今日は「正しい医療情報とは何か、デマとは何か」について語ってみようと思います。
よく「正しい情報を伝えるために医師自らが情報発信している」と聞くことがあると思います。僕がYouTubeをやっている理由の1つでもあります。ですがその「間違い」が何なのかを聞くことはあまりないと思います。人の文句を言うようで言いたくないので言わなかったのですが、今回勇気を振り絞って話そうと思います。
デマではなく、まだよくわからないグレーのものもあります。グレーだけどその先生の主義主張として伝えているということもあるので、どういうことがグレーな話でどこまでならば医者は皆信じているかということを語ってみようと思います。
コンテンツ
TMSは有効か?
これは診察室でよく聞かれるので答えます。
TMSは薬剤抵抗性の中等度以上のうつ病に有効と言われています。うつ病であり、薬を試したけれどもなかなか良くならない人ということです。ただ、mECT(電気けいれん療法)には劣ると言われています。
適応以外の疾患に効果があるかどうかはよくわかりません。いろいろな先生の主義主張があるとは思いますが、まだエビデンスがしっかり出ていません。
教科書やガイドラインに載っているものが全てなのか、まだそうなっていないRCT(ランダム化比較試験)で結果が出た分野やRCT以外にもエビデンスの高いシステマティックレビューだけを信じれば良いのかというとそうではないとも言えます。正しい情報もそれが教科書に載るまでには10年くらい掛かるのでグレーな話も多いのですが、TMSに関しては上記のように言われています。
脳波やMRI、血液検査で精神疾患の診断はできる?
これもまだ研究段階でわかっていません。医師の問診や診断以上の診断能力はありません。
AIもまだ無理です。将来的には可能になるとは思いますが。
心理検査の必要性についてはケースバイケースです。取らないからダメというわけではありません。
大麻やサプリはうつに有効?
これもエビデンスの問題としてわかりません。でも問題が多いと思っています。大麻など依存性の問題もあるので医療大麻は良いのかと言うと「・・・」というところです。それよりももっと治療としてやるべきことがあるのではないかというのが一般的な医師の見解ではないかと思います。抗うつ薬を使いながら、その人が抱えている心の問題や現実的な生活の問題を明らかにして1つ1つ解決していく方がうつの治療には良いと思います。
薬で気分を良くすれば他のことが解決するというわけではないので、問題をきちんと1つ1つ解決していくことが重要です。
ベンゾジアゼピン、コンサータは危険か?
医師の指導のもと、適正に使用してくださいというものです。適正使用を行うのも結構大変で、患者さんからこのような薬を出してくれと言われた時に突っぱねないといけないことがあります。
このような理由で処方できませんときちんと説明してディスカッションが成立することもあれば、なかなか成立しないこともあります。病気のせいで患者さんがきちんと判断できないこともありますし、心理的な問題で受け入れ難いこともあります。それは精神科という領域の難しさでもありますが、僕らは医師としての倫理観に従って適正使用をしています。
漢方の方が良い?
これも良く出る話です。漢方は基本的に悪くないとは思いますが、エビデンスが弱いです。抗うつ薬などの方がしっかり効くことが多いので、漢方を優先させるということは精神科医はないかなと思います。有効であることもあるから使っているという感じだと思います。あとは漢方といえどもたくさん飲むと副作用が出てしまうのでそこには気をつけています。
カウンセリングは無駄?
カウンセリングを勧める医師は怪しいとか逆に薬を勧める医師は怪しいなどいろいろ言います。
カウンセリングは万能ではありませんが、無駄ではありません。心の悩みや現実的な課題を一人で解決するのは難しいですし、会社もコンサルを入れたりしますからね。一人で解決できない人が多いのでサポートできる人を入れて解決していこうというのは現実的には妥当かなと思います。共感してもらうことや優しくしてもらうことに神秘的な治療効果があるわけではありませんが、それでもやはり役に立ちます。
カウンセリングのバランス感覚の難しさがどうしてあるかというと、精神医学の歴史を遡ると一番最初は催眠術から始まっているところにあります。本当に催眠術で治そうとしていたのです。フロイトはフランスでシャルコーから催眠術を学ぶのですが、催眠術が下手でそこから話す療法であるカウンセリングが始まりました。
当時は性的な問題や虐待の話が話せない時代だったので、それを喋ることで患者さんの中で治療が進んだというところもありますし、統合失調症の薬もなかったのでカウンセリングで治していこうとしたというのもありました。
当時の統合失調症、うつ病、自閉症などの診断はゆるかったのでカウンセリングで治ったケースも報告されていていますが、今見るとこれは統合失調症ではないよねというケースもあります。時代背景なども絡み、催眠術より精神分析の方がまし、精神分析より認知行動療法の方がましなど過大広告があったのだと思います。今はだんだん現代的な感覚に落とし込んでいると思います。
クチコミは正しい?
これは結構難しくて、良い先生にも結構xが付いています。話半分で聞くのが良いのではと思います。僕のクリニックもクチコミは多いと思いますが、3ケタなど多すぎるクチコミは怪しいと思います。
また、サプリ系を出す先生のところは高評価が付きやすかったりします。希少性のある治療、特殊な治療は良いものと思いがちなのでそのようなところは高い評価が付きやすいです。普通にやっていれば普通の評価というか少し低めになるのではないかという気はします。
精神科の治療は治療法がないこともたくさんあります。曖昧な中で判断をしなければならず、患者さんの中では煮え切らないし嫌だなと思うことがあると思います。煮え切らない発言が多いので自信がないように見えてしまう、それで断言する先生が好まれたりすることもあるかもしれませんが、それはあまり良くないと思います。
情報発信している医師は怪しい?
YouTubeをやっていても割りに合わないと思うので、割りに合わないことをやっているというのは何か裏があるのではないかと確かに思います。綺麗すぎるホームページは広告的な要素が強すぎて、お金を掛けすぎているのではないかみたいな感じです。
でも割りに合わないことは医者は結構良くやっています。学会活動、出版、講演なんかは割りに合わないと僕は思ってしまいます。医者同士で「教授になれないのに何で論文書いてるんだろうな」などと言い合いながら割りに合わないことをやっていますが、そこは医者の美意識や仕事にかける情熱や使命感を感じて良いなと思います。
YouTubeは割りに合わないけれど、学会活動よりは割りに合うのかなと僕は思います。見てくれる人も多いですし、反応も多いので。上もつっかえていませんし。
正しい情報を得るには学会や国が出している情報を見るのが良いのではないかと思いますが、僕は正しい情報を伝えつつ臨床のバランス感覚も伝えられたらと思います。
雑談
2021.3.19