今日は「人前でリラックスして話す方法」というテーマでお話しします。
人前で喋るのが苦手という方は多いと思います。
どうしたら良いのかを周りの人に聞くと「場数だよ」「気合いだよ」などと言われると思いますが、精神科医ならばどう答えるかを今回お話しします。
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緊張の程度
患者さんから主訴として「人前で話すのが苦手」と言われた時に、どのような疾患が頭に思い浮かぶかというと、
・社交不安症
・発達障害(ASD受動型)
・トラウマ
などです。
生い立ちや生活歴、今の状況を聞きながら鑑別していくのですが、まずはこのような疾患を思い浮かべます。
何でも病気と言うなよと思うかもしれませんね。
精神疾患でも統合失調症、うつ病、躁うつ病など昔で言う「難治性疾患」は、妄想の有無で区別されたり、普通の人には了解不能な病気としてカテゴリー分けがされていますが、他の精神疾患に関しては、「皆が持つ特徴ではあるけれど、極値であるもの」を疾患としています。
これを「スペクトラム」で捉えると言います。
例えば、人前で緊張するのは誰でもそうです。ですが、クラスで一番緊張しやすい人だとやはり少し生活しづらいと思うでしょうし、学校一の緊張しやすい人だとやはり生活しにくいですし仕事にも就きにくいかもしれません。
町一番の緊張しやすい人ならば、誰もが早く病院に行った方が良いと言うでしょう。
「緊張しやすい」にも程度の差があり、それの激しいものが病気と言われます。
「コミュニケーションが下手」というのも、生活に支障が出るほど下手ならば発達障害を考え受診に至ります。
つまり、僕らが持っている弱みなどのさらに酷いものを病気と言ったりします。
緊張の原因と対応
原因をもう少し考えてみます。
・不安を感じやすい遺伝体質?
・対人スキルが低い、経験不足?
・過去の嫌な体験を思い出してしまう?
など、原因に応じて対応方法を考えていきます。
・暴露療法
不安を感じやすい、対人スキルが低い場合は、周囲の人が言うのと同じですが「暴露療法」で場数を踏みます。
緊張しない場面で会話の練習することから始めて、少しずつハードルを上げていきます。もちろんスタートラインが他の人よりも低いですし、伸び代も普通の人よりはあまりないかもしれません。
ですが、少しずつやることでレベルアップしていきます。
・吟味、意味づけ、言語化
過去の嫌な体験に関しては、それを無視して暴露療法をしようとしてもうまくいきません。信頼できる人のもとでカウンセリングを受けた方が良いです。
あのとき恥をかいたけれどどんな思いだったのか、もう一度起きることなのか、あのときだけのものなのか、など吟味して体験の意味づけや言語化をしていくことが大事です。
このようなことをすることが、なぜリラックスして人の前で話す必要があるのか、なぜ伝えなければいけないのか、というモチベーションを作り維持するきっかけにもなります。
そもそも相手の問題では?
診療で見逃しやすい点ですが、「そもそも、その相手に理解してもらう必要があるのか? どれだけ重要なことなのか?」ということを吟味することが大事です。
コスパはどうなのか、苦労してまで伝えなければならないことなのか、相手は知りたいことなのかなども重要です。
よく聞いてみると「すごく緊張するんです」と言う相手がパワハラをする上司だったということもあります。
最初から聞く気がない相手にプレゼンをしようとしていたり、最初から意地悪なことを言おうとしている相手にプレゼンをしなければならない時に緊張していた、というケースが結構あります。
それはそもそもあなたの問題ではなく、相手の問題と言えます。
人前でリラックスして話せない時に、つい自分の問題として考えてしまいますが、自分の問題ではないこともあるのです。緊張する場面をわざわざ演出していたり、いろいろな要素があります。
暴露療法や言語化など自分の中のことも大事ですが、状況によってはそれほど準備せずにパパッと終わらせてしまうことも生きるコツとしてはあります。
場数を踏むことも大事ですが、1つ1つ具体的にどのような場面で緊張したのか、緊張してでも喋るべきことだったのかなど検討することが大事です。
前向きになる考え方
2021.8.20