本日は「精神疾患と幸福」というテーマでお話しします。
患者さんが病気を克服していく、良くしていく中で、どういう形が幸福になるのか、どういう形をもって幸福になったのか、ということをテーマにお話しします。
僕らは、患者さんを診て、良くなった姿をたくさん見ているわけです。
良くなった姿を見ているから、良くなりますよ、と言えるんです。
良くなった患者さんというのは、やはり幸福を感じています。
それはつまり、幸福を感じている患者さんというのは、別に仕事で成功したとか億万長者になった、めちゃくちゃイケメンの人と結婚した、そういうわけではないんです。
もちろんそうではなくて、内的な充実を得た、内的な幸福、内的な達成感を得た、ということなんです。
包まれている感じ、世界と繋がっている感じ、世界から愛されている感じ、というものを思い出すことができるわけです。
思い出すことができて、そして幸福になっていくわけなんですけれども、それを今回お話しします。
どういうことを学んでいった結果幸福になったのか、ということです。
よく僕は、精神疾患というのは不運の連続によって起きますよ、と皆さんに言っていると思います。
遺伝子の問題、生い立ちの問題、今いる環境の問題、事故や天災の問題、色々なものが重なって病気になってしまう、ということが多いんです。
一個一個の不運というのは決して珍しいものじゃないかもしれない。
もしかしたら珍しいものもあるかもしれないですけれども。
だけどそれが重なるということが、なかなかみんな想像つかないんです。
サイコロで6が連続で出るようなもんなんです。
10回連続で6が出るなんてあり得ないと思うじゃないですか。
でもあるんですよ、そんなこと。
1億2千万人いるわけなので、いるんです、そういう人って。
そういう人が来るんです。
でも意外と多いんですよ。
うつになる人は10人に1人と言ったりしますから、決して珍しくはないんですよ。
全員が通院するわけじゃないんだけれども、精神科の病気のような状態になるというのは珍しくはない。
だけど10人に1人しか起きていない、それ前後しか起きていないので、みんなに起きているわけじゃない。
そこがミソです。
精神医学を学ぶとは
精神医学を学ぶというのはどういうことなのかです。
つまり、脳とはどういうものなのか。
人間の心や魂は脳が生み出しているものなので、脳という人間の臓器が生み出しているものなので、その脳のメカニズムを知る必要があります。
脳が疲れているときにはうつになるし、脳が元気なときはハイになるし、幸福を感じやすい。脳に薬物、ドラッグ、お酒、大麻、違法薬物などを入れると気持ち良くなったり、変なものが見えたりするんです。
それはなぜかというと物質だからです、脳というのも。
そして脳というのは遺伝子によって作られるんです。
遺伝子という設計図から作られるので、だいたいそこで決まっていることも多いんです。
設計図に基づいて出来上がっていくし成長していくので、能力と呼ばれているもの、才能と呼ばれているものは、遺伝子上で決定されていることも多いです。
泣き虫、怒りん坊、我慢強いさえも遺伝子レベルで決まっている。
努力しやすい遺伝子、そういうのもわかってきています。
とは言いつつ、それだけではなくて、それはパソコンでいうハードウェアの問題であって、そこにソフトウェアがインストールされるんです。
つまり、経験、学習、教育です。
教育によっては日本人っぽい思考になることもあるし、教育によってはアメリカ人や欧米風になることもあるし、教育によってはイギリス、そういう価値観が出たりします。
受けている教育、カルチャー、常識によって、考え方や感じ方というのは変わってきます、ということです。
遺伝子によっても違うから、結構多様なんです。
多様の中には病的なものというのもあって、発達障害、知的障害、うつ病、不安障害と呼ばれるものもありますよ、ということです。
そういうことを学ぶ。
そして社会。
社会とはどういうものなのか。
歴史の積み重ねですから、社会というのは。
過去の色々なしきたり等が積み重なった結果、今の社会のルールがあるので複雑なんですよ、追いきれないというか。
それが社会だったりします。
しかも色々な脳みそが集まって、狭いところでぎゅうぎゅうとやって、みんながケンカを起こしすぎないようにルールを作っているので、自由には動けないです。
電車の中で自由にやってはいけない、歌ってはいけないなどと似ていて、社会というのもルールがあるので、ルールの中で自由に動いていいですよ、という風になっています。
この社会との葛藤というか、譲り合いも覚えていくのがとても重要だし、社会を変えていくのがとても重要だったりします。
あとはライフステージです。
人間は赤ん坊で産まれてきて、10代、20代という多感な時期を経て、社会の常識を身につけて大人になっていき、子どもを育てて年を取って親を看取り、そして自分も亡くなる、という風にできてます。
もちろん結婚しない人もいるだろうし、性的マイノリティの人のように子どもができないこともあるだろうし、子どもを作らない人生もあるだろうし、人によって違いますけれど。
親より先に亡くなってしまう人もいるだろうし、色々ありますけれども。
そういう人間の流れ、大筋の流れというのがあります。
この流れごとに、この年齢のときはこういうことに悩む、この年齢のときはこんな事件が起きる、ということも分かってきているので、そういう積み重ねがあるので、それも学ぶ。
それに合わせた心理的な課題というのもあるので、それも一緒に考えていくというのが精神医学の本質というか精神医学の中にあります。
こういうことを学ぶ。
学ぶことで今感じている感情の葛藤、社会とのジレンマだったり、独自の価値観を生み出そうという産みの苦しみだったり、世界と繋がるという気持ちのつくり方というか、世界の捉え方、というのを学んでいけるということです。
そうしたら幸福になっていきますよ、ということです。
ジレンマ、仲間
生きていくうちには心理的な葛藤が起きるんです。
どっちが正しいのか良く分からないジレンマによく遭遇します。
そういうときにストレスを溜めるんですけれども、それにあわせて、セルフモニタリングがしっかりできるのか、ストレスマネジメントをしっかりできるのか、問題解決能力を高めていけるかというのがポイントです。
あとは仲間をつくるということです。
人間だけじゃないですよ、仲間というのは。
自然だったり、色々なものと繋がっていけるということが大事なので。
繋がりを感じられるということは、とても大事なので。
コミュニケーションスキルを高めていく、とかですね、マインドフルネスみたいな形で、瞑想を通じて世界と繋がる、繋がりを感じるということもとても重要だったりします。
こういうことを通院の中で学びながら、幸福の状態を達するということです。
幸福の状態というのは、何かがすごく大きく変わるわけじゃないんです。
急に仕事が上手く行く、社長になる、出世する、超お金持ちになる、そういうことではないし、何とか生きつないで宝くじが当った、宝くじが当たるまでは必死に生き続けた、そういうことじゃなくて、そういう色々な複雑なものを受け入れてわかっていく中で世界と繋がっていく、自分自身を知る、ということが幸福なので、そういうものだと思って、イメージを掴んでもらえたら良いんじゃないかな、と思います。
こういう小さいことを、患者さんはすごく学んでいくんです、本当に日々日々。
僕の動画も千本以上ありますけど、同じ動画はひとつとしてないと思います。
何度語っても全部を語りきることができないというか、そういうことです。
でもこういう大枠を意識しながら色々学んでいくと、幸福に近づいてきますので、もし良かったら参考にしていただければなと思います。
僕も診察の中でこういう図を頭に浮かべながら患者さんと喋っています、ということです。
前向きになる考え方
2023.4.20