本日は「不安の治療」というテーマでお話しします。
不安はどうやって解決したら良いのですか、ということです。
どうして不安が起きるのか、というメカニズムから不安障害の治療を解説してみます。
コンテンツ
予測する脳
最近よく使っている脳のモデルなんですけれども、ここから話をします。
人間は、脳内にバーチャルリアリティの世界を作っています。
現実をそのまま見ているのではなくて、脳内で起きている出来事を観測しているんです。
それで判断している。
現実で何かが起きている、それを目を通したり耳を通じて情報を得て、脳内のバーチャルリアリティの世界を修正していったりします。
現実と脳内の世界はやはりズレが起きているので、ズレを修正してあげています。
予測するための脳内のシステム、意識、というのはどういうものから構成されているかというと、一つは記憶です。
これまでどんなことがあったのか、知識や経験、色々なものから脳内の予測を作っている、バーチャルリアリティの世界を作っている、ということになります。
あとは体質、遺伝子というか、脳そのものです。
遺伝子というのは脳の設計図なので、その設計図によって脳は作られていて、その配線を通じて脳内の世界というのが変わってくる。
人によって受け方、感じ方が違うのは、記憶だけじゃなくて、体質の問題もあるんです。
元々脳の感じ方というか、構成の仕方が違うんです。
そもそも設計図が違うから、設計図が違えばやはり出来上がるものも違うんです。
体質がハードウェアで、記憶はソフトウェア、みたいなイメージかもしれないですけど。
あとはその環境要因です。
その時の疲れ具合、周りの様子などで見えてくるものも違います。
不安障害の人
不安障害の人というのはどうなのかというと、このズレが起きたとき、現実と自分が考えていた予測がズレたときに、健康的な人であれば、そこに不安や怒りやストレスを感じるけれど修正していくんです。
例えば、認知を変えていく。
「自分が良くなかったんだな、こういう予測は違うから次から直そう」ということで、フィードバックして予測の仕方を変えてあげる。
「こうなってるから、じゃあ現実に働きかけよう」と行動してみて、そのズレを修正していくということをするんです。
不安障害の人は、不安がゆえに回避してしまいます。
逃げちゃう、その場から。
やらない、感じない、フタをする、みたいなことをしちゃうんです。
それによってズレから起きるストレスは一時的に解消するんだけども、中長期的に見たら良いことは起きないんです。
それはなぜかというと、回避するので記憶がブラッシュアップされないんです。
成功体験として起きずに、ただ回避した、ただ押さえつけた、というだけなので、良い情報が入ってこない。
次に同じことが起きても、また嫌なことが起きるんじゃないか、という不安だけしか脳内に伝えてこないんです。
次はこうしたらいいよということを記憶が教えてくれるんじゃなくて、ただ不安だけを教えてくるので、この不安な脳内だとズレが起きた時にまた回避する。
回避するから、また悪い記憶であり良い記憶ではないので、また不安を呼んでしまうという負のサイクルが起きている。
これが不安障害のあり方です。
心の地図に空洞が多い
回避し続けているので、心の地図というか自分の脳内の心の地図、自分はどうだとか、過去どうだったとか、未来はこうなるんだ、みたいなものが、回避ばかりで空洞ができてしまっています。
ここはしゃべってはいけないぞと思って回避する、ここは話したくないなと思って回避しちゃう。
そういう形でカウンセリングや何かをしていても話せないことがいっぱいあったりするんです。
うまく話せません、話すのが怖いです、と言って。
そうすると自分の軸を持てないのです。
過去から未来、そして今に至るまで、話の中で一貫している自分のストーリーを語れることが自分の軸があることです。
それが次の行動を生む、自分のやるべきことをやれる、我慢すべき時に我慢をして、ノーと言う時にはノーと言える、ということなんです。
これが自分の軸が持てないと刹那的な判断しかできないから、断りたくても断れなかった、我慢すべき時に我慢できなかった、我慢しなくていいところを我慢しちゃったり、刹那的にその瞬間、瞬間で判断しちゃうから、結構疲れてしまう。
感情のコントロール
治療というのはどうするべきかというと、まずはちょっと難しいんですけど、感情コントロールを体得していくということが重要です。
ズレが起きたときに不安を感じるんだけれども、その不安に支配されないということが重要です。
プレッシャーを感じていてもやる、ということですね、簡単に言えば。
緊張しないプロ野球選手とか、プロのスポーツ選手っていないわけです。
緊張しない歌手もいなければ、緊張しない俳優もいないです。
緊張しているんだけど、それを自分の中でコントロールしてパフォーマンスを出してあげる、ということがプロには求められるわけです。
僕らもそうで、毎日毎日常に緊張してるわけじゃないけど、その瞬間瞬間、緊張したりすることはあり、そこをグッと堪えたり、上手く受け流したりしてパフォーマンスをする、ということをしています。
これを身に付けていくということは重要です。
患者さんと喋っていて、そもそも感情のコントロールということを考えたこともない人というのは結構いるんです。
あまり言わないのかもしれないですね、こういう言葉は。
感情コントロールを体得していくんだと意識するだけでも日々の行動が変わると思うので、意識しながら身につけてください。
これはとても複雑なメカニズムなので簡単に説明することは難しいです。
マインドフルネスだったり、色々な勉強をしてみる。
色々ありますけど、頭の隅に入れてください。
暴露療法
代表的なのが、恐怖の消去ということで曝露療法というのをやります。
「不安だ」という情報は、それが安全であることがわかれば、だんだん消えていくんです。
ある時りんごや納豆を食べて「まずかった」と思っても、「ああ、もう嫌だ嫌だ」と思っても、2回目、3回目とおいしかったら、だんだん不味かった記憶は忘れるんです。
それと一緒で、不安だからと言って回避し続けたら、どんどん恐怖や不安は高まっていくので、できるところからやっていく。
電車に乗るのが苦手だったら、まずは駅まで行ってみよう、一駅ごとに降りてもいいからとりあえず乗ってみよう、みたいな形でちょっと慣らしてあげる。
慣らしていくと恐怖を忘れていくことができるので、消去できたら、次のちょっと怖いことを試していくと、消去していって不安がなくなる。
「語れないもの」をひとつずつ語る
語れないものをひとつずつ語る、納得する、ということもとても重要です。
心の地図に空洞、空白が一杯あるので、やはり一個一個片付けていく。
そうしないといざというときに折れちゃいますから、そういう活動をしていくことも重要です。
語れなかったものを語る。そして納得する。
これは不安だったけど仕方なかったな、これは失敗だったけれどまあそういうこともあるよな、こういう挫折もあったけど受け入れるしかないな、そういう形でやっていくのがいいと思います。
これは診察室でもいいし、カウンセラーとやってもいいし、友達と喋ってもいいし、自助会で喋ってもいいし、色々なやり方がありますから、自分に合ったやり方や合わせ技でやってもらったらいいと思います。
とにかく語ってみる、ひとつずつ語る、納得することが重要なので、自分一人やってもいいですけど、時間がかかりますから、みんなでやった方がいいんじゃないかなと思います。
ということでオンライン自助会もやってますので、もしよかったら入っていただけたらなと思います。
今回は、不安の治療というテーマでお話ししました。
不安障害
2022.11.9