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卒業をテーマに話します。健康な人と(将来の)患者さんとで感じ方がこんなにも違う?

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00:00 今日のテーマ
01:10 卒業=別れ
02:17 卒業=別れから連想するもの
07:49 精神科の患者さんの場合

今日は「卒業」をテーマに雑感を述べてみようと思います。タイトルは「卒業を治療に役立てる方法」と大きく出ましたが、雑感です。

いろいろな出来事や言葉を連想していくことを「地獄めぐり」と僕は良く言っていますがそれの実例です。卒業をひとつのキーワードにいろいろ連想してみて治療に役立ててもらえたらと思います。これを見ながら卒業を振り返ってみてください。それが治療というか、人的成長に繋がっていったりします。

卒業=別れ

卒業=「別れ」ですが、これは日本人が好きなテーマです。歌なんかでも、桜、卒業、などのテーマの曲がよく流行ります。

先日、ニューヨークタイムスに「日本は災害が多い国なので規律正しい国民性だ」という記事があり、なるほどなと思いました。確かに、災害が多い国なので突然の事故や別れに対して親近感があったり、妙にしっくりくるのかなと思います。

また、よく卒業のときに「また会えるよね」と言ったりしますが会わないですね。会わないんですけど言ったりします。どうせ会わないだろうとみんな知っているのですが言います。

卒業=別れから連想するもの

・死の連想
僕らは賞味期限のある肉体の中に生きていますから死がありますし、肉体という制限や限界性、時間の限界性もあります。普段はそういったことを感じずに生きているのですが、こういうときには「自分もいつか死ぬんだな」と思ったり、「死」を連想したりするのだと思います。意識的、無意識的にせよ。

・分離不安
母親と一体感があった赤ちゃんが、お母さんとは別の人間なのだと知るのが分離です。「個人」であるということです。組織の中にいると、自分が「個」の人間であることを忘れがちになります。

僕も防衛医大を卒業して、陸海空と別れたとしても自衛隊の中にいるとつながりが多かったりして、組織のつながりから絶たれる感じがわかっていませんでした。ですので、自衛隊をやめたときは本当に肌寒い感じがしました。そういうことの繰り返しの中で、自分が一人の人間でしかなく、組織とは何の関係もないのだということを知ります。

・成熟拒否
卒業したくないというのは成熟の拒否だったりします。大人になっていくこと、老いることへの拒否もありますが、責任を拒否したい、いつまでも甘えていたいという感じもあります。

そのような自分の心の弱さや不安を刺激されて苦しくなるのが卒業です。

そこから何を学ぶのかというと、

・不安な気持ちを抱える力
・あきらめる力(拒否しても結局は卒業しなければいけない)
・今どうして自分が不安なのか言語化する
・メタ認知が上がる(過去の自分を振り返る、将来の自分を考える)
・対応力(卒業した後は自分はこういうことをするのだ)
・共感力(卒業のタイミングはいろいろなことが見える。意外な人が泣いている、青春していた…)

などがあります。
1回の卒業ですべてを理解することはほぼないので、何度も思い出しながら学んでいくということだと思います。

以上は、健康な人はこうだ、ということです。

精神科の患者さんの場合

精神科の患者さんの場合どういうことが起きるか、精神科医は患者さんと卒業についてどういうことを話すのかということです。今までの話を聞いて「うんうん、そうだよね」と思う人は健康な人です。

多くの患者さんは卒業に対して「ようやく終わる」と不安からの解放を述べる人が多いです。医師は卒業に対してホッとしたりよかったねと思ったりするのですが、患者さんは意外と淡白だったりします。むしろ学校に対して怒りがあったりします。

また、不安を抱えきれなくて行動してしまう境界性人格障害の人などもいます。
不安を抱えきれない、あきらめられない、言語化できない、メタ認知ができない、対応できない、共感できないとなるとわけがわからなくなって混乱してしまいます。不安を抱えてしみじみするのが嫌で、春休み直前に悪い遊びをしてしまったりすることもよくあります。

わけがわからないことが将来の不安に転じてしまい、目の前の卒業を味わえなくなる人もいます。
「卒業したらどうなるかわかりません」「内定をもらっているけどどうなるかわかりません」「大学の進学がきまっていますが怖いんです」としか言えない人たちです。

何も感じない、何も学んでいかない人もいます。周りに流され、合わせて演じるだけの人もいます。「この人は本当に友達と別れるのが悲しいのかな? 悲しんでいるそぶりをしているだけかな?」と思います。

卒業は成長する機会なのですが、うつ、発達障害、境界性人格障害の人はここで成長できず差が開いてしまうことがあります。自分の人生を生きられないとも言えます。卒業という悲しみを味わうことは人生において大事なのですが、それを味わえずになんだか仮面をかぶって生きているようなところがあります。

それが患者さんの責任なのか、虐待の結果親のことで頭がいっぱいで自分の卒業を味わえないのか、将来の不安や成績、お金のことばかり考えてしまって人間味のある感情の交流を味わえないのか、いろいろなパターンが考えられます。いずれにせよ自分の人生を生きられていないという感じです。

この動画を見てホワイトボードの右側をよく考える人は、カウンセリングや診察の中で言語化していって自分の人生をよく味わう訓練を一緒にしていけたらと思います。

卒業を「よかったよかった」とホッとするだけの精神科医はあまりよくないのです。こういうところで危機感を持ち、治療介入のタイミングとしてうまく活かそうとするのがよい医者かなと僕は思います。

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2021.3.2

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