今日は「対人関係の原則と状況判断」というテーマでお話しします。
患者さんから「きちんと言われたこと(or 法律、ルール)を守っているのに、怒られてしまうのはどうしてでしょう?」とよく聞かれます。
なぜ正しいことをしているのに私はそんなに幸福になれないのか、ズルをしている人の方が幸福になっているのはなぜか、私は我慢しているのに何なんだ、という気持ちになることはあると思います。
これについてはそうだよねとも思いますが、「赤信号、皆で渡れば怖くない、という時もあるからね」ということです。
もちろんきちっと守った方が良いのですが、それだと人生ではうまくやっていけないこともあります。
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原則=言語化、体系化できない
対人関係において何がベストかはその時々で変わりますし、そもそも原則はありません。
言語化、体系化することはできないのです。
もし、できたとしても、少なくともそれは、会話や臨床の場で応用ができるものではなく、人間の脳の処理能力を超えたものになってしまうでしょう。
僕らは扱いきれないところを無意識的(前頭葉ではないところ)で処理をして行動していて、理性でやろうとすると大体うまくいかないものです。
対人関係はロジックではうまく表現できません。
哲学や宗教など過去の天才たちがロジックを使って表現しようとしましたが、あまりうまくいっていません。ただ、ある瞬間については言語的に切り出していますし、それを元に色々なことを考えていくことができます。
ですから、学ぶことは全くの無駄ではありませんし、むしろ積極的に学んでいくべきことですが、学んだものを応用すれば日常が問題なく解決できるのかというと、そういうわけではありません。
状況判断
結局、理論化や原則論が通じるわけではないので、その場その場での状況判断がすごく重要です。
こんなふうに簡単に言っていますが、しかし、状況判断をすることは難しいです。
すべての情報を入手することはできませんし、入手できたとしても脳の処理能力を超えているので扱いきれません。また、情報は「欲望」によって自分の見たいように加工され歪んでいます。
自分が手にする情報はすべて歪んでいますが、それは相手や集団でも同じことで、誤って理解されます。
もし自分が訓練や学習の末に欲望を抑え、客観的に物事を見られるようになったとしても、相手は欲望を抱えたまま歪んで見ていますので、やはり悩みは尽きないでしょう。
自分も相手も冷静ならば、合理的な判断ができるかもしれませんが、そんなことは起こり得ません。
結局、原則や状況判断で100%上手くいくということはありません。
相手に合わせながら自分の意見も通す
ただ、上手くいかないので絶えず情報を取る必要があります。
臨床もそうですが、相手の生い立ちや過去のエピソードを考慮しながら、今の表情や声色、態度、感情を当てはめて「今相手はこのようなことを考えているから、こうした方が良いな」というように演算します。
ですが、相手に合わせているばかりだとこちらの意見が通せないので、こちらがやってほしいことはできません。
例えば僕なら、
相手に合わせて薬を出していたら滅茶苦茶なことになりますし、相手に合わせて話を聞いているだけだと診察時間が長くなってしまったり、待合が混みすぎて密集してしまうといったことになります。
相手に合わせながら、こちらの意見も通さないといけません。
一方、クレーマーのように文句を言って自分の意見を通す人もいます。
そのような人はその場はうまくいくかもしれませんが、後で文句を言われたりするかもしれません。これも人間関係の難しさかなと思います。
会社の残業は?
患者さんは「自分はうまくやっているのに、役割を果たしているのに、なんか上手くいかない」「会社から言われた通りにやっているのに上手くいかない」と言います。
言われた通りにやっていると残業が増える、残業するなと言われると仕事が終わらない。上司に聞くと「良い感じでやってよ、空気読んでよと言われるのですが、どうやって読めば良いのですか」と患者さんは混乱します。
混乱する点だけを拾い、「自分は発達障害なのですか?」と聞かれることもありますが、確かにそこから発達障害が診断されることもあれば、発達障害ではなく、そもそも状況判断をするということが念頭にない人もいます。
言われたことを守れば自分は幸せになれるという欲望を抱えていて、現実を見ていない人もいます。
状況判断をしないといけない、ということがすっぽり抜けているのです。
状況判断の重要性について(まとめ)
時代も社会も変化しているので、正解は常に変わっていきます。
原則についても古今東西の天才たちがさまざまな理論をたてましたが、すべてを説明する理論はできていません。できたとしても、それは常人の脳の処理能力を超えているので理解できなかったり、もし理解できたとしても、会話の中で理論を実践することは不可能でしょう。
後から振り返って「あの時こうすればよかったんだ」とわかるかもしれません。
心理学理論とは、そういうものです。
対人関係は、相手や集団の顔色、表情に合わせながら最適解を出さないといけないので結構面倒です。
状況判断は「できる・できない」ではなく、すごく差があります。
できる人の中でもすごく上手い人もいればそうでもない人もいますし、その場では上手く見えても後からボロが出る人もいます。
発達障害
2021.8.13