今日は「気分変調症と気分循環性障害」について解説します。この言葉は聞きなれない人も多いかと思いますが、逆にこの病名を言われたことがある人もいるかもしれません。この病名はメジャーではないのですが、実はうつ病や躁うつ病よりも気分変調症、気分循環性障害の患者さんの方が多いという報告もあります。僕はこれらの診断は付けなかったり言わなかったりします。
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気分障害
気分変調症、気分循環性障害、うつ病、躁うつ病を「気分障害」と言って同じ病気のカテゴリーに含まれています。
・うつ病
脳の病気が原因でガッと落ち込み、回復し、またしばらくしてガッと落ち込むというのが古典的な理解です。40代〜50代での発症が多いです。
うつ病の再発率は3年以内で60~70%、薬剤反応性は1/3(薬に反応する人が1/3、残りの1/3は薬がなくても良くなる)という報告もあります。
・躁うつ病
落ち込む時もあれば躁状態になることもあります。
うつ→うつ→躁、躁→躁→うつ、うつ→うつ→うつ→時々躁でも良いのですが、うつ状態がメインのことが多いです。こちらは若い人の発症が多いと言われています。
・気分変調症
うつ病ほどうつは酷くないものの、だらだらとずっと落ち込みが続くものを「気分変調症」と言ったりします。50%は25歳以下で発症し、25%の人がよくなると言われています。気分変調症と診断された人がうつ病、躁うつ病に発展するケースもあります。
・気分循環性障害
躁うつ病のゆるいバージョンが気分循環性障害です。うつ病ほど下がらないし、躁の人ほど上がりません。双極性障害II型の弱いバージョンと言って良いと思います。人格障害などが合併することがあり、15〜25歳くらいで発症します。
性格? 病気・障害?
これらは性格の問題じゃないの?と言われるかもしれませんが、脳の病気と言われています。これは気分変調症や気分循環性障害の人の家族に、うつ病や躁うつ病の人が多いためです。生物学的(遺伝子解析、睡眠リズム)にも類似点が多いです。
診断
診断はなかなか難しいです。研究しにくいのです。
研究者の立場に立って臨床研究をしている時に、うつ病や躁うつ病を集めて研究するのと気分変調症を集めて研究するのとでは、前者の方がはるかに研究モデルを組みやすいです。気分変調症や気分循環性障害では、本当に性格の問題も含まれる可能性もあるので純粋なサンプルを集めにくいのです。
気分変調症、気分循環性障害の場合はうつにしても主観的な訴えが多かったりします。なんだか落ち込む、元気が出ない、そわそわしているなど。うつ病に見られる不眠、食べられないといったことは気分変調症ではなかなか見られません。躁転しても、ハイテンションで一晩中歌い続けるといったようなことは見られません。論文を書いたわけではありませんが、やはりうつ病・躁うつ病の方が病気らしい病気と言えると思います。
薬の効果
外来の患者さんは気分変調症、気分循環性障害の方が多いと述べましたが、薬はなかなか効きにくく、効果は部分的であることが多いです。元々上下の幅が狭いので効果が感じられにくいということです。
カウンセリングが有効
一方でカウンセリングが有効と言われています。若い時から発症したために、本来ならば成熟すべき場所できちんとした成功体験を積むことができず、人格的成長の機会を失っていることがあります。そこをカウンセリングで補ってあげるという発想が大事です。
認知行動療法も良いのですが、もっと洞察的なアプローチや価値観や生活指導まで含めたカウンセリングが有効なのではないかとも言われています。
合併症、誤診?
いつまでたっても合併症があるのではないか、誤診なのではないかという可能性は拭えず、患者さんと病名をどうシェアするのか、どのような薬物治療を選択するのかが難しかったりします。
臨床をしていると、「薬が効かない」といっても結構効いたりします。
最近の例では、別のドクターから僕が主治医に変わったときに「長年なかなか良くならなかった」という患者さんにラミクタールを使ったのですが、本当に良くなって「聞いていたのと違うな、やはり躁うつ病だったのだな」とか、気分変調症の人に試しにエビリファイを使ってみたら意外と良くなったとか、なんだか不思議です。精神医学はまだまだ発展途上にあってわからないことがたくさんありますので、そういうこともあるのだろうなと思います。
ストレス性のうつ
ストレス性のうつは一過性であることが多いです。脳病らしさは再発、繰り返しですが、これも数値化しにくいので難しいところです。概念として話すとすごく難しいのですが、一人の患者さんに対して今できる最善を言うことはできると思います。
うつ病
2021.3.4