今日は「過食嘔吐」がテーマです。
ホワイトボードに「過食嘔吐依存症」と書いていますが、過食嘔吐も依存なのです。嗜癖なのです。ですので、アルコール依存症やギャンブル依存症と同じ仲間になります。行動の依存ということです。
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依存症とは?
依存症ですので、ある種誰でも起きますし、進行性でどんどんエスカレートしていきます。慢性的に続くもので、一時期止まっていても再びやり始めてしまうこともあります。
性格の変化も起きて、嘘をつく、家族に隠れて過食嘔吐をする、衝動的になったりもします。また、自分をいじめるという意味で暴力的でもあります。「やっぱり私はやめられないんだ」と無気力になったりもします。
特徴
・虐待、発達障害、母子関係
虐待や発達障害の問題、それから母・娘関係が入り組んでいたりします。くっつき過ぎていたり厳し過ぎたりと特徴的な親子関係があります。その結果、対人不安があったり、自分の内面を語れない人が多かったりします。コミュニケーションが下手な人はそれほど多くはいません。ただ、「甘えられない人」は多いです。患者さんは「私は甘えられないんです」とよく言います。
甘えられるようにするのも治療なのですが、甘えさせようとしていくと今度は退行(赤ちゃん返り)が起きてトラブルが起きます。トラブルが起こるのでやっぱり甘えてはいけないんだと寂しくなり、また甘えるようになりと行ったり来たりしているうちに適切な甘え方がわかるようになっていきます。治療のメカニズムとしてはそうですが、退行やトラブルが起きるのは結構大変です。
ちなみに僕は相当苦手です。みなさんご存知のように僕は合理的な脳なので、人の気持ちがわからないというわけではありませんが、甘えるとか柔らかいものを包むのが苦手です。なので僕が診ている過食嘔吐の人は発達障害ベースの人が多いです。あとは虐待問題があって、逆に僕ぐらい淡白な人間じゃないと甘えられないという人もいるかなと思います。ここら辺は相性の世界にもなってきます。もしくは腕の問題です、僕にとっては苦手な分野です。
・誤った認知
芸能人が摂取カロリーを公表したりしていますが、だいたい嘘です。サラダしか食べていなかったら死んでしまいます。それを地でやってしまってダメになってしまいます。
それから、平凡恐怖もあります。普通になってはいけない、普通は嫌だという思い込みや親の教えがあり、それを守っている感じです。それから、身体イメージの歪みもあったりします。
過剰適応もあります。能力を120%使って社会や仕事や学校生活に溶け込んでいます。周囲から期待されていることが多く、本人の120%ぶりを周りの人はどうして見抜けないのだろうと思うくらい、世の中の人は彼ら彼女らに期待していたりします。見ているとすごく涙ぐましい努力をしていて、彼らが身を削りながら結果を出しているのにどうして気づけないのだろうと僕は思いますがそのようです。
それをそのまま診察室で言ってしまうと彼らの努力を否定するような感じになるので言いにくいですし、親子で来た場合も「彼女の努力はあなたたちの育て方なんですよ」とは絶対言わないですし、「期待のしすぎなんですよ」とも言いません。正解が分からないので結構難しいです。愛しあっているし、憎しみあっているしという妙にもつれ込んだ感じというのが母子密着関係、親子関係にはあります。そこを紐解いていくのは僕は苦手ですし、すごく難しいなと思います。
・白黒思考
最近、白黒思考についての動画も撮りましたのでよかったらご覧ください。白なのか黒なのか、極端にしか考えらレません。食べるならばめちゃくちゃ食べてしまうし、やめるのなら拒食になってしまいます。そうではない人であっても「曖昧なもの」や「いい感じで」が苦手です。
・身体症状
体の方にも異常が出てきて、酷い場合には電解質異常になります。
よくあるのは胃酸で歯が溶けてしまうことです。歯がボロボロになってしまったり、芸能人だと入れ歯の人もいます。
耳下腺の腫れも見られます。リスのようになってしまいます。それを隠すように髪を垂らしている地下アイドルの女の子も見受けられます。
手の甲に吐きダコがあったりもします。吐くときに歯が当たるので固くなってしまいます。過食嘔吐を1日に何度も、しかも1回に20分、30分、1時間以上と吐き続けていると吐きダコまでできてしまいます。
治療
・環境調整
頑張り過ぎているのなら、頑張り過ぎなくても良い環境を作ってあげる。
・カウンセリング
治療の中心はカウンセリングです。カウンセリングが中心なので僕が提供できないものでもあります。診察時間は短いので、治療をしていくには構造が弱いなといつも思います。僕が診られる過食嘔吐の人は全体の中の一部で、あとはカウンセリングにお願いするという感じです。カウンセラーの腕が試される場所でもあるし、連携しがいのある場所でもあります。
・自助団体?
引き金欲求モデル
引き金欲求モデルをここでも応用できます。
《引き金》
HALT:お腹が空いている、怒っているとき、一人のとき、疲れたとき
→過食嘔吐したい、となります。
これが習慣になってくると、仕事終わりには「ああもう今日は過食嘔吐しよう」と頭の中は食べ物でいっぱいで、コンビニやスーパーで袋いっぱいに買い込んで、食べてすぐ吐きに行き、吐いたと思ったらまた食べて吐くということをやってしまったりします。
《行動療法》
・お金を持たない
食べ物を買ってしまわないように、お金をあまり持たないようにします。
・時間を埋める
なかなか外に出ていけない、甘えられない、内面を語れない、対人不安があるので一人の時間が多くなりがちなのですが、オンライン英会話でもオンラインカウンセリングでもなんでも良いので、とにかく食べ吐きしないようにその時間を埋めるようにします。
この辺は難しくて、アルコール、ギャンブル依存症の人もそうですが、じゃあ空いた時間に何をすれば良いのですかという話にいつもなります。
《錨》
家族のほつれを治して一緒に治療に向かっていくことが大事だったりします。
母親が食べ物を管理する、皆で3食食べる、食事の用意や後片付けを一緒にするといった当たり前の作業が治療として大事だったりします。
とにかく今回伝えたかったことは、過食嘔吐も引き金モデルに当てはまるような依存行動なのだということ。これは依存なんだと客観視した上で甘えられない自分の内的なものを改善していく、それが虐待からか、発達からか、親子関係からかはわかりませんが、解明・理解していき、誤った認知をほぐす。過剰適応をやめ、平凡恐怖を受け入れ、白黒思考をやめる。そういうことを時間をかけて、1つ1つやっていくことが大事です。
依存症
2021.4.16