訂正あり:カタストロフィーではなく、カタルシスです。
今日は「話を聞かずに指示だけをする医師はどうなのか?」というテーマでお話しします。
この動画を見ている人は、医師はカウンセリングをする仕事ではない、カウンセリングはどちらかというと心理士さんがする仕事、ということを理解してもらっていると思います。
まったくやらないわけではありませんが、医師は話を聞くよりも診断をしたり薬を出したり、「こうした方が良いですよ」とマネジメントをすることの方が多いです。
そのことについてお話しします。
コンテンツ
治療の2つのルート
患者さんは色々な困りごとを持って来られます。
診察では、その困りごとが医学的な問題なのか、弁護士さんに相談すべき問題なのかなど、診断やアセスメントをします。
患者さんの性格や能力、考え方、伸び代などから、この人にはどのような言葉を使えば伝わるのかなど色々考えます。
それを元に、薬物治療をしたり、心理・社会的治療をするということに なります。
治療の流れとして、「困りごとがあって、診断・アセスメントから薬物治療をする」という流れはわかりやすいと思います。いわゆる医学的な治療で、内科や外科でも同じです。
ただ、精神科の場合は上記のルートだけでなく、別ルートもあります。
それが、「心理・社会的治療」です。
今の困りごとを解決するにはどうしたら良いのか、いろいろな角度から治療にあたります。
これには一般的なカウンセリングもあれば、生活保護を取った方が良いなどのアドバイス、環境調整もあります。休職という行動につなげることもあれば、アルコール依存の人にお酒をやめるよう説得するなど色々なバリエーションがあります。
環境調整>行動>認知>カタルシス
多くの皆さんが誤解しているかもしれませんが、心理・社会的治療において一番重要なのは「環境調整」です。
環境を変えられるのだったらそれが一番良いです。
人間の認知を変えるのは難しいです。
気持ちを発散させること(カタルシス)も難しいです。その場はうまくいくかもしれませんが、治療的な効果は乏しいです。一番治療的な効果が高いのが環境調整です。
仕事の問題があるならば休んだほうが良い、貧困の問題があるなら生活保護を取ったほうが良いなどのアドバイスをしたりします。
子どもの発達障害ならば、学校の行き方や教育システムを見直すなどの環境調整が重要です。
この環境調整がうまくいかないこともあります。
パワハラがあるので異動した方が良いけれどなかなかできない、上司が異動するまで耐えなければいけないという状況はよくあります。
その場合は「行動」を変えてあげます。
できるだけ上司とバッティングしないようなシステムを考える、出勤時間を考える、働き方を見直すといったことをします。
アルコール依存の場合ならば、できるだけストレスがたまらないようにしたり、「お酒は悪いものだ」と認知を変えるよりも、お酒を捨てたりします(行動)。お酒を買えないようにするよりは、お酒を飲まなくても良い職場に変えたほうが良いのですが(環境調整)、レストランで働いている場合などなかなかそれも難しいこともあるので、お酒を家におかないこと(行動)が重要だったりします。
まず環境を変えられるのか考えてみる。次に、行動・生活スタイルを変えられるのか考える。
それが難しければ認知を変える。認知を変えてもうまくいかない時は、気持ちに訴えかけてマインドフルネスなどのリラクゼーションの方法を選ぶ。このような順番になります。
行動を変えるほうが良いのか、気持ちを変えるほうが良いのか、というのはいつも議論になりますが、手っ取り早いのは行動です。ですが、行動を変えることが難しいので、なんとか認知を変えていくというのが臨床的には常識です。
環境調整や家族への説明などをせずに認知の方に取り掛かってしまうと、それは大丈夫なのか?という話になります。
医師と心理士
ドクターは環境調整側の指示出しが多いです。
心理士さんの役割は逆で、環境調整をどんどん言うのは心理士さんの治療という感じはしなくなってしまいます。心理士さんの仕事は認知やカタルシスなど気持ちの部分に重点が置かれます。
ただ、心理士さんも環境調整のほうが大事なのはわかっているので、そこはドクターにきちんと任せています。心理士さん個人でやられている場合は、環境調整などもやりながらドクターにつなげたりします。
環境調整や行動を変えても認知やカタルシスの問題が残るならば、それは心理士さんの仕事であるし、ドクターもやったりします。
このように言うと「環境調整や行動に関しては自分でやります」と患者さんはよく言います。
でもなかなかできません。
「後で調べるので良いです」と言いますが、調べてもなかなかわからなかったりします。ですから僕らのようなプロがいるのです。「こういうことを調べると良い」とか「こういうときはこう」とアドバイスができます。
屏風の虎を捕まえるには
患者さんは、そのようなマネジメントのことよりも「気持ち」をなんとかしてほしいと言うことが多いです。
これは「屏風の虎」に似ていると思います。一休さんの話です。
お殿様が、夜になると屏風の中の虎が出てきて怖いから困っている、一休なんとかしてくれないかと言います。トンチのうまい一休さんは、「屏風の虎を今出してください、そしたら捕まえます」と返します。
これに似ていて、本人がどうにもできない気持ちを僕らがどうにもできません。
僕らができることは、屏風の虎が出てきた時に、それを捕まえる手助けをするという感じです。
患者さんは困っているときやうつのとき、不安に追い詰められている時は、とにかく気持ちをなんとかしてくれと言います。
気持ちを扱えないからその気持ちをなんとかしてほしくて精神科に来ている、というロジックです。
ですが、気持ちを直接扱えないというのは、患者さん本人もそうだし他人である僕らも同じです。
ただ、出てきた時に手伝うことができる、というのが僕らの仕事です。
もちろん、虎の種類によっては捕まえたほうが早い時もあります。
子どもの治療をするときに不快感をこちらが取ってあげることもあります。
もう少し言うと、気持ちだけをどうにかしてほしいというのは「退行」と言います。
大人であれば自分の気持ちを誰かに何とかしてほしいとは言いません。
気持ちの問題が脳病からくるものであれば薬物治療が効くが、そうではなくパワハラからくる傷つきやトラウマの傷つきの場合は薬物治療には限界があります。
それを薬物治療の代わりにカウンセリングでぐっと気持ちを変えることは、基本的にはできません。
ですが、その退行しているものを大人にしていくことはやれるし、一緒に手伝っていくことはできます。
退行=赤ちゃん返り
退行とは「赤ちゃん返り」ということです。
赤ちゃんは「不快だ」ということは分かっていますが、それがお腹が空いているからなのか、おしめが濡れているからなのか、寂しいからなのか、寒いからなのかはよくわかりません。ただ「嫌だ」といって泣いているだけです。
それに対して僕ら治療者は「お腹が空いているからだね」などの「言葉」を出しながら解決策を提示します。
でもこれは赤ん坊だからできるわけです。
大人になってくると問題が難しくなっていきます。
赤ん坊から子どもの悩み、子どもから中学生の悩みになってくると、僕らが提供できるもの、親が提供できるものには限界があります。
ですが、限界があるとわかりながらも、病になると退行してそれがわからなくなります。
わからなくなった後に、患者さんは怒り始めることもあります。
「益田は何もしてくれないじゃないか」「話も聞いてくれない」「不快感を取ってくれない」「指示をするだけだ」ということになります。でもそういうものです。
話を聞けばスッキリするのかというと、スッキリするかもしれませんがあくまで一時的なものです。
両親が働きに出るように、僕らも患者さんの横にずっといることはできません。
あくまで屏風の虎を捕まえる方法を一緒に考えたり、手伝ったり、その方法を教えるということになります。
とにかく、認知を変えるよりも行動や環境を変えることが重要です。まずはそれを治療の中心に据えます。
環境調整も済んだし行動も変えた、でも治らない部分を認知で治していこうとなります。
認知を変えてもなお頭でっかちになってしまって体感的な部分が弱かったりすると、リラクゼーション法や作業療法、マインドフルネスなどをやります。
このような流れになります。
カウンセリング
2021.8.27