本日は「寝れない」をテーマにお話しします。
臨床では、患者さんからよく「寝れないけど、どうしたら良いんでしょう?」と質問というか相談を受けることが多いです。
臨床以外でも、普段の日常で「どうしたら良いんですか。私、あんまり寝れないんです」「益田って精神科医なの? じゃあちょっと教えてよ」と言われることが多いです。
どういう話をしているかということですね。
この話をすると、みんな「うーん」とかあまり喜ばれないんですよ。
寝れないからどうしたらいいですかというと、皆さんが期待しているのは、もっと分かりやすい話だと思うんですね。
寝る前にちょっと腹筋した方が良いよ、寝る前に温かい牛乳を飲めば良いよ、そういう一言アドバイスをもらいたいんだけれど、今から言う益田っぽい説明を受けると、みんな嫌な顔をします。
嫌な顔をするんだけれど、でもそれが正しい説明の仕方でもありますし、YouTubeなので正しい対処法を知ってもらえたらなと思います。
どういう問題があるのか
寝れないときに臨床家はどうするかというと、どういうタイプの不眠かということを聞くんです。
寝てるんだけど足りないという質の問題なんですか、もしくは現実的に寝られてないのか、なかなか寝付けない、早く起きちゃう、途中で何度も起きちゃう、という質の問題なのか、量の問題なのかを聞きます。
じゃあ何で上手く寝れてないのかということも聞いていくんです。
例えば忙しいから、忙しくて夜帰ってくるのが遅いんです、朝も早く出て行かなければいけない、通勤時間が2時間ぐらいあって寝る時間がそもそもないという場合は、それは家に帰ってすぐ寝れるようにしてください、というのは不可能ですよね。
そもそも忙しくて寝る時間が物理的にないのであれば、その仕組みから考えていかなければいけないですよね。
通勤時間が長すぎるんだったら、在宅勤務を入れてもらう、もしくは引っ越す、あとはそもそも無駄が多いんじゃないか、生活の中でこれを削ってみようよとか、そういう話をしますね。
あとは、いやいや僕は毎日2時間ぐらい英語の勉強したいんだ、そうすると寝る時間がなくなってしまうんだよね、英語の勉強もしたいし本も読みたいし、Netflixも見たいし、YouTubeは追いかけたいし、だから寝れないんだよ、これだけはやりたいから、その上でしっかり寝たいんだ、と言ったら、それは無理なわけですよね。
あとはやはり不安がある。
勉強しないと、資格を取らないと自分はクビになってしまうかもしれない、出世できないかもしれない、だからそんなこと言われても、みたいなことを言うことがあるんですよね。
でも、やはりそういう状況では寝れないので、そういう状況があっても寝たいというのは1日24時間のところを30時間とか40時間にしてくれという欲望と一緒なので、ここは見直す必要があるなと思います。
見直した上できっちり睡眠のための時間を確保する、そういう生活習慣を作っていくことをまず目指します。
あとはストレスです。
ストレスがあるから寝れないということです。
ストレスというのは心身のストレスなんですよ。
身体の調子が悪いとストレスだし、気持ち、心の問題があるとそれもストレスです。
身体の問題があると心の問題にもなってくるわけです。体調が悪いと落ち込むんです。不安になるんですね。
逆に不安だと体調も何となく悪くなってくるんですよ。
心身というのは繋がっているので、まあそういうのあります。
例えば暑いから、この暑さ故に夏バテを起こしていてストレスで寝れない場合は、じゃあこの暑いのは変えられないですから、クーラーをどう使うのか、そういう話になってきますね。
でも話を聞いていると、いやいや実はダイエット中でダイエットしながらしっかり寝たいみたいな感じだと、やはり飢餓反応が起きているときは上手く寝れないですよ。
だからダイエット計画を見直すとか、しっかり3食を食べる、そういうことを見直さなければいけないですね。
あとは年齢的なものもあります、体力が落ちてくるんで。
大学生の時みたいに寝たいという欲望を抱えている人たちもいますから、30代、40代、50代になっても。
それは違うよねということも話をします。
ある種の老いは受け入れなければいけなかったりします。
その上で今の自分の体力、寝るのにも体力使いますから、自分の体力、体調に合わせた上で、寝れる目標を作るというのが大事です。
あと人間関係ですね。
人間関係のストレスというのもあります。
人間関係のストレスもしっかり解体していかなければいけないんです。
例えば自分の問題なのか、自分にトラウマがあるから人間に対する不安があるのか、もしくは認知の歪み、完璧主義だったり、色々な欲望があったりして認知が歪んでいる、世界観自体が崩れている。
人に勝たないといけないと思い込んでいる。
勝たないと自分はダメなんだ、勝たないと苦しくなる、不安になるんだ、世界観自体が弱肉強食の世界観だったら、それは落ち着かないですよ。
そうじゃなくて、世界というのは意地悪な人は時々いるかもしれないけれど、基本的にハッピーな世界だよね、基本的には人類って良くなっていくよね、そういう世界観で生きるということはとても重要で、重要というか楽ですよね、そういう風に生きた方が。
世界観を意識してあげる、直していくといいのかなと思いますね。
あとは他人との人間関係の問題です。
自分に問題があるんじゃなくて、他人に問題があることもあるんですね。
例えば恋人自身に問題があることもある。
自分にも問題があるように、相手にも問題がありますから、相手に問題があって、その問題で悩んでいる場合はどうやって距離を取るのか、どうやってその相手の問題を解決していくのかと考えたり、上司の問題もあるかもしれないし、家族の問題かもしれない。
人間関係で厄介なことは、自分の問題が他者に投影される。自分の思い込み、自分のトラウマがフィルターになってしまうんですよ。
そして、本来の相手の姿が見えなくなっている時がありますね。
例えば、家族ですね。
原家族、自分の生い立ち、家族に問題がある場合、何となく年上の男性が苦手になったり、何となく恋人に依存しやすくなったりするんですよ。
家族のトラウマがあると、そういう風に歪みやすい、世界観も歪みやすい。
親が絶対勝たなければいけないんだ、高学歴じゃないと人間じゃないんだみたいな言い方をしていると、今時そんな人いないですけど、昔の昭和みたいな親だったらそうかもしれないけど、まあそういう風なところで育つと、どうしてもやはりそこの部分、そういう世界観から抜けなかったりしますね。
そういう世界観で生きていると苦しかったりしますね。
親はじゃあ、そういう世界観かというと、親は口で言うだけで「そんなこと言ったっけ?」みたいなこともあったりするんだけど、子供には影響を与えているとかあります。
あとはぞれぞれの人間には問題がないんだけれど、集まることで相互作用によって問題が起きることがあります。
それは二者心理だったり、集団心理の問題だったりします。
ある会社ではパワハラがいっぱい起きている、と。
じゃあパワハラするような人たちが多いのかというと、個々の人間は結構優しかったり良い人だったりするんですよね。
だけどその会社の中にいて、会社カルチャーの中にいると悪い行動をしてしまうということがあったりします。
それは集団病理の問題だったりはします。会社の仕組みに問題があったりします。
その影響でこういうことが起きたりもします。
今どういうストレスがあるのか、どういう人間関係の問題があるのか、その問題はどういう構造なのかということを理解していくことで対処法がわかる。対処法がわかればストレスってちょっと減るんです。
漠然としているとあれやこれや悩むんだけれど、問題が明確化していくと、人間は楽に捉えることができるので、そうするとストレスが減って寝やすくなるとかもあります。
あとはよくあるのはお酒です。
ストレスがあるからお酒を飲む、お酒を飲むから時間が足りなくて忙しくなる、忙しいからストレスが溜まってお酒を飲む、酒を飲むから暑苦しい、暑いから苦しくなってしまう、そして身体も休まらない、休まらないからストレスが溜まる、寝れない。
お酒があるせいで問題をややこしくしていることがあるので、そうしたらお酒を減らそうよ、断酒しようよ、ということになります。
スマホですよね。
ストレスが溜まるからスマホをする、スマホで何時間もショート動画を見ているから忙しくなってしまう、忙しいからストレスが溜まる、スマホを見てるから欲望がかき立てられる。
あの人綺麗だな、あれ欲しいなとかになる、そうするから余計ストレスが溜まる。ストレスが溜まるからまたスマホを見る、みたいな。
これは繋がっていたりするので、悪いものというのは生活から排除した方が良いです。
スマホにしても酒にしても、欲望にしても人生を楽しくさせるスパイスではあるし、それ抜きではやはり生きてくのがつまらないじゃないですか。
ジャンクフードは美味しいので食べたいんですけど、かといってそれが多すぎるとやはり健康を害するので付き合い方は大事ですよ、ということになります。
睡眠の質を上げるには、マインドフルネスとか瞑想をするとか、生活習慣を見直す、規則正しい生活をするとかですね。
そもそもやはりきちんと寝てないということはうつ、ストレス性のうつの可能性がある。
ストレス性でなくても、普通のうつの可能性もあるので、うつの治療をしようよということになります。
即効性を求めるのであれば、睡眠薬を使ったりします。
睡眠薬は長時間型とか短時間型とかありますから、途中で何度も起きちゃうのであれば長時間型、朝早く起きてしまうなら長時間型、寝つけない場合は短時間型を使うという形になります。
薬の長時間型と短時間型はどう違うかというと、飴玉みたいなものを想像してください。
短時間型というのは飴玉が小さい感じで、長時間型というのは飴玉が大きい感じということです。
プランを立てる
こういうことを踏まえてプランを立てるわけです。
生活習慣を見直そうかな、と。
やれることは、生活習慣の見直しでこういう生活習慣になるようにやろう。
スマホは我慢できるようにしよう、お酒をできるだけ控えようとか。
あとは相談ですよね。
人間関係のトラブルが今あるので誰かに相談してみよう、主治医に相談してみよう、カウンセラーに相談してみよう、になってくるのかなと思います。
面倒ですよね。はい、面倒なんですよ。面倒なんですよね。
たかが寝れないということだし、生活のごく一部のように見えて、だけどその細部は全体に影響を及ぼしているわけです。
寝れないという問題をただ寝れないだけで捉えるのではなく、自分の人生全体からその寝れない原因を探っていく、生活習慣全体から探っていくということがとても重要ですね。
精神科というのはこういう治療しているわけですよ。
ということで、今回は寝れないをテーマにお話してみました。
精神医学
2023.9.18