本日は「治療のゴールは本人の幸福か?」というテーマでお話しします。
臨床で患者さんが色々喋った後に「でも結局幸せだったらいいんですよね」と言うことが多いんです。
「でも本人が幸せだったらいいんですよね」と家族が言ったりすることも多いんですけど、そうと言えばそうなんですが、でも「幸福を目指す」というのは何だかよくわからないんですよ。
そうと言えばそうだけど、「じゃあ何を目指すの?」という感じという。
「今までの議論は何だったの?」ということが多いですね。
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幸福とは何かわからない
幸福は、幸福を目指すものというのはちょっと違う。
今抱えている問題を解決していく、今の問題は解決できないなら受け入れていく、今の問題を明らかにして行って結果的に解決して行く、決断する。明らかにした結果受け入れざるを得ないから、受け入れる、諦める、そういうことなんですよね。
だから幸福を目指すというのは何だか曖昧としていて、じゃあストレス解消すればいいのかとか、そういうことになって「じゃあ、お酒を飲めば幸福だからお酒飲めばいいんですね」と話があらぬ方向に行きがちなんです。
臨床というのは、幸福は結果的になればいいんだけれど、僕ら精神科の中でやるべきことというのはそうじゃなくて、客観的に今の現象を見る、感情や主観に支配されず今の現状を客観的に理解する。
脳科学や精神医学、その他様々な情報を理解した上で、偏見や先入観を減らし、今の問題をクリアに理解していく、そして正しく論理展開をして問題を整理する。
その上でベストな行動を取る、選択して選ぶ、複数の選択肢がある中でメリット、デメリットとそれぞれあるんだけれど、一番どれがいいのかをエイヤッと思って決めるということだったりします。
そういう作業をする場所であって、何となくよくわからないけど幸福を探しましょうという場所では基本的にはないんですね。
結果的にそうなることはあるけれど、それを第一に目指す場所ではないんですね。
だからわからないんですよ。
目指すべきもの
目指すものは何かというと、先程言った通り「主観2.0」。これは僕が作った造語なんですけど、今の状況、僕らが見ている世界はあるがままを見てないんですよ。
あるがままを見ていないので、感情を外して物事を見る、冷静に見る、主観を抜きで見る、先入観抜きで見る、常識に支配されずに世界を眺めてみる、そういう作業が必要なんですね。
そういうことをした上で、できるだけ客観的に見ていく。
そうしていくと世界観が変わっていくんです。
今まで自分が見ていたものの考え方が少しずつ変わっていくんですね。
1.1、1.2、1.3…と変わってきて、ある瞬間に2.0とバージョンアップしていく。
そういうことを目指していくという治療の本筋の話をしています。
精神科の患者さんというのは、今抱えている現実的な問題に加えて、自分で問題を大きくしたりややこしくしているわけです。
確かに不幸な状態にあるし、苦しい状況にいるのはわかっているけど、でも僕が同じ立場だったらそこまで悩んでないよね、ということはある訳です。
僕が同じ立場だったら、別に医師免許とか全部無しでも、同じ状況であっても、そんな風に思わないということも結構あるんですね。
自分にできるだけストレスのかからない考え方だったり、世界観だったり、物の見方だったりする必要があるし、できるだけ疲れない物の見方に変えていく必要がある。
そういうことを「主観2.0を目指す」と言うのですが、これをやっていく。
あと正しくセルフモニタリングするということですね。その習慣を作る。
今自分の状態はどうなのか、今疲れているな、今感情的になっているな、そういう自分の状況を把握する。
そして、自分の今抱えている課題や問題、目標を明らかにして、それに向けて行動していくということが大事だったりします。
自分でモニタリングするというのは結構大事で、これができていなかったりしますね。
例えばスポーツだったら、大谷選手とかはやってるわけですよ。
大谷選手じゃなくても皆やってますけど、練習前に身体を動かして準備体操をしながら、何か今日は右肩の調子悪いなと、ボール投げる時はちょっと緩めに投げておこうとか、チーム練習ではしっかりやるけれど、個人練習はちょっと控えておこう、疲労がたまっているから同じように練習したら怪我しちゃうからちょっと減らしておこう、今自分の苦手なことはロングパスだからパスは練習をしっかりやるけど、シュート練習はちょっと控えておこうとか、そういう意識です。
スポーツだけじゃなくて、やはり日常の生活の中でもこういう要素は大事だったりしますね。
あとはボディコントロールのマスターです。
ボディコントロールとは何かというと、簡単に言えば感情的にならないアンガーマネジメントみたいなものです。
感情と自分を上手く切り離して考えていくということです。
これもスポーツに例えると、例えばサッカー選手だとPKの前に一回息を整えるわけですよ。
息を整える中で、心臓の動きがゆっくりになる。
そうすると冷静になっていくわけですね。
心臓の動きが速いと高ぶっていって、脳はちょっと感情的になるというか、不安を感じたり緊張感があるんですね。
そうすると冷静になれないので、呼吸をゆっくりにして心臓の動きをゆっくりにする。
心臓の動きがゆっくりになることで、脳は勘違いしていくんですね、「ああ、今は普通なんだ」と思って勘違いしていくんですよ。
逆に心臓が速いと「今不安な状況なんだ、だから意識しなければ」となってしまうので、ゆっくりさせる。そうすると感情をコントロールできるので、冷静に物事を判断できる。
患者さんが抱えている状況は、めちゃくちゃ複雑でめちゃくちゃ難しい状況なんですよ。
そういう状況下であるときは冷静に考えないと対応できないんですね。
感情的にエイヤッとやったら上手く行かないので、冷静に淡々とやる必要がある。
複雑な問題を解決するときには、楽しいときにエイッと言って旅行先を決めるのと同じようなやり方をしては絶対上手く行かないので冷静にやる。
そのためには冷静になるためのボディコントロールを身に付けていく。
治療の目標は何かというとこれです。
主観2.0、セルフモニタリング、ボディーコントロールをマスターしていくということになります。
これはやはり終わりなき道なんですよ。
極めれば極めるほど先があるんです。
いくら冷静にあるがままに社会を見ようと思ってもそんなのできないんですよ、人間は。
色々なことを学ばなければいけないし、学んだ先にはまだ先があるわけですね、学問の先があるように。
セルフモニタリングだって色々なことをやって色々判断してエイヤッと決めるけど、失敗することもあれば成功もある。
生きている限り問題がなくなることはあり得ないので、絶えずやり続けなければいけないし、極めていかなければいけない。
ボディコントロールもそうですよね。できる・できないの問題じゃないですから。
より緊張する場面だと、普段だと落ち着く場面も落ち着けなくなるわけで、先がありますから、そういう先をどんどん心身との対話を繰り返しながら鍛えていくということが重要だったりします。
終わりがないんですよね。
そう言うと何なのかわかりにくいので、もうちょっとだけお話しします。
自己肯定感をしっかり持つ
幸福とは何かわからないんですけど、でも実際臨床的に目指すことは何かというと、例えば自己肯定感をしっかり持つ、持てるようになるところです。
人格を尊重できるかということなんですね。
本人だったり、相手だったり。
そういう人格を尊重できるかということに繋がってくるんです。
自己肯定感というのは成功体験の積み重ねによると言うのですが、でも実際は成功を積めないことだってあるわけです。
小さな成功に気づけることが大事と言ったりするんですが、でもやはりそれだけだと「外出できようになったからすごいじゃない。成功だね」と治療者が言っても、本人はうすら寒かったりするんですよね。
そうじゃなくて人格を尊重していくということだったりします。
小さな成功や成長を喜ぶというのは、それが目的ではなくて、その背後にある人格の尊重こそ目的だったりすることはあります。
あと自他の理解、その間にある境界線の理解や繋がりがあるということ、信頼感を持つということを目指したりするんですけど、こういうことができるようになるためには、やはりこっちに繋がるんです。
こういう倫理的な正しさを目指していくというのも大事かなと思います。
結局、倫理的であるということは幸福に繋がっていくことにはなるんですけど、じゃあなぜ倫理的になれないのか、人間は倫理的になれないのかというと、現代社会の問題としてはやはり能力主義だったりしますよね。
能力があることが正しいとか自己責任論が行き過ぎていて、倫理的であることがないがしろにされていて、儲けること重視になっている。
金儲けは僕も嫌いじゃないし好きだし、金儲けをすることによって人を雇えてより良いものを産めたり仕組み化できるわけで、お金というのは大事なんですけど、それは手段であって目的化してはいけないというか、そういうことになります。
でもなかなかそうは思えないというか、何かそういう風に人々をコントロールさせているものになっているなとは思います。
だからそこから解放されれば幸福になるとも言える。でもそんなことを言うと、エリートの戯言なんじゃないかとか言われそうですけど、でも本当にそうなんですけどね。
今回は、治療のゴールは本人の幸福かというテーマで、幸福を目指すというよりも、もっと具体的なものをマスターしていくことをお勧めしますよという動画を撮りました。
前向きになる考え方
2023.10.6