今日は「淡々とやる」をテーマにお話しします。
このようなことを主治医の先生から言われたことありませんか?
「今は調子が悪いですね、でも淡々と過ごしましょう」
「あまり感情を考えずに、淡々と過ごしてください」
僕も患者さんに言います。
そう言われて、なるほどなと思うけれど、実際にどうしたら良いのかわからないという人も多いのではないかと思います。
今回は実際に、淡々とやるにはどのように過ごせば良いのかを解説します。
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今は冬
僕はよく、うつや病気のことを冬や雨に例えます。
この時期を過ごせば良くなりますよと言ったりします。今は冬だから、時間が過ぎるのを待ちましょうということです。
具体的にはどのような状態かというと、
・うつ状態:適応障害やうつ病のうつ状態、統合失調症の幻覚妄想状態など、時間や休息が解決するもの。
・アルコール依存症:お酒をやめる時に、どうしてやめなければいけないのか、自分はどういう人間なんだろう、どうしてお酒を飲むことに走ってしまったのだろうなど考えることはとても大事ですが、最初の1、2ヶ月などやめ始めの時には淡々とやめた方がやめやすいです。患者さんの様子を見ながら言葉を使い分けますが、とにかくまずやめてお酒を頭から抜く作業が必要です。そういうときは、「とにかく淡々とやりましょう」と言います。
・受験勉強:大学入試を控えている高校生、院試を控えている人、就活中の人など。期限が迫っているので、今は自分の心や人格を考えずにとりあえずテスト勉強した方が良いのでは、と言ったりします。目標が定まっていれば今から進路を悩む必要はありません。
行動する、時間が解決する、悩んでも悩まなくても先は同じ。
それならばとにかく淡々と過ごす方が良い。
淡々と過ごすのは逃げではなく、治療で重要な手法の一つです。
感情はサイン
具体的に淡々とやるとはどういうことかと言うと、ただ我慢すれば良いということではありません。
・怒り、甘え
怒りや甘えは「容量オーバー」のサインです。
なぜ怒っているかというと、疲れている、これ以上仕事ができないのに振られているなど、現実的な理由があります。
自分はもっと頑張れるはずだと思っているけれど、頑張れないのです。あなたの経験値や能力、実力的にこれ以上は頑張れないということがあります。それを「甘え」という言葉を使うことで根性論に逃げてしまうということが結構あります。
・不安
「不安なんです」という時に、何が不安なのかというとです。
何か起こるかもしれない、こうなってしまうかもしれないという不安の問題はあるけれど、それはきちんと具体化されているのか。具体化した上でそのリスクはどれくらい許容できるのか、というのを把握しなければなりません。未知なるものだったら、未知を解決しなければいけません。
そういうことへのサインです。
言葉よりも先に感情がやってきます。
感情というのは、何かが起きているサインです。
お腹すいたと感じるのは栄養が足りないサインでもあるし、イライラするときは疲れているサインかもしれないし、これ以上仕事ができないというサインかもしれません。
僕らの思考は言語化されたもので構成されていますが、言語化できる前に感情として今の状態を知らせてくれます。
感情に振り回されずに淡々とやっていきましょうというのは、このようなことが理由です。
バランスが大事
「結局、感情を抑えてロボットのように生きたほうがいいんですか? そのように生きたいです」と言うかもしれませんが、それではうまくいきません。バランスが大事です。
ロジックロジックでロボットすぎると、それは感情やストレスを押し殺しているだけになります。
最終的には「肩が凝るんですよ」とか「なんかよくわからないけど痛みが走るんです」と言って解離を生んだり、押さえ込みすぎるのでかえって鬱になってしまうことは普通にあります。
かといって、感情や愛情を重視して本能に従って生きてしまうと、自他の境界が緩くなってしまいます。自分も他者もぐしゃぐしゃになってしまい、振り回されたり逆に自分が相手を振り回すことにもなりかねません。
感情とロジックのバランスを取ることが大事です。
精神科に通ってくる患者さんは、ネガティブな感情に支配されていることが多いので、とにかく今はそこの感情に注目せずにロジックに寄せましょう、ということを言います。
その時にロジックに行きましょうと言うと伝わりにくいので、「淡々とやりましょう」と言ったりするということです。
治療というのは感情とロジックの中間のバランスを取りつつも、同一水準にいてはダメで、そこからもう一段上っていく必要があります。
アウフヘーベンと言いますが、良いとこ取りをしてもう一つ水準を上げる、人間としての理解を深めていく、成熟していくことが重要です。
バランスを取っていけば自然と上に上がっていきます。
上に上がれば俯瞰的に物が見られるので、以前ほど悩まなくて済むようになります。
容量が増えるし、リスクの許容量も上がります。未知なるものも減ります。
そうすると、結果的には淡々とできるようになっていきますし、感情に振り回されなくなります。
感情もポジティブな感情が増えていきます。
ですから、「淡々とやる」というのは1つの治療の技法であり、治療的に目指すゴールでもあったりします。
前向きになる考え方
2021.9.16