を保つ。
患者さんが悲しんで泣いていても、肩を叩いてあげたいとか、何か涙をぬぐってあげたくなるのですが、それはやってはいけません。
そういうことをしていくと、治療がうまくいかなくなりますから。
だから距離を保つ。
冷たいヤツなのではないかとかと思ったりすることもあるし、よく言われます。
益田は全然人の気持ちはわからないなとか優しくないなとか、精神科医ではない人から本当に言われるのですが、でもそうしないとダメなのです。
それがもう身についてしまって、普段からそうなってしまっているというだけなのです。
・優先順位をつける
優先順位をちゃんとつけられるかというのも大事です。
患者さんが今困っていることが、「生きがいについて語りたい」というときでも、本当にそれを今すべきなのかというのはやはりちゃんと頭の中にないといけません。
家族問題について語りたいかもしれないけれど、今患者さんがすべきことはそちらではなく、行動療法的なアプローチなのでは、ちゃんと睡眠のリズムを整えることを優先させるべきなのでは、仕事の悩みを解決すべきなのでは、そういう優先順位のつけ方は大事です。
今は薬物治療をしっかり効かせて、寝たり休んだりした方が良いのに無理やりカウンセリングをしてしまうとか。
患者さんがやりたいと言っても優先順位がありますから、そういうことを一緒に考える。
きちんとその優先順位をつけられる。
会話の中でも、その患者さんに任せるだけではなく、今話すべきことを話すようにするのはとても重要です。
そうすると患者さんは嫌がりますが。
でも結果的に治療にとって大事なのは優先順位をつけることだったりもします。
・限界:無理をさせない
あとは限界ですね。ちゃんと限界を伝えるということが大事です。
患者さんに無理をさせないのも大事です。
優しい先生で、「頑張れ、頑張れ」とか「あなただったらできる」と言うのは、それはそれでちょっと残酷なことでもあります。
お母さんとかお父さんとかと同じですよね。
延命治療みたいなものですよね。
内科や外科にある延命治療のようなもので、患者さんは「難しい」と言っているのにもかかわらず、「いや、一般枠で頑張れるよ」と励ましてしまう。
患者さんは主治医をがっかりさせたくないから過剰に頑張ってしまうこともあったりします。
医者側も診察時間を長くかけて励ましたりすると、何かぐちゃぐちゃになってあまりうまくいかないことがあります。
診察室の中で見るよりも、実際の日常生活では苦しいというのが当たり前と言えば当たり前。
そういうことを理解してやらないとかわいそうというか、診察室の中でしっかり泣いて、いっぱい話を聞いてもらって、安心して家に帰って、でも次に主治医に会えるのは1か月後でずっと苦しいとかだったりすると、やはり良い治療とは言えないと思います。
ある程度限界設定をしっかりする、限界をちゃんと伝えることも重要です。
ここら辺は結構冷たいんですよね。
距離を取って、クール過ぎて、精神科の先生が優しくないみたいな感じで思われがちですけれど。
でもこれが結果的に良い治療になることが多いという感じですね。
診察時間が延びてしまって、一緒に泣いてしまうみたいな感じだと、やはり上手い治療ではないのではないかという気はしますね。
精神科というのは、ガイドライン通りにやって、名医よりも普通の医者が良いですよね。
難しさもありますが、ガイドライン通りやる。それであまり揺り動かさない。距離を適正に保ちながら淡々とやれる人というのが、優秀というか、普通の医者なのかなという気がします。
精神医学
2022.4.24